二七三話 身勝手な王
「ぶっ潰す!!」
ヒロムは稲妻を強く纏うなり拳の連撃をゼロに向けて放つが、放れた連撃をゼロは片手を前にかざすだけで触れることも無く防いでしまう。
「この……!!」
連撃を防がれたヒロムは拳に稲妻を集中させると渾身の一撃を叩き込もうとする。
が、ゼロはそれを読んでいたのか首を鳴らすと右手でヒロムの拳を掴み、そして軽く力を入れるとヒロムの拳が纏う稲妻を消滅させてしまう。
「な……」
(触れただけで……!?)
『勘違いしてるかもしれないから教えておいてやるけどなぁ……!!』
ゼロは右手を軽く捻るなり拳を掴まれているヒロムの体を軽く浮かせ、ヒロムが無防備になった所に蹴りを食らわせて蹴り飛ばしてしまう。
「がっ……!!」
『今のオレはオマエの裏であり本来の闇だ。
あの時オマエが他人の力を借りて倒した紛い物とは違うんだよ!!』
ゼロが叫ぶと彼の周囲に無数の魔力の粒子が現れ、現れた粒子は強い光を放つなりビーム状の魔力をヒロムに向けて放つ。
放たれたビームを見るとヒロムは慌てて回避しようと迫り来る攻撃の軌道から逃れるように走っていくが、ビームは自我を持つかのように軌道上から離れたヒロムを追尾するように湾曲して向かっていく。
「追尾型……!!」
追いかけてくると分かったヒロムは稲妻を両手に纏わせるとそれをビームの方へと勢いよく放出し、放出された稲妻は無数に枝分かれしながらビームを引き裂いていく。
「よしっ!!」
(「クロス・リンク」のおかげで簡単な応用は……)
『その程度の応用で満足とはナメられたものだな!!』
ビームを防いだことに一安心しているヒロムに向けてゼロは言うと続けて闇を放出しながらそれを無数の龍に変化させる。
そして変化して生まれた龍は雄叫びを上げながらヒロムにくらいつこうと向かっていき、ヒロムは稲妻を足に集中させると加速しながら龍を避けていく。
が、それが狙いだったのかヒロムが龍を避けるのを見たゼロは不敵な笑みを浮かべると指を鳴らした。
『甘いな、オマエは!!』
ゼロが鳴らした音に反応するようにヒロムが避けた龍の体が膨張し始め、膨らむ力に耐えれなくなった龍が破裂するとその中から無数の魔力の弾丸がヒロムの方に向けて放たれる。
「!!」
『オレがオマエの動きを読めないとでも思ったのか!!』
不意を突かれたヒロムは稲妻を足から全身に纏い直して迫り来る無数の魔力の弾丸を避けようとするが、ヒロムが行動に移すよりも早く魔力の弾丸が次々にヒロムに襲いかかり、ヒロムの全身は弾丸によって確実に痛めつけられていた。
「がっ……」
『考えが甘すぎるんだよ!!
オマエの機動力と判断力くらいオレは把握してんだからな!!』
ゼロの叫びに呼応するように無数の魔力の弾丸の一部が大きく膨らむなり爆発し、爆発した弾丸の周囲の弾丸も連鎖反応を起こすようにして爆発しながらヒロムを飲み込みながら爆撃でヒロムを追い詰めていく。
「ああああああああぁぁぁ!!」
『ハハハハハハハ!!
無様、無様、無様無様!!
