二九六話 双天進化!!
光の柱の中でのフレイたちの帰還を待つヒロムは漆黒の城の方を見ながら地面に座り込む形で待っていた。
「……」
「気にならないのですか?」
これから向かうであろう漆黒の城の方に視線を向けるヒロムにロゼリアは声をかけると彼の隣に座った。
「気にしてもどうにもならないなら気にしないだけだ。
あの中の問題はフレイとラミアが何とかするさ」
話しかけられたヒロムは彼女の言葉に対して返事をし、そして呑気に大きなあくびをする。
そんなヒロムの呑気な姿を見るなりロゼリアは彼に対してある質問をした。
「アナタは彼女たちのことを信用してるのですが、どうしてそこまで簡単に信用出来るのです?
フレイはともかく、ラミアなんてアナタのもとに戻ってから一ヶ月も月日は経ってないはずですが……なぜ簡単に信用出来るのです?」
「信用?
むしろアイツらのことを疑う理由がねぇな」
「何故ですか?」
ロゼリアの質問に対するヒロムの回答、それを聞いたロゼリアは思わず聞き返してしまう。
分からなかったのだ。
なぜヒロムはそんな言い方をしたのか、彼女には分からなかった。
聞き返されたヒロムは面倒そうにして答えないのかと思われたが、そんな素振りも見せることも無くロゼリアに向けてその理由を話した。
「アイツらは何があったとしてもオレのことを信じてくれている。
どんな決断を下そうと、どんな選択をしたとしてもアイツらはいつも信じてくれる。
だからオレはそんなアイツらを信用出来るし、これから先も信じてるのさ」
「ラミアもですか?」
「出会った月日なんてたかだか数字でしかない。
オレとラミアの間に見えない溝があるのならこれから時間をかけて埋めていけばいい。
互いを知らないなら、今から知っても遅くは無いはずだ」
「……私たちもですか?」
ヒロムの話を聞いたロゼリアはさらなる質問をした。
度重なる質問、さすがにヒロムは面倒になって答えなくなるかと思ったが、そんな様子も見せずにロゼリアの質問に答えた。
「オレが無意識で精神の深層に到達し、その過程で誕生したオマエたちも今こうして話が出来るなら、これからの時間を大切にすればいいだけだ。
償いってわけじゃないけど……オレは少しでもオマエたちとともに前に進みたいんだ」
「優しいのですね、アナタは」
優しくはない、とロゼリアの言葉をヒロムは少し恥ずかしそうに否定すると彼女の言葉を訂正するように言った。
「オレは十数年復讐のために強さを求め、そして今更になって人の想いに気づいた。
今はただ必死にそれのためだけに動いてる。
この試練を受けてるのも、自分についてハッキリさせたいからだ」
「その先に何があってもですか?」
「何が待っていようが関係ないさ。
何もしないで立ち止まるくらいなら、何が待っててもいいから進んでる方がいい。
それに……」
ヒロムはロゼリアに話す中でフレイやラミアたち精霊のこと、そしてガイやソラ、ユリナたちの自分を支えてくれる人たちを頭の中に思い浮かべていた。
「オレの後ろをついてきてくれて、オレのことを信じて支える力となってくれてるヤツらがたくさんいる。
これまで支えてもらった分、今度はオレが力になりたいからな」
「……素敵ですね」
「今更すぎるわがままだよ。
そのわがままに付き合ってくれてる二人だからこそ、オレは疑うことはしないさ」
(だから……必ず勝って帰ってこいよ、二人とも)
漆黒の城を見ながらヒロムは光の柱の中にいるフレイとラミアの無事を祈り、そしてただ彼女たちの帰還を待っていた……
***
光の柱の中……
