二四一話 覚悟の狂鬼
真助とアギトの戦いが激しさを増す中、真助に言われてガイやシオンたちを探しに向かった岩城ギンジは彼らを探して必死に走っていた。
「くそ……!!
どこにいるんだよ!!」
数十分走っても出会う気配もなく、姿を見せる気配もない。
なかなか見つからないことに焦りを感じるギンジに追い討ちをかけるように真助がアギトと戦っている方からは遠くからでもハッキリと分かるほどの殺気が飛んでくる。
「くそ……真助とあの敵はどんな戦いしてんだよ」
(何か因縁があるみたいだったけど、こんなに殺気飛ばすほどの相手なのか……)
「だとしたら早くアイツら見つけねぇと!!
こうなったらアイツらの気配を察知して……」
気配を探して見つけようと考えたギンジだが、しばらく考えるとあることに気づいた。
「オレ気配を辿る探索方法知らなかった!!」
どうしよう、とギンジは一人で慌てふためきなぜかパニクっている。
「やべぇ、どうしよ!!
もうすれ違ってる可能性あるし、このまま出会わない可能性もあるじゃねぇか!!
やべぇ!!マジやべぇ!!」
完全に一人でパニクって焦るギンジだが、そんな彼のもとに誰かがやってくる。
「ギンジ、ここにいたのか」
聞き覚えのある声、それを聞いたギンジは落ち着きを取り戻すとやってきた声の主の方に向かって歩み寄っていく。
「ガイ!!」
「ん?
どうかしたか?」
「今ちょうど探してたんだよ」
「オレを?
……というか真助は一緒じゃないのか?」
「その真助が大変なことになってるんだよ」
「まさかとは思うが……さっきから目立つくらいに感じ取れるこの殺気は真助が?」
「そう!!
今真助は敵と戦ってるんだよ!!」
ガイと遭遇出来たからかなのかギンジはどこか興奮したような状態で話を進めようとするが、ガイはギンジに一度落ち着くように伝える。
「落ち着け。
話はちゃんと聞いてやるから」
「落ち着きたいけどそれどころじゃないんだよ!!
真助が今戦っているのはあの「竜鬼会」の能力者なんだ!!」
「……竜装術の能力者か」
「そう、だからヤバいって!!
急いで何とかしなきゃ……」
「……相手は何人いた?」
「え?
敵は一人だったけど……」
「そうか……」
(シオンはイクトを探しに向かってるが……紅真キリハから尋問で得た情報によればこの近辺に潜伏してるとされる竜装術を内包した能力者は「紅炎竜」、「蒼炎竜」、「狂破竜」の三人。
紅真キリハがオレたちと戦ってるか倒されたかを察知して散開したのか、それとも……)
ギンジから敵について話を聞いたガイは少し考え、そして敵の動きについていくつかの仮説を立てるとギンジに真助のことであることを確認した。
「オマエは真助の指示でここに?」
「ああ、真助からガイたちを探して合流したらヒロムのところに向かえって」
「……なるほど」
分かった、とガイはギンジの話からある程度のことを理解し、そしてギンジに対して指示を出すように伝えた。
「シオンがイクトを探しているからまずは二人と合流する。
その後に他に敵がいないか確認して、ヒロムのもとに向かう」
「はぁ!?
ま、待てよ!!」
ガイの指示を受けて納得がいかないギンジは彼に反論した。
「今の話聞いてたよな。
真助が「竜鬼会」の能力者と戦ってるんだよ」
「ああ、さっき聞いた。
そしてオマエはオレたちと合流してヒロムのもとへ向かえと言われた」
「それはそうだけど……けどなんであとの二人と合流して敵がいないか確かめてからヒロムのとこに向かうって言うなら真助を助けに行った方が……」
「バカなことを言うなよギンジ。
真助がオマエを行かせたのは助けを求めるためじゃない。
万が一のことがあった時に備えてオマエを逃がしてオレたちにその危険性を伝えさすためだ」
「けど相手は……」
いい加減にしろ、とガイはギンジに向けて厳しく告げると今自分たちが取るべき行動について話した。
「いいか、よく聞け。
真助はこれまで多くの能力者と戦ってきた猛者だ。
その真助がオマエを一人行かせたということは何かの危険を予感したからだと考えるべきだ。
ヒロムのもとへ向かうように言ったのも、ヒロムがユリナたちと行動してることで身動きが取りにくいことを踏まえて言っている。
だからこそオレたちはいち早く合流してヒロムのもとに向かう」
「……」
「それなのにオマエがここでそれを台無しにしたらアイツの判断が無駄に終わる。
そうならないためにもオマエはオマエに託された役目を果たすことを考えろ!!」
「……悪い」
「……分かったならいい。
とにかくシオンたちを探しにいくぞ」
ガイはギンジに伝えるとシオンたちを探しに向かおうとするが、ギンジは動こうとしなかった。
ガイの言葉でギンジも理解はしているが、それでも心の底にある真助を心配する感情は消えそうにもない。
「……」
(ダメだ。
ガイに言われてもやっぱり……)
「心配すんな」
すると不安を抱くギンジの肩をガイは優しく叩くと、彼に対して言った。
「何やかんやで真助も一人の方が相手をしやすかったのかもしれない。
下手したらオマエを巻き込むとでも考えたんだろ」
「オレは……」
「それにギンジ。
オレは一度も助けに行かないとは行ってないからな?」
「え?」
ガイの口から出た言葉、それを聞いたギンジは虚をつかれたような顔をして驚き、そんな顔を見せるギンジに向けてガイは補足するように説明した。
「さすがにオレも「竜鬼会」の能力者については気になる点がある。
だから急いでシオンたちを見つけてヒロムのもとに向かう。
その後にアイツを助けに行くぞ」
「……!!
