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レディアント・ロード1st season   作者: hygirl
精神干渉編
26/672

二六話 困惑




ヒロムと夕弦の特訓が開始された頃。


ユリナはリサとエリカとともにキッチンで夕食の準備を進めていた。


「えっと……」


ユリナは必要な食材を順番に探し出していくが、食材が足りないということは今のところない。


というよりは、この屋敷のキッチンがユリナの知るキッチンに比べて大きく、それに見合ったサイズの冷蔵庫もある。


ユリナが求めている大抵の食材は当然のように置いてある。


(なんか小さいスーパーみたいにいっぱい揃ってる……)


「ねぇ、ヒロムくんの部屋ってどこかな?」


夕食の準備を進めるユリナの傍らでリサとエリカは何やら企んでいた。


「行ったら何する?」


「まずはベッドの下確認でしょ。

ヒロムくんも男の子だからね」


「クローゼットは?」


「見るに決まってるじゃない。

ヒロムくんのすべてが詰まってるかもしれないのよ?」


「ねぇ、手伝ってくれないの?」


ヒロムの部屋を物色しようかと意気込むリサとエリカに手伝ってほしそうに訴えるユリナだが、二人はユリナの手伝いに対してあまりやる気になってくれなかった。


「手伝うけど……気にならない?」


気にならないかと訊かれるとユリナもすぐにノーとは言えなかった。


いや、むしろユリナだって興味くらいはある。


「でも今は頑張ってるヒロムくんのためにも夕食作らないと……」


「ユリナは部屋の場所知らないの?」


「……人の話聞いてないし」


「そうよ、知らないの?」


「知ってるけど……教えない 」


なんで、と二人ともユリナにその理由を求めるが、理由を言うことなくユリナは準備を進める。


一通り準備を進めるとユリナはため息をつき、二人に説明した。


「知ってるのは知ってるけど、余計なことして迷惑かけちゃダメでしょ?」


「むしろ今こそヒロムくんのことを知るチャンスじゃない」


「そうよ、リサの言う通りよ。

こうして強くなろうと頑張ってるヒロムくんのためにもだよ」


「あの……言ってること、変だよ?」


「とにかく、探してくる!!」


「私も!!」


ユリナの言葉に耳を貸すこともなくリサとエリカはキッチンを出ると、どこにあるかも知らないヒロムの部屋を探しに向かった。


キッチンに一人残されたユリナは深いため息をつくと、気を取り直して夕食の準備を再開した。


「もう……二人とも自由すぎるんだから……」


あの二人の行動力に呆れながらもユリナは着々と進めていくが、途中、手が止まり、ユリナは悩み、考え始めた。


「……フレイたちって食べるのかな?」


ふとユリナが悩んだこと。


それはフレイたち精霊のことだ。


あまり彼女らのことを知らないユリナは、彼女らが普段どういった生活をしてるかは詳しくない。


知っているのはヒロムの精霊で、常にヒロムといることくらいだ。


「やっぱり……食べるのかな?

でも食べない……のかな?」


ユリナが難しく考えていると、そこへ一人の少女が現れる。


「あら、どうしました?」


現れたのはヒロムの精霊の一人、イシス。


彼女は何か心配そうにユリナのもとへやってくると、悩むユリナの話を聞こうとしてくれた。


「どうしたのです?」


「あ……あの、ね。

イシスたちはご飯って食べるの?」


「食事ですか?

私たち精霊はマスターからの魔力供給があるので基本食事を摂取しなくても問題は無いですが、マスターとよく食事をすることはありますよ」


「じゃ、じゃあみんなの分も作っていい?」


「ええ、もちろんですよ。

きっとフレイたちも喜びますよ」


イシスが答えるとユリナはは嬉しそうな反応を見せる。


するとイシスが話題を変えるようにユリナに尋ねた。


「そういえば、本日はお泊まりになられますか?」


「ふぇ!?

と、泊まるのはさすがに……」


ユリナは少し恥ずかしそうにイシスの誘いを断るが、内心は誘いを受けたかったのかどこか泊まりたそうな顔をしている。


そんなユリナの反応を見たイシスは思わず笑ってしまうが、ユリナはなぜイシスが笑ったのか不思議で仕方なかった。


「何か変だった……?」


「い、いえ。

ただ、ユリナの反応が可愛いと思いまして……」


「そう、かな……」


「……ではまたの機会にでも泊まってくださいね。

今日はマスターも夕弦さんと夜通し特訓……」


待って、とユリナは思わずイシスの話を止めてしまう。


聞き間違いだろうか、いやそうに違いない。

ユリナは自分の耳を疑い、イシスは何もおかしな事は言ってないと自分に言い聞かせ、確認のためにイシスに訊いた。


「えっと……ヒロムくんの特訓はいつまでやるの?」


「マスターの話では夕弦さんと夜通しでやると聞いてますが……」


「えええ!?」


イシスの言葉が本当だとわかった途端、ユリナは大きな声で叫んでしまう。


そしてそれを聞いたであろうリサとエリカが慌てて走って戻ってきた。

「「どうしたの!?」」


「今日ヒロムくんが夕弦さんと夜も二人っきり……」


「あ、違……」


「ダメダメダメ!!」


「特訓はいいけど、一線は超えちゃダメよ!!」


あの、とイシスは自分の話を聞いてほしいと言わんばかりにユリナたちに声をかけるが、三人ともそれどころではないらしく、聞く耳を持とうとしない。


「どうしよ!!」


「私たちも泊まるわよ!!」


「それ賛成!!」


「うん……ってええ!?」


(マスター……後で謝るのでお許しを)