「「はぁぁぁあ!!」」
白銀の稲妻を纏ったフレイと紫色の稲妻を纏ったラミアは雄叫びを上げながら纏う稲妻を強くさせながらティアーユに迫っていき、接近するなり二人はティアーユに攻撃を放つ。
が、ティアーユは鬼気迫る二人の攻撃が迫る中でも落ち着いた様子を崩すことなく冷静に二人の攻撃を躱し、躱すと二人に掌底突きをくらわせようとする……のだが、フレイとラミアは彼女のその攻撃を予測していたのか掌底が叩きつけられる前に彼女の腕を掴んで防いだ。
「それはさっき見ました」
「余裕なのか知らないけど……ナメられたものね!!」
フレイとラミアは掴んだティアーユの腕を離さずに彼女の体に拳を叩きつけようとするが、ティアーユがそれを黙ってうけるはずもなかった。
彼女は両手が塞がれている中で右足に魔力を纏わせると迫り来る二人の拳を蹴りで弾き返し、弾き返した直後に体を宙に浮かすと勢いよく体を回転させて腕を掴んでいる二人を引き剥がすように吹き飛ばしてみせた。
「くっ……!!」
「この……!!」
吹き飛ばされた二人は受け身を取るとティアーユに向かって走り出し、そして接近すると攻撃を放つ。
だがその攻撃をもティアーユは躱してしまう。
それでもフレイとラミアは攻撃の手を緩めない。
躱されても二人は続けて攻撃を放ち、続けて放たれた攻撃をティアーユは防いでみせるが、連続で放たれた攻撃を予測していなかったのか一瞬隙が生じてしまう。
「「はぁ!!」」
その隙を逃さぬように二人は攻撃を放ち、放たれた攻撃はティアーユの体に命中し、そしてその攻撃はティアーユを後ろへと押し飛ばしたのだ。
「効いてる……!!」
「やっとだけどね!!」
押し飛ばしたティアーユに追撃を加えようと考えるフレイとラミアだったが、ティアーユはどこからかライフルを出現させて装備すると二人に向けて光弾を放つ。
放たれた光弾は二人に向けて接近していくが、二人は稲妻を一点に集中させることで盾を形づくり、その盾を用いて光弾を防いだ。
「させません!!」
「ふふっ……素晴らしいです。
彼と同じ特異性を秘めているが故の成長、天の字名を持つに相応しい成長です」
「ずいぶんと余裕なのね!!」
「余裕?
そんなことはありませんよ」
ティアーユの持つライフルが二つに分割され、分割された武器は少し変形を交えると二丁拳銃に変化する。
変化した武器を手にしたティアーユはフレイに向けて構えると無数の光弾を高速で撃ち放ち、フレイは稲妻を盾にして防ごうとする。
が、次々に放たれる光弾を前にして稲妻は尽きそうになり、フレイは防御をやめて回避に移行した。
「防ぎきれない!!」
「まかせなさい!!」
フレイが苦戦しているとラミアが闇を放出しながら高く飛び上がり、そして彼女は闇を放出したままその場で回転して自身を中心に竜巻を作り出していく。
「ラミア、何を……?」
「今の私なら出来る気がする。
新しい可能性を秘めた力を解き放つことが!!」
ラミアはさらに激しく回転し、彼女の回転に合わせて竜巻も激しくなると闇を纏い、竜巻は紫色に染まると大地を削り始める。
「これは……」
「ディープ・オブ・ディザスター!!」
ラミアが回転を止めると紫色に染まった竜巻は彼女から解き放たれたかのように大地を削りながらティアーユに向かっていき、さらに激しく回転すると竜巻は巨大になっていく。
「さすがにこれは厳しいですね」
ティアーユは二丁拳銃をさらに可変させ、光の刃を持った双剣に変えると全身に魔力を纏いながら竜巻に向けて走っていく。
「あの武器……どれだけ変形するのですか!?」
「関係ない!!
