表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レディアント・ロード1st season   作者: hygirl
精神干渉編
25/672

二五話 やるべき事


ソラとイクトは河川敷へとやってきていた。


ちょうど人もいない。


ここでなら特訓できる。


「さて……始めるか」


「その前に説明してくれる?」


無理やり連れてこられたイクトはソラに対して説明を求めた。


が、ソラは手に巻いた包帯を順番に外すと、鞄から拳銃を取り出す。


ソラはしばらく安静にしている必要がある。

だが、今のソラは明らかに戦おうとしている。


つまり、実戦形式での特訓がしたいらしい。

イクトは説明されることもなくそれを理解するとため息をついた。


「……言っておくけど、「炎魔」の力は使うなよ?」


「それは約束できねぇが、オマエは本気出せよ?」


「いやいや、本気って……」


影死神、とソラはイクトに対して告げる。


「影死神」

それはイクトが自身の能力を制御し、最大限に引き出すために生み出したもの。


そしてその状態で使役する影の力には触れた魔力を吸収する力がある。


影死神のことを言うということは、つまりソラはその状態の自分と戦いたいのだろう。


「特訓だったら使わなくても……

あれ疲れるし……」


「オマエのその影死神は角王を圧倒したらしいな。

だったらオレはまだ制御出来てない未完の力ではなく、純粋な戦闘力で戦えるように鍛える」


ソラの言葉を聞いたイクトはソラが何をしたいのか理解し、呆れてため息が出てしまう。


イクトが心配するまでもなくソラはあの力を使わない。

それどころか、イクトは少し舐められている。


「つまり、オレの全力にオマエは追いつくってこと?」


「ああ、そう言ってるだろうが。

オレが強くなってオマエも体力つくだろ?