***


トレーニングルーム


ヒロムと夕弦の実戦形式の特訓は続いていた。


「はあ!!」


ガントレットの鋭い爪。

その鋭い爪で抉るかのように夕弦は攻撃を仕掛けてくるが、ヒロムはそれを避けるとカウンターをくらわせようと殴りかかった。


が、夕弦はその攻撃をガントレットで受け止めると、ヒロムの腕を掴み、勢いよく壁へと投げ飛ばした。


「うおっ!!」


ヒロムは驚く一方で受け身をとると、ヒロムはこぶしを強く握り、構え直した。


夕弦はただ落ち着いた様子でヒロムを狙いに定め、そしてゆっくりとこちらに向かって歩き始めた。


さすがは「月翔団」に属する部隊の隊長を務めることはある。


ヒロムは関心しながらも次にどうしようか考えていた。


(さすがにあの団長に鍛えられてるから戦闘力は高い。

こっちの攻撃も平然と回避しやがるし、何より攻撃全てに反撃するほどの隙が無さすぎる)


「どうしました?

加減は無用ですよ」


「……まだ余裕かよ」


「ええ、もちろんですよ。

それに、試すなら今ですよ?」


夕弦の言葉、あれは挑発なんかではない。

本心から加減せずに攻撃しろと言っている。


が、別にヒロムも加減している訳では無い。

どちらかといえば本気に近い。


完全な本気の状態には程遠いとはいえ、それでもやる気になってる。


だが、その状態でも夕弦は余力があるのだろう。


(フレイたちと連携したところでオレ自身を鍛えるって点では意味が無い。

だが……あれを試すなら別か)


あれ、とは「精霊憑依」だ。

ヒロムが「ハザード」を抑えられるのではないかとして注目したそれに頼るしかないのだろうか。


それに頼ったとしてもどうなるかはわからない。

いや、完成するかすらわからないし、それに効果があるかもわからない。

つまり、これは賭けだ。


だが試すなら今しかない。


「……やるか」


ヒロムは深呼吸するとフレイを呼び出し、そして意識を集中させる。


「精霊憑依」そのものがヒロムにとっては初めてのこと。

正直な話、今ヒロムはすごく不安に掻き立てられている。


成功するかもわからない、特訓中に試すとはいえフレイの身に何が起きるかわからない。

自分の身に降りかかるリスクなど百も承知。

だが、フレイのことを思うと不安で仕方ない。


ヒロムが不安に思う中、それを察知したのかフレイはヒロムの手をそっと握った。


「フレイ……?」


「マスターとなら私は大丈夫です。

だから、マスターの不安を私にも背負わせてください」


「……わかった」


ヒロムはフレイの手を握るとさらに集中した。


それに応えるべくフレイは全身に魔力を纏い、そして徐々に光へと姿を変えていく。


「「はあああ!!」」


ヒロムの全身を覆うように光となったフレイが重なり合う。


夕弦はその状況を手出しせずに、ただ見守っていた。


「そのままいけば……」


夕弦も成功の可能性を感じたのか、思わず期待する。


が、その期待を裏切るかのように、そしてヒロムの思惑を裏切るかのように結末を迎える。


光となったはずのフレイは元の状態に戻り、それと同時にヒロムはまるで何かに衝突されたかのように吹き飛び、勢いよく壁へと叩きつけられてしまう。


「が……!!」


「マスター!!」

「ヒロム様!!」


何が起きたのか。

全員が理解できない中、ヒロムは何とか立ち上がるが、心配になったフレイと夕弦はヒロムのもとへと駆け寄る。


「ご無事ですか?」


「……なんとか、な。

何が起きたかわかるか?」


「いえ、私が見た中ではヒロム様とフレイが重なり合う瞬間に吹き飛ぶ姿が見えただけです」


「私もマスターと一つになろうとした瞬間、こうして元の状態になっていました」


つまり、原因はわからない。

ヒロムは体に問題がないかを軽く確認すると小さくだが、ため息をついてしまう。


「……前途多難だな。

上手くいくはずがないとは思っていたが、こんな風に失敗するとはな」


「す、すみません……」


謝らなくていい、とヒロムはフレイに優しく声をかける。


「むしろ問題があるとすれば、オレの方だろうな……」

(途中までは上手くいっていたのはオレでも感覚的にわかる。

だが途中でそれがおかしくなった。

その原因が何なのか……)


