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レディアント・ロード1st season   作者: hygirl
竜装魂霊編
244/672

二四四話 言葉じゃ足りない


バッツと契りを交わしたイクトがシオンと合流し、真助に言われて戦場を離れたギンジがガイと合流、そして真助がアギトを倒して獅童に対して彼の身柄を渡した頃……



姫野ユリナや美神ユキナ、羽咲チカを連れて人を迎えにその人物がいる屋敷に来ているヒロムは呑気にソファーに座りながら目を閉じていた。


ユリナとチカは楽しそうに用意された紅茶やクッキーをいただく中、ユキナだけはヒロムに視線を向けながらじっと見つめていた、


「……」


「……」


「……」


「……そんなに見て何か用か?」


少しの沈黙の後、ヒロムはゆっくりと目を開けるとユキナに何か用があるのか問う。


が、ユキナは頬杖をつきながら彼を見つめたままで答えようとしない。


「……どうしたんだ?」


「うーん……心配してるのかなって思って見てたの」


「また勝手に人の思考を読もうとしたのか?」


「そっ。

ユリナ直伝のヒロムの表情と雰囲気から言い当てる技よ」


「……個人情報保護もクソもない技だな。

で、何を考えてるか分かったのか?」


ユキナの言葉に多少呆れながらヒロムが訊くとユキナはなぜか面白そうに微笑みながら彼に言った。


「何も考えてなかったでしょ?

表情も変化なかったし、何も感じとれなかったよ」


「……正解だ。

人は時には無心になる時間も必要だからな」


そうかしら、とユキナはヒロムに寄り添うと彼の体を右手の人差し指で優しく撫でる。


「無心になるくらいなら構って欲しいんだけど……ダメ?」


「おいおい……冗談だろ?」


「本気よ?

アナタのためなら何でもするわよ?

例えば……服脱いで四つん這いになれって言われてもやるわ」


「……やらなくていいからな?」


「そうね、やらないわ。

私の話聞いたアナタが頭の中で必死に嫌がってるのが読めたからやらない」


「どんな理由だよ……」


でも、とユキナはヒロムの顔をじっと見つめながらどこか甘えるような声で彼に伝えた。


「私のことどう思ってるかは教えてほしいな」


「……」


「……何で黙るの?」


「……いや。

オマエがそういう事言うのは珍しいと思ったからちょっと驚いてただけだ」


「ふーん……。

答えてはくれるの?」


どうかな、とヒロムはため息混じりに呟くとユキナから目線を逸らそうとしたが、それに勘づいたユキナは逃がさぬように両手でヒロムの顔を押さえた。


「ゆ、ユキナ……。

離せ」


「じゃあ答えて。

私のことどう思ってるの?」


「……答えて欲しいなら先に教えろ。

なんで急にそんな事聞くんだよ?」


「……そんなこと、か」


「あ?」


ヒロムの質問を耳にしたユキナはどこか落ち込んだようなトーンで呟くと彼の顔から手を離し、そしてため息をつくと楽しそうにしているユリナやチカに視線を向けながらヒロムに話した。


