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レディアント・ロード1st season   作者: hygirl
竜装魂霊編
248/672

二四八話 精神の深層


「精神世界の奥底にあるとされる極地と呼ばれる世界……」


「精神の深層……」


バッツの口から出た「精神の深層」という言葉、それを聞いたガイたちは全容の分からないその話に少し戸惑っていた。


唯一、ヒロムだけはバッツの話を聞いても戸惑う様子もなく、逆に彼の話を聞こうとしていたのだ。


「それは何なんだ?

大層な名前してるが……オマエの前の主も試したのか?」


バッツから詳細を聞こうとするヒロム。

その際、バッツの前の宿主である父・飾音の名をあえて伏せる形で問うていた。


ヒロムが飾音の名を伏せて質問した理由、ガイはその理由にすぐに気づいた。


「……」

(飾音さんの名前……ここでその名前を出せばさすがのユリナたちも気づくかもしれないよな。

飾音さんが……ヒロムに対して「無能」の烙印を押させた全ての元凶であることが)


「どうかしたのか、ガイ?」


ガイが何か考えてると思ったのか真助が声をかける。


「あ、いや……精神世界ってのが想像出来ないからすこし考えてたんだよ」


「ふーん……まぁ、それもそうだな」

(誤魔化すの下手だな。

どうせユリナのこと考えてたんだろうけど……)


ガイの言葉の裏に隠れたものを見抜いた真助はあえてそれを追求せずに流すとバッツの話を聞こうとした。


「で、バッツ。

ヒロムの質問に答えろよ」


「……そうだな。

たしかにアイツも試そうとした。

ヒロム、オマエのその精霊を超える力を得るためにな」


「……それは成功したのか?」


まさか、とバッツはヒロムの問いに対して鼻で笑うと前の主である飾音が試したことについて詳しく話した。


「二年前、アイツは精神世界の先にあるとされる精神の深層についての史実を「八神」の書庫から見つけた。

それを読んでアイツは試みたが……結果は失敗に終わった」


「失敗、か……」


「まぁ、当然の結果なんだけどな。

ただの史実に記された内容を鵜呑みにして実行するなんてのが間違いだ」


「……オレと同じか」


ヒロムはバッツの話を聞いているうちに過去の自分を思い出していた。


五歳の頃に「無能」の烙印を押され、それに抗うようにもがくようにあらゆる手段を調べて試していた。


あるはずのない力を証明しようとした幼き日の悲しき出来事……それをヒロムは思い出していた。


幼き日の出来事を思い出していたヒロムに対してバッツは飾音が試そうとしたことについて続きを話した。


「その本によれば精霊との強い繋がりを持ち、強き力と魔力を持つ者がある極地に達することで世界は広がり、精神の奥底にあるとされる世界に誘われると書かれていた。

力を求めるオレと前の主の繋がりは強く、アイツの力と魔力はオマエたちも知っての通り申し分無しの一級品だった」


「そうだな……」


「たしかに、な……」


シオンと真助は「八神」との一戦で見た飾音の力を思い出し、あの圧倒的な強さを思い出すだけで自分の無力さを再び痛感してしまう。


二人だけでない。

ガイとイクトも同じように思い出していた。


飾音の圧倒的な力を前に為す術もなく倒れ、仕えるべく王を闇に支配されるという失態を引き起こした。


「一条」の介入がなければ戦局は不利なままであり、闇に支配されたヒロムを取り戻すことも無理だった。


そして闇から解放されたヒロムは自分の体を精霊へと変化させる代償を払いながら限界を超える力を発動して何とか勝利した。


そう、全ての面で振り返ってもあの戦いで飾音の強さに苦戦させられ、一方的な戦いを強いられていたのだ。


実力の差、まさしくそれを強く痛感させられた戦いだった。


圧倒的な強さを痛感させてきた飾音が力を持ってしてもダメだったと聞いたヒロムをすこし不思議に思ったのか眉間にシワをあ寄せるように険しい顔をしていた。


そしてその表情のままヒロムはバッツに問うように質問した。


「あの男ほどの実力があっても到達出来なかったのか?」


「そのようだな……二年前とは言ってもオレの目測ではパーティーの会場でオマエらをボコボコにした時のオレよりは強かったからなぁ」


「やり方が間違ってたのか?」


「次から次に質問するなよ。

やり取り……というよりは根本的な問題があったのかもな」


バッツは先ほど手に取った紅茶を飲もうとするが、ふと自分が仮面をつけていることを思い出したのかため息をついてしまう。


いや、そもそもここに来てからずっと漆黒の鎧に仮面をつけた姿だったのに忘れるのかとヒロムたちは少し疑問に思っていた。


「……せっかくレディーの用意してくれたお茶もこの姿じゃ飲めないな」


「いや、オマエはずっとそんなんだろ?」


「主人も変わってやれることも増えたからな。

一つ披露してやるか」


持ってろ、とバッツはイクトに紅茶のカップを強引にもたせると指を鳴らした。


バッツが指を鳴らすと彼の体は突然魔力に包まれ、そして気づけば漆黒の鎧が魔力と同化する形で消え、中から黒色の髪の青年が姿を現す。


金色の瞳をし、少し逆だったような髪型の青年はイクトから紅茶のカップを取ると味わうように飲み始めた。


「……これはこれは。

いい味だな」


「は?」


「え?」


「うそ……?」


「「「はぁぁぁあ!?」」」


バッツの容姿の変化にヒロムたちはもちろん、ユリナたちも驚き、その場にいた全員が声を揃えて信じられないと驚いてしまう。


「え、ええ!?」


「う、うそだろ!?」


「マジかよ……」


「精霊って……すげぇな」


バッツの姿を何度も確認するように何度も見るガイとギンジは理解が追いついていないらしく混乱しており、シオンと真助に関しては驚きすぎて言葉を失っていた。


「ば、バッツ!?

