レディアント・ロード1st season

竜装魂霊編

二五〇話 帰路、そして

「斬角のことを知ってどうする気だ？」

ヒロムたちが斬角……八神リクトの話をしていると真助はあくびをしながらヒロムに訊ねた。

ヒロムとしては氷堂シンクがこれまで信用して情報を手にしてきた相手である八神リクトについて知りたかった程度だったため、真助の言葉に少し考えてしまうが、少し考えた後彼の言葉に対する返事となる言葉を返した。

「……何もしないけどな」

「何？」

「いや、シンクが手にした情報は正しいのかを確かめたかっただけだしな。

リクトに何か目的があるのは確かだし、そのために姉との繋がりのある名を捨てて角王になったんなら……倒すだけだ」

「なるほど……今まで通りってことか？」

「まぁ、当然だな。

というかアイツに会った時の感じから察するにあの殺気はマジモンだったからな」

「たしかに……。

オレが初めて会った時もアイツの大将に向ける殺気は半端じゃなかったもんな……」

「だろ？

それに……今の「八神」の人体実験の流れを考えるとバッツが言うようにリクトという男はいないかもしれないからな」

ヒロムの言葉を聞いたガイたちはどこか安心した様子で、彼の言葉に対する言及はしようとしなかった。

そんな中、バッツはまとまりつつある話を買えるようにある事をヒロムたちに伝えた。

「今の「八神」はあの戦闘で甚大な被害を受けているはずだから動きたくても動けないはずだ。

リクト……いや、もはやその名で呼ぶのはやめよう。

斬角のことは忘れてまずは「竜鬼会」だ」

「そのことだが……少しいいか？」

「竜鬼会」についての話に戻そうとしたバッツに対してガイは挙手すると同時に気になっていることについていくつかの質問をした。

「とりあえず「十家」のことは蓮夜さんたちと合流してからとして……「八神」は「竜鬼会」のことをどれだけ知っているんだ？」

「オレが把握してるのは「覇王竜」って名乗るヤツが「八神」の研究者に接触してきて能力者に実験を受けさせたってことだな」

「他には知らないのか？」

「そうだな……例えばだが「迅爪竜」や「狂破竜」のような竜装術のベースとなるドラゴンについてのデータは把握してるし、その力を宿した能力者についても知っているぜ」

「じゃあバッツ。

弾馬銃哉ってヤツは知ってるか？」

「ああ、たしか「竜鬼会」の名簿にあったな。

けどそいつは実験を受けてないはずだが……それがどうかしたのかヒロム？」

ヒロムの問いに対して答えたバッツだが、バッツの言葉を聞いたヒロムたちは全員が互いにそれを聞いたことを確認するように顔を見合わせると頷き、そしてガイはある事をバッツに伝えた。

「バッツ、今ヒロムが言ったその男は……昨日ヒロムとシオン、それにノアルが倒した「竜鬼会」の竜装術の刺客だ」

「何!?

ありえない……オレが見落とした!?