「私は気づいた時には昔から家の事とかでヒロムと会ってたし、ヒロムのことをその時から知ってた。

家が遠いから頻繁には会えなくても誕生日とかの時は会ってたし、親同士が何かするってなるとついて行って会ってたし……」


「まぁ、幼馴染み的なやつだな」


「中学の時、私はアナタの婚約者の一人に選ばれた。

アキナやレナ、それにチカたちも選ばれてたけど大して気にしてなかったわ」


「そういやあの時言ってたな。

「アナタとの関係が変わってもアナタへの気持ちは何も変わらない」って」


「覚えてたのね……」


まぁな、とヒロムが一言言うとユキナは自身が過去に言った言葉を思い出して顔を赤くしてしまう。


ヒロムに対して伝えた言葉、その言葉とは裏腹に今の彼女は何かを抱いている。


そう感じたヒロムはユキナの手に自分の手を添えると優しく質問した。


「オレのことを変わらず想ってくれてると思ったけど、違うのか?」


「……嫉妬かな」


「何に?」


「私たちはヒロムの心の支えもなれるように選ばれた。

あの共同生活を終えたアナタは始める前よりも表情が柔らかくなって私としては嬉しかった」


「でも何かに嫉妬してるんだろ?」


「……ユリナに、ね」


ユキナはチカと楽しそうにしているユリナのことをどこか羨ましそうな瞳で見ており、彼女に視線を向けたままヒロムに今の思いを伝えた。


「私やみんなであの生活を過ごしてもヒロムの変化は少しだけだった。

けど……久しぶりにヒロムと会った時、今まで見たことの無いような表情をしてユリナたちと接しているアナタを見た時に思ったの。

あの子には……ユリナにはきっとヒロムの苦しみを安らぐ力があるんだなって。

でないとアナタが私の言葉を覚えてるはずないし、私が自分のことを愛してるなんて口にしないでしょ?」


「……そういうことか」


ユキナの悩み、それを聞いたヒロムは彼女が何に悩んでるかを理解し、それと同時に呆れてもいた。


「ユリナには大した力なんてないよ。

毎度毎度オレのわがままに振り回されて、挙句の果てには泣いてたくらいだ」


「……話だけ聞くと何したか気になるわね」


「何もしてなかった。

ユリナの想いに応えることもせずにオレはオレが正しいと思ったことを押しつけていた……それだけのことだ」


「ふーん……」


「つうか、オマエが気にすることじゃないだろ?

オマエは今まで通りしてればいいだけだし、ユリナも別にその辺気にしてないだろうしな」


そうじゃなくて、とユキナはヒロムが添えた手をどけると彼に抱きつくかのように顔を近づける。


ユキナの顔が近づいたことでヒロムは咄嗟に後ろに仰け反るように避けようとしてしまうが、彼女はそんなことなど気にすることなく話し始めた。


「私が言いたいのは、その……昔と違って変わってきたヒロムがどうしたいのかを聞きたかったの。

あの子と接してることでそういう風に変われた今はどうなりたいのか……それを聞きたかったの」


「……論点ズレてないか?

オマエの嫉妬云々はどこにいったんだよ」


「き、気にしなくていいから。

どうなの?」


「……さぁな。

そんなのはこれから決めればいいことだろ」


話題を強引に変えるようにしてヒロムに向けられたユキナの質問。


その質問に対する回答をヒロムはどこか適当な言葉で済ませると、話題を戻そうとした。


「オレはただこれまで「八神」だのトウマだのを倒したいってことに囚われてたから一から考えを見直しただけだ。

ユリナやユキナがオレのことを気にかけてくれてるのなら、その気持ちを無駄にすることだけはしたくない。

ただそれだけだから」


「……話戻そうとしてる?」


「ああ、ユリナに嫉妬してるユキナが可愛く思えたからな。

まぁ、ユリナにはない魅力がユキナにはあるんだから気にするなって」


「……可愛いと思うならさ、証明してよ」


するとユキナがさらに近づこうとヒロムの上に乗りかかるような体勢になりながら顔を近づけていく。


「おい……ユキナ?」


「言葉だけじゃなくて形で証明してほしいの。

だから……」


頬を赤くしながらヒロムに急接近するユキナ、そして彼女の唇がヒロムの唇に向かって迫っていた。


「さ、さすがにこれは……」


どうにかしなければと思うヒロムだが、今のユキナはどうにかしたところで止まりそうにもない。


このままではまずい、そう思った時だった。


「何してるのかな?」


いつからそこにいたのか、ユリナが頬を膨らましながらヒロムとユキナのそばに来てじっと視線を向けていた。


そのユリナに気づいたのかユキナは止まり、ヒロムは止まったユキナを自分から離れさせると恐る恐るユリナに目を向けた。


「え、えっと……」


「何してたのかな、ヒロムくん?」


「あ、あれはその……ユキナが……」


「何を証明しようとしてたの?」


「えっと……だな……」


屈託のない笑みを浮かべながらヒロムに対して質問をするユリナだが、その笑顔の裏から滲み出てくる別の強い力の圧を感じたヒロムは言葉に迷ってしまう。


(ヤバいな……。

ありのままを話せば済む話だけど、それで無事終わると思えない。

かといって適当に誤魔化そうとしてもユキナが事実を言えば元も子もない。

……ヤバい、完全にヤバい)