「とりあえず……探るついでにもう一戦頼む」


「わかりました」


***


その後、おそらく十回は繰り返し行った。


だがどれもフレイが光となった後、ヒロムと一つになろうとすると同じようにヒロムが吹き飛ぶだけだった。


「くそ……」


さすがのヒロムも何度も失敗して吹き飛ばされてを繰り返しているせいで疲れが溜まっているのか、少しふらついている。


「オレの力不足なのか……?」


「原因はわかりません。

ですがこのまま続けるのは危険すぎます」


「けど……」


「一度休みましょう。

ヒロム様自身が強くなることも大事ですが、無理をして体を壊してからでは元も子もありません。

一度休んでからでも特訓は出来ますから、ね?」


夕弦の言葉はもっともだ。

何かあってからでは手遅れだし、そうなればユリナたちに余計な心配をかけてしまう。


「……飯食ったらもう少しだけ調べて再開する」


「はい、そうしましょう」


それでいいか、とヒロムはフレイに確認をとるが、フレイは何も言わずにただ頷いた。


おそらく、フレイも何か言いたかったのだろうが、それは夕弦が言った言葉と同じことなのだろう。


ヒロムもそれをわかっており、フレイに対してはそれ以上に何かを言おうとはしなかった。


「じゃ、飯でも……」


「マスター!!」


するとトレーニングルームの入口が開くと、イシスが慌てて入ってくるなりヒロムのもとへとやってくる。


その慌てたイシスの姿に何かあったのかと心配になったヒロムだが、イシスの口から出た言葉はヒロムの考えとは真逆のものだった。


「あ、あの……ユリナたちが泊まりたいと……」


「ああ?

そんなの別にいいだろ?」


「そ、それが……

とにかく来てください!!」


「ああ?

訳わかんねぇな……」


***

地下のトレーニングルームからリビングに向かった。


リビングにはすでに夕食の用意がされており、ユリナたちも座っている。

カレーの匂い、どうやら夕食はカレーのようだ。


が、そこはどうでもいい。

なぜイシスが慌てていたのかだ。


ユリナたちを見ると、三人とも何か言いたげな顔をしていた。


「何かあったのか?」


「え、えっと……」


「私たち、しばらく泊まることにしたの」


言葉を詰まらせるユリナの横からリサがヒロムに対して話し始めた。


「私たちも帰ろうかなって思ったけど、聞いた話じゃ夕弦さんと朝まで一緒だって」


「ああ?

特訓するだけだろ」


「それはわかってるよ?

わかってるけど、万が一があるじゃない?」


ねぇよ、と何かを心配するリサに対してヒロムは冷たく言い放つ。


「つうか、何を考えたらそうなるんだよ……」


「とにかく、夕弦さんがこのお屋敷にいる間は私たち三人も残ります!!」


「……別にいいけど、親に連絡は……」


「もうしてるから大丈夫だよ」


はやいな、とヒロムは関心するとともに呆れ、思わずため息をついてしまう。


なぜこうなったのか、ユリナに説明を求めるように視線を送るが、ユリナは言葉を詰まらせる。


「あ、あの、ね……」


「いや、責めてるつもりはないんだが……

別に特訓するだけで何も起きないし……」


「ならないって言いきれないじゃん。

ヒロムくんと夕弦さんが夜な夜な何かするかも……」


「な、ならないって!!

二人は心配しすぎだよ……」


「でもさっきユリナが一番慌ててたわよ」


「そ、それは……その……

突然のことだったから……」


「……別にいいよ。

迷惑とかじゃないし、それでオマエらが満足するならオレは何も言わねぇよ」


「でも……」


「それに特訓に専念したいし、こっちとしては家事を頼めるなら頼みたいしな」


「じゃ、じゃあお言葉に……」


「「お言葉に甘えさせてもらいます!!」」


恐る恐る返事をしようとしたユリナの横からリサとエリカが目を輝かせながら言った。


二人に圧倒されて最後まで言いきれなかったユリナはなぜか頭を深く下げた。


「……まあ、頼むわ」


ヒロムは少し適当な返事をすると食事をしようと席につく。


するとイシスが申し訳なさそうにヒロムに謝ってくる。


「マスター、申し訳ありません……」


「別にいいさ。

説明してなかったオレが招いたことだ」


「ですが……」


「それに特訓に専念したいってのは事実だし、気にしなくていいよ」


「……わかりました」


「……ま、とりあえずは飯だ」


「今日は夏野菜カレーにしたの」


「普通のカレーだろ?」


「夏野菜たっぷりのカレーなのよ」


「……どうでもいいよ」


ユリナたちの不満もなくなったらしく、三人とも笑顔になっていた。


その三人の姿を見るとヒロムもどこか安心してしまう。


なぜかはわからない。

だが、ヒロムは今彼女たちの存在がこれまでにはない特別な何かだということに気づいているかは定かではない……

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