あ、ああ!!分かった!!」
「ふっ……わかりやすいヤツだな」
(……真助。
ムリだけはするなよ)
調子の戻ったギンジの姿にガイは少し安心した表情を浮かべ、その中で彼は今も戦う真助のことを気にかけていた……
***
竜装術を発動したアギトに対して真助は小太刀の霊刀「號嵐」を構えながら黒い雷を纏い直していた。
対するアギトは恐竜のようにも思えるような魔力の鎧に包みながら真助を冷たい眼差しで見つめながら構えようとしていた。
魔力により生み出された黒い尻尾を地面に叩きつけ、鋭い爪を妖しく光らせる。
「さて……オマエはこの姿のオレをどれどけ楽しませてくれるのか楽しみだ」
「……楽しませる気は無い。
ただ倒すだけ、それ以外に目的はない」
「相変わらず強気だな。
けど、その強気がいつまで持つか見物だけどな!!」
アギトは強く言い放つと全身から黒い雷を放出しながら走り出し、それを見た真助も小太刀を握り直すと同時に走り出そうと足を動かそうとした。
しかし……
真助が走り出すために足を動かすよりも先にアギトは真助の目の前に移動し、そして真助の体を抉り引き裂こうと右手の鋭い爪で切りかかってくる。
「!!」
アギトの速さに驚き、一瞬反応が遅れた真助は鋭い爪が体を抉ろうとするのを小太刀で止めてみせるが、止めたはずの爪があまりにも鋭いためかその力までは完全に止めることが出来ず、爪より解き放たれたアギトの力が真助の右肩に大きな切り傷をつける。
「コイツ……!!」
「その程度で止められると思ったか!!」
アギトは体を回転させると腰のアーマーと連結している黒い尻尾を振り、そしてそれを真助の体に叩きつける。
「が……」
叩きつけられた尾の力に真助は吹き飛ばされ、アギトは追撃を加えようと後を追うように走り出す。
「この……」
アギトの追撃が来ると感じた真助は何とかして受け身を取ると構え直そうとするが、甘かった。
今のアギトのスピード、それを前にするとこの受け身すら無意味に思えてしまう。
真助が受け身を取り、構え直そうとした時にはアギトはすでに真助に接近して彼の腹に膝蹴りを食らわせていた。
「!?」
「どうしたぁ!!
この程度か!!」
アギトは真助を蹴り上げると全身に黒い雷を走らせると姿を消し、目にも止まらぬスピードで真助の周囲を駆けながら連撃を放ち、それを真助に命中させていく。
連撃が命中した真助はその連撃の一つ一つによるダメージを受けて徐々に追い詰められ、それにつらなる連なるように体は傷を負っていく。
「この……」
(コイツ……見てくれだけでなくたしかに力は増してやがる。
だけど……)
「はぁぁぁあ!!」
真助は連撃を受けながらも黒い雷を全身に駆け巡らせ、右腕に広がっている痣をさらに広げると痣を左腕にまで拡大し、そしてアギトの連撃の一つを止めてみせた。
「!!」
「いつまでも……好き勝手できると思うな!!」
アギトの攻撃を止めた真助はアギトの顔に連続で蹴りを放つと二本の小太刀でアギトの纏う竜装術のアーマーを破壊しようと斬撃を無数に放つ。
が、しかし……
「……甘いんだよ」
何度も顔に蹴りを受けたはずのアギトは何も無かったかのように不敵な笑みを浮かべながら笑い、そして真助が放った無数の斬撃はアギトのアーマーに全て弾かれてしまう。
真助の攻撃の全てを防いだアギトは両手に黒い雷を集中させると斬撃を放ち、真助にXの文字を描くように体を抉り切った。
「な、に……!?」
アギトの攻撃を受けて大きな傷を受けた真助は膝をついてしまい、黒い尻尾が膝をついた真助に非情な一撃を放とうと薙ぎ払われ、真助は勢いよく殴り飛ばされていく。
殴り飛ばされた真助は何度も地面を転がりながら飛んでいき、真助は何とかして受け身を取ろうとするもアギトの一撃で受けた斬撃のダメージが邪魔をして出来ずに倒れてしまった。
「くっ……」
倒れてしまった真助は小太刀を地面に突き刺しながらも何とかして立ち上がると構えるが、アギトはその姿を見るとバカにするように笑い出した。
「ギャハハハハハ!!
これがオレの力!!
散々オレの力を認めようとしなかったオマエを圧倒できる力だ!!」
真助を圧倒した自分の力にどこか満足気なアギトは高らかな笑いを続け、それを聞いた真助はため息をつくとアギトに向けて言った。
「他人に与えられたその力をあたかも自分で得たような言い方をするとは……強さのためなら本当に見境なくなるんだな」
「ふっ……負け惜しみなら好きなだけ言えよ。
どうせオマエの力はオレには及ばない。
痣を広げてまで対抗しようとしていたのに、何の役にも立たずに終わりを迎えるんだからな」
「……終わり、か。
たしかに終わりを迎えるな」
「ああ?」
真助の言い方、それが気になったアギトは首を傾げ、その様子を見た真助は少し笑うと全身に黒い雷を駆け巡らせる。
「おいおい、無駄な力を使ってもオレには……」
「無駄かどうかは見てから判断した方がいいと思うぞ。
オレも……オマエのように次の段階に進む」
真助は右手に持つ小太刀を鞘に収めてしまうと、右手に何かを持った。
それは何かの欠片のようであり、そしてそれは薄らと光を放っていた。
「なんだそれは?」
「……奥の手だよ。
オレは今から……これを使って過去に一番狂っていた時の自分に戻る!!」




