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レディアント・ロード1st season   作者: hygirl
竜装魂霊編
242/672

二四二話 妖しく狂わしく

……「八神」との一戦の前夜。


「真助、少しいいか?」


明日の戦いに備えて霊刀「號嵐」の手入れをしている真助のもとにガイがやってくると声をかけてくる。


小太刀の手入れをしている真助は別段嫌な顔をすることも無く、彼の呼びかけに反応した。


「どうかしたのか?」


「真助に渡しておきたいものがあってな」


「渡しておきたいもの?

まさかお嬢様方がヒロムに渡したみたいにお守りとかじゃねぇよな?」


「……言い方次第ではお守り代わりになるかもな」


「?」


「まぁ、見ればわかるさ」


何かあるようなガイの言い方に不思議そうな顔を見せる真助に対してガイは四つ折りにされたハンカチを手渡した。


ガイからそれを受け取った真助だが、受け取ったハンカチの感触にある違和感を感じていた。


「何か固いのがあるな……。

何か入れてるだろ?」


「そりゃ触れば分かるだろ。

中身を見てから言ってくれよ」


「中身ね……」


ガイに言われて真助はゆっくりとハンカチを広げていく。


そして広げられたハンカチから何かの欠片が入っていた。


どこか妖しい光を薄らと放ち、欠片の一部は無数の傷が入っていた。


それを見て何かわからない真助はため息をつくとガイに言った。


「ガイ……せめてお守り代わりになるとか言うならこんなゴミじゃなくてまともな物くれないか?」


「ゴミ?

それはある刀の欠片なんだけどな」


「刀の?

なら余計にゴミじゃ……」


ある刀の欠片、ガイが真助に伝えたその言葉によって真助の中である物が脳裏に浮上したらしく、真助はガイから受け取った欠片をよく見た。


薄らと妖しく光り、そして無数の傷を持つそれをよく見ると刀の欠片と言われたからこそ気づけたものがある。


「これは……」


真助が気づいたもの、それはその欠片のある一部分がひどくガタついてたように欠けているのだ。


「刃こぼれ……?」


刀の欠片と言われたからこそ気づけたものであり、それを聞いたからこそたどり着いた答え。


それらと欠片を重ね合わせた時、真助の中でこれが何の刀の欠片なのかの答えが導き出された。


「まさかこれは……」


「そう、それは愛華さんの誕生日パーティーの時にバッツに破壊された妖刀「血海」の欠片の一つだ」


「驚いたな。

破壊されて無くなったと思っていたが……」


冷静な口振りとは裏腹にどこか嬉しそうに笑みを浮かべる真助だが、この欠片を渡される意味が未だにわからなかった。


「欠片があったのはいいが、これをどうしろって言うんだ?