「あの、だな……」


「私のことが好きか試そうとしてたの」


言葉に迷うヒロムの代わりに答えるようにユキナがユリナに説明を始めた。


「ヒロムくんがユキナを?」


「ええ、ヒロムも昔と比べて感情が豊かになりつつあるから、からかうつもりでキスでもしようとしたのよ」


「き、キス!?」


「あと少しだったけどユリナに邪魔されたから出来なかったじゃない。

少しショックよ」


「あ、えっと……。

好きかどうか言葉にしてもらうのはダメだったの?」


「それだと誤魔化される可能性があるでしょ?

だから行動か形にしてもらおうとしたのよ」


「な、なるほど……。

でもそういうのはちゃんと考えてから場所も選んでやらなきゃダメだよ」


ユキナの一方的な主張に押されつつあるユリナは話を途中で終わらせようとするかのように返事を返すと彼女に注意をして話を終わらせ、そしてヒロムに向けても注意をした。


「ヒロムくんもだよ。

ちゃんとダメなことはダメって言わなきゃだよ?」


「お、おう……」

(それが言える状況じゃなかったから困ってたんだけどな……)


「……じゃあユリナでいいや」


するとユキナがユリナに接近すると何の躊躇いもなく抱きついたのだ。


「ええ!?」


突然の事で困惑するユリナ、そんなユリナの反応を楽しむかのようにユキナは彼女に抱きついたまま甘え始めた。


「ユリナは私のこと好き?」


「え、あ、あの……」


「お、し、え、て」


「ヒロムくん〜……」


助けを求めるようにヒロムに視線を向けるユリナだが、ヒロムは静かに目線を逸らすとチカの方を見ながら話し始めた。


「そういやアイツ遅くないか?」


「ヒロムくん!?」


「きっとヒロム様に会うのに緊張されてるのではないですか?」


助けを求めたのにスルーされて戸惑うユリナのことなど気にすることなくチカはヒロムに言い、それを聞いたヒロムは小さくため息をつくと紅茶の入ったティーカップを手に取った。


「ここに案内した使用人の姿も見えないが……ユウナのやつは本当にいるのか?」


「そういえば遅いわね。

人を待たせるような子じゃないのに」


「そうだよな……」


ユリナを抱きしめたままのユキナがヒロムの言葉に反応し、ヒロムとユキナは首を傾げながら考えていた。


そんな時だった。


「お待たせしました!!」


ヒロムたちのもとへと一人の少女が慌ててやって来て、ヒロムとユキナはその少女の方に視線を向け、ユリナも視線をそちらに向けた。


長い青髪を後ろで一つに束ねるように結んでいる水色の瞳の少女。


白のリブ生地のシャツに黒のロングスカートに身を包んだ彼女はヒロムたちの方を見るとにっこりと微笑んだ。


「遅くなりました。

その……衣装に悩んでしまいまして……」


「相変わらず気にし過ぎなんだよ」


「ヒロムの言う通りね」


「ねぇ、ユキナ。

この人が今日迎えに来た人?」


ユキナに抱きつかれたままのユリナは少女について訊ねるように言うと、ユキナは少女について説明した。


「あの子はユウナ……波神ユウナ。

私やチカと同じ婚約者で……少しだけ変わってる子よ」


「変わってる……?

ユキナより?」


「どういう意味かしら?」


ユリナの言葉に不満を持ったユキナは彼女の頬をぷにぷにし、それを見たヒロムはため息をつくとユリナに少女……波神ユウナについて説明した。


「ユウナは変わってるというよりは優しすぎるだけだよ。

ユリナと同じくらいにな」


「?

褒めてるの?」


「さぁな」


「ヒロムさん、お久しぶりです。

あっ、紅茶のおかわりいりますか?」


「ああ、もらお……」


失礼します、と使用人の男が入ってくるなりヒロムに用件を伝えた。


「先程、雨月ガイと名乗られる方とそのお連れの方が来られました。

こちらにお連れしても?」


「そういうのってこの家の住人のユウナに聞けよ……。

まぁ、入れていいけどさ」


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