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レディアント・ロード1st season   作者: hygirl
精神干渉編
28/672

二八話 種火


学校を後にしたヒロムはユリナたちとともに歩いていた。


さすがに歩きにくいのと、周囲からの目もあるため、リサとエリカには離れてもらったが、それでも二人とも隙さえあればまたやるのだろう。


が、今はそれどころではないらしい。


「やっぱりファミレスじゃない?」


「ここはマックでしょ?」


ファミレス派のリサと、マック派のエリカ。


リサとエリカは昼食をどこで食べるかで相談しあっている。


ヒロムとユリナはその話しに入ろうとしていないが、リサとエリカが行くのならついては行く。


そして支払いはヒロムがするのだろう。


「ユリナはどっちがいい?」


「私?

私は……どっちでもいいよ?」


「ええ、適当すぎない?

真剣に考えてよ」


「考えてるけど……あ。

ヒロムくんはどっちがいい?」


ああ、と気だるげに返事をしたヒロムはユリナの問いに対して少し悩むと、ため息をついた。


「オレもどっちでもいいよ」


「強いて言うなら?」


「………… 」


「……ファミレスだって」


ユリナはヒロムの顔を見ながらリサとエリカに伝える。


また読まれた。


ユリナが持つ特技にも似た力。

ヒロムの表情や雰囲気などでヒロムの思考を完全に読み取るそれは意識していないとすぐに考えが読まれる。


「……」


「ちなみにだけど、私たちもできるよ?」


「そうだったな……」


「まあ、ユリナほどじゃないけどね。

九割くらいは当たってるからね」


ほぼ正解じゃねぇか、とヒロムはユリナとほぼ同じことが出来るというリサとエリカに呆れ、そして少し離れた。


「オレのプライバシーはないのか?」


特に意味がある訳では無いが、自分の思考が三人に読まれるとなると警戒してしまう。


「そこはほら、愛されてるってことで」


「その愛は重いから嫌だな。

……まあ、とにかく行こうぜ」


***

ヒロムがユリナたちと賑やかに過ごしている一方、ソラはイクトとともに河川敷での特訓を行っていた。


「この!!」


ソラは銃に魔力を溜め、イクトに狙いを定めるとともに引き金を引き、炎弾を次々に放つ。


炎弾は放たれると速度を増しながらイクトに向かっていくが、狙われているイクト自身は慌てる様子はなかった。


「……相変わらず、単調なんだよ」


イクトがため息をつくと同時に、イクトの黒い瞳は金色へと変化する。


そしてイクトが手を出すと影の壁が出現して炎弾を防ぎ、同時に炎弾が影の中へと吸い込まれていく。


「ち……!!」


「単調な能力攻撃じゃオレの影の前じゃ通用しないぜ?」


「だったら!!」


ソラが周囲に炎を撒くと、それを媒体に無数の銃口と砲身を作り上げる。


造形術、それを用いたソラの大技。


「無限の炎弾、インフィニティ・フレア・バレット!!」



ソラが自身の持つ銃の引き金を引くのを合図に次々に炎弾が放たれる。



その数は先程イクトが防いだ炎弾の比ではない。

止まることなく撃ち続けられ、それはイクトの影でも防げるか定かではなかった。


「くらい、やがれ!!」


「……はいはい」


イクトはソラが撃ち続ける炎弾を気に留めることもなく、手に持つ大鎌に魔力を纏わせる。


「そんなもんで……」


「どうかな?」


イクトが魔力を纏わせた大鎌を大きく振り回すと、大鎌が纏う魔力が黒く染まり、そしてそれはイクトの身の丈の数倍まで大きくなっていく。


「!!」



「黒滅斬衝!!」


イクトが大鎌を横に薙ぎ払うとともに、ソラとソラの放った炎弾に向かって巨大な黒い斬撃が放たれる。


斬撃はイクトへと迫っている炎弾を消し去りながらソラの方へと向かっているが、ソラは尚も炎弾を撃ち続ける。


「その程度で全部防ぐ気か!!」


「その程度、か。

何を見たらそう言えるんだ?」



何を言っている。

ソラはイクトの言葉を理解できないまま炎弾を消し去る黒い斬撃を見た。


が、目にした光景にソラはただ驚き、言葉を失うしかなかった。


「な……」


黒い斬撃、それはイクトが放った時と比べると大きくなっており、それどころか炎弾を次々に喰らっていた。


「成長してやがる……!!」


ソラは少し遅れて理解した。

イクトの放った斬撃、それは影死神による魔力吸収の力を持っている。

そして、それにより炎弾を吸収し、威力を増している、と。


「だとしても!!」


ソラが銃に魔力を集中させると、同じように無数の銃口と砲身に炎が収束されていく。


「インフィニティ・フレア・バスター!!」


ソラが再び引き金を引くと、収束された炎がレーザーのように次々に放たれていく。


放たれた炎は黒い斬撃を止めようとぶつかる。

だが、先程までと違い、吸収されている気配はなく、むしろ互角の状態だ。


(これなら……)


いける。

ソラがそう確信すると、イクトはため息をついた。

まるでソラがどうにかできると思ったのを読んだかのように。


「……残念だけど、無理だな」


イクトの影が大きく膨れ上がると、黒い龍へと姿を変える。


その龍を見たソラは少しだが驚き、同時に焦りを見せた。



(オレの知らない技……!?)


