二六〇話 禁断の領域
白銀と紫色、二つの色の稲妻を全身に駆け巡らせながら白銀の輝きを身に纏うヒロムは拳を構えるなり走り出し、フレイたちも武器を構えるなり走り出す。
「いくぞ!!」
ヒロムが勢いよく地面を蹴ってアマゾネスに接近すると連撃を放ち、アマゾネスはそれを手甲を用いて防ぎながらヒロムの動きを観察していた。
「……」
(動きはどこか単調、そして攻撃も初見だと一撃の重さとそのスピードには驚かされるが、連続で放たれるのを見ていると感覚で覚えてしまう。
力が増した程度で防げないレベルではない)
「オラァ!!」
「はっ!!」
ヒロムが右手の拳に稲妻を纏わせて殴りかかるとアマゾネスは右手の手甲に魔力を纏わせて攻撃を放ち、ヒロムの攻撃とアマゾネスの攻撃がぶつかる。
二人の攻撃がぶつかったことで強い衝撃が周囲に走り、その衝撃によって地面や天井が大きく崩れようとしていく。
「この力……厄介なものを隠していたのだな」
ヒロムの急激な力の増加にアマゾネスは圧倒されて距離を取ろうとするが、ヒロムはそれを許さなかった。
距離を取ろうとするアマゾネスにさらに詰め寄ると連続で拳の一撃を放ち、距離を取りたいアマゾネスはそれを防ぐことを強要されるように防御に集中させられる。
「くっ……」
「オラオラオラァ!!」
連続で放たれるヒロムの攻撃に防御を続けるアマゾネスだが、そんなアマゾネスに向けてテミスとアルカが武器を構えて無数の魔力の弾丸を放ち始める。
放たれた弾丸はアマゾネスに向かって飛んでいき、そして弾丸は何かに止められることもなくアマゾネスに襲いかかる。
「!!」
「マスターが身を削られてでも掴まれたチャンスを逃す気は無い!!」
「コイツら……」
(精霊のマスターの力が増したことで底上げされる力も増したか。
私の力を上回って……)
「はぁぁぁぁぁぁ!!」
テミスとアルカの攻撃を受けて驚くアマゾネスにヒロムが渾身の一撃を放ち、それを受けたアマゾネスは殴り飛ばされる。
「これが……精霊を束ねし者の……!!」
「……やれ!!」
ヒロムが叫ぶとフレイたちが全身に魔力を纏い、それぞれが自身の有する最大出力の攻撃をアマゾネスに向けて放つ。
二十四人が放った攻撃はヒロムが纏うものと同じ白銀の稲妻を纏いながら向かっていく。
殴り飛ばされたアマゾネスは体勢を立て直すと迫り来るを見ながら殺気を纏うと雄叫びを上げて衝撃波を放つことで防ごうとする。
が、二十四人が放った攻撃はアマゾネスの予測を大きく上回っているらしく、アマゾネスの雄叫びによる衝撃波を跳ね除けて敵を倒そうと襲いかかる。
「ぐぁぁぁぁ!!」
防ぐことの出来なかった攻撃を受け、受けた攻撃が無数に炸裂してアマゾネスは吹き飛び、戦場となっていた円卓の間の壁もその衝撃で崩壊し、アマゾネスは円卓の間の外に投げ出される。
いや、円卓の間だけでは済まなかった。
ヒロムたちの力が増したことで彼女たちの力も増しており、その強くなった力によって吹き飛ばされたアマゾネスは城壁をも突き破る形で城の外へと飛ばされてしまう。
「やりすぎましたかね……」
「問題ねぇよ、フレイ。
むしろ外の方が派手にやれる!!」
やりすぎたと心配するフレイだが、そんなフレイに一言言うとヒロムはアマゾネスが突き破った壁を通っていく形で外に向かって走っていき、フレイたちもそれに続くように外へと出ていく。
外に出ると吹き飛ばされたはずのアマゾネスが少し負傷した状態でありながらも立っており、それを見たヒロムは舌打ちすると拳を構えた。
「思った以上にタフな野郎だな……」
「ですがマスター、このままいけば……」
「分かってる。
このまま攻めれば勝機はある。
今のオレたちなら……」
「何を勘違いしている?」
このまま攻めればアマゾネスを倒せると考えていたヒロムだが、その彼の言葉を冷たく一蹴するかのようにアマゾネスはただ冷静に言葉を発する。
「このまま攻めれば勝機はある、今の自分たちなら相手がどれだけタフだろうと倒せる……そう考えてるのか?」
「ああ?
