二六一話 「クロス・リンク」
「いくぞ……!!」
アマゾネスに向けて強い視線を向けながらヒロムは全身に駆け巡らせる白銀の稲妻をさらに大きくさせる。
そして……
「……クロス・リンク!!
「天剣」フレイ!!「星槍」ディアナ!!」
「はい……!!」
「お任せを……!!」
ヒロムの呼びかけに応じるように倒れていたフレイとディアナは立ち上がり、そしてヒロムのもとへ向かおうと光になり、そして光となった二人はヒロムを包み込んでいく。
「光とともに……オレを導け!!」
ヒロムを包み込む光が強くなるとともに彼は装いを新たにする。
白のコートとそれに連結するように存在する青い腰布を身に纏い、そしてその下には青い衣装と白のズボン、さらにガントレットとロングブーツを装着したそのヒロムの姿を見たアマゾネスはどこか興味があるような目で見ていた。
「なるほど、そのような手段を残していたか。
だが見てくれが変わった程度のことなら……私には到底及ばない!!」
「見てくれだけかどうかは試せば分かる!!」
アマゾネスはヒロムに向けて言うと走り出し、ヒロムもアマゾネスに向けて叫ぶように言葉を放つと光を纏いながら走り出す。
走り出した二人、互いに距離を詰めるように一瞬で相手に接近すると攻撃を放ち、互いに相手が放った攻撃を避けるとさらなる攻撃を放とうとする。
「はぁぁあ!!」
「だぁぁあ!!」
ヒロムとアマゾネス、二人は互いに相手を倒そうと攻撃を放ちながら相手の攻撃を避け、そして攻撃を避けると反撃の一撃を放つ。
互いにそれを続けながら攻防を繰り広げ、そして激しさを増す二人は気づけば天地を縦横無尽に駆けながら繰り広げられていく。
「なるほど……見てくれだけでは無いようだ。
だが……それだけでは私には勝てない!!」
アマゾネスはヒロムに向けて猛攻を放ち、その手を緩めることなく激しい連撃を放つ。
ヒロムは全身に光を纏いながらアマゾネスの攻撃を避けると右手に槍を装備して襲いかかろうとするが、それよりも先にアマゾネスが衝撃波を放ってヒロムを吹き飛ばしてしまう。
「ちっ……」
「パワーとスピードは認めよう。
だが決定打に欠けている!!」
アマゾネスは次々に衝撃波をヒロムに向けて放ち、ヒロムは体勢を立て直すとそれを受けぬように避けながらアマゾネスに接近しようと走る。
するとそんなヒロムの後ろをマリアとランファンが後を追うように走り出す。
「精霊との連携で挑もうと言うのか?
その姿で勝ち目がないと判断してヤケになっ……」
「誰も「クロス・リンク」がこれで終わりとは言ってない……!!
「絶拳」マリア!!「龍撃」ランファン!!
荒ぶる魂を拳に宿せ!!」
ヒロムの身に纏う力が光とともに剥がれ、剥がれた光はフレイとディアナに変化する。
そしてマリアとランファンが魔力の龍となると元に戻ったヒロムを飲み込み、その中からヒロムはまた装いを新たにする。
袖のない青いロングコートを羽織り、右肩に龍の頭の肩当て、両腕にはガントレット、そして腰布を巻いたヒロムは周囲に無数の魔力の龍を生み出すとアマゾネスに向けて拳撃とともに龍を放つ。
拳撃より強い一撃が放たれ、放たれた一撃が魔力の龍とともにアマゾネスに襲いかかるが、アマゾネスは手甲の鈎爪で防いでみせる。
「くっ……この力……!!
姿だけでなく力までも変化してる……!!」
「……「烈火」テミス!!「獄炎」フラン!!
