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レディアント・ロード1st season   作者: hygirl
覇王進動編
3/672

三話 雷鳴


 放課後。

授業が終わり、部活動に所属するものは各々部活に励み、帰宅するものは早々に帰宅する中、ヒロムはまだ机を枕にして寝ていた。


「起きろ」


 ガイは「折神」を入れている竹刀袋でヒロムの頭を軽く叩いたが、ヒロムは一切反応しない。


「疲れるようなことしてないだろ」


「……気持ち的にはあったかもな」


 ソラが半分呆れる中、ガイはヒロムを心配そうに見ていた。

カルラと何を話していたのかをヒロムから聞いている二人は事情を知っていた。


 昔からヒロムを知るからこそそれがどういうことなのかは嫌でもわかる。


「……そんなにひどいものなのか?」


 イクトは二人に尋ねた。


「オマエは最近だしな。

今思えば悲惨だよ。

五歳の時に自分のことを大人が「役立たず」と呼ぶんだ。

それも大人が揃いも揃って口にする。

その前からこいつを知ってるけど、こいつはあの日以来笑うことも泣くこともない」


「感情がなくなったのか?」


「……本人が言うには楽しいと思うこともないし笑いたいと思うこともない。

悲しいと思うこともなければ涙が流れることもない。

まるで人としての感性が消えたように何も感じないんだとよ」


「ガキに受けさせる仕打ちの域を超えている。

ま、ヒロムもフレイたちがいなきゃ完全に終わってたよ」


「そうなのか?」

 

