三〇三話 炎魔の断罪
囚人たちに向けて走り出したソラ。
炎を纏いながら走るソラを見た囚人たちは彼に向けて強い殺意を抱きながら叫び、そして彼を殺そうと走り出した。
「ガキが調子に乗るな!!」
「殺してやる!!」
「オレたちの力思い知らせてやる!!」
ソラを迎え撃とうと走る囚人。
対するソラも向かってくる囚人に向けて右手に持つ拳銃を構え、狙いを定めると引き金を引いた。
引き金が引かれると拳銃から弾が放たれるが、出てきたのは炎……それも十メートルはあるであろう巨大な炎の玉だった。
「な、なんだ!?」
「どうやって……」
突然の炎の玉に怯えて逃げ遅れた囚人はその炎に飲まれると消されてしまい、ソラは続けて拳銃を構えて引き金に指をかける。
「悪いがこのヒート・マグナムはオマエらが知ってるその辺の武器とは違うんだよ!!」
ソラが引き金を引くと銃声が響く。
一発、二発、三発……銃声が響く度にソラの拳銃「ヒート・マグナム」から巨大な炎の玉が次々に放たれ、放たれた炎の玉は迫り来る囚人を焼き消していく。
が、そんな中で一人の囚人は違った。
「その程度でビビるわけねぇだろ!!」
全身に魔力を纏いながら迫り来る炎の玉を避けて走る一人の囚人はソラに近づいていき、接近する中でどこかに隠していた短剣を取り出し構えた。
「こちとら何人も殺してんだよ!!
オマエみたいなガキに今更……」
「ならその殺しもここで終わりだ」
ソラは天に向かって拳銃を構えると銃口からビーム状の炎を放ち続けることで巨大な炎の剣を銃口から伸ばす形でつくり、それを横に勢いよく薙ぎ払う。
「なっ……バカな!?」
ソラのその攻撃が意外だったのか威勢のよかった囚人は足を止めてしまい、それによって薙ぎ払われた炎の剣の一閃をその身に受ける。
身に受けた一閃によって焼き斬られたような傷が生じ、その傷から炎が燃え上がる形で囚人は消されてしまう。
一人だけではない。
「ぎゃぁぁあ!!」
薙ぎ払われた剣より斬撃も放たれており、その斬撃を受けた囚人は炎に焼かれながら倒れてしまう。
「こ、この……」
「化け物か……!?」
「……こんなもんか?」
ソラの力に怖気付く囚人たち、そんな彼らを前にしてソラは手応えのなさにため息をつきながら銃口より伸ばした炎の剣を消すと再び狙いを定めるように拳銃を構える。
拳銃を構えながらソラは彼らを挑発するかのように言葉を放ち始める。
「散々罪のない人々を襲って罪を背負うようなことをしながら敵わないと分かったら何もしないのか?」
「何?」
「オマエらは所詮力無い人間を殺して自分が強いと錯覚起こしてカッコつけてたんだろ?