今のオマエじゃオレは倒せねぇんだよ!!』
爆発に飲まれ苦しむヒロムを見ながら楽しそうちゼロは笑い、爆発が止むとヒロムは全身ボロボロになって倒れてしまう。
「「マスター!!」」
「マスター!!」
ゼロの闇に拘束されたままのラミアたちがヒロムの身を案じて叫ぶ中、唯一彼の攻撃に吹き飛ばされただけのフレイが慌ててヒロムのもとに駆けつける。
駆けつけるなり心配するフレイは彼の体を抱き上げるが、彼の体はもはや限界だった。
魔力の弾丸とその爆発を受けた体は火傷を含む形で負傷し、そして全身から血が流れている。
立ち上がるのも難しいであろうその傷を身に負うヒロムはダメージが深刻すぎるせいか意識がハッキリしていないらしく、さらには呼吸も安定していなかった。
「マスター、マスター!!」
何度もヒロムに呼びかけるフレイだが、傷のそいで意識が薄れつつあるヒロムは返事をする様子もない。
それでも諦めずに声をかけるフレイ。
そのフレイの姿を目にするなりゼロは深いため息をつき、そして呆れながら彼女に向けて言った。
『やめとけ。
もうそいつは終わりだ』
「……まだ私たちがいます!!」
『私たち?
笑わせんなよ……オマエ以外は全員拘束されてるし、頼みの綱であるロゼリアはオレが行動を制限してるから動けるはずもない。
その状況でオマエはオレだけでなくアマゾネスも相手に戦うってのか?』
「そんなのやってみなければ……」
『先に言っておくが「ソウル・ハック」を使えてもオマエじゃオレは倒せねぇ。
その「ソウル・ハック」はオレには通用しないからな』
「何を……」
『そもそも「ソウル・ハック」ってのはオマエのじゃない。
そこで無様にやられたそいつが偶然生み出した力の成れの果てだ。
人間の魂を精霊と同質に昇華させることにより生まれた力を纏うその力……それを精霊のオマエが使ったところで他者との繋がりの恩恵を受ける程度で終わる。
まぁもっとも……今オレによって拘束されてるアイツらとオマエとの間の繋がりとやらもオレの加減ひとつで弱くできるから意味ねぇけどな』
「アナタにそんな力があるはずが……」
『あるんだよオレには!!
オマエが主人として慕うそこの「無能」とオレはいわば表裏一体の同一人物!!
つまりそいつに出来ることはオレにも出来るってことなんだよ!!』
「だとしても私が……」
理解しろよ、とゼロがため息を混ぜながら呟くとフレイの体を闇が多い被さろうとし、闇が体に触れるとフレイは苦しみ出した。
「ぐっ……」
『オマエがどう思おうとも関係ない。
オレはこうしてオマエに干渉してその力を抑え込むことも出来る。
やる気だけあっても力がないんじゃ意味ないだろ?
理解しろよ……今のオマエらに勝ち目はない!!』
フレイが胸に抱く思いを否定して繊維を削ぐかのようにゼロは次から次に言葉を発し、そして彼はフレイに向けて更なる言葉を告げた。
『そもそもそいつの「ソウル・ハック」が何故オレに通用しなかった理由を理解してないようだから教えてやるよ。
そいつはな……オマエらのことを信用してないんだよ』
突然のゼロの言葉、それを聞いたフレイは敵の言葉に対して反論した。
「適当なこと言わないで!!
マスターが私たちのことを……」
『信用してないはずないってか?
今までならそうかもな……けど、今そいつはオマエたちが誕生した経緯を知っている。
奇跡的にどこからか来たものを宿したと思っていたはずのものがまさか自分の都合で自分で生み出した存在だってな』
「自分で生み出した……?
それは違う……!!
マスターは自我を確立されていない生まれたばかりの時に……」
『無意識で精神の深層に到達して精神が崩壊しかけたからってか?
それが一番の問題なんだよ、今のそいつにとってはな。
何せそいつはオマエらに対して自分の都合で生み出した存在として認識し始めている。
そう……今のそいつらオマエたちのことをこれまでのようには認識していない!!』
「ふざけるな!!
マスターは……」
「黙……れ……」
ゼロの言葉をフレイが強く否定しようとするが、それに続くかのようにヒロムが掠れた声で言葉を発すると立ち上がろうとする。
「マスター……」
『おいおい……くたばってれば楽なものを。
そんなにオレに何か話されるのが気に食わないのか?』
「……うるせぇ……な。
オマエこそ……オレの話するしか能がねぇのか?」
『……オレは楽しんでるんだよ。
オマエの精神がどこまで行けば壊れるのか、この世界を形作るオマエの心はどこまで行けば変化するのかを心待ちにしてんだよ』
「あ……?
