二六七話 戦う理由
「この程度……か」
何とかしてダメージを与えようとしてフレイたちと連携して放ったヒロムの一撃。
だがその一撃すらも女は防ぎ、そして強気な姿勢も余裕すらも崩れることなく健在していた。
「さて、貴公は次にどんな攻撃を見せてくれるのです?」
「それも止めるってか?」
「ええ、そうですね。
そしてそれを防いで通じないことを証明してみせます」
「ナメられてるなぁ……!!」
ヒロムは女の言葉に少し苛立ちながらも言葉を発すると拳を構えるが、構えてからすぐには動こうとしなかった。
まるで構えてからどうするかを考えてるようだ。
「……」
(ナメられてるのはたしかだが、余裕がある発言をするだけの力を持ってるのもたしかだ。
力技で正面から挑んでも勝ち目はなさそうだが、知恵振り絞って策を投じてもアイツには通じないだろうな。
こちらの手の内を把握してるかのようにプレッシャーをかけてきやがるし、何よりアイツは……)
「策を練れば勝てるとお考えで?」
まるでヒロムの考えを読んでいるかのような女の言葉。
その言葉の中には女の余裕を感じ取れ、それを理解しているヒロムは下手な動きを見せることも出来ない。
つまり今の状況はヒロムにとっては非常に都合が悪い。
後手に回されているわけではないが、今のままでは明らかに勝ち目はない。
先手必勝という言葉があるが、今の状況には適さない言葉だ。
この状況、相手をしている鎧の女、そしてヒロムと女との力の差。
先手を打とうものならば確実に倒される。
それは確実だとハッキリ言える。
(アイツを先に倒そうと速攻決めようとしてもムダだ。
アイツはそれを待ってるだろうしな。
となれば……)
「考えがまとまるのを待つほど私は優しくない!!」
ヒロムが頭の中で考えをまとめようとしているとそれを阻むように鎧の女は斧を構え直すなりヒロムに斬りかかろうと襲いかかるが、それを止めようとフレイは大剣を構えながらヒロムの前に立つと女の斧の一撃を防いでみせる。
「くっ……!!」
「貴女では止められない。
私は貴女より強い」
「だとしても……!!」
女の一撃を防いだフレイはその強い力に耐えるしかなく、反撃に転じれないでいた。
このままでは押される一方で何も出来ない。
フレイは何とかして女に反撃の一撃を放ちたかったが、なかなか何も出来ない。
「だとしても、の続きがあるのなら聞かせてもらいたい!!」
フレイが行動に移す様子もないことにより、女はさらなる攻撃を放とうと斧をもう一度振り上げる。
が、その攻撃を防ぐかのようにヒロムが白銀の稲妻を纏いながら女に蹴りを放ち、フレイを守るように蹴り飛ばそうとした。
が、ヒロムの一撃をも女は片手で防いでしまう。
「……貴公にしては無謀すぎる攻撃ですね」
「どうかな?」
余裕を崩さない女に向けて不敵な笑みを浮かべるとヒロムは足に白銀の稲妻を集中させ、そして稲妻を纏わせた足で地面を強く蹴ると共に強い衝撃波を発生させて女を吹き飛ばしてしまう。
「!?」
予想外だったのか吹き飛ばされた女は驚きを隠せない様子で慌てて体勢を立て直し、そして斧を構えようとする。
だが、女が斧を構えようとするよりも前にヒロムがラミアとともに懐に接近すると同時に稲妻を纏わせた拳を叩きつけて殴り飛ばす。
「な……!?」
殴り飛ばされた女は何とかして体勢を崩さぬように維持するが、二人の一撃が効いたのか少しフラついていた。
「くっ……」
「さて、もう一度聞こうか。
今のは無謀すぎる攻撃か?」
「……少し油断しました。
まさか貴公がこんな力任せな攻撃をするとは思いませんでしたので」
「へぇ〜……そうか。
けど……オマエがどう思おうがこっちには関係ないし、オマエの戦いの中で思い描いた考えを聞く気もないんだよ」
ヒロムは白銀の稲妻を大きくさせると自身のそばにアリアとマキアを出現させ、そして二人にも稲妻を纏わせると叫んだ。
「……クロス・リンク!!