だからこんな弱いガキ一人に苦戦するし、追い込まれたら逃げようとする……要はオマエら、何の役にも立たない「無能」なんだよ!!」
「黙れ!!」
「さっきから好き勝手言いやがって……殺してやる!!」
やるぞ、と囚人たちが強い殺意とともに団結して叫び、憎き敵であるソラを殺そうと向かって走り出す。
……が、それを見たソラは不敵な笑みを浮かべていた。
そう、彼らは自らの意思で団結したのではない。
ソラの挑発に自分を抑えられなくなり、ただそれを同じように抱いている同じ囚人間で共有するかのようにして動いているだけ。
それ故に彼らに冷静さなどなく、逆上したことにより判断力も低下してただソラに向かって来ている。
「単純すぎんだよ……オマエらは!!」
ソラは引き金を引くと拳銃からビーム状の炎を放ち、放たれた炎は囚人を飲み込むと大地諸共焼き払っていく。
「怯むな!!」
「思い知らせてやるぞ!!」
「……バカが」
ソラは次々に引き金を引くとビーム状の炎を無数に放ち、放たれた炎は次から次に囚人を焼き払っていく。
が、ソラの挑発によって結果的に団結した囚人たちは臆することを忘れたように止まらない。
仲間が炎に焼かれても見向きもせずにソラに向かっていく。
いや、仲間という意識はないかもしれない。
同じ収容施設に入れられていた囚人、その程度の認識なのだろう。
しかしその認識程度の関係の彼らは自分を侮辱した相手を前にして認識している以上の関係性を築こうとしているのは間違いない。
だがその関係性も「戦う」ということに対してのみ発揮され、結局誰が倒れようとも気にも止めない。
目的のための共闘、そこで生まれる犠牲は見捨てる……そんな感じだろう。
彼らの姿を見ながらソラはそんなことを考えながらも攻撃の手を緩めない。
迫り来るのなら排除する、ただその考えのもとに引き金を引いて炎を放ち、囚人を順に炎で葬っていく。
ソラには一切の迷いがない。
目の前の罪人に対して情けも容赦もなく、まして施すことも無く引き金を引いて命を奪っていく。
罪人と言えど同じ人間、そこには同じように命がある。
だがソラにとってそれは重要なことではない。
より重要なこと……それは彼らがこの先に進むことで障害となる危険性だ。
「オマエらを生かしてたらヒロムに迷惑がかかる。
だからオマエらはオレが殺す」
ヒロムに迷惑をかけることになる。
ソラはその理由だけで罪人の命を奪っていた。
いや、彼にとってはそれだけでも大きな原動力となりうる。
仕えると決めた王であるヒロムのため、彼はそのためにこれまで強さを求めていた。
そして今、求めて得た力をそのために発揮している。
「止まんなぁ!!」
「ガキをぶっ殺せ!!」
どれだけソラが囚人を倒しても炎を免れた囚人は次から次にソラに向かっていく。
ソラの至近距離まで接近する前に囚人は炎で焼かれて消えているためソラは無傷だが、このままではそれも長く続きそうにない。
「……仕方ないか」
ソラは拳銃を右手から左手に持ち替えると構え直し、そして狙いを定めると引き金に指をかけた。
「持ち替えたところで怖いことはねぇ!!」
「数ではこっちが有利だ!!」
「このまま行けば……」
「それは甘いな」
囚人たちがやる気になる中でソラが引き金を引いて銃声を響かせる。
銃口から炎の弾丸が放たれ、放たれた弾丸は囚人の方に向かっていくと一人を撃ち抜き、その命を仕留めた。
「その程……」
その程度、と一人の囚人が言おうとしたその時だ。
突然撃ち抜かれた一人以外に新たに囚人が五人弾丸に撃ち抜かれ、ソラがまた引き金を引いて銃声を響かせると六人の囚人が撃ち抜かれる。
「!?」
「どうなってやがる!?」
「オレの武器、ヒート・マグナムは少し特殊でな。
オレの炎から生み出されるオレの一部でもあるこの武器は握る手によって性質が変わるんだよ」
ソラは説明するように話し始める中で銃声を二回響かせ、その音が響くと共に今度は囚人が十二人も弾丸に撃ち抜かれる。
「ど、どうなってやがる!?」
「何で急に倒れるんだよ!?」
「右手で持てばコイツは最高出力の炎を自在に放てる剛力の銃となり、左手で持てばオレの早撃ちに適応した高密度の弾丸を瞬時に生み出す絶速の銃となる。
ちなみにオレが早撃ちで銃声一回で撃てる弾数は六発だ」
混乱する囚人に向けて説明する中でもう一度引き金を引くと、六発の炎の弾丸が目にも止まらぬ速さで撃ち放たれ、放たれた弾丸はさらに六人の囚人を仕留める。
「一回で六発分ってことか!?」
「あ、ありえねぇ!?」
「オマエら怖気付くな!!」
すると収容施設から出てきた大柄の男が混乱する囚人たちに向けて叫ぶとソラを指さしながら全員に向けて告げた。
「相手はガキ、こっちはあらゆることをしてきた大人だ!!