 イクトはソラの言葉が本当なのかガイを見て確認すると。ガイはただ頷き、そして続きを話した。


「ああ。

あの日以降ヒロムは何をするにしても絶対にフレイたちと行動していた。

オレらからすれば甘えすぎで、甘やかしすぎだと思ったよ」


「ふ~ん。

だってさ、姫さん」


 イクトが視線を向けた先にはユリナがいた。

そのユリナは自分の席にいた。席はちょうどヒロムの後ろの席。荷物の整理をしていたのだろうか、机にはノートが二冊置かれたままだった。


「……いつものか?」


「……うん。

私にはこれしかできないから」


 ガイが言うとユリナは頷き、どこか自身がなさそうに続けて言ったが、それを言い終えるなり、急に悲しそうな表情をした。

というよりはユリナ自身、ヒロムのことを聞いてから少し混乱している。


「私、何も知らなかった」


「自分のことはあまり言わない性格だからな」


 ユリナをフォローするようにソラは言うが、それでもユリナは続けて悲しそうに話した。


「でも何もできない私の方が……」


馬鹿か、とヒロムは顔を上げるなりユリナに言った。


「生まれた家が家だったからそうやって呼ばれただけだ。

「十家」のバカみたいな争いに子どもを利用する大人の考えを真に受けるな」


「……おい。

起きてたんなら返事くらいしやがれ」


 顔を上げたヒロムをソラは睨むが、ヒロムは顔を逸らすと何も言わずにソラを無視した。

そうだ、とイクトは何か思いついたのか、ヒロムたちに提案した。


「この後、気分転換にカラオ……」


「「「勝手に行ってろ」」」


「即答拒否!?」


 イクトの提案にヒロム、ガイ、ソラは悩むことなく即答、ユリナは口にはしていないが行きたくなさそうだった。


「トホホ……」

***


 ヒロムに帰り支度をさせると一行は学校を後にした。


「よかったねえ、姫さん」


「?」


「今日は愛しの……」


 イクトが何かを言おうとするとガイとソラがイクトを後ろから思いっきり蹴り飛ばす。



「痛!!」


「?」


「気にしなくていい」


 なぜ急にイクトを蹴ったのかと不思議そうな顔をするユリナにガイは一言言うが、ユリナはそれでも不思議そうな顔をしていた。


「ったく、オマエはいつも……」


 蹴り飛ばしたイクトに何かを言おうとしたソラは急にそれを途中で言い終え、足を止めた。


「……用事を思い出した」


 するとソラは急に別の方向へと歩き始めた。


「おい、カ……」


「勝手に行ってろ、馬鹿」


 ソラはイクトに冷たく言い放つと走っていき、イクトはため息をつく。


「どうしたんだか……」


 急に歩いて行ったソラを不思議そうに見ていたイクトはヒロムが何かを気にしているのに気づき、声をかけた。


「大将?」


「いや……。

おい、イクト。追いかけてこい」


「……え?」


「そういうの得意だろうが」


 ヒロムはイクトを睨みながら言うと蹴ろうとしたが、「わかったよ」とイクトはそれを回避するために承諾して歩いていく。


「……ったく」


 足取りは重く、何やら小声でブツブツ呟いていた。

ガイはイクトが向かったのを確認するとヒロムに言った。


「……気づいたのか?」


「ああ。

こっちに……いや、オレに向けられてたからな。

ソラもそれを追っている」


「オレが行っても……」


「オマエはオレとユリナの護衛だ」


「……そうか」


「どうかしたの?」


よし、とヒロムはユリナにある提案をした。


「パフェでも食うか」


「パフェ!!

食べたい!!」


 ヒロムからの言葉にユリナは喜びを隠すことなく目を輝かせていた。


「ガイのおごりで」


「オマエが出せよ!!」



***


河川敷

天気がいいにもかかわらず、人はいない。

ソラはゆっくりとそこへ進んでいく。


「……来たぞ」


「おいおい、オレの狙いと違うぞ。

オレは頭狙いだったのにな」


「それを見過ごすわけないだろ」


 ソラの前に銀髪に紅い瞳の少年が現れる。

その少年をソラは今朝知った。

目の前にいるのは「能力者狩り」にして「月閃一族」の戦士、紅月シオン。


「……オマエが能力者狩りだな」


「ああ。

強いやつを倒してより高みを目指す。

それが強者になるためのやり方だ」


 シオンは槍を構えるとソラを見る。

ソラは構える気配がなく、隙だらけだった。


「ヒロムを倒せば上に行けるとでも?」


「そうだ」


 シオンの狙いはヒロム、なら敵で間違いない。


「ま、頭潰す前にオマエらをつぶせば経験値稼げていいけど」


「そんなに強者になりたいってか」


そういうことだ、とシオンが槍を振ると、周囲が雷で覆われていく。


「オマエ、雷の能力者か」


「オマエも出せよ、能力を」


「言われるまでもない」


 ソラはシオンに言われるがままに銃を取り出すと銃口をシオンに向けて構えた。

そして、ソラの周囲が炎に包まれていく。


「炎の能力者……!!」


 ソラの銃が赤く光り、その光はすぐに消える。

そしてソラはその銃の引き金をすぐに引いた。と同時に、銃口から無数の炎の弾丸が放たれる。



 向かってくる炎の弾丸をシオンは槍ですべて弾く。

そして、シオンはすべてを弾くとソラの銃を見ながら突然分析を始めた。


「その銃……弾倉を改良したエネルギー蓄積型だな。

弾薬代わりに魔力を媒体にして放つギミック」


「見ればわかる」


 ソラはシオンの言葉を無視して次々と炎の弾丸を放つがシオンはすべて回避した。


「当たらないなら問題ない」


「そうか」


 するとシオンが回避し、それを横切った炎の弾丸が旋回し、背後からシオンに襲い掛かる。


「ホーミングか!!」


シオンはすぐにそれに気づき、槍ですべて弾き落とした。

 

「油断も隙もない……。

能力操作は一級品か」


「あれを初見で防ぐか……」


「あの剣士より弱いと思っていたが……。

楽しめそうだ」


 するとシオンが突然音もなく消える。

ソラは周囲を見渡すが、シオンの姿が一切見えない。

ならば、とソラは周囲に炎を放ち続ける。


「どこに……」


「失せろ!!」


 すると次々と雷が落ちてきて、ソラの炎を消していく。


「!!」


 ソラは上を見た。

頭上にシオンがおり、シオンは槍を構えて勢いよくこちらへ向かって降下してくると、同時に雷がソラの逃げ道を塞ぐように周囲に次々に落ちてくる。


「こいつ……」

(落下地点に誘導してるのか!!)


