二四九話 明かされる真相
これからについての方針がひとまず定まり、ヒロムたちは一度屋敷に戻ろうと決めた。
ここへ迎えに来た波神ユウナも屋敷に連れていくということもあって彼女の荷造りをユリナたちが彼女としている間、ヒロムたち男性陣は外の庭で先に待っていた。
「……ふぅ。
やっぱりこの姿の方が落ち着くな」
青年の姿に擬態していたはずのバッツは元の姿である漆黒の鎧の騎士に戻るとどこか開放感を満喫していた。
「……移動の時くらいは我慢できねぇの?」
「おいおい、イクト。
オマエの影空間があるだろ?
そこに潜んでれば大丈夫だ」
「……オレの影はタクシーじゃないんだけど?」
「そうカリカリするなよ。
ほら、さっきお姫さんたちからクッキーと紅茶を渡されてるからよ」
バッツは何の前触れも無く、どこからともなく梱包されたクッキーと携帯容器に注がれた紅茶を出すとイクトに披露するが、イクトはため息をつくとバッツに言った。
「あのさ……バッツだよな?」
「あん?
何を今更……オレの名はバッツ、オマエさんに新しく宿った精霊のバッツだぜ?」
「……オレの知るバッツと全然違う」
「無茶言うなよ。
オマエと契約したせいでオマエの性格混ざったんだからよ」
「人のせいにするのか!?」
うるさい、とヒロムはイクトを黙らせるように頭を殴るとバッツに向けて言った。
「……最初に忠告しておいたが今一度わからせる為にも言っておくぞ。
怪しい行動をとるような素振りを見せたら……」
「その時は殺す、だろ?
言われなくても分かってるさ。
オレはオマエの親父がオマエに託した夢を見届けたいだけだからな」
「……胡散臭い理由だな」
「信じるか信じないかは自由だからな。
何にせよオレは味方として動く気しかねぇよ」
「……だといいけどな」
バッツの言葉を聞いてもまだ半信半疑な気持ちを拭えないヒロムは冷たく返す。
すると……
「あっ、真助!!
思い出したぞ!!」
話題を変えるようにギンジが突然大きな声を出すなり真助にある事を問い詰める。
「さっきの「狂破竜」のところからオレ逃がす時に言ってたよな?
無事帰ったら稽古つけてくれるんだったよな?」
「ああ……あの約束か」
「まさか忘れてたとかじゃないよな?」
「ちゃんと覚えてたさ。
そうだな……」
真助は少し考えると何か思いついたのか、ギンジを見るなり笑みを浮かべて彼に伝えた。
「腕立て、復帰ん、背筋、スクワットを一万回を毎日欠かさずやるなら教えてやるよ」
「出来るか!!」
「はは……冗談だよ。
とりあえず、もう少し冷静な判断力身についたら付き合ってやるよ」
「……絶対だぞ」
分かってるさ、と真助はきギンジに向けて伝え、真助の言葉を聞いたギンジはどこか嬉しそうに笑っていた。
が……
(((コイツ絶対無理難題押し付けて逃れる気だな……)))
真助の言葉を横で聞いていたガイ、イクト、シオンは三人揃って心の中で真助に対して同じようなことを思っており、それを心の中で呟いてしまう。
そんな三人の言葉を知る由もない真助はギンジに向けてある提案をした。
「けど基礎的な分野ならヒロムの方が最適だろ?」
「いやいや、「覇王」の戦闘技術なんて無理だって!!
生身だろ!?死ぬって!!」
「まるでオレの方が簡単みたいな言いか……」
「あっ、思い出した!!」
真助の言葉を遮るようにイクトは突然叫ぶとバッツに向けて言った。
「バッツ、あの事言わなきゃ!!
「覇王竜」のこと!!」
「ん?ああ……そうだったな」
「うぉい!!
呑気だな!!」
「何の話してんだよイクト?」
慌て出すイクトにガイは話しかけ、彼の口から出た「覇王竜」について詳しく聞こうとした。
「その「覇王竜」ってのは?」
「ここに来る前にシオンとバッツと「竜鬼会」について話してたんだよ」
「シオンと合流してから話してたんだな」
「ああ……そういや話してたな」
「シオン……頼むからオマエだけはしっかりしてくれ」
「悪いな」
「ガイさん!?
その言い方だとオレ頼りないみたいな言い方になってません!?」
「そんなくだらないことはどうでもいいから話を進めろ」
「大将!?