滾る焔、喰らえ熱波!!」
ヒロムが叫ぶと赤と黒の炎がヒロムを飲み込み、巨大な炎の柱へと変化し、炎の中よりヒロムが新たな姿でアマゾネスに向かっていく。
「はぁぁぁぁぁぁ!!」
右は黒、左は赤、左右の下半分は緋色のロングコートを羽織り、コートの下は黒い衣装を身に纏ったヒロムは銃剣と剣に炎を纏わせると構えて炎を纏った斬撃を放つ。
「そんなもの……」
ヒロムが放った炎を纏う斬撃をアマゾネスは防ごうとした。
しかし、炎を纏う斬撃は炸裂すると赤の炎と黒の炎を放ち、放たれた二色の炎は大きくなりながらアマゾネスを飲み込もうとする。
そして二色の炎……二つの炎が重なった時、炎は一切の色を失うと共に周囲を一瞬で焼き尽くしていく。
「……!!」
無色となった炎が迫る中でアマゾネスは全身に魔力を纏うことで防ごうとするが、無色の炎はアマゾネスが身に纏った魔力を焼き払うと敵の体を焼こうとする。
「そんな……!!」
体が炎で焼かれそうになったアマゾネスは烈風を発生させて炎を消して火傷を回避しようとするが、彼女の右腕は炎によって焼かれて火傷を負っていた。
「色の無き炎だと……!?
こんなことまで……」
「まだ終わらねぇ!!
「迅翔」クロナ!!「修羅」セツナ!!
我が魂、修羅となり狂人となりて斬り倒す!!」
ヒロムが叫ぶと彼の身に纏う力が炎となって消え、新たに蒼い炎と黒い雷がヒロムを包み込む。
二つの力が交わる時、ヒロムはまた新たな姿になって現れる。
姿を現したヒロムは白い羽織りを纏い、角を施されし肩当て、首には黒いマフラーとピンク色のマフラーを二つとも首に巻き、背中には二本の刀を携えていた。
「また姿を……」
「鬼神抜刀……!!」
ヒロムは両手に蒼い炎を纏わせると背中に携えし二本の刀に手をかけ、ヒロムが刀の柄を強く握ると彼の周囲に蒼い炎が刀となっていくつも現れる。
「修羅烈陣撃!!」
ヒロムが勢いよく抜刀すると抜刀した刀から巨大な斬撃が放たれ、放たれた斬撃に追従するように刀に形を変えた蒼い炎が次々に飛んでいく。
「また力を……!!」
放たれた斬撃とそれを追って襲いかかる炎の刀、それを前にしたアマゾネスは再び全身に魔力を纏うと烈風を発生させ、そして発生させた烈風で巨大な刃を生み出すとそれを用いてヒロムの放った攻撃を全て破壊してみせる。
「この技だけは使いたくなかったが……アナタの未知の力を前にして使わざるを得ませんでした。
ですが精霊のマスター、アナタの奥の手もそれで……」
「まだ終わらねぇって言ったよな?」
するとヒロムが元の姿に戻ると全身に紫色の稲妻を駆け巡らせ、そして周囲に竜巻と炎が現れてヒロムを囲み始める。
「……「嵐舞」メイリン!!「魔天」ベルナ!!
闇に抱かれ、哀しみを抱け!!」
ヒロムを囲む竜巻と炎が一つになると魔力の柱となってヒロムを包み、柱の中よりヒロムは姿を変えて出現する。
巫女服のようなデザインを感じさせる和装感を持つロングコートを羽織り、背中からは悪魔を思わせるような黒い翼を生やし、鋭い爪と禍々しさを併せ持つガントレットとブーツを装備したヒロムは大鎌を手に持つと飛翔しながら竜巻と稲妻をアマゾネスに向けて放つ。
が、アマゾネスはヒロムを放った竜巻と稲妻を鈎爪で止めようとするが、ヒロムの力が強まっているのかアマゾネスは攻撃を止めようとする中で徐々に押し返されそうになっていた。
「くっ……この……!!」
「負ける気はねぇんだよ!!」
アマゾネスは何とかして攻撃を止めようと力を高めるが、ヒロムも負けじと力を強くさせるように全身に紫色の稲妻を走らせながらアマゾネスに向けてさらに炎と氷塊を放ち、竜巻・稲妻・炎・氷塊が一斉にアマゾネスを飲み込むとそのまま吹き飛ばしてみせる。
「ああああああああぁぁぁ!!」
吹き飛ばされたアマゾネスはここまで負うことがなかったダメージを受けて膝をつく。
テミスとフランとの「クロス・リンク」で右腕にしかダメージを与えられなかったアマゾネスに全身に及ぶダメージを与えたヒロムは攻撃の手を緩めることなく紫色の稲妻をさらに激しくさせると元の姿に戻るなり走り出す。
「まだ止める気はねぇ……!!