「さあ、どうする!!」


 ソラは地面に炎の弾丸を打ち込み、そこから巨大な炎の蛇が現れる。


「!!」


「炎蛇」



 炎の蛇は大きく口を開け、シオンを一口で喰らう。

が、シオンを喰らった炎の蛇の体が無数の雷の刃に潰され、消滅してしまう。

一瞬とはいえシオンの攻撃を逸らせたソラはその隙に移動したが、シオンがそれを見逃さなかった。


「逃がすか!!」


 シオンは槍に雷を纏わせると勢いよく投げ、槍はソラに向かって加速しながら飛んでいく。


「……正気か?」


 するとソラが無数の炎の弾丸を放つ。


「大炎弾!!」


 ソラが指を鳴らすと炎の弾丸は一つにまとまり、巨大な炎の玉となる。


 炎の玉は迫りくる槍と衝突すると大爆発を起こし、槍を吹き飛ばす。

さらに爆発の余波で視界を妨げる。


「ちい!!」


 シオンは吹き飛んだ槍を掴むと構えなおした。

何か来る、それは間違いなかった。

シオンは槍の刃に雷を纏わせ、刃を巨大化させると一振りし、爆風を払う。


 爆風が消えていき、シオンも追撃に入ろうとした。

が、シオンの視界に入った光景は予想とは異なっていた。


「うるせえよ」


 ソラはシオンに銃口を向け、そのソラの周囲には数え切れぬほどの銃口と砲門が展開されていた。


「造形術か!!」


 能力や魔力を外部に放出した際、形のないそれは無造作に揺れる炎のような状態。

造形術はその炎のような状態のものに形を与える術。

が、高度な技術の一種で、一度にいくつも造形するのは人生を費やしてもできないものがいるほど。


だが、ソラはその高度な技術をこの短時間で大量展開している。


「……面白い!!」


 シオンは槍を頭上で回転させ、さらに槍に雷を纏わせる。

槍の回転に合わせて雷は徐々に大きくなっていき、大きくなった雷は龍となる。



「……無限の炎弾、インフィニティ・フレア・バレット!!」


「雷天臥龍!!」


 ソラが引き金を引くと無数の銃口と砲弾から炎の弾丸が次々に放たれるが、雷の龍はそれを受けながらもソラに向かっていく。


 雷の龍は弾丸を受けてもなお勢いが衰えず、さらにシオンも弾丸を避けながらソラに接近してくる。


「甘い!!」


 ソラの持つ銃が銃口に炎を収束し始める。


「インフェルノ・ヒート!!」


 銃口に収束された炎はビーム状になって放たれ、雷の龍を貫く。


「やるじゃんか!!」


 シオンは一気に距離を詰めて槍の一撃をソラに向けて放つ。

まずい、ソラはその一撃を避けれないと悟ってしまった。

絶体絶命と思ったその時、ソラの影が突如壁のように浮かび上がり、槍の一撃からソラを守った。


「影だと!?」


 シオンは警戒し、一度離れるように距離をとった。


「オマエ」


何してんの、とイクトはソラのもとへと歩いてくる。

呑気に歩いてくるイクトを見ながらソラは自分が展開した銃口と砲門を消した。


「……助かったよ」


「いやいや。

そう思うんなら、カラ……」


「まだ言ってんのか」


 イクトがなぜここに来たかは聞くまでもなかった。

どうせヒロムかガイが寄こしたんだろうと見当がついていたのだ。


「強いぞ」


「オレに言う意味ある?」


「……腹立つけど、そうだな」


「ははは!!」


 イクトの登場にシオンは喜びが隠せないのか高らかに笑っていた。


「元・賞金稼ぎの「ハンター」の「死神」が登場とはな!!」


「へえ、よくご存じで」


「……「閃剣」、「炎魔」、「死神」。

そしてそれを従える「覇王」!!

最高じゃないか!!