「影龍幻!!」


黒い龍は大きな口を開くとソラが放った炎を喰らい、そして徐々に大きくなってく。


が、それも同時に黒い斬撃が勢いを取り戻し、次々に銃口と砲身を破壊していく。


「そんな……!!」


「チェックメイトだ」


ソラが体勢を立て直そうとしたのと同じタイミングでソラの影から無数の腕が現れ、ソラを拘束して動きを封じる。


「!!」


ソラの展開した銃口と砲身は完全に消え、さらに放った炎も消える。


そして身動きを封じられたソラへイクトは大鎌を突きつける。


為す術もないソラは悔しそうに舌打ちすると、銃を手放した。


「参った……」


「当然、だな。

オレ強いから」


腹立つな、とイクトの影の腕から開放されたソラは舌打ちするとイクトを少しばかり睨んでしまう。


「え〜……

悔しいからって舌打ちするなよ……」


「うるせぇ、燃やすぞ」


「で、このままやるか?

これで十九連勝中のオレに」


自慢しやがって、とソラはイクトを軽く蹴ると銃を拾い、そして構えた。


「次は勝つ」


「それも結構聞いたなぁ……」


「さっさと始めるぞ。

こうしてる間にも「狂鬼」は……」


違うだろ、とイクトはソラの言葉を遮るかのように言うと、そのまま話し始めた。


「オマエにとって「狂鬼」はどうでもいいんだ。

一番大事なのは「八神」の当主、トウマだろ?」


イクトの言葉にソラは何も言わずに背を向けると、イクトと距離を取ろうと歩き始めたが、そんなソラに対してイクトはそのまま続けて話した。



「トウマと出会ってユリナが泣いたあの日からオマエは必要以上に強くなろうと焦ってる。

ヒロムの「ハザード」の原因がトウマにあるかもしれないってわかった時もだ」


「……だったら黙って見てろってか?」


ソラは歩みを止め、イクトの方へと振り向くと銃口をイクトに向けた。


銃口は明らかにイクトの額に狙いを定めており、ソラもイクトに殺気を向けている。


怒り、イクトは今のソラの感情を一目で理解した。


「焦るに決まってんだろ?

オレとオマエで苦戦したシオンを圧倒し、オマエの援護があって倒せた角王もアイツは余裕で倒したんだ。

角王と互角に戦ったガイも手に負えなかった」


「あれはガイが躊躇った可能性も……」


「だとしてもオレは今確実に一番弱い。

このままじゃただの足でまといでしかない」


「……そうかよ」


イクトはため息をつくなり指を鳴らし、それを合図にソラの影から突然影の腕が現れ、ソラの持つ銃を殴り飛ばす。


突然のことで反応できず、ソラは構え直した銃を弾かれ、なぜこうしたのか説明を求めるようにイクトを睨んだ。

「何しやがる!!」


「オマエが「炎魔」の炎を制御出来ないのか、

それは少なくとも理由が二つある」


「……何?」


イクトの言葉にソラは少しだが聞く耳を持ち、そして冷静になると続きを聞いた。


「一つはオマエがそうして自分を追い込んでいることだ。

能力ってのは所有者の力そのものだ。

そして同時にそれは所有者の精神の変化で大きく揺らぐことがある」


「つまり、オレの今の状態では無理だってか?」


そうかもな、とイクトは大鎌を持ち直すと、わかりやすくソラに対して説明した。


「炎の能力者はどの能力よりも感情に左右されやすい。

オマエだけじゃなく、オレが「ハンター」として出会った炎の能力者は全員そうだった」


イクトの言葉にソラは何も言わずに聞いているが、それでも顔には納得している様子はなかった。


いや、できるはずはない。

今の話だと、単純にソラがまだ未熟だと言われてるようだった。


そう思うと少しばかりイラッとしてしまうが、それを察したかのようにイクトが補足し始めた。


「そして二つ目の理由。

これがオマエにとって重要になる」


「あ?」


「例えば……今からフルマラソン走れよ」


突然の無茶ぶり、ソラはそれがただバカにされてると思い、再びイクトを睨みつける。


「なめてんのか?