「天妖」ラミア!!「導姫」セレナ!!
闇夜に染まれ、光輝を抱け我が魂!!」
ヒロムの全身を闇と光が包み込み、自身を包み込んだ闇と光を体に取り込むようにしてヒロムは姿を現すとまたまた姿を変えていた。
闇を彷彿とさせる紫色のロングコートを纏い、両手は紫色のグローブを着用、コートの下には青い装束を着ており、腰には膝くらいまでの長さはある青いローブを巻いたヒロムは全身から闇を放出しながらアマゾネスに向けて地上を駆けていく。
「うおおおおおおおお!!」
ヒロムは地上を駆ける中で全身から放出する闇を強くさせながら右足に紫色の稲妻を収束させていく。
「まだそんなものを……」
「終わらせて欲しけりゃとっとと倒れろ!!」
ヒロムは放出した闇を無数の蛇に変化させながら高く跳び、そしてアマゾネスに向けて急降下しながら稲妻を収束させた右足で蹴りを放つ。
「スターヴ・クラック・ディエンド!!」
ヒロムの蹴りに合わせて無数の蛇がアマゾネスに食らいつき、それによって動きの封じられたアマゾネスは防御も出来ずに蹴りを受けてしまう。
「がぁぁぁぁあ!!」
攻撃を受けたアマゾネスは紫色の稲妻と蛇に襲われながら蹴り飛ばされてしまい、飛ばされた先で倒れてしまう。
「はぁ……はぁ……」
アマゾネスが倒れるとヒロムは息を切らしながら「クロス・リンク」を解除し、身に纏う稲妻も消してしまう。
いや、消したくて消したのではない。
アマゾネスという手強い相手を前にして無理をしたせいで限界に達しようとしていたのだ。
「はぁ……」
「マスター」
いつ倒れてもおかしくないヒロムのもとへフレイたちが現れ、フレイは彼が倒れぬように優しく体を支える。
「大丈夫ですか?」
「……大丈夫、ではないな。
それよりヤツは……」
「マスターのあの攻撃を受けて倒れました。
私たちの……」
「さすがに効いた……」
私たちの勝利です、とフレイが言おうとするのを止めるように倒れているはずのアマゾネスが言葉を発し、そして彼女はかなりのダメージを負ったはずの体で難なく立ち上がった。
「そんな……」
「どうして……」
「クソ……」
立ち上がったアマゾネスの姿にフレイたちは絶望を感じているような表情を浮かべ、ヒロムも舌打ちをすると自身を支えるフレイを離れさせて構えようとする。
「マスター、ダメです!!」
ヒロムを止めようとするフレイだが、ヒロムは彼女の言葉でやめようとはしない。
拳を握ると構え、そして全身に稲妻を駆け巡らせようとするが、限界に達しているのかヒロムの体に稲妻は走ることは無く、彼は膝をつくように倒れる。
「くそ……」
「どうやらアナタの体は限界のようですね……」
アマゾネスは手甲に魔力を纏わせながら構えるとヒロムに向けて言い、そして彼にトドメをさそうと攻撃を放つ体勢に入る。
「させな……」
フレイたちはヒロムを守るべく彼の前に立とうとするが、アマゾネスが烈風を発生させるとそれを邪魔し、フレイたちが烈風によって動きが取れなくなっているその隙にアマゾネスはヒロムに攻撃を放とうとする。
「マスター!!」
「終わりだ……精霊のマスターよ!!」
フレイの叫びを無視してアマゾネスが斬撃を放とうとする。
その瞬間、ヒロムは確実な終わりを感じるとともに覚悟を決めようとしていた。
「……くそ……」
(ここまで、か……)
ここで倒される、ヒロムがそう思った時だ。
どこからともなく斬撃が飛んでくるとアマゾネスに襲いかかり、アマゾネスは斬撃を防ぐとヒロムから離れるように後ろへ跳んでいく。
「……?」
何故アマゾネスは後退したのか?
驚くヒロムとフレイたちだったが、そんな彼らはさらに驚かさせられる。
「そこまでよ」
アマゾネスを襲った斬撃が飛んできた方向から声がし、ヒロムたちはその方向に視線を向ける。
「あれは……」
そしてヒロムたちの視界に入ったのは鬼の面を付けた一人の少女だった……




