三二一話 「ソウル・ブレイク」
「がっ……」
ヒロムの攻撃によって体を貫かれた紅牙と蒼牙は血を吐き出し、そして負傷したせいか二人はふらつくと思わず膝をついてしまう。
「な、何が……」
「ありえない……」
「何がありえないんだ?」
全身から溢れんばかりの紫色の魔力を放出するヒロムはありえないと口にした蒼牙の方に歩きながら彼のその言葉について言及しようとする。
「今オマエはありえないと口にしたが、何がありえないんだ?」
「くっ……」
「オレのこの力か?それともこの魔力か?はたまた……オマエが負傷しているこの現状か?」
ヒロムは蒼牙に迫る中でショットガンを構え、ショットガンの狙いを蒼牙に定めると彼に現実を突きつけるように事実を述べた。
「オマエが弱すぎるからこうなった。
オマエの力がオレに及ばないからこうなった。
オレの力が遥か高みにあるからオマエは勝てない……ただそれだけだ」
「……「無能」と呼ばれた能力無しが!!」
現実を突きつけるように事実を述べるヒロムの言葉を聞いた蒼牙は怒りの感情を剥き出しにしながらヒロムを睨み、弾丸で貫かれて負傷している体を立ち上がらせると蒼牙は全身に蒼い炎を纏う。
蒼い炎を纏った蒼牙はヒロムのことを強く睨みながら構えると敵意と殺意を剥き出しにしながらヒロムに向けて叫んだ。
「少し力を手に入れた程度で強くなった気でいるのか?
オマエ如きにこのオレが負けるはずがない!!」
「負けるはずがないも何も……オマエ、オレの攻撃でボロボロになってんじゃねぇか。
説得力無さすぎて笑えるわ」
「……貴様ァ!!」
挑発するようなヒロムの言葉を受けた蒼牙は怒りに任せて炎を燃え上がらせると走り出し、接近してヒロムに拳撃を喰らわせようとする。
蒼牙が動き出すのを確認したヒロムはため息をつくと構えたショットガンの引き金を引いて弾丸を放ち、迫り来る蒼牙を仕留めようとするのだが、蒼牙はヒロムの攻撃を予測していたのか自身の前面に蒼い炎を集中させると弾丸を防ぐ盾の役割を果たさせる。
弾丸を防いだ蒼牙は炎を纏い直すとヒロムに迫るために走るが、そんな中でヒロムは突然ショットガンを投げ捨てる。
「武器を捨てるとは余程余裕があるようだな!!
その余裕ごと……」
「余裕なのはオマエだろ?」
ショットガンを投げ捨てたヒロムの前に魔力が集まると身の丈はある大きな斧へと変化し、それを手に取ったヒロムは音も立てずに蒼牙の背後に移動すると彼の背中に斬撃を食らわせ、そして斧で彼の肉を抉り斬る。
「がっ……!?」
「追い込まれてるのはどっからどう見てもオマエなのに、よくベラベラ喋ってられるな……?」
「き、貴様……」
「喋ってる内容もくだらないし……さっさとくたばれよ」
ヒロムは蒼牙に冷たく吐き捨てるように言うと彼を蹴り飛ばし、斧で背中を抉られた蒼牙はそのまま意識を失って倒れてしまう。
倒れた蒼牙が纏っていた竜装術の力は消え、そしめ蒼い炎も静かに消えてしまう。
「オマエェェエエ工!!」
蒼牙が倒されたことに逆上する紅牙は仇討ちをしようとヒロムに向けて紅い炎を放つが、ヒロムは斧に魔力を纏わせると紅牙の放った炎を全て斬り消していく。
が、紅牙は諦めない。
紅牙は紅い炎を身に纏うと激しく燃やしながらヒロムに接近し、接近するなり炎を纏わせた拳でヒロムを殴ろうと一撃を放つ。
……が、ヒロムは紅牙のこの一撃を素手で止めて敵の拳を掴み、掴んだその手に力を入れると紅牙の拳が纏う炎を消し去ってしまう。
「なっ……!!」
素手で止められ、その上炎をも消されたことに驚く紅牙は何とかしてヒロムの手を振り払おうと試みるが、そんなことをヒロムが許すはずがなかった。
ヒロムは掴んだ手にさらに力を入れ、力が加わりすぎたことにより、掴まれていた紅牙の拳の骨が砕ける音が響く。
「うぁぁあ!!」
「喚くな」
痛みによって叫び声を上げる紅牙を黙らせようとヒロムは斧を捨てて彼の顔面を何度も殴り、拳を掴んでいた手を離すなり拳を作り直し、両手の拳で素早い拳撃を放つ。
放たれた拳撃は紅牙顔面だけではなく腕や胴、さらには足に叩き込まれ、叩き込まれた拳撃は着実に紅牙を追い詰めていた。
「がっ……!!」
「どうした?