無理に……」


そうだよ、と無茶ぶりをした側のイクトがソラを宥めるように話し始めた。


「普通の人間がいきなり無茶なことしてどうにかできるわけない。

今のオマエがまさにそうだ。

制御出来ていない「炎魔」の炎を勢いよく使っている」


「……」


「だから体に無駄な負荷がかかって反動でボロボロになる。

そしてその度に焦りができる」


イクトの言葉、それは聞いているソラが正論だと思ってしまうほどの内容だ。


だがわかっていてもそれしか道がない以上どうしようもない。


現に射角との戦いの時も無理やりとはいえ「炎魔」を限界まで使って勝てた。


いや、この先の戦いもそれを避けては……


「ちなみにオマエの特訓中にオレは影死神で全身武装したか?」


突然のイクトの問い。

何を急に言い出すのか……

ソラは面倒くさそうに思い出した。


これまで何度か同じ形式で特訓を行った。

が、思い返せばそのすべてでイクトはただ影死神の力でこちらの攻撃を吸収し、こちらを制していた。


ただの一度も斬角のときに見せたという姿を見せてはいない。


つまり



「……同じように部分的に使えと?」


「おうよ、理論上はできるはずだ。

オマエは造形術も長けてるし魔力操作も素質がある。

となれば部分的に行っていけば全身での発動も制御出来ると思うぜ」


「……わかった」


イクトの言葉。

それは確定的なものではなく、仮説に近いものだ。


だが、説得力はある。

ソラもイクトの言う方法に賭けようと覚悟を決め、頷くと指示を求めた。


「まず何をすればいい?」


「簡単だよ。

もう一度戦うけど、銃は使うな。

使っていいのは左手だけ」


「……つまり、左手で「炎魔」の炎を使えってことか」


そういうこと、とイクトは構えると全身に魔力を纏う。


そして構えたイクトはソラに対してかかってこいと言わんばかりの視線を送る。


「……オマエにできてオレにできないわけねぇ。

やってやる!!」


ソラは勢いよく左手に炎を纏わせたが、まだ「炎魔」のあの紅い炎ではない。


(こんなお調子者に負けてられるか……!!

オレだって、アイツの力になる!!

そのためになら己の感情くらい燃やしてやる!!)


「はあああ!!」


ソラが炎を感情を高ぶらせ、炎を激しく燃やしていく。


ソラの意思に呼応するかのように炎は勢いよく燃えていき、徐々にその色を変えていく。


「はあ!!」


ソラが左手を大きく振るとともに炎は完全に紅く染まり、そして炎からは凄まじいまでの殺気が溢れる。


(体が軽い……

いつもならこの炎のせいで体が重いのに、今はいつものように動ける!)



ソラが左手に炎を纏うのを確認したイクトは大鎌を握る手に力を入れる。


「さすが天才!!

オレの言葉だけで第一段階クリアかよ!!」


「……感謝しておくよ。

お調子者もたまには役に立つってな!!」


ソラは勢いよく走り出すと、イクトへと攻撃を仕掛ける。


「その強気もいつまで持つかな!!」

(そうだ、ソラ。

その力を使いこなせ……オマエが「チャージネス」に発症しないようにオレが導いてやる!)


「……もうあの悲劇は起こさせねぇよ!!」



***


「あ〜……食った」


四人でファミレスにて昼食を済ませたヒロムは満足気な顔をして歩いていた。


「あ、あの……ごちそうさま……」


ごちそうさま、とユリナに続くようにリサとエリカはヒロムに礼を言う。


「まあ、たまにはこういう飯もいいな」


「あ、ヒロムくん……」


ユリナは何やら財布を取り出すが、ヒロムはユリナが何をしようとしているかわかったらしい。


小さくため息をつくと、ユリナの頭を軽く叩いた。


「痛……」


「んな強く叩いてねぇよ。

つか何金払おうとしてんだよ」


「だって……さすがに全部払ってもらうのは……」


「オレが出したかったから出したんだ。

いちいち気にするな」


「でも……」


「じゃあ、今日の夕飯と明日の朝飯頼む。

それでいいか?」



ヒロムの提案にユリナは頷くが、少しばかり納得していないようだ。


が、ヒロムとしてはユリナに代金を支払わせたくないという考えもある。


(これがいい解決案だと思ったが……)


「こちらにおられましたか」


すると夕弦が音もなく現れる。

突然の登場にユリナたちは思わず驚き、声を出すが、ヒロムは何食わぬ顔で平然としていた。


「「きゃあ!!」」


「ああ?

どうかしたのか?」


「いえ、お帰りが遅く心配でしたので」


「ああ……そう、か……」


帰りが遅い。

それだけの理由で現れた夕弦にヒロムは少し呆れていた。


「そこまでしなくていいのにな……」



「それが私のやりたいことですので。

お帰りの最中でしたならご同行してもよろしいですか?」


好きにしろ、と夕弦に対して適当な返事をすると歩き始めた。


夕弦はユリナたちに気を使ってか、軽くだが頭を下げた。


それにユリナは反応して同じように頭を下げてしまう。


夕弦はそんなユリナを見て、思わず笑みをこぼした。


「おもしろい人ですね……」


「え?え?

?」


「……行きましょう。

ヒロム様に置いていかれますよ」


夕弦は言うと先に歩いていき、ユリナもリサとエリカとともにヒロムを追うように歩き始めた。






そして




そんなヒロムたちを遠くから不敵な笑みを浮かべて見つめるある人物がいたが、その存在に今は気づいていなかった……



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