今まで相手にしてきたどんな相手よりも面白い!!」


 するとシオンが全身に雷を纏い、さらにその雷を大きくしていく。


「どうしたものか……」


「インフェルノ・ヒートで仕留めるか?」


「オレを足止めに使うの!?」


 うるさい、とソラはイクトに銃口を向ける。

脅しかよとイクトはため息をつくとソラに反論した。


「あいつはあの「月閃一族」。

元々が戦闘の天才でその素質がある。

それにあの強さは場数を踏んでる何よりの証拠だ……逃げよう」


 イクトの言葉にソラは思わず銃口をイクトの眉間に突きつけるが、イクトはそれをかわすとソラに説明した。


「オレにも考えがある」


「内容次第じゃオマエから撃つ」


「オッケー、待て、ステイだ」


「さっさと言いやがれ」


「分が悪すぎる。

この広い河川敷じゃおまえの炎も弾丸も的があの速さじゃ真価を発揮できない。

それにオレの影もここじゃ影が少ないからあいつを捕らえられない」


「……元賞金稼ぎだろ。

何とかしやがれ」


 イクトの言いたいことはソラでもわかっているが、目の前の相手がそう簡単に逃がしてくれないこともわかる。

だからこそどうにかすべきだとソラは考えていた。


「相手も人間、スタミナにも限界がある」


「確かに一撃の威力はあいつも互角だ。

オマエが見失うほどの速度がある限り、銃はおろかオレでも……」


「おい、おまえ、最初から見てただろ?」


「とにかくやろう」


「誤魔化すな」


 ソラとイクトの会話に対して、「終わったか」とシオンは尋ねる。

シオンはいつでも攻撃できるといわんばかりに槍を振り回していた。


「何?

終わるの待ってるなんて律儀だね?」


「別に?

オマエらの策なんざいくらでも潰してやるよ!!」


「……へえ」


 イクトが右手を前にかざすと、イクトの影から突然大鎌が現れる。

イクトはそれを右手に持つと、一気に顔つきが変わる。


「なあ、戦闘馬鹿。

オレが死神って呼ばれる理由知ってるか?」


「誰が戦闘馬鹿だこの……」


 するとイクトの影から無数の黒い腕が現れる。


「オレの能力は影、オレの能力の及ぶ範囲内にある影を自在に操る。

そして……この力で捕まえた相手を仕留める姿が「死神」のようだったとさ!!」


***


 ソラとイクトがシオンと戦闘を行う中、ヒロムとガイはユリナとともに喫茶店へと来ていた。

二人の戦闘中ということもあり、ヒロムとガイはその場にすぐ駆けつけられる近くの喫茶店を選んだ。

万が一に備えているのだが、ユリナはフレイとユリアと注文したパフェを嬉しそうに味わっており、ヒロムはというと昼間あんなに寝ていたのにまた寝ている。そんなヒロムにガイはコーヒーを一口飲むと告げる。