どんなガキでも限界がある!!
だから……」
どうかな、とソラが拳銃を構え直すと彼の周囲に魔力によって造形された無数の銃器や砲門が展開され、出現した銃器や砲門は狙いを未だ生存してる囚人に定めると炎を溜め始める。
「は……?」
ソラの周囲に展開されたそれを見た男たちは目にした光景によって力の差を痛感したのか完全に動きを止め、動きが止まった囚人に向けて語るようにソラはゆっくりと引き金に指をかける。
「右手で持っている時はコイツから高火力の攻撃を好き勝手に放てるが代償としてオレの体から放出する炎の造形などが疎かになる。
ただし左手で持てば精密かつ絶速の弾丸を放ちながら高度な造形が可能になる」
「こ、こんなガキ……倒せるはずが……」
「さよならだ罪人。
下されぬ罰を今オレが下してやる」
ソラの力を前に絶望感を覚える囚人。
その囚人に対して心の込められていない言葉を発するとソラは引き金を引く。
「無限の炎弾、インフィニティ・フレア・バレット!!」
引き金を引き、ソラが叫ぶと無数の銃器と砲門から一斉に炎の弾丸が放たれ、放たれた弾丸は生存している囚人を殲滅するように襲いかかる。
「ぐぁぁ!!」
「ああああ!!」
避けたくても避けようのない攻撃、迫り来る無数の炎の弾丸を前にしてなす術もなく囚人たちは焼かれ、ソラの攻撃が止む頃には周囲は紅い炎に包まれたような煉獄世界となっていた。
ソラ以外の生存者はなく、傍で見ていたニュースキャスターたちは物陰で怯えていた。
「か、彼は一体……?」
おい、とソラは隠れているキャスターたちに向けて声をかけると続けて忠告をした。
「邪魔だから消えてくれ。
そこにいられたんじゃ戦いにくい」
「バカなことを言わないでください。
私たちは真実を伝える為にも……」
女性キャスターが話してる途中でソラは拳銃を彼女たちに向けて構え、そして引き金に指をかける。
彼の行動に怯えるキャスターたち、そんな彼女たちに向けてソラは再度忠告をした。
「真実を伝えるのは間違いない。
だが時と場合だけは吐き違えるな。
アンタらが生きて帰ってこそ伝えられることもあるはずだ」
「ですが……」
「このまま街の方に走っていけばある団体が保護してくれるはずだ。
そこに逃げてからでも遅くはない」
「キミは?
キミはどうする気?」
戦うさ、とソラは拳銃を下ろすと背を向け、そしてそのまま伝えた。
「誰かが戦わなければいけないならオレが残る。
アンタらが真実を伝えるべく戦ってるのと同じだ」
「……」
「だからさっさと行け」
ありがとうございます、と女性キャスターは頭を深々と下げると取材陣とともに街の方に走っていく。
走り去って姿が見えなくなったのを確認するとソラは首を鳴らしながら収容施設の方に視線を向ける。
収容施設の方……その上空に滞空する戦艦のようなものから何かが舞い降り、舞い降りた何かは人の形に変化する。
いや、人間だ。
人間が何らかの方法で現れたのだ。
軍服に身を包み、和装の羽織を肩にかけ、腰に帯刀した少女。
黒髪のその女は現れるなりソラを見ながら告げた。
「キサマのその行為を我々への敵対行為と見なし、私の手で排除させてもらう」
「排除、か。
始末される前に出来るならやってみろ」
「その余裕、どこまで保てるか見ものだな」
「オマエこそな」
両者ともに相手を強く睨み、そして魔力を纏うなり動き出した。
「……「竜鬼会」、「重爆竜」のナズナ。
参る!!」
「邪魔するのなら……殺す!!」