こんなものか?」
ヒロムの拳撃に苦しむ紅牙。
その紅牙に休む暇を与えぬかのように連撃を放ち続けるヒロムの目は冷たく、連撃を放つその拳からも躊躇いなどはない。
あるのは純粋なもの……敵を葬ろうとする殺意だけだ。
「散々オレを殺そうとしてたんだろ?
だったらその力を見せろ」
ヒロムは紅牙に向けて放つ連撃を止めると右足を高く上げ、そしめ紅牙の肩に向けて勢いよく踵落としを放つ。
踵落としを受けた紅牙の肩の骨は砕かれたらしく骨の砕けるような音がするとともに紅牙は悲鳴を上げながら肩を押さえて膝をついてしまう。
膝をつき痛みに耐えようとする紅牙……の頭を掴むとヒロムはそのまま顔面に膝蹴りを食らわせる。
「……!!」
容赦のないヒロムの一撃……その一撃を受けた紅牙は完全に気力が尽きたらしく仰向けになるように倒れてしまう。
「これで二人……」
「オマエ……!!」
蒼牙と紅牙を倒したヒロムに向けて弾馬は魔力の弾丸を放つ。
が、ヒロムは弾馬の放ったそれを右手で掴むと握り潰してしまう。
「……っ!!」
「どうした?
こんなものか?」
「……何故だ。
何故二人にこんなことを……」
ヒロムを殺そうとしていたとは思えぬほどに弱気になった弾馬はヒロムに蒼牙と紅牙に対して徹底して攻撃した理由を言わせようとするが、それを聞いたヒロムはため息をつくと弾馬が眼前に音も立てずに移動して右手で敵の首を掴み絞めようとする。
「ぐぁっ……」
「何故……?
そんなの決まってんだろ?」
「何……?」
「オマエらがオレの大切なものを奪おうとした……それだけだ」
ヒロムは弾馬に対して当たり前のように答えると左手に紫色の稲妻を集め、稲妻を纏わせた左の拳で弾馬の体を殴る。
「……っ!!」
殴られた弾馬の全身に強い衝撃が走り、体内で何か炸裂したのか弾馬は勢いよく血を吐き出してしまう。
さらにヒロムの拳が纏う紫色の稲妻が炸裂し、稲妻が炸裂した衝撃で弾馬の全身は一瞬でボロボロになってしまう。
「が……」
今のヒロムの一撃で弾馬は気絶してしまい、ヒロムはため息をつくと弾馬を投げ捨てた。
「……拍子抜けだ」
期待外れだと言わんばかりに呟くとヒロムは「次元竜」のウルと「覇王竜」を視界に捉えようとする。
しかし……
「はぁぁぁあ!!」
ウルや「覇王竜」を視界に捉えようとしたヒロムのもとへ無数の風の刃が飛んで来て彼に襲いかかろうとする。
「……」
ヒロムはどこからともなく刀を出現させると片手に持ち、紫色の稲妻を纏わせると斬撃を放ち向かってくる風の刃を消し去っていく。
ヒロムは刀を構える中で風の刃が飛んできた方へ視線を向け、刃を放った人物を睨んだ。
「次の相手はオマエか?」
「姫神ヒロム……!!」
ヒロムの次の相手になろうとするかのように今度は紅真キリハが前に出て構える。
風の翼を背中に纏い、両手に風の爪を纏って構えるキリハは鋭い眼差しでヒロムを見ていた。
「オマエはここで倒す」
「倒す?