追い詰められてもまだそんな余裕があるとはな。
けど、今のオレたちの攻撃はオマエに通用している。
このまま攻めればオマエを倒せることに間違いは……」
「少し気になっているのだが、勘違いしてるようだな。
たしかに今のアナタたちは私にこうしてダメージを与えた。
それは事実だ。だが……アナタたちが能力を使いながら必死になってようやくダメージを与えた私が本気だといつ言った?」
「……何?」
「いや、もっと分かりやすく言おうか。
私がいつ、オマエたちに能力を使った?
私はここに至るまで魔力を使ったか?」
アマゾネスの言葉、それを受けたヒロムは冷静に考えた。
アマゾネス、目の前の彼女が言うようにアマゾネスが能力とハッキリと言える力を使った様子はない。
何かしらの力でヒロムたちの攻撃を止めていたが、それが能力なのかは断定出来ない。
それにヒロムたちの波状攻撃を阻止したのはアマゾネスの雄叫びとそれによって生じた衝撃波だ。
つまり……
身体能力だけで能力者を圧倒できるヒロムと同じようにそれらの全てを能力ではなくアマゾネスの純粋な戦闘力が生み出した力だと言うのなら……
「追い詰められてるのはヤツじゃない……」
「マスター……?」
「……気づくのが遅かったな」
何かに気づいたヒロム、その何かが分からないフレイたちに向けてアマゾネスは言うと殺気を纏うとさらに力を高めるように雄叫びを上げる。
「はぁぁぁぁぁぁ……!!」
アマゾネスの全身に殺気とは違う何かが走り、その何かは烈風を巻き起こして周囲に無数の竜巻を発生させる。
「くっ……最悪だ!!」
アマゾネスの周囲の竜巻を見ながらヒロムは舌打ちをし、舌打ちをするヒロムに向けてラミアは訊ねる。
「マスター、何がどうなってるのよ!?」
「オレたちは……ヤツの思惑に乗せられ、踊らされてたんだよ!!
ヤツにとってオレが体を精霊に変化させることも、それによって「ソウル・ハック・コネクト」の底上げされる力が増すのも計算に織り込まれてたんだよ!!」
「でも私たちはアイツを……」
「たしかに一度は追い込んだよ。
けどな、ラミア……オレたちが追い込んだのはまだ魔力すら纏っていない加減してるだけのアイツだったんだよ!!」
「なっ……」
「はぁぁぁぁぁぁ!!」
アマゾネスが今までにないほどの声量で雄叫びを上げると烈風と竜巻が衝撃波となってヒロムたちに襲いかかり、アマゾネスの全身に身の丈数十倍はある大きさの魔力が纏われる。
「くっ……!!」
衝撃波に襲われるヒロムたちは吹き飛ばされぬように耐えるが、衝撃波が止むと共に視界に入ったアマゾネスの莫大な量の魔力に言葉を奪われてしまう。
「な……」
「あれが……」
「あれだけの力を……」
「……さて、一分だ」
アマゾネスは首を鳴らすなりヒロムたちに向けて一言言うと続けて話した。
「アナタたちが一分後に誰かが一人でも立っていれば強者として称賛しよう。
ただし……全員が倒れた時は覚悟を決めておけ!!」
「……!!
来るぞ!!」
アマゾネスの言葉を受けてヒロムは慌ててフレイたちに構えるように叫び、フレイたちも急いで構えようとした。
だが……彼女たちが構えようとした時、彼女たちの背後にいるはずのないアマゾネスが横切るように歩いていた。
目の前に魔力を纏いながら立っていたはずのアマゾネスがフレイたちを通り過ぎるように歩いていたのだ。
「な……」
「いつの間に……」
「まずは二十四人」
アマゾネスが呟くとフレイたち精霊が全員何かによって大きく吹き飛び、さらに衝撃波と烈風が彼女を襲う。
「「きゃぁぁぁ!!」」
「フレイ!!」
(馬鹿な……!?