「今回は払ってやるから、次は奢れよ?」


「……あいあい」


「二人とも食べないの?」


 パフェを味わうユリナは何も食べようとしないヒロムとガイを心配そうに見るが、ガイはそんなユリナにただ一言伝えた


「ああ、オレは大丈夫だ」


「遠慮しなくていいんだぞ?」


「……それを言いたければ金出せ」


 ガイはふと窓の外を見た。

二人が行ってからかなり時間がたつ。

ユリナはソラがただ用事で帰り、イクトはヒロムに言われるがまま尾行していると思っているのだろう。

が、ガイは戦闘状況が気になって仕方なかった。

そしてイクトを向かわせた張本人は寝ている。

起きてはいるが、そのうち寝るに違いない。


「……大丈夫だ」


ガイの心でも読んだかのようにヒロムはガイに説明する。

「偵察にもう一人行かせてる。

状況は伝わってくる」


 ヒロムが何か用意している。

それがわかるとガイは少し意外そうな顔でヒロムを見た。


「寝るだけしか考えてないと思ったが」


「寝たいんだが寝れない。

不眠症か?」


「ただの寝すぎだ」


「ねえ、ヒロムくん」


 ヒロムとガイが話しをしていると、ユリナは続いてヒロムに話しかけた。


「ん?」


 ユリナの問いかけにヒロムは一応反応するが、ガイは関係ないと言わんばかりにコーヒーを口にする。

ヒロムの反応に何も言うことなくユリナはただ、自分が今疑問に思うことを質問した。


「ソラとイクトは大丈夫なの?」


 ユリナの突然の一言に飲もうと口にしたコーヒーをガイは吹き出してしまう。


「ゲホゲホ……!!」


 大丈夫ですか、とフレイはガイにティッシュを手渡すし、受け取ったガイはティッシュで口を拭くとユリナに確認した。

ソラとイクトが戦闘中とははっきり言っていないのにユリナがわかるはずがないが。


「な、何を急に……」


「だって、ヒロムくんがずっとソラとイクトが戦ってるのが気になって心配で寝れないって顔してたから」


「あ……」


 忘れていた、いや、ガイはもはや忘れたいと思っていた。

ユリナは能力のない一般的な人間、が、ある人物に対してのみ発揮されるスキルを持つ。


それがこの怠惰の王、ヒロムだ。

ヒロムは喜怒哀楽のうち「喜」と「哀」、「楽」の感情が乏しい。

唯一怒ったときは顔に出るくらいだ。

それ以外は付き合いの長いガイとソラですらわからないが、このユリナだけは違う。

昔からユリナはヒロムの表情、仕草、口調、雰囲気で今何を考えているかを完璧に言い当てる、それも百発百中。


 実際怪しいと思った。

ユリナが言った後にヒロムが口裏を合わしてるか、ヒロムが事前にユリナに教えているかだと。

その真相を確かめるためにガイはまずユリナの前でヒロムに十個の質問をした。

事前に紙に答えを記入させているため、正解かどうかはガイたちで確認できた。

当然事前にユリナにこのことは言っていなかったため、ユリナにとっては急なことだった。


 にもかかわらず、ユリナは全問正解。

それも一語一句間違えることなく。


「……あの……」


「ユリナには悪いがここにいてくれ」


 危険があってからでは遅い。

そう思ったガイはそれを避けるためにここで待機するように頼むが、ユリナは聞こうとしなかった。


「でも……」


「いいから待ってろよ。

ガイのおごりだからおかわりしていいからさ」


「だから金出してから言いやがれ!!」


「……危ないからフレイたちとここにいてくれ」


 ユリナにただそう伝えるとヒロムはガイとともに立ち上がり、喫茶店を出ようとしたが、ユリナは思わずヒロムの腕を掴んでしまう。

急に何を、とヒロムはユリナを見たが、そのユリナはとても不安そうな顔をしていた。


 それをすぐに理解したヒロムはユリナの手をゆっくりと離させると、安心させるように伝えた。


「……大丈夫。

戻ってくるから」


「……約束、だよ?」


「任せろって」


***


「くらえ!!」


 ソラは次々と弾丸を放つが、シオンは簡単に槍で防いでいく


「何やってんのさ」


「うるせえ!!

てめえもやれよ!!」


「……へいへい」


 イクトが指を鳴らすとイクトの影が突然周囲に広がり、大きな円となり、広がったイクトの影から無数の腕が現れる。


「影庭・死劇!!」


 無数の腕が次々にシオンを捕らえようと襲い掛かるが、シオンはそれを顔色変えることなくかわし、イクトの影から離れていく。


「おい!!

