三二〇話 覇王再臨
「殺すから覚悟しとけ」
鋭く冷たい殺意の込められた瞳で睨むヒロム。
そのヒロムの視線を受けた「覇王竜」はどこか嬉しそうに笑みを浮かべ、ウルもヒロムがようやく現れたと感じて一息つく。
が、一人だけ……この男だけは違った。
「姫神ヒロム!!」
弾馬銃哉はヒロムを見るなり怒りを露わにしながら魔力の弾丸を無数に放ち、彼の命を奪おうとする。
が、ヒロムは焦る様子もなく弾丸に向けて走り出すと目にも止まらぬ速度で拳撃を全ての弾丸に向けて放ち、放たれた拳撃は魔力の弾丸を跡形もなく潰してしまう。
「……っ!!」
「やる気は十分のようだな」
「貴様……!!」
「……誰かと思ったら、あん時の竜装術使いか。
名前は……忘れたな」
ふざけるな、と弾馬はヒロムに向けて叫ぶと再び弾丸を放とうとするが、ウルは弾馬の前に立つと彼の銃器を塵に変えて攻撃を阻止した。
「オマエ、何で……」
「ヤツは生け捕りだと言ったはずだ。
目的を間違えるなよ?」
「うるせぇぞ!!
ヤツを生け捕りにするなら殺す気でやらねぇと意味ねぇだろ!!」
「……無駄だとは思うが、落ち着け。
今のオマエではヤツには勝てない」
「黙れ!!
人体実験をもう一度受けた今のオレならヤツに負けるようなことはない!!」
ウルと口論を繰り広げる弾馬の様子を遠くから見ながらヒロムはため息をつくと、夕弦を拘束する魔力の鎖を力任せに引き千切ると彼女の自由を取り戻させる。
身動きが取れるようになった夕弦はすぐに立ち上がり、ヒロムは夕弦に対してある事を頼もうとユリナたちの方に視線を向けながら伝えた。
「オレがヤツらを何とかする。
その間にオマエはユリナたちを避難させてくれ」
「待ってください!!
私も加勢を……」
「このままじゃ屋敷が完全に崩れるまで長くはない。
倒壊する前に避難させてオマエがそばにいてくれ」
「ですがヒロム様一人では……」
一人じゃないさ、とヒロムは微笑みながら夕弦に言うと彼女を安心させるように言った。
「オレには長い時間を共に過ごした家族がいる。
オレたちなら……負けねぇ」
「ヒロム様……」
「それに……時間を稼ぐ間に何とかなるからな。
オレを信じてくれないか?」
「……無理はなさらぬように」
夕弦はヒロムの頼みを聞き入れるように頷くとユリナたちがいる屋敷の方に走っていく。
夕弦の後ろ姿を確認したヒロムは敵の方に視線を向けて拳を構えた。
「そろそろそっちの話も終わったか?」
敵に向けて言葉を発するヒロム。
そのヒロムの言葉に反応するかのように弾馬はヒロムを睨み、そんな弾馬の様子を見かねた「覇王竜」は弾馬にある提案をした。
「そこまでの憎悪と復讐心を抱いているのなら……「魔弾竜」。
キミの力を証明してもらおうか」
「何を……」
「キミ一人で彼を倒してみたまえ。
もし出来たなら……キミをウルと同じように特別待遇するよ」
正気か、とウルは「覇王竜」の言葉に対して不満があるかのように言うが、「覇王竜」は頷くなりウルを説得するように話した。
「ここまで強い意思を抱いているのなら試す価値はある。
万が一のために「覇王」が計画に適しているかどうかを確かめたいんだ。
構わないだろ?」
「……ヤツは一度コイツを倒している。
二度目の人体実験を受けたからと言ってコイツがヤツと渡り合える保証はないぞ?」
「保証はいらない。
必要なのは……結果だけだ」
「……その結果のためにコイツを戦わせるってか?」
その通り、とウルに向けて「覇王竜」は答え、彼の言葉を聞いたウルはため息をつきながら納得すると弾馬に向けて指示を出した。
「……チャンスは一度だ。
今ここで……ヤツを仕留めろ」
「そのつもりだ!!」
ウルの指示を受けた弾馬は強く答えると全身に魔力を纏い、そしてその魔力を竜装術の力でアーマーに変えると無数の砲門と銃口を身に纏い、両腕はキャノン砲に変化する。
竜装術・「魔弾竜」。
蝶羽ユカリと春花ミサキを迎えに行った学園の中でヒロムがシオンとノアルとともに弾馬と戦った時に弾馬が使用した竜装術。
全身銃器の竜装術、魔力の弾丸をいくらでも放てる力。
そして、放たれると同時に視認出来ぬように消えて炸裂する弾丸を放つ力を有している。
ヒロムもその力に苦戦したが、絶速の「クロス・リンク」でどうにか攻略して倒した。
が、今は違う。
人体実験をもう一度受けて強くなった弾馬と同じようにヒロムも強くなっている。
つまり……以前のように劣勢になるとはかぎらない。
「またオレに倒されたいらしいな……?」
「オマエはここで倒す!!