どんな武器でも立ちはだかるなら潰すだけ!!」
ラミアの意気込みに反応するように竜巻はさらに大きくなりながらティアーユに迫っていく。
だが、ティアーユは竜巻に向けて走る足を止めない。
それどころか光の双剣に力を集めながらその刃を次第に大きくさせている。
「そちらの全力にお応えします。
……トランジェント・ラスヴェート!!」
ティアーユが何度も双剣を振ると光の斬撃が幾度も放たれ、放たれた斬撃は竜巻を引き裂こうとぶつかっていくが、光の斬撃と竜巻の双方が強い力を持っていたせいで周囲に強い衝撃を放ちながら炸裂しながら双方ともに消滅してしまう。
「くっ……」
「この短時間でここまで成長されるとは……驚きです」
発生した強い衝撃に吹き飛ばされぬように耐えるラミアとティアーユ。
ティアーユはこれほどの力を発揮したラミアの短時間での急速な成長に驚いていた。
「さすがです。
彼との繋がりを強く持ち、天の字名に選ばれたアナタたちは何かを強く思うことでそれを実現するための力を得る特異性を秘めている。
その特異性をアナタたちは完全に覚醒させましたね」
「そう……だったらその身でもっと味わうといいわ!!」
ラミア叫ぶとフレイが大剣を手に持って走り出す。
「……行きます!!」
「では見せてもらいます……。
アムネスティ・サイファー!!」
白銀の稲妻を強く纏いながら走るフレイ。
だがティアーユはそのフレイを見るなり双剣を変形させてライフルに戻すと彼女に向けて光弾を無数に放つ。
放たれた無数の光弾はフレイに迫っていく中で無数に分裂しながらその数を増やしていき、その数が数千数万に達した時フレイに逃げ場など消えていた。
が、今のフレイは逃げる気などない。
まして躱す気も受ける気もない。
「アナタがどんな力を持っていても負けない!!
私はマスターのためにこれまで全てを捧げるべく生きてきた!!
その覚悟を今、私はアナタに示す!!」
フレイは大剣を振り上げると白銀の稲妻を纏わせ、迫り来る光弾に向けて何度も斬撃を放つことで光弾を撃ち落としながらティアーユに向かっていく。
が、斬撃でも撃ち落とせなかった光弾が彼女のすぐそばを通り過ぎていくと彼女の背後の地面で炸裂して彼女に小さな衝撃を受けさせる。
「くっ……!!」
衝撃を受けても止まらないフレイ。
だがそれでもフレイに迫る光弾はその手を緩めない。
「……私は、負けない!!」
フレイは大剣を強く握る中で言葉を発するとさらに全身に稲妻を走らせ、そしてティアーユに向けて叫んだ。
「私はアナタのように強くなくても止まらない!!
私には私にしか出来ないやり方でマスターの……あの方の力になる!!」
そうよ、とラミアもフレイの言葉を受けて感化されたのか彼女もティアーユに向けて叫び出した。
「彼と交わった時間が短くても構わない!!
これからの時間をともに歩めばそれが全てになる!!」
迫る光弾を大剣で撃ち落とすフレイとティアーユと自身の攻撃で生じた衝撃に耐えるラミアが強い意志を口にすると彼女たちの体から薄らかな光が発せられる。
「どんなことがあっても……!!」
「たとえ思いが違えても……!!」
フレイとラミアの言葉に呼応するように光が強くなる。
そして……
「「私たちはマスターの精霊としてともに前に進む!!」」
二人がさらなる強い意志を示した時フレイは青い光、ラミアは紫色の光を体から発し始める。
その光は眩く、強く輝く中で迫り来る光弾と衝撃を消滅させると天に並ぶ逆さの摩天楼を全て破壊してしまう。
「……」
二人の体から発せられる輝きを目にしたティアーユはライフルを手放すと二人を見ながら言った。
「おめでとうございます。
「天剣」、「天妖」……アナタたちは今天の字名の宿主として到達すべき地点に覚醒し、進化出来ました」
ティアーユが彼女たちに伝えるとフレイは全身に白い光を纏い、ラミアも紫色の光を体に纏っていた。
「これは……」
「変なの……。
闇の私が光を纏ってるなんて……でも」
「すごく温かくて、心地いい……」
「これで私の試練は終わりです。
アナタたちは無事にクリアしました。
私の試練……「真理に到達して心を覚醒させる」試練を」