ヤツは何を……)
「最後は精霊のマスター……アナタだ」
フレイたちの身に何が起きたのか分からないヒロムが戸惑っていると彼の前にアマゾネスが現れる。
現れたアマゾネスに対してヒロムは拳を構えて攻撃しようとするが、ヒロムが拳を構えようと頭で考えた時にはすでにヒロムは吹き飛ばされていた。
「!?」
何に襲われ、何によって吹き飛ばされたのか。
未だに分からぬヒロムは何とかして体勢を立て直そうと受け身を取るが、そのヒロムのもとに音も立てずにアマゾネスが接近する。
「な……」
「こんなものか?」
アマゾネスが呟くとヒロムの体に四方から衝撃波が襲いかかり、さらにヒロムは何かによって天に向けて打ち上げられる。
「が……」
(全く……見えない……だと!?)
「今で二十秒だ。
あと四十秒だが……もう終わるか?」
「な……ナメるな!!」
ヒロムは空中で叫ぶと二色の稲妻を激しくさせながら大気を蹴るようにして体勢を整え、アマゾネスに向けて勢いよく走り出すが、アマゾネスに接近すると彼はまたしても衝撃波に襲われてしまう。
「……!?」
「どうした?
先程までの威勢はどこに行った?」
「「ソウル・ハック!!」」
アマゾネスが放ったであろう衝撃波にヒロムが襲われ、そのヒロムにアマゾネスが視線を向けていると白銀の稲妻を纏ったフレイと紫色の稲妻を纏ったラミアがアマゾネスに攻撃しようと駆けながら接近してくる。
「「はぁぁぁぁぁぁ!!」」
衝撃波に襲われるヒロムを助けようとフレイとラミアはアマゾネスに向けて攻撃を放つが、彼女の纏う膨大な量の魔力が二人の攻撃を止めてしまう。
「くっ……!!」
「届かない……!!」
「精霊のマスターと同質の力を纏えるとは……少しはマシな精霊がいるようだ」
だが、とアマゾネスがフレイとラミアに向けて手をかざすと烈風が二人を吹き飛ばし、さらに無数の竜巻が二人を押し潰そうと襲いかかる。
「「ああぁ!!」」
「私の前では無力だと知れ」
「……がぁぁぁぁあ!!」
アマゾネスに向けてヒロムは叫ぶと二色の稲妻をさらに激しくさせ、激しくさせた稲妻の一部をフレイたちの武器に変化させるとそれをアマゾネスに向けて撃ち放つ。
大剣、槍、ハンマー、光の剣、銃剣……いくつもの武器に変化してアマゾネスに放たれるが、放たれた武器はアマゾネスが身に纏う魔力に止められてしまう。
「あと二十秒とはいえ精霊のマスターよ。
通じぬ攻撃で時間稼ぎとは見苦しいぞ」
「時間稼ぎ……?
バカにするなよ?」
ヒロムの行動に呆れるように言葉を発するアマゾネスだが、そんなアマゾネスに向けてヒロムは殺気を纏いながら告げた。
「オマエにも言ってやるよ……!!
何を勘違いしてるってな!!」
ヒロムが叫ぶとアマゾネスの魔力に止められてしまっているヒロムが放ったいくつもの武器が白銀の輝きを放ちながら周囲に稲妻を放ち始める。
「これは……」
「弾けろ!!
マテリアル・シャウト・バースト!!」
白銀の輝きと稲妻を放つ武器が光となると一斉に炸裂し、巨大な爆発を引き起こすとアマゾネスの身に纏う魔力を吹き飛ばし、無防備になったアマゾネスに稲妻が襲いかかる。
「がぁっ!!」
稲妻を受けたアマゾネスは負傷して膝をつき、アマゾネスのその姿を見ながらヒロムは彼女に向けて問う。
「あと何秒だ?
あと何秒で一分だ?」
「くっ……もうすでに一分を経過した。
まさかこんな一撃を隠していたとは……」
「一撃?
あんまり人のことナメんじゃねぇぞ、オイ……!!」
ヒロムはアマゾネスに強く言うと身に纏う白銀の稲妻を強くさせる。
そして……
「まだこっちにも使ってねぇ技くらいある。
ただ追い詰めた程度で勝った気になるな……」
「まだ奥の手を……」
「いいや、奥の手じゃない。
これは……オレたちが前に進むための力だ!!」