あの時の借り……返させてもらうぞ!!」
「……やれるもんならやってみろ」
「望むところだ!!」
弾馬はヒロムに向けて無数の魔力の弾丸を撃ち放ち、放たれた魔力の弾丸はヒロムを殺そうと襲いかかる。
ヒロムに襲いかかる弾丸の影響によって戦塵が巻き上がるが、ヒロムはその戦塵の中から即座に姿を見せると弾馬に向けて走り出す。
「こんなもんか?」
「今のは肩慣らし……本命はこっちだ!!」
弾馬の全身の砲門と両腕のキャノン砲から弾丸が放たれ、放たれた弾丸は姿を消すとともにヒロムの周囲に現れて一気に炸裂していく。
炸裂して大きな爆発を引き起こす弾丸。
ヒロムの逃げ場を無くすように大きくなっていく爆発。
その爆発に囲まれるヒロムは何故か足を止めてしまう。
「逃げ場がないと見て諦めたか?
強気だったのは威勢だけか?」
ヒロムの行動に笑いが止まらない弾馬。
するとヒロムは首を鳴らすと誰かに向けて呟き始めた。
「……始めるぞ」
『こっちの世界ではテストすらしてないのよ?』
「あっちの世界で出来たなら問題ない。
「クロス・リンク」も「ソウル・ハック」もあっちの世界で出来たらすぐにこっちでも出来たから大丈夫だ」
『……危険だと判断したら止めるわよ?』
「それでいいよ、ラミア。
とりあえず……このバカみたいな弾幕止めねぇとうるさくて堪らねぇ」
『……分かったわ。
こっちはいつでもいけるわ』
助かる、とヒロムは爆発が激しさを増す中で頭の中に響く声に向けて礼を言うと拳に入れる力を抜いて目を閉じた。
そして、深呼吸をするとヒロムは目を見開きながら叫んだ。
「ソウル……ブレイク!!」
何かを叫んだヒロム、だがその叫んだ言葉をかき消すように爆発はヒロムは飲み込んでいく。
「ヒロムくん!!」
夕弦の手を借りて屋敷から避難しようとするユリナは爆発に飲まれるヒロムを見てしまい、彼の身を心配して彼の名を叫ぶ。
激しさを増す爆発は彼女の叫びを消し、そのせいでヒロムの安否を不安に思うユリナたちのその不安を駆り立てようとする。
「ヒロムく……」
ユリナがもう一度ヒロムの名を叫ぼうとしたその時、爆発をかき消すように爆発の中から紫色の稲妻が外へと走っていき、無数の稲妻が外に駆けていくと爆発が消されていく。
「何!?」
爆発が消えたことに驚く弾馬、そんな弾馬をさらに驚かせるかのようにヒロムは紫色の稲妻と紫色の輝きを放つ炎のような魔力を身に纏いながら姿を現す。
「……」
「オマエ……一体何を……」
「いいのか?
そんな風に余裕見せてて」
弾馬がヒロムに問い詰めようとしたその時、ヒロムは一切の音も立てずに弾馬の前に移動し、そして拳を構えると勢いよく彼に殴りかかる。
弾馬はヒロムの攻撃を防ごうと両腕のキャノン砲を盾にするが、盾にしたキャノン砲はヒロムの拳を受け止めると一瞬で粉々に砕けて破壊されてしまう。
「なっ……」
「はぁぁあ!!」
ヒロムは目にも止まらぬ速さで蹴りを数回放ち、放たれた蹴りは弾馬に命中すると彼が身に纏う竜装術のアーマーをぶぶんてきにではあるがいとも容易く破壊してみせる。
「バカな……!?」
(コイツは「クロス・リンク」を発動していない。
発動していないはずなのに……なぜ!?)