その姿は何だ!?

まさか誰かから……」


「人聞きの悪いことを言うなよマスターさんよ」


未だに信じられないイクトは真相を確かめようと質問しようとしたが、その言葉を遮るようにバッツは言うとカップをテーブルに置くと今度はクッキーを手に取って食べ始めた。


「元々オレには擬態能力がある。

それがこれだよ」


「……じゃあオマエがパーティー会場で見せたあの姿はオレやフレイたちの力を吸収して新しい肉体を得たのではなく、その擬態能力で変化してただけなのか?」


「Excellent!!

さすがヒロムだ。

あの時のもこれだが、あっちの演出の方が絶望感あったろ?」


「くだらない……。

話戻せ」


「……仕方ねぇな。

どこまで話したっけ?」


「……オマエ、イクトと契約したせいでアイツの性格混ざってるだろ?」


「おいおい、それは厄介だな」


「バッツ!?

マスターのオレを前にしてそれ酷くないか!?」


冗談だよ、とバッツはイクトに向けて笑いながら言うとヒロムに向けて先程まで話していた続きを話した。


「根本的な問題についてだったな。

それについて話す前に……ヒロム、オマエの意見を聞こうか」


「……オレはオマエの話を聞きたいんだ。

逸らすなよ」


「大事なことさ。

これはな」


「……」


多くを言わず必要な言葉だけを告げてくるバッツ。

それを聞いたヒロムはそれ以上反論する余地がないとでも思ったらしく、ゆっくりと口を開けるとバッツの話を聞いた上での自身の考えを述べた。


「……オマエの話を聞いてまず浮かんだのは力の本質だ。

その精神の深層とやらがどういう所なのかは分からないが、ただ強いとか力があるとかで到達出来るようなものなら都市伝説のように語られることもないだろうからな」


「なるほど、一理あるな」


「それと……これを言う前に確認しておくか。

バッツ、あの男はどうやって精神世界を知った?」


ヒロムのバッツへの質問、それを聞いたバッツが答えるよりも前にギンジがなぜか横から口を挟んできた。


「そもそも精神世界って何なんだ?」


「……オマエ、バカなのか?

今聞く必要あるか?」


「バカって言ったなヒロム!!

大体、ここにいる美人さんたちも気になって……」


「私は後で聞こうかなって……」


「私も。

ヒロムの話が終わってから聞こうとしてたわ」


「私たちもですよね、ユウナ?」


「そうですね」


「……ええ!?

気になってたのオレだけ!?」


ユリナたちの意外な反応に驚くギンジだが、そんなギンジに呆れてヒロムはため息をつくと彼とユリナたち……そしてガイたちにも解説するように説明をした。


「精神世界ってのはその言葉通、人の精神の中に内在する世界のことだ。

一般的には夢の世界や仮想の世界などと呼ばれてるくらいに認識されてないことが多く、普通なら認識せずに人生が終わる。

つまり、存在そのものが幻想とされる世界だ」


「……よく分かんねぇな」


「……やっぱバカじゃねぇか」


「なっ……またバカって……」


要するに、と真助はギンジの口を手で押さえる形で言葉を遮るとヒロムの説明を彼にも分かるように言い直した。


「本来なら人が知ることの無い未知の世界、ってことだ」


「……ふぁふほほ(なるほど)」


「それをバッツの前の主がどうやって認識したかがバッツの言う根本的な問題なのか?」


「……真助に少し言われたが、その通りだろうな。

オレは生まれた時からフレイたちを宿し、フレイたちのことを認知していた。

そして精神世界についても「無能」と呼ばれるよりかなり前から認知していた。

おそらくそこが問題なんだと思うんだが……バッツ」


「あの男はオレを宿してからだから……少なくとも今のオマエらと変わらない歳くらいだな」


「……そうか」


「何かわかったのか?」


いや、もヒロムはガイの言葉をに対して軽く返すと続けてこう言った。


「今言えることはおそらく精神世界との密接な関係を築いてきたという月日とその中で生まれたとされる特別な何かが揃わないとダメなんじゃないかってことだ。

精神世界に到達することすら困難なことなのにその上を行くとなるとさらなる困難を要求されるだろうからな」


「その特別な何かってのは何なんだ?」


「それが分かれば苦労しねぇよ。

けどハッキリ言えるのは……その鍵を握るのは精神世界にしかないってことだな」


「精神世界に?」


「……なぁ、バッツ」


するとヒロムは何か気になることがあるのかバッツに更なる質問をした。


「その本って今どこにある?」


「あの男がイライラしながら焼き捨てたよ。

だから無い」


「そうか……それなら、いい。

もうここからはオレのカンでやるしかない」


「でもヒロムくん。

簡単に出来ないことなのに、その本がないんだったら……」


「多分、その本も問題の一つなんだよユリナ」


「え?」


「ちょっと待て、大将。

なんでその本が間違ってるって分かるのさ?」


「本の記述はあってるだろうな。

そうやって形に残るくらいなんだし」


「じゃあ、なんで……」


「精神世界がその本の通りの世界なら、な」


ヒロムの言葉を聞いてもピンとこないイクトは首を傾げるが、ガイは何かわかったらしくそれを確かめようとヒロムに向けて言った。


「精神世界は人の精神を形にした世界なら同じものは存在するはずがない……!!」


「そういう事だ。

その本ってのは精神の深層について後世に残すためのものだとすれば合点がいく」


「なら次にやることは……」


決まってる、とヒロムはユウナとチカが運んできた紅茶を飲むと全員に向けて告げた。


「まずは屋敷に戻る。

全てはその後だ」

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