欠片だけでも「血海」の妖刀の力は使えるかもしないが、使えたとしても大した力にはならないぞ」


「万が一の時に使うといいさ」


どうやってだ、と真助は欠片を使えと言うガイに質問すると、ガイは妖刀についてある話を始めた。


「妖刀には霊刀や魔剣のようにある種の意思が宿る。

その宿る意思は他の二つのそれより強く、その強い意思が存在するからこそ妖刀は使用者を選び、より強い使い手に持たれる」


「それは知ってるさ。

けどだからって……」


「そして妖刀には他の二つにはない点がある。

それはその刀の誕生の経緯だ。

霊刀や魔剣は目的や用途など明確なものがある場合が多く、オレの霊刀も真助が今使う霊刀もそれぞれに真価を発揮する目的がある」


「けど妖刀はその場にあった刀に偶然力が宿ったり、刀に意思が宿ることで新たな形と力を得て完成するものが多いんだろ?」


「そう、だからその欠片を渡したんだ」


「オマエ……まさか、だよな?」


ガイが何を考えて妖刀「血海」の欠片を自分に渡したのか、それについて気づいた真助は驚きを隠せずにガイに真意を確かめようと自分の至った答えを彼に伝えた。


「まさかこの欠片を使って新しい妖刀を作れって言うのか?」


「ああ、そのまさかだよ。

さすが妖刀使いだっただけあって答えにたどり着くのが早いな」


「待て待て、ちょっと待てガイ。

作ろうとして作れるものでもないだろ」


「いや、妖刀には修復方法がある」


「それは知ってるさ。

他者の命と引き換えに新たな形を得る。

けどそれは……」


「いや、他にもある。

新たな形と力を得て進化する方がな」


「新たな形と力を……?」


するとガイは真助を指差しながらその方法を伝えた。


「たしかにオマエの言うように他に方法は無いかもしれない。

けど壊れる前の妖刀「血海」はオマエの血を大きく与えられ、オマエの力を多く受けてきた刀だ。

もしそれに妖刀の意思があるのなら……オマエの力を合わせて生まれ変わることが出来るかもしれない」


「オレの力を……」


「確率の低い話かもしれない。

けどだからって諦めることはないはずだ。

霊刀「號嵐」とともにオマエの力となる新たな刀……その一つはオマエの自身が生み出すべきだ」


「……そうか」


分かったよ、と真助はため息をつくと妖刀の欠片をハンカチで包み直すとポケットの中へと入れる。


そして真助はガイの語る新たな妖刀について話した。


「オマエの提案は頭の片隅にでも入れておく。

ただ……こいつに頼るのは打つ手が無くなった時の奥の手としてだ」


「いいのか?

それを奥の手にしても」


「言い出したのはオマエだろ?

まぁ……運に身を任せるようなことだが試す価値はあるかもな。

ヒロムのためにも……約束の為にも」


「約束?

何の話だ?」


「大したことじゃないさ。

オレの中にある……生きる理由さ」


真助はふと羽咲チカの言葉を思い出す。


『真助様は私にただいまを言うためにここに帰ってきてください』


彼女の言葉を思い出した真助は無意識に笑みを浮かべてしまう。


「おかしな話だよな」

(戦闘狂が帰る場所を得て喜ぶなんてな……)




***


そして今……


真助は右手に妖刀「血海」の欠片を持ちながらアギトに向けて構えていた。


が、真助の持つ欠片が何か分かっていないアギトは彼をバカにするように笑っていた。


「勝ち目がなくなって自暴自棄にでもなったのか?

そんなゴミを出して何になるんだ?」


「……悪いがオレは正気だし、こいつでどうにかしようとしてる。

笑いたいなら好きなだけ笑えばいいさ」


「……好きなだけ笑ったさ。

笑った分だけ……オマエに対しての怒りが増したけどな!!」


アギトは黒い雷を身に纏うと瞬きも許さぬ速さで真助に接近し、彼の体に向けて爪による斬撃を食らわせようとする。


が、真助はアギトの攻撃を左手に持つ小太刀で防ぐとすぐさま右手に持つ欠片の方へ黒い雷を集めようとする。


「そんな大した価値もないようなゴミに自分の命運を託すなんざオレを侮辱してるとしか思えねぇ!!」


「ぐっ……!!」


真助に対しての怒りを燃やすアギトは防がれても何度も攻撃を放ち、対する真助も放たれる攻撃を小太刀で防ぎながら手に持つ妖刀の欠片に力を集めようとする。


「この……」

(一か八かの運任せに賭けようとしたが……無謀すぎたか)


未だに変化の現れぬ妖刀の欠片に諦めずに力を集める真助だが、心の中では少し焦りを抱いていた。


いや、焦りだけではない。

アギトの猛攻を前に防戦を強いられている現状に対しての危機感もだ。


(何か大きな転機が来れば……その一瞬で全てを……)


「甘いんだよ!!」


真助の考えを読んだかのようにアギトが叫ぶと真助のもとへと無数の黒い雷の刃が放たれ、放たれた刃は真助の身を次々に抉っていく。


「がっ……」


「たしかにかつてのオマエは戦うことに全てを捧げ、圧倒的な強さで他者を寄せ付けなかった!!

それなのに……今のオマエはただ人をイラつかせるだけの雑魚に成り下がった!!」


アギトは両手に黒い雷を纏わせるとそこから連続で攻撃を放ち、放たれた攻撃は真助の体を抉っていく。


Xの字を描くように抉られた体をさらにアギトの攻撃が抉っていき、その連続での攻撃はアギトの身体を完全に追い込んでいた。


が、体を負傷して追い込まれているはずの真助の目は死んでおらず、それどころか強い意思を宿していた。


「コイツ……!!」

(こんだけ攻撃してるのにまだやるって言うのか!?)