何ふざけたこと……」
『それよりいいのか?
オレが話したせいでオマエの中の考えがバレちまったなぁ。
気まずくて精霊どもと仲良く話も出来ないか?』
「……」
ゼロの言葉、それを受けたヒロムは黙り込むだけで返事すらしない。
何か考えがあるのか、それとも何か言葉にして言えない理由があるのか。
そこまでは誰にも分からないが、フレイはひとまず彼に対して確かめるように質問をした。
「マスター……。
マスターは私たちのことを避けようとしてるのですか?」
「……」
「……答えてください。
私たちはどんな形で生まれたとしてもこれまで過ごしてきた偽ることの出来ない時間を大切に思い、そして今もアナタのために戦おうとしてます。
だからこそお聞かせください、アナタの言葉を……」
フレイの強い訴え、それを受けたヒロムはどこか辛そうな表情を浮かべると言葉を詰まらせ、そして少ししてからヒロムはフレイに……自身の精霊たちに向けて話し始めた。
「……迷ってるんだ。
オレはずっとオマエたちとは何かの運命で巡りあってこうして今まで過ごしてきたと思ってた、
だから真相を知って全てを解き明かしたいと思った。
なのに……その全てが偽りでオレの無意識の行いによって生んだ結果で精神が崩壊しかけたから生まれたのなら……オレはオマエたちを都合よく利用してるのに変わりないんじゃないのか……?」
「違いますマスター!!
それは……」
「オレは結局自分が生きるためだけに生み出し、そしてまた自分の都合で封印して記憶を書き換えた……。
そんなオレが……オマエたちの力を借りていいはずがないんだ……」
『ようやく理解したか、マヌケが』
するとゼロが自身の頭上に巨大な闇の球体を生み出し、そしてそれをさらに大きくさせる中でヒロムに向けて語り出す。
『オマエは生まれてから今に至るまで自分の都合で生きてきた。
「ソウル・ハック」も「クロス・リンク」も……全部オマエが都合よく戦えるように利用してきた結果だ』
「……そうだ、オマエの言う通りなんだな」
ヒロムは何とかして立ち上がるとフレイを離れさせ、それを見たゼロは闇の球体をさらに大きくさせると冷たく告げる。
『理解したなら……失せろ。
「無能」に価値はない!!』
ゼロは言葉と共に闇の球体を放ち、放たれた闇はヒロムに向けて迷うことも無く向かっていく。
「……」
『己の価値を理解しながら死ね!!』
「ふざけるな!!」
ヒロムに向けて闇が迫る中、フレイが闇に背を向けるようにして身を呈してヒロムを守ろうとし、闇はそのフレイに命中すると彼女の体を痛めつけていく。
「あああああ!!」
「な……フレイ!!」
『バカな……!?
なぜ……』
「……そんなこと決まってます。
私はマスターのために生まれたからです!!」
傷ついた体で倒れぬように踏ん張るとフレイは強く言い、そしてヒロムを見つめると彼に向けて彼女の思いを伝えた。
「アナタに何を思われても私たちはアナタのことを裏切りません!!
アナタが助けを求めるなら私たちはすぐにお力になります!!
だから……だからアナタが言葉に惑わされて自分を見失わないでください!!」
「……!!」
フレイは傷ついた体で彼に寄り添うとそっと抱きしめた。
「……私たちは今こうして触れ合うことが出来ます。
それはどんな理由で出会ったにせよ、これまで紡いできた日々が変わることはありません。
だから……マスターは自分を責めないでください。
マスターがそれを罪だと言うのなら……その罪は私たちも背負います」
「フレイ……」
彼女の言葉を聞いた時、ヒロムの体から一瞬だけ何かの輝きが……