そいつの竜装術のベースは!?」

「何だったけ、大将？」

「……たしか「魔弾竜」だったかな？

よく覚えてねぇけど、銃弾とか生み出す竜らしい」

「……いや、そんな竜はベースとして生み出されてねぇな。

一体どうなって……」

「……バッツ、続けて質問をするがオマエはあの一戦の日まで「八神」にいたのか？」

「ああ、オレはヒロムの精霊と同じである程度なら離れた位置まで自由に動けるから飾音を「姫神」の監視下に置きながら行動してたしな。

ほぼ「八神」にいたのは間違いない」

「てことは……」

「あの戦いから二日後、つまり昨日現れた弾馬がバッツの管理下にないってのなら……戦いの直後にヤツらは新しくつくりやがったな」

「マジかよ……」

「けど大将……。

トウマは自分の手で大将を殺そうとしてるんだろ？

なのになんでまた実験を？」

「……そうか!!」

何かに気づいたシオンはそれを確かなものにするためにバッツに対して新たな質問をした。

「バッツ、「覇王竜」はいつ完成した？」

「あの竜装術は最初に完成させたからな。

後から改修効かねぇからリミッターカットしてつくりあげた問題作だよ」

「……そうか。

なら話は見えた」

「何かわかったのかシオン？」

「ああ、ヒロム。

かなりやばいことがな。

バッツが言うように「覇王竜」が全ての竜を支配して統べる力を宿してるのならその力で新たに竜装術の力を生み出せるんじゃないのか？」

「……なるほど。

全ての竜の頂点に立つようにつくられた問題作の力を使って生み出したのならバッツでも知らないのは当然だな」

それはないな、とバッツはヒロムとシオンの言葉を否定するように言うとその理由を語った。

「人間ってのは異物混入を嫌う種族でな。

例えばだが口の中に変な物が入ったりしたら吐き出したくなるだろ？

あれと同じだよ、竜装術の力も適正とか判断してからじゃないと拒絶反応引き起こして死んじまうんだよ」

「じゃあ今の仮説は……」

「残念だがシオン、その仮説には問題点がある。

今の仮説にはオレが知らない竜装術の存在については解決するが、どうやって竜装術の力を宿したのかは解決していない」

「じゃあやっぱり……」

「生み出した方法はさておき、どの手段にしてもヤツらは「八神」の研究者に頼ってるのは間違いないな」

「……」

「……けど、それだと問題点が残ったままだよな？」

するとギンジがバッツに向けてある点を指摘するように言った。

「イクトが言ったように「八神」の当主は自分の手でヒロムを倒したいのなら、なんで実験に協力してるんだ？

拒絶反応引き起こしてしまうなら「竜鬼会」を放置してる方が「八神」としては目的の妨げが無くなる気がするけど……」

「……いや、ヤツらにはデータが必要かもしれない」

「あっ……機械天使か!!」

イクトが言うとヒロムは頷き、ギンジがバッツに指摘しようとした点を補足した。

「オレたちが甚大な被害を与えたのはヤツらの主力部隊と能力者だ。

だがヤツらの実験設備や研究所にはこれまでシンクたちが吸うど襲撃した程度でヤツらには大きな被害となってない可能性がある。

そして機械天使をさらに強くするためにはデータがいる。

そうなればデータを集める戦士が必要になる」

「まさか……」

「ああ、「八神」はあえて「竜鬼会」を踊らせている。

自分たちの手で確実にオレを殺すための力を得るためにな」

「よし、なら前みたいにオレがイクトたちと研究所を片っ端から……」

ダメだ、とヒロムはギンジの意気込みを潰すように言うと彼に向けて分かりやすく伝えた。

「おそらく今までシンクやソラたちが潜入したり破壊工作しても大事にならなかったのは親父が裏で操作していたからだ。

その後ろ盾にも近いものが無い今、同じように研究所を襲えばこっちを都合よくテロリストに仕立てあげられて終わりだ」

「えっ……それって……」

「オレらはもう、ヤツらの兵器や戦士を迎え撃つしか出来ねぇんだよ」

「で、でも……」

お待たせ、とユリナたちがヒロムたちの会話の流れを断つようにこちらにやってくる。

ユリナ、ユキナ、チカ、ユウナはそれぞれ手に鞄を持っていた。