「戦姫」アリア!!「剣姫」マキア!!」
ヒロムが叫ぶとアリアとマキアは魔力に変化すると一つになり、一つになった魔力は大剣になると魔力の柱を生み出してヒロムを包み込んでいく。
「気高き力、それを手にする覚悟を決めろ!!」
ヒロムが大剣を手に取りながら叫び、そして一振すると魔力の柱が砕け散り、ヒロムは新たな姿となって鎧の女の前に現れる。
胸部アーマーを纏い、ガントレット、ブーツ、そして左肩にのみ肩部用のアーマーを身につけ、そして腰から下はマントにも似た布で覆わせたその姿は外見だけならば騎士を彷彿とさせるものがある容姿になったヒロムは大剣を構えると視界に鎧の女を捉える。
「その姿……」
「オマエの姿に近づけてやったんだよ。
この姿でオマエを倒してやるためにな」
「……「クロス・リンク」とやらですね。
アマゾネスとの戦いの中で見せたその力を見れるとは思ってもいませんでしたよ」
「オマエ……あの戦いを見てたのか?」
ええ、と女は一言答えると斧を構え、そして構える中で強い力を全身に纏わせる。
そして女はヒロムに向けて冑越しに強い視線を送りながら彼に言った。
「見ていたからこそ戦いたいのです。
あのアマゾネスをあそこまで楽しませた貴公の力の全てと」
「……どいつもこいつも戦いたから戦うってか。
ホント……嫌になってくるな!!」
ヒロムは大剣を強く握るなり横に振り、一振りされた大剣の動きに反応するように巨大な斬撃が現れると女に襲いかかり、女は斧を素早く振って斬撃を放つと相殺しようとする。
が、ヒロムの放った斬撃の力が強いがために女の一撃では相殺出来ず、女の一撃を潰す形でヒロムの一撃が勝るとそのまま女に襲いかかる。
「!!」
自身の攻撃を潰されたことに驚く女は慌てて回避行動に移り、迫り来る斬撃を高く跳ぶ形で回避してみせる。
が、ヒロムの攻撃は終わらない。
「はぁぁあ!!」
ヒロムは何度も大剣を振り、その度に女に向けて巨大な斬撃が襲いかかる。
が、女は空中であるにもかかわらず華麗な体捌きで斬撃を避けながらヒロムとの距離を詰めようとしていた。
そしてヒロムとの距離が近づく中で女は斧を握る手に力を入れ、ヒロムに向けて一撃を喰らわせようとする。
「はぁっ!!」
鎧の女はヒロムに接近して勢いよく一撃を放とうとするが、その攻撃はヒロムに届くことは無かった。
ヒロムに迫っていく斧の一撃。
その一撃はヒロムの前で目に見えぬ何かに防がれたかのように弾かれてしまう。
「なっ!?」
「悪いが今のオレに単純な攻撃は通用しない!!」
自身の攻撃が弾かれたことに驚いて動きが鈍くなった女に向けてヒロムは強く言うと、続けて大剣で斬りかかる。
ヒロムの大剣を防ごうと女は斧で止めようとするが、ヒロムの大剣の動きに連動するようにして大きな斬撃が現れ、斬撃は大剣とともに女の斧による防御を圧倒し、そしてその力を用いて女を吹き飛ばしてみせる。
「……!!」
「アマゾネスの一戦があったからこそ最適な手段を選ぶ冷静さが手に入った。
今のオマエに対してこの「クロス・リンク」は……」
「なるほど……」
吹き飛ばされたはずの女は何かを呟くと受け身を取り、そして体勢を整えると斧を構えた。
構え直した女は今のヒロムの姿を見るなり何かを察したのか、そしてそれを言葉にするように呟き始めた。
「アマゾネスとの戦いの中では見せなかった「クロス・リンク」。
たしかに強力な力をお持ちのようですが、どうやら見た目以上にピーキーなようですね」
「あ?」
「攻撃に追従する斬撃、敵の攻撃に反応して防御する力……二つの力は高性能な上に相性もいいようですね。
ですが……それ故に脆い部分もある」
すると女は斧を何度も振りながら全身に力を纏い、そしてヒロムに向けて無数の斬撃を放つ。
放たれた斬撃は放たれた時の勢いを維持したままヒロムに向けて迫っていくが、ヒロムの「クロス・リンク」の力によって彼の前に障壁のようなものが現れ、現れたそれは迫り来る斬撃を次々に防ぎながら消滅させていく。
が、まるでヒロムが斬撃を防ぐことに集中させるかのようにさらに斬撃を放つと鎧の女は音も立てずに姿を消すとヒロムの背後に出現して斧を振り上げる。
「何……」
「はっ!!」
背後に出現した女に驚きを隠せなかったヒロムに向けて女はさらに無数の斬撃を放ち、斬撃を放つと彼の周囲を包囲するように駆けながら幾度となく斬撃を放っていく。
予測させぬようにするかのような女の動き、そしてヒロムの動きを封じるかのように四方八方から無数の斬撃が放たれ、渦中のヒロムはただひたすら女の攻撃を防ぐことに専念させられていた。
「くっ……!!」
『マスター、このままでは……』
「分かってるアリア!!