くだらないって……」
「たしかに「覇王竜」に比べればくだらないことだな」
「ぐぬぬぬ……」
「……さっさと話せ」
ヒロムと真助のひどい扱いに納得のいかないイクトは不満を抱いた顔で二人を睨むが、そんな彼を無視するようにシオンが彼の代わりに話し始めた。
「オレとイクトはバッツから真助が倒した「狂破竜」について知ってると言われ、そしてバッツが「竜鬼会」の計画に関わっていたことを告げられた」
「……オマエも関与してたんだな、バッツ」
「まぁな。
「ハザード・チルドレン」やらのデータはオレが持ってたからな」
「……オレを殺すそうとする鬼之神麗夜に加担したってわけか」
そのはずだった、とシオンはなぜかヒロムの言葉が間違っていると言いたげな言葉を口にし、ヒロムはシオンの言葉に反論するように言い返した。
「そのはずだったって何だよ?
鬼之神麗夜が関与してた「装鬼会」のヤツらの成れの果てが「竜鬼会」だってのはオレらがヤツらを倒す上で認識してたことだろ」
「そう、オレたちはあの日オマエのもとに送られてきた鬼桜葉王からの情報と写真に獅角と一緒に写されていた鬼之神麗夜の姿を見てそうだと確信していた。
だがバッツにそれについて話してみれば話が変わったんだよ」
「何?」
「どういう……」
「なぜその男が獅角と接触していたのか、そこはオレも知らない。
だがオレの知る確実な事実は鬼之神麗夜は竜装術の量産を「八神」に依頼していない」
ちょっと待てよ、と真助は鬼之神麗夜が関与していないと言われておどろくヒロムとガイに説明するバッツに対してある疑問をぶつけた。
「鬼之神麗夜は「八神」との一戦の数日前にシンクに接触し、自身が「八神」に関与してる事と「姫神」を乗っ取ることを告白してるんだぞ?
しかもシンクが言うには鬼之神麗夜も竜装術を手にしていたようだが……」
「それは葉王がオマエらに寄越した写真とヤツと接触した氷堂シンクの情報から来てる話であって真相は定かじゃない。
ましてや獅角のヤツは秘密裏に動くことが多くてどういった理由で接触していたのかも分からない。
それに鬼之神麗夜が竜装術を人為的にか自力でかも分からないんだぞ?」
「つまり……憶測でしかないと?」
「オレがここに来るまでに聞いた話はイクトとシオンから聞いた程度だからそう返すしかないが、ハッキリ言えるのはオレが関与してた竜装術の人為的量産の実験にヤツは関与していないってことだ」
「まさかとは思うがその「覇王竜」が?」
「そう、「竜鬼会」を立ち上げて「八神」の研究者に竜装術の能力者の量産を依頼したのはその男だ。
何百という能力者を犠牲にして生み出された全ての竜を支配して統べる力を持つ竜……つまり、竜装術の頂点に君臨するようにつくられた竜装術だ」
「全ての竜を……」
「統べる力……」
バッツの口から語られた「覇王竜」についての情報。
それを聞いた真助とガイは未知なるその力に驚きを感じていたが、ヒロムだけは冷静だった。
そしてヒロムはバッツに確認するようにある事を訊ねた。
「……バッツ、一つ聞きたいことがある」
「なんだ?
「竜鬼会」か?それとも竜装術のことか?」
「いや、どっちでもない。
斬角……八神リクトのことだ。
アイツはシンクの協力者で「八神」の情報を漏らしてたらしいが、アイツの情報は正しいのか?」
「リクトの情報……それは信用していい。
信用に値するだけの価値はあるはずだからな」
「でもそのリクトって大将の命を狙ってたよな?」
「ああ、ヒロムとトウマの護衛につくはずだったことに苛立ち、何よりヒロムの下につくなんて可能性が少しでも浮上していた時期が強い恨みになってたし……内通者には思えないんだよな」
「リクトは内心ではヒロムのことを認めていた」
バッツの口から出た言葉にヒロムたちは意外性を突かれて何も言えず、そんな彼らにバッツはリクトの事をさらに話した。
「リクトがシンクに情報を漏らしていたのは飾音が「八神」の黒幕としてバレないようにするためでもあったが、それ以上にアイツはヒロムの可能性を殺すことに抵抗があったんだ」
「……その口振りだとアイツも親父が先代当主を殺したことを知ってたんだな?」
「いや、そこは知らないはずだ。
知ってるとすれば飾音とオレが繋がっていて、裏で「八神」に出入りしてるってことくらいだけどな」
「で、あんなに大将のことを嫌っていたのになんで可能性を殺すことに抵抗感じてたとか分かんのさ?」
「それはなイクト……アイツ自身がヒロムの力の凄さを理解してるからさ」
「?」
「アイツの姉……八神ホタルはヒロムと同じで生まれた時から精霊を宿していた」
「アイツに姉がいたのか!?」
「そういやいたな……」
「ヒロムは……知ってたみたいだな」
「……会ったことはねぇよ」
「でも知ってるんだろ?