「……クソが!!」


倒れようとしない真助に向けてアギトは叫ぶと衝撃波を黒い雷とともに放ち、放たれた衝撃波は黒い雷と一つになると真助を吹き飛ばしてしまう。


吹き飛ばされた真助は飛ばされた先で倒れてしまうが、体に走る激痛に耐えながら立ち上がろうとする。


「なっ……まだやるのか!?」


倒そうとしても中々倒れない真助の姿にさすがのアギトも動揺を隠せないらしく、彼の攻撃しようとする手が止まってしまう。


すると真助が口から血を吐き出しながらもアギトに向けて告げた。


「簡単に倒れたら……面白くねぇだろ」


「なっ……」


それに、と真助は続けて何かを言おうとするが、体に力が入らなかったのかその場に座り込むように倒れてしまう。


倒れた真助は再び立ち上がろうとする中で自身が言おうとした言葉の続きを話した。


「オレはまだ……負けてない」


「強がりはよせよ。

その体の傷……もはや勝負は決まってる」


「それはまだ……分からないぜ?」


すると真助は右手に持つ妖刀の欠片を強く握り、そして黒い雷を右手一点に集中させるとさらに強く握る。


妖刀の欠片を強く握ったからか真助の右手から血が流れ落ちてしまうが、真助はそれでも強く握り続け、果てには右手を地面に強く叩きつけた。


「おいおい……」

(オレの攻撃で追い詰められて気でもふれたか?

完全に頭のおかしい野郎になってるじゃねぇか……)



真助の行動に若干引き気味のアギトだが、そんなアギトのことなど気にも留めることなく真助は何かを呟き始めた。


「……どうした「血海」。

まだ反応がないようだが、まさか寝惚けてんじゃないよな?」


真助は右手で強く握る妖刀「血海」の欠片に向けて語りかけていた。


「ほら……オマエがずっと欲しがってた血だ。

好きなだけ吸えばいいさ」


語りかける真助だが、欠片は反応するはずもない。


だがそれでも真助はやめようとしない。


「……呑気に寝てんじゃねぇぞ、おい。

オレの血が欲しいならいくらでもくれてやる。

だからさっさと起きろ……!!」


欠片をさらに強く握りながら語りかける真助。

その言葉は徐々に強くなっていた。


「血だけで足りないならオレの力も命も……オレの全てを好きなだけ喰らえばいい!!

だからとっとと目ェ覚まして力をよこせ!!

戦う力を……アイツの……ヒロムの進む道を切り開くための力をオレによこせ!!」


妖刀の欠片に向けて己の今の思いをぶつけるように真助が強く叫ぶと、右手に強く握られた欠片が突然大きな輝きを放ち始める。


「!!」


その輝きを確かめようと真助は右手を開き、輝きを放つ欠片は真助の右手から「狂」の黒い雷を喰らうように吸収しながら彼の周囲を舞い始める。


「……最高だな、「血海」!!」


自分の周囲を舞いながら輝きを強める妖刀の欠片に嬉しさの隠せない真助は重傷を負った体のことなど忘れたかのように笑みを浮かべ、真助は輝きを放つあへと手を伸ばす。


「オマエの新しい力……オレに使わせろ!!」


真助の言葉に呼応するように欠片はさらに大きな輝きを放つと真助を飲み込み、周囲に無数の衝撃波と雷を放っていく。


「!!」


放たれた衝撃波と雷がアギトに襲いかかり、アギトは真助の身に起きていることが理解出来ぬまま吹き飛ばされてしまう。


「ぐぉぉぉ!!」


吹き飛ばされたアギトは何とかして立ち上がるが、その間に輝きが消えていき、輝きの中心から真助が姿を見せた。


「……いくぞ」


現れた真助の右手には先程までなかったはずの刀が持たれていた。


紅と黒の刃を持ったその刀を手に真助は構えるとアギトに向けて告げた。


「オマエの力を否定してやる。

だから……オマエの力全てを出してオレを滾らせてみろ!!」



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