殺すの間違いじゃないのか?」
「……生け捕りの命令だ。
逆らうわけにはいかないのでな」
「出来るのか、オマエに?
シオンや真助、それにカズマのデータをもとに後付けされた「月閃一族」の力を持つ程度のオマエに出来るのか?」
「オマエはヤツらとは違う。
あの時の戦闘データをもとに組み替えられたこの力……純粋種の「月閃一族」でもないオマエには止められない」
「止められない?
今の攻撃は止めたぞ?」
まぐれだ、とキリハは目にも止まらぬ速さでヒロムに向けて風の爪で一閃を放ち斬撃をヒロムに食らわせようとするが、ヒロムもそれに応じるかのように素早く斬撃を放ってキリハの攻撃を防いでみせる。
防いだ上でヒロムはキリハを挑発するように現状を突きつける。
「まぐれだとしてもそのまぐれを多発し過ぎだな。
これじゃあオマエは劣ってるって言ってるようなもんだ」
「黙れ!!」
キリハは風を身に纏うと飛翔し、飛翔するなり加速してヒロムに接近して攻撃しようとする……のだが、ヒロムはキリハが飛翔したタイミングで姿を消してしまう。
「消え……」
「遅い」
ヒロムが姿を消した事に驚くキリハの背後にヒロムは現れるが、その手には刀はなかった。
ショットガンや斧のように捨てたのか?
キリハはヒロムの姿と刀が消えていることに気づくとどうなっているのかを考えようとする。
だがキリハが考えるほどの時間をヒロムが与えるはずもない。
「さよならだ」
ヒロムが指を鳴らすとキリハは目に見えぬ無数の斬撃に全身を抉られ、その攻撃を受けた影響で纏っていた風と風の翼、そして風の爪が消されてしまう。
「バカな……」
(これが姫神ヒロムの力……?
オレたちは竜装術の人体実験をもう一度受けてより強い力を得たはずだというのに……この男はオレたち四人を何の苦戦もせずに……)
「化け物が……!!」
「オマエがオレを倒すには……少し出てくるのが遅すぎたな」
ヒロムはキリハに掌底突きを叩き込むことで殴り飛ばし、殴り飛ばされたキリハは倒れてそのまま意識を失う。
キリハを倒したヒロムは強く息を吐くとそこから深く息を吸い、そして「覇王竜」に向けて走り出す。
「まどろっこしいのはやめだ!!
直接潰す!!」
紫色の稲妻と魔力を強くさせながら走るヒロムは躊躇うことも迷うことも無く「覇王竜」に向かっていく。
ヒロムが迫ろうとする中でまだ戦えるアギトやクジャは「覇王竜」を守るためにヒロムを迎え撃とうと考えて動こうとするが、それに気づいた「覇王竜」は二人を止めると他の者にも指示を出した。
「手を出さなくていい。
少し……オレが相手をする」
「しかし……」
「しかしも何も無いさ、「泡沫竜」。
そもそも……キミはアレには勝てない」
「だからといってオマエが出る幕ではない」
「覇王竜」の前にウルが立ち、ウルは魔力の剣を作り出すとヒロムを迎え撃つように走り、彼に接近すると勢いよく斬りかかろうとする。
が、しかし……
「オマエはお呼びじゃねぇ!!」
ヒロムは拳でウルの魔力の剣を破壊し、剣を破壊した勢いのままウルの顔面を殴ろうと攻撃を放つ。
放たれた攻撃はウルの顔に直撃し、ウルを大きく仰け反らせる。
「……っ!!」
大きく仰け反ったせいで深く被っていたフードが外れ、ウルの素顔が今この場で晒される。
「さて、どんな顔か拝ませて……」
素顔を確認しようとするヒロム。
だがヒロムはフードが外れて素顔の晒されたウルを見て言葉を詰まらせる。
彼だけではない。
ウルの素顔を見たユリナたちや夕弦は驚きを隠せない様子でいた。
「う、うそ……」
「どうして……」
「オマエ……」
「……見られたからには仕方ないな」
素顔を晒されたウルはどこか面倒そうに言うとヒロムを睨む。
そのヒロムを睨む素顔は……今睨むヒロムとよく似ていたのだ……