一石二鳥だ」


「いや……おまえしかメリットない……

……でも。

やるとなれば簡単には負けないよ?」


「上等だ。

オレが勝って、あとで後悔させてやる」


***


ヒロムは夕弦とユリナたちを連れて屋敷へと戻っていた。


ガイたちの姿が見えないことは多少気になってはいたが、向こうは向こうで何かしてるのだろうとヒロムは詮索しなかった。


いや、そもそも詮索するとかの前に一度謝らなければならない。


ガイには先程の件で謝らなければならないが、ソラたちにも迷惑をかけたことを謝罪せねば。


屋敷に戻るなり、すぐにリビングに集まり、そこで夕弦の話を聞くことになった。


「あ……飲み物……」


変に気を使いだしたユリナは何か飲み物でも取りに行こうかとしたが、ヒロムはそんなユリナに気を使わなくていいと伝えた。


「変に気を使わなくていいよ。

ゆっくりくつろいでくれればいい。

夕弦の話聞いたらオレは作業に入るし……」


「じゃあ……

せめて夕飯の用意だけでも……」


「えっと……」


ヒロムとしてはユリナに気を使ってほしくなかったが、どうもユリナは何かやりたいらしい。


おそらく、自分が何か試そうとしているのをわかっているからこそ何か力になりたいと思ってるのだろう。


「……わかったよ。

キッチン好きに使ってくれ」


「う、うん!!」


ユリナの嬉しそうな返事を聞くとヒロムは話題を戻そうと夕弦を見た。


夕弦もそれに気づいたらしく、すぐに話し始めた。


「ちょうど私が「姫神」の家へ報告に戻った際に団長から聞いた話では近隣国の港で「世界王府」と繋がりがあると思われる「駒」のテロリストによる襲撃があったようです」


「解決はしたんだろ?」


「はい。

テロリストは数時間足らずで鎮圧しました。

が、その数日後、そのテロリストの仲間と思われる男が日本に密入国してきたと報告がありました」


夕弦の言葉にユリナたちは動揺するが、ヒロムはそのまま話を続けるように目で訴えた。


「その密入国者が団長の遭遇した「世界王府」の「駒」です。

すぐに団長が倒したようですが、情報という情報を持たなかったため、何も得られなかったようです」


「「世界王府」は何らかの目的で動いてるのか?」


「可能性は高いです」


あの、とユリナが恐る恐る夕弦に対して質問をした。


「どうしました?」


「その……「世界王府」って何ですか?」


「そこからか……」


まあ、無理もないか。

ヒロムはユリナが「世界王府」を知らないのも仕方ないと思った。


なにせユリナは「十家」のことも知らなかったし、能力者のこともあまり詳しくなかったからだ。


いや、ユリナだけではないか。

おそらくリサとエリカも詳しくないだろう。


彼女たちの日常には「十家」や能力者なんて無縁な存在だろう。


「……知りたい、よな?」


「う、うん……」


(面倒だな……)

「面倒だったら……大丈夫だよ?」


私がしますよ、と説明してほしそうなユリナに夕弦は説明すると申し出た。


夕弦の申し出にユリナは何も言わずに首を縦に振り、夕弦もそれを確認すると説明を始めた。


「「世界王府」とは世界を支配しようと目論む組織です」


「え、そんなざっくりと……」



「ええ。未だその全容が掴めてませんが、テロリストを束ねる組織として裏で暗躍し、世界中に配下のテロリストを「駒」として潜伏させていると言われています」


「「駒」って……使い捨てみたいな言い方……」


「「駒」は指示を受けてるだけで大した力もなく、阻止するのは容易です。

ですが、それを束ねる者たち、つまりは「世界王府」は一人で国一つを容易く落とせる実力を持つとも噂されています」


「ヒロムくんでも勝てないの……?」


「……不可能でしょう。

ヒロム様なら「駒」が束になっても簡単に勝てるでしょうが、「世界王府」の一人にダメージを与えるのは厳しいかと……」


ユリナは夕弦の言葉をそう簡単には信用出来なかった。

これまで自分が見てきたヒロムの戦う姿。


あの姿を知るからこそ、ヒロムの負ける姿を想像出来なかった。


いや、したくなかったのだ。

テロリストを束ねるような敵にヒロムが負ければそれは……


するとそのユリナの考えを遮るようにヒロムが口を開き、そして話し始めた。


「倒せるようになるだけだ。

そいつらのせいでトウマ倒すの邪魔されるのもゴメンだ」


ユリナの不安を感じ取ったのか、ヒロムは自分の意思をユリナや夕弦に伝える。


「そのためにも特訓をする。

「ハザード」を抑えるための術を……」


「ヒロムくん……」


「そういえば精霊さんは?」


リサは突然思い出したようで、ヒロムに尋ねる。


屋敷に戻るまではフレイやマリアはいた。

そう、ここで話が始まった頃から姿を見なくなったのだ。

辺りを見てもどこにもいない。


「ホントだ……

どこに行ったの?」


「ああ?