けど……」
(さすがにきつい……。
この「クロス・リンク」ならアイツには有効打になると考えてた。
けどこっちの弱点をこの短時間で把握してそこを攻めてきてやがる!!)
「クロス・リンク」として身に纏っているアリアが彼の頭の中で話しかけるが、彼も誰かに言われるまでもなく現状がどれだけ最悪なのかは理解している。
理解しているからこそ相手の行動がこちらに及ぼす影響を危険視している。
そんなヒロムの考えをも読んだかのように女はヒロムの周囲を走りながら斬撃を放つ中で彼の「クロス・リンク」について語り始めた。
「貴公のその力……攻撃の増強に加えて強固な防御壁の使用が可能なようですね。
ですが攻撃と防御の両立は困難であり、そして防御壁においては多方向からの攻撃を防ぐのには適していない」
何より、と女は斧で薙ぎ払うように一閃を放つとこれまでに見せることもなかったであろう超巨大な斬撃を放ち、ヒロムの前に展開されている障壁のようなものを破壊してヒロムを吹き飛ばしてしまう。
「ぐあっ!!」
「その力は高性能であると同時に貴公が制御するには力が大きすぎる。
それ故に消耗も激しい。
だから貴公はあまり派手に動こうとしない。
体力を消耗し過ぎぬように気をつけている様子から見ればすぐに分かる」
「コイツ……」
(この短時間で弱点どころかこの「クロス・リンク」の欠点まで把握しやがったのか!?)
吹き飛ばされた先で倒れてしまったヒロムは女が自身の「クロス・リンク」についてほとんど把握してることに驚いてしまうが、そんな中でもヒロムは立ち上がると大剣を構えようとする。
構えようとするヒロムのその姿を見ると女は不思議そうに質問をした。
「……なぜ立ち上がるのです?」
「あ?」
「貴公は持ちうる力の全てを出そうとしている。
対して私はまだ能力を使っていない。
そんな中でこの力の差……普通なら諦めてもおかしくないはずです。
なのにどうして立ち上がるのですか?」
「……決まってんだろ。
戦えるからだよ」
大剣を構える中で質問してきた女に対してヒロムは答えると、続けてその言葉の続きを語る。
「オレはコイツらとともに戦うことを決めた。
何があっても力を合わせて乗り越えるって決めたんだ。
そのオレが戦えるのに勝手に諦めたら何の意味もねぇだろうが」
「そんな感情に任せた理由で戦いに望むなんて……」
「戦う理由に正しいかどうかなんて関係ない。
答えがないからこそオレは今、オレたちのために戦うんだ!!」
「答えがないからこそ……」
ヒロムの言葉、それを聞いた鎧の女は斧を構えたまま動きが止まってしまう。
チャンスだ。
女の動きが止まっている今、行動を起こすなら今しかないとヒロムは考えた。
しかし……
「楽しそうね」
今がチャンスだと考えたヒロムの邪魔をするように周囲に無数の衝撃波が現れて襲いかかろうとするが、ヒロムの「クロス・リンク」の力によって生まれた障壁が盾となってそれを防ぐ。
「「!!」」
誰の攻撃なのか、攻撃されたヒロムと今ヒロムと戦う鎧の女が気にしていると、衝撃波を放ったであろう張本人が戦いの最中にある二人の間に割って入るように姿を現す。
「オマエは……」
現れたその存在をヒロムはよく知っていた。
いや、忘れられるはずもない。
圧倒的な力を見せつけてきた野生のような戦い方を見せる女……。
ヒロムの力が及ばなかった相手なのだから。
「アマゾネス……!!」
「さて、精霊のマスター。
私とも楽しみましょうか」