なんでオレまで巻き込みやがる!!」


 よく見るとソラがイクトの影の腕に捕まっていた。


「てへ、間違えちゃった♪」


「ぶっ殺すぞ!!」


「じゃあ死ね」


 身動きが取れなくなったソラのもとにシオンが来て槍を振り上げる。


「この……」


「囮ご苦労さん♪」


 するとソラの足下からイクトが現れ、大鎌でシオンの槍を弾き返す。


「瞬間移動!?」


「影から影への移動だよ。

影があればオレは無敵だ!!」


 イクトがすかさず大鎌で斬りかかるが、大鎌がシオンを斬るとシオンは雷となって消えてしまう。


「造形術!?」


「分身か……」


 影の腕から解放されたソラはシオンの技に感心しながらイクトを蹴り飛ばした。


「おふ!!」


「おい、眉間と心臓、どっちに風穴開けてほしい?」


「お、落ち着こうか!!」


 終わったか、と二人の視界にシオンが現れ、そのシオンの頭上には巨大な雷の玉が現れる。


「おお……」


「感心してんじゃねえよ!!」


 ソラは雷の玉に弾丸を放つが、弾丸は雷の玉に弾き飛ばされ、消えてしまう。


「すげえ……」


「オマエなぁ!!」


 呑気に見惚れるイクトに若干苛立ちつつもソラは地面に両手をついた。

するとシオンの足下が赤く光り始めた。

シオンは逃げようとしたが、雷の玉を維持していたために動けなかった。


「炎天華!!」


 紅く光った足下から炎が吹き上げ、巨大な炎の柱となり、シオンはそれに飲まれていく。


「あああああ!!」


「これで……」

なんてな、とシオンは炎を槍で振り払うが、その体は少しだが負傷していた。


「な……」


「バケモンか」


「こっちのセリフだ。

オマエらしぶといせいでこうなったんだ。

でもおかげで楽しめた。

仕上げだ、超雷天玉!!」


 巨大な雷の玉が勢いよく二人のもとに向かっていき、その途中、大地を抉りながら加速してくる。


「イクト。

影壁で……」


「無茶言うな。

あんなの避けなきゃ死ぬぞ!!」


「間に合うのか……?」


 すると二人の間を何かが通り抜けていく。


「夜叉殺し!!」


 二人の間を通り抜けたのはガイ、そしてそのガイは「折神」を抜刀し、雷の玉を両断した。

両断された雷の玉は大きな爆発を起こし、周囲のものを巻き込んでいくが、ガイは無事だった。


「無事、みたいだな」


「……金輪際組みたくねえ」


「オレは楽しかったぜ」


「げ、まだ終わってねえのか?」


 ヒロムが来るなり、シオンを見て嫌そうな顔をした。

シオンもヒロムを見ると嬉しそうに微笑む。

それに気づくとヒロムはさらに嫌そうな顔をする。

が、それとは別なのかヒロムはソラとイクトの前に立った。


「……やるか」


 ヒロムの言葉を聞いたシオンは期待してか笑みを浮かべるが、ガイは行く手を阻むようにヒロムに刀を突きつける。


「?」


「おい、いきなり前に出るな」


「いや、奢ってもらった礼だよ」


「いらん、それよりも……」


「オマエよりは強い」


「……!!」


 ヒロムの一言、その意味をガイはわかっていた。

それ故に何も言えなかった。


「……オレのこと気ぃ使ってんのはわかるよ。

でも……いつまでも守られてて納得できるオレじゃないんだよ」


「……そうか」


 そのかわり、とガイは刀を鞘に収めながらヒロムに告げる。


「やばいと思ったら加勢する」


「あいよ」


ヒロムはシオンの方へと進んでいく。


「頭自ら相手か?」


「不服か?」


「まさか。

オマエの強さはわかってる。

そこの三人を従えてる時点でな」


だが、とシオンは雷を全身に纏い、槍を振る。


「強者のみが生き残る摂理に変わりはない。

オレとオマエ、どっちが強いかはすぐにわかる」


「同感だ」


「武器を……」


いらねえ、とヒロムは構えたが、丸腰、素手だった。

シオンはそれを見てすぐに理解した。

ヒロムは格闘術、特に拳術を武器にする。

が、シオンにとってそれだけでは満足できない。無理だと考えた。

 

「いくら拳に自信があってもおまえには能力がない。

つまり……生身でやりあうのか?」


「今にわかる」


「じゃあ、加減無……」


シオンが動き、ヒロムに対して先制しようとした。

が、シオンはすぐに目を疑った


 先ほどまで離れた位置にいたはずのヒロムが、自分の目の前に、自分より先に距離を詰めていたのだ。

自分が先ならまだしも、生身のヒロムが先に。

シオンにとってすぐに理解できなかった。


「何…!?」


 シオンが驚く中、ヒロムの拳がシオンの腹部に勢いよく命中し、シオンを殴り飛ばす。

先ほどまで多少苦戦したソラとイクト、一緒に来たガイはヒロムの速度にため息をついた。


「……こいつのどこが無能なんだか」


 呆れるガイとは対照的に何が起こっているか理解できてないシオンはただ困惑していた。


「何が……」


 シオンは慌てて受け身をとって構えなおそうとしたが、ヒロムが呑気にあくびをしているのが視界に入ってしまった。


「なめるな!!」


 シオンは一瞬でヒロムの背後に移動し、槍で攻撃しようとした。

が、そのヒロムはシオンの背後からの攻撃を一切後ろを見ることなく避けてしまう。


「な……」


 シオンの攻撃を避けたヒロムはその場で回転すると、勢いよくシオンを蹴り飛ばした。

シオンはまた受け身をとるが、今何が起きているか理解できなかった。


「一体……」


「さて……不眠症対策の運動を始める」


***


同じ頃、戦闘地点から少し離れた場所。


そこに一人の少年がいた。


その少年はヒロムとシオンの戦闘を観察していた。


「やっと出てきたか。

身の程知らずの忌み子が」


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