ユリナたちがやってくるとヒロムたちはこれまで話していたことを隠すように静かになり、そしてヒロムは咳払いすると微笑みながらユリナに話しかけた。

「早かったな。

ユウナの荷物はまとまったか？」

「一応、かな……」

「ごめん、ヒロム。

ユウナってば荷物減らそうとしなくて……最終鞄八個分にしか収まらなかったわ」

「「多いな!?」」

「多いですか？

普段のお洋服に炊事用の服と掃除用の服と洗濯用の服と外行き用のお洋服と……」

「「服の分け方多いな!?」」

仕方ないな、とイクトはガイとシオンが驚く中で影を広げるとユリナたちが持つ荷物を預かると影の中へと収納していく。

「わたしの荷物が……」

「大丈夫だよ。

屋敷に着いたらちゃんと出すから」

「す、すごいですね……」

「バーゲンの時役に立ちそうね」

「えっ、オレそういう使われ方はイヤだな……」

とりあえず、とヒロムはユリナたちに向けて言うとこれからについて伝えた。

「ここからは屋敷に帰るだけ。

だけど敵が現れるかもしれない可能性だけはあるから油断はするなよ」

＊＊＊

同じ頃

ヒロムの屋敷。

「……!!」

リビングな壁にもたれ掛かるようにして立つ東雲ノアルは周囲を警戒し始めた。

いや、警戒するような状況でもないはずだ。

リビングにはヒロムの帰りを待つリサ、エリカ、エレナ、アキナ、ミサキ、ユカリ、リアナ、レナが女子会のようなものを楽しんでおり、それを近くで夕弦が見守っている。

つまりなにも警戒するようなものはない……はずなのだがノアルは何かに警戒している。

「……」

「ノアル、どうしたのです？」

ノアルの動きに気づいた夕弦が彼に声をかけると、彼はリビングの入口の方への歩いていく。

「ノアル？」

「……少し外の空気を吸ってくる」

「なら私も……」

「いや、夕弦はここで待っててくれていい。

それと……彼女たちを屋敷から出さないように頼む」

ノアルは夕弦に伝えるとリビングから出て行ってしまう。

「あれ、ノアルくんどうかしたの？」

「退屈だったのかしら？」

リビングから出ていったノアルが気になるのかリサとアキナは心配そうにするが、そんな二人の気を逸らすかのように夕弦は彼女たちに言った。

「多分軽い運動がしたくなったのよ。

彼は能力者だから、ね」

「それならいいけど……」

「きっとそうだと思うわ」

(……ノアル。

アナタが動くということは敵の気配を感じたからね。

私には感じ取れないほどの気配を感じたようだけど……無理だけはしないで)

＊＊＊

屋敷の外。

屋敷の入口から敷地内に入るための門との間にある広い庭園。

その庭園にノアルはいた。

ノアルは静かに歩みを進めながら周囲を見渡し、そしてある程度進むと足を止める。

「……出てきてやったぞ。

望み通りな」

誰かに向けて話すノアル。

すると……

「ほう……能力者は貴様だけか？」

門の前に音もなく紫色の装束の男が現れ、紫色の髪の男は不敵な笑みを浮かべながらノアルを見つめていた。

両手には包帯をこれでもかというほどに巻き、そして耳には呪詛の書かれたような札をモチーフにしたような耳飾りを付けていた。

その怪しい姿を見たノアルはすぐに理解した。

ヤツが敵であること、そしてヤツが何者なのかを。

「オマエは「竜鬼会」の能力者か？」

「ほう、見た目に反して知識はあるようだな」

「見た目とはどういう意味だ？」

「いや、こちらの話だ。

そのような貧相な格好をしているものだからてっきり頭のネジが外れてる愚か者なのかと思ってな」

「……なるほど。

貴様がオレをバカにしてるのはよく分かった」

ノアルはその身に宿す「魔人」の力を発動すると両手を黒く染め上げ、そして爪を鋭く尖らせると構えた。

「無謀にもここに来たことを後悔させてやるよ、大バカ野郎」

「……バカほどよく吠える。

オマエではオレには勝てない。

この……ムクロにはな」

「そんなのは……」

ノアルが何かを言おうとした時、彼は突然口から血を吐き出してしまう。

「!?」

何が起きたのか、彼にも分からないらしい。

が、それを見たムクロと名乗った男は笑っていた。

「さぁ、開幕だ!!

死に向かい続けるデスパレードのな!!」