弾馬はヒロムの力に驚きながらも体勢を立て直そうと考えてヒロムと距離を取ろうとする。
……が、ヒロムはそれを許さない。
逃げようとする弾馬の頭を掴むと地面に叩きつけ、地面に叩きつけた弾馬の体に何度も蹴りを食らわせると首を掴みながら地面に引きずるように走り、そしてある程度速度が出ると投げ飛ばす。
投げ飛ばした弾馬の行く先に一足先にヒロムは現れると拳に力を溜め、弾馬が自身に接近したその瞬間、地面に叩きつけるように拳の一撃を弾馬に食らわせる。
「がっ……」
(ありえない……!!
竜装術の発動したオレが……人体実験をもう一度受けたオレが……追い詰められてる!?)
「そんなはず……」
そんなはずはないと言おうとしたのだろう。
だが弾馬がその言葉を言おうとするのを阻止するようにヒロムは彼の顔に拳撃を叩き込むと紫色の魔力を増幅させるように放出しながら彼を蹴り上げ、そして足に力を収束させると回転蹴りを食らわせた上で弾馬を蹴り飛ばしてみせた。
「ぐぁぁあ!!」
蹴り飛ばされた弾馬は飛ばされた先で倒れ、倒れるとともに身に纏っていた力が消えてしまう。
「……この程度か?」
ヒロムは首を鳴らすと弾馬に向けて言い、それを受けた弾馬はどこか悔しそうな顔をしながら立ち上がると再び力を纏いながら構え直した。
「……まだやれるぞ?」
「だろうな。
あの程度なら拍子抜けだ」
弾馬が立ち上がったことに何かを感じているのかヒロムはどこか嬉しそうに笑みを浮かべる。
そんなヒロムの顔に余計に苛立ちを覚える弾馬は攻撃を放とうとする……のだが、その弾馬を邪魔するように紅牙と蒼牙がヒロムに向けて走り出した。
「オマエら……!!」
「悪いな弾馬さんよ!!
コイツはオレと蒼牙で倒させてもらう!!」
「さすがに見てるだけは退屈だ。
この際だから……オレたちの力も認めさせてやる!!」
紅牙と蒼牙は走る中でそれぞれが名に冠している色の炎を纏うと竜装術を発動し、力を高めながらヒロムに襲いかかろうとする。
「「覚悟しろ!!」」
「……オマエらがな」
紅牙と蒼牙がヒロムに接近する中、ヒロムは紫色の稲妻と魔力を強くさせると姿を消し、走ってくる紅牙の背後に現れるなり紅牙を蹴り飛ばし、そして蒼牙に対しては腹に膝蹴りを食らわせると続け様に蹴りを体に叩き込む。
「ぐぁ!!」
「がっ……」
「勢いだけで大したことねぇな」
「隙だらけだ!!」
紅牙と蒼牙に攻撃したヒロムに向けて弾丸を放とうとする弾馬。
その弾馬が弾丸を放つよりも先に無数の弾丸が弾馬の体に襲いかかる。
「!?」
無数の弾丸が弾馬の体を抉るように命中し、弾丸を受けた弾馬は思わず膝をついてしまう。
「な……に……?」
「この程度かって言ってんだよ」
ヒロムはため息をつくなり弾馬と紅牙、そして蒼牙に向けて冷たく言う。
そのヒロムは両手に二丁のショットガンを持っていた。
「あれは……」
(ヒロム様の精霊にショットガンを武器にする精霊なんて……いないはず……)
ヒロムの手にする武器、それを見るなりそれが「ソウル・ハック・コネクト」によるものだと夕弦は理解するが、同時にその武器の存在が不思議で仕方なかった。
そんな夕弦の思考など気にも留めずにヒロムはショットガンを紅牙と蒼牙で二人に向けて構えると敵に向けて宣告する。
「底が見えた。
オマエら三人はこれからここでオレが殺す」
「ああ?」
「何を……」
「ブレイク・フロー」
ヒロムの言葉に不快感を見せる紅牙と蒼牙だったが、ヒロムは何かを呟くと瞳を紫色に輝かせながら全身に纏う力をより大きくさせる。
そして……無数の弾丸がいつの間にか放たれ、その弾丸は紅牙と蒼牙の体を貫いてみせる。
「「!?」」
「ここからは……絶望へのカウントダウンだ。
命の灯火が消えるのを……肌で感じろ」