ああ……捜し物だよ」


「もしかしてさっき言ってたある方法と関係があるの?」


「そう、それがあれば可能性がある」


ありましたよ、とフレイが一冊の本を持ってやってくる。


フレイはヒロムのもとへ駆け寄ると手に持つ本を手渡した。


「助かる」


ヒロムは本を受け取るとすぐに開き、中身を確認し始めた。


そう時間もかからないうちにヒロムは求めていたものを見つけ、夕弦に見せる。


それが何か気になったユリナたちも覗き込み、それを確かめた。


「……「精霊憑依」?」


「ああ、今は滅多と使われることの無い戦術。

こいつを応用する」


「つまり、「ハザード」の出現とともに肉体に憑依させてフレイたちに肉体の制御を……」


そうじゃない、と夕弦の言葉を訂正するようにヒロムは話し始めた。


「フレイたちのいずれかを一人オレの体に憑依させて、オレの意識をそのまま維持した状態でオレの魔力をフレイたちに制御してもらうんだ」


「えっと……」


「「ハザード」というブレーキのない車に「精霊」という制御装置を与えるんだよ。

そうすれば「ハザード」の進行を抑えるくらいはできる……」


「ですが、前例がありません」


ヒロムの発想に疑問を抱いた夕弦はヒロムの話の途中で自分の意見を述べ始めた。


「「精霊憑依」は宿主の体に憑依し、宿主の体を精霊が自由に操ることを指します。

ですが、ヒロム様が行おうとしてるのは……」


「前例がないのはオレ自身もそうだ。

フレイたち十一人を宿してること自体が前例のないことだ。

だったら同じように前例がなくてもやれる可能性はある」


ヒロムの言葉からは強い決意にも似たやる気があった。

それを感じ取った夕弦はそれ以上の言葉を口することはなく、ただヒロムの意見を尊重した。


「……では、どうやって完成させますか?」


「とにかく戦うことを続ける。

まずは「ハザード」の感覚を覚えるところから入る」


そのために、とヒロムは夕弦に一つ頼み事をした。


「オマエと実戦形式の特訓をしたい」


「私ですか……?」


確認するように夕弦はヒロムに訊くが、ヒロムはただ頷き、そして説明した。



「ああ、強い相手でないと試せないからな。

「天獄」に参加するなら「月翔団」は忘れて専念できるだろ?」


ヒロムのその言葉に対する夕弦の返事。

それはもう夕弦にとって悩むことは無いものだ。


「わかりました。

ただし、やるからには本気で行かせていただきます」


「ああ、そうでなきゃ困る。

場所はこの地下にあるトレーニングルームを使う。

時間は30分後、遅れんなよ?」


ヒロムは夕弦の答えを聞くと場所と時間を伝えるなりフレイとともに出て行く。


「では私も準備を……」

夕弦はヒロムに続くようにリビングを後にしようとした。


が、


待ってください、とヒロムの特訓の準備に向かおうとした夕弦をユリナは引き止める。


どうしたのだろうか、と夕弦は気になり足を止め、そしてユリナの方を見た。


「どうしました?」


「あ、あの……あなたは怖くないんですか?

その……ヒロムくんが倒されるのは……」


「……」


「このままもし成功しなかったらとか……

不安にはならないんですか?」


ユリナは今思うことをすべて夕弦に伝える。


いや、不安なのだろう。


「世界王府」の存在を聞かされ、不安に思う中でヒロムは強くなればいいとは言っていたが、それでヒロムが無事で終わることはユリナにはわからない。


わからないからこそ不安なのだ。


「……」


「……大丈夫だよね?」


「そ、そうよ。

あのヒロムくんが言ってたんだから、ね?」


「でも私……」


「あなたたちがヒロム様のそばにいてくださって本当に良かった」


夕弦の言葉、それはユリナの言葉に対する返事ではない。


個人的な感想だ。


「?」


「私はヒロム様が孤独になっても最後まで力になると決めていました。

ですが、あなたたちを見ていると、その心配もなさそうです」


「えっと……」


「安心してください。

必ず成功させます。たとえわずかな確率だとしても、必ず私が完成させます」


夕弦はユリナと、そしてリサたちに伝えると頭を深く下げて一礼し、その後すぐに行こうとしたが、一つ頼み事をした。


「ヒロム様はああ見えて特訓が始まると食事を抜くことが多くなるんです。

ですから、お願いしますね?」


「は……はい!!」


***


三十分後


ヒロムの屋敷の地下に設けられた特別仕様のトレーニングルーム。


防音防熱防寒耐震などあらゆる面での耐久性を追求した仕様。


その広さはおおよそバスケが出来るほど。



ヒロムはすでにジャージに着替えて準備しており、その傍らにはフレイたちもいた。


「……来たか」


トレーニングルームの入口となる自動開閉の扉が開き、夕弦が入ってくる。


その夕弦は自身の武器でもある鋭い爪を持ったガントレットを両手に装備していた。


「お待たせしました、ヒロム様」


「いや、時間通りだ。

問題はない」


ヒロムは首を鳴らすと軽く跳び、そして夕弦を見ながら構えた。


「「月華」の隊長の力、全部出してくれよ?」


「そのつもりです。

ヒロム様のために……私はヒロム様を倒します!!」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