なんでなんだよ大将?」
「……葬儀に出たからだよ」
「「!?」」
「リクトの姉……ホタルさんは聞いた話じゃ三人の精霊を宿していたらしい。
けどその精霊の影響で精神は崩壊しつつあり、オレが四歳でリクトが九歳の時……ホタルさんは十三歳という若さで精神の崩壊とともにこの世を去ったんだ」
「そんな……!!」
「だから会ったことは無いし、リクトからも詳しく聞いたこともない」
「……リクトはホタルを追い詰めた精霊に憎しみを抱く中で十一人を宿していながらも何事もなく強く生きるヒロムの姿に才能を感じさせられたんだ。
姉が精神を削りながらも成せなかった事をより多くの数を宿しながら成している。
実力が物を言う世界にある「八神」に生きるリクトにとっては姉を超えたヒロムは自分より優れていると理解したんだ」
「けど大将は……」
「……そう、何もないわけないんだ。
ヒロムは飾音のせいで「無能」の烙印を押されて精神を病み、「八神」との縁は切られた。
周囲の大人がヒロムのことを見下し、蹴落とそうとする中でリクトは遠くから姉が出来なかったことを実現してくれると望みを託そうとしていた。
だがリクトは……拳角と戦ったヒロムを見た後、その望みを捨てた」
「……「ハザード」か」
「ああ、精神干渉汚染……当時はそう判断されていたそれにヒロムが発症していると分かったリクトは姉が辿った末路を思い出し、ヒロムに見出した望みを捨てて敵として倒そうと決意して斬角となった」
「……」
「だがアイツはそれでもシンクに情報を流した。
飾音の本性を隠すためでもあるが、心の中では僅かな希望をヒロムに抱いていた」
「?」
「……飾音とオレ、そして今の「八神」によって能力者や人を利用した実験が行われ、「ハザード・スピリット」や「ネガ・ハザード」が生み出された。
リクトはホタルやヒロムが宿す精霊を人の命を弄んでまで生み出す計画を進めてでも強くなろうとする「八神」と今のトウマの姿に耐えれなくなっているんだよ」
「……つまり、半分はオマエのせいで「八神」に対して反感抱いてるってわけか」
「そういうことだな。
だからこそアイツはシンクに情報を流し続け、そうすることでホタルと同じように精霊を宿すヒロムを守りたかったのかもしれないな……」
それで、とシオンはバッツに対して簡単な質問をした。
「そのリクトってのは今何してる?」
「さぁな。
オレが消滅した後のことは分からねぇよ」
「けど……バッツのおかげで分かったことがある」
「ヒロム、それはなんだ?」
「親父がしたことは間違っていて、それに巻き込まれたリクトは必死に抗おうとしている。
だからこそシンクに情報を渡してオレたちに知らせてくれていた」
「……だがそれは決戦の前までだ。
あの時から変わってる可能性もある」
だから、とバッツはヒロムに向けて忠告するように告げる。
「次に会う時はどちらかが死ぬまで終わらないと覚悟した方がいい」
「……分かってる」
***
「八神」
別荘。
山奥にある別荘。
そこに八神トウマはいた。
傷だらけの体には包帯が巻かれ、身に纏う衣類も戦闘でもしていたかのようにボロボロだった。
何より不思議だったのは彼の黒い髪の一部が紫色に変化していることだ。
理由は分からないが、黒から完全に紫色に変化している。
そしてその瞳もどこか冷たく、殺意に満ちていた。
「……まだ足りない。
こんなんじゃまだ足りない」
まだまだだ、とトウマは全身に魔力を纏うなり大きな声で叫び、そして周囲の木を次々になぎ倒していく。
怒りに身を任せ、まるで八つ当たりをするかのように次から次になぎ倒していく。
「こんなんじゃ足りない……!!
これまでの全ての成果を否定された!!
あんな他人の力に頼らなければ何も出来ない出来損ないに!!
一人じゃ生きることも出来なかった役たたずの凡人に!!
オレのチカラの全てが否定された!!」
トウマは強く叫ぶ中でさらに魔力を強くし、そしてはるか遠くの景色を睨みつけるように見ながらつぶやく。
「……オマエを殺して認めてさせてやる。
オマエなんかよりオレが強く、特別で優れていることを!!」
「……トウマ様」
怒りに荒れるトウマのもとへ一人の男が現れる。
その男を見るなりトウマは魔力を消すと冷静さを取り戻し、そして男に向けて一言告げた。
「ヤツらの動きを教えろ」
「……現在ヤツらは「竜鬼会」の能力者を五人倒しています。
おそらくこのままでは……」
「そうか、分かった。
「四条」の所に行く、ついてこい……斬角」
「……了解」
トウマに言われると男は……斬角はただ一言返事をして彼についていく。
斬角の表情には感情と呼べるようなものはなく、バッツが語っていたようなものは感じ取れない。
まるでマシーンのようだった。
「……」
(ヒロム……。
今のオマエは……トウマ様のためにも死んでもらう!!)




