二三九話 強さへの道
黒い雷を全身に纏い、二本の小太刀の霊刀「號嵐」を構える真助。
対するは真助と同じ黒い雷を身に纏う敵のアギト。
両者ともに能力を身に纏い、そして抑えられぬ闘争本能を抱いて構えていた。
そして……
「いくぞ!!
鬼月真助ェ!!」
アギトは全身に纏う黒い雷を大きくさせるとともに走り出し、接近する中で黒い雷を両手に集中させていく。
「来い……!!」
真助は迫り来るアギトを迎え撃とうと小太刀を強く握りながら走り出す。
互いに相手を倒そうと動き出し、二人の距離がほぼゼロに近い距離に達した瞬間、戦いが始まりを告げる。
「オラァァァ!!」
アギトは右手の拳を強く握ると真助に向けて拳撃を放ち、真助はアギトの放ったその攻撃を避けて蹴りを放つ。
が、放たれた蹴りををアギトは左の拳で弾き、右の拳を構え直すと目にも止まらぬ速さの正拳突きを連続で放つ。
「オラオラオラァ!!」
「ふっ……」
正拳突きという形で放たれた拳撃、放たれた連撃は迷うことなく真助に向かっていくが、真助はそれを小太刀で全て防いでみせる。
そして真助はアギトの拳撃を全て小太刀で防ぐと黒い雷を小太刀にも纏わせ、雷で刀身を強化すると斬撃をアギトに向けて放った。
が……
「はぁっ!!」
アギトは両手に集中させた黒い雷を大きくさせると真助の放った斬撃を殴り潰してしまうが、真助はそれを見るなり後ろへ跳んで距離を開けるようにして構え直した。
「コイツ……」
(竜装術に選ばれただけのことはあるのか、それなりに力は増してるな。
どうやら……以前に比べて力が増してるのは事実らしいな)
「おい……やる気あんのか?」
アギトについて冷静な分析をする真助に対してどこか不満げな表情を浮かべながらアギトは真助に問い詰めるかのように言葉を発する。
「かつてのオマエは迫り来るものに容赦も情けもなく倒す圧倒的力を宿していた。
何度も戦ったオレもそれを超えるべく強さを求めた。
なのに今の攻撃からはそれが全く感じられない。
この期に及んで加減してるとかじゃねぇよな?」
「何を言うかと思えば……そんなことか。
オレは最初から本気だ。
寝言なら家で寝て言ってろ」
「寝言を言ってるのはオマエの方だろうが‼」
アギトの言葉に対して反論した真助だが、その言葉を聞いたアギトは身に纏う黒い雷をさらに大きくさせながら叫ぶと真助に言った。
「人の事をバカにしてるのならその考えを改めさせてやる。
オレの力がどれだけ強さを増したのか……それを見せてやる!!」
アギトは両手の拳に力を入れるとさらに黒い雷を大きくさせ、そして真助に向けて走り出した。
走り出すと同時にアギトの姿が消え、気づけばアギトは真助の背後に現れていた。
真助はそれに気づいてないのか反応する様子もなく、アギトはそんな真助に襲いかかろうと黒い雷を纏わせた拳で殴ろうとした。
(後ろががら空きだ!!)
隙だらけ、そう思ったアギトは殴ろうとする中で思わず笑みを浮かべてしまう。
しかし……
「……隙だらけだな」
アギトの放った拳、それが真助を後ろから襲うと思われたその時だった。
真助は呆れたように一言呟くと背後から迫るアギトの攻撃を一度も見ることなく簡単に避け、直後アギト腹に小太刀の柄を叩きつけた。
「が……!?」
「後ろから狙ってるのがバレバレなんだよ」
真助は小太刀の柄でアギトを殴ると彼の顔に蹴りを放ち、さらに小太刀の連撃をアギトの体に食らわせていく。
が、連撃を放っているのは小太刀の刃ではなく峰……つまりは峰打ちによる打撃だった。
「てめぇ……!!」
「やるなら殺せってか?
悪いがオマエの思い通りにもの後が進むと思うな」
真助の連撃の峰打ちに苛立ちを見せるアギトだが、そのアギトの表情を面白そうに見ながら真助はその場で体を回転させると勢いをつけ、その勢いを利用した蹴りをアギトに放つ。
放たれた蹴りはアギトの腹に命中し、命中するとともにアギトは蹴り飛ばされ、そして地面を転がるように倒れてしまう。
が、アギトはその程度では倒れない。
アギトは倒れはしたもののすぐに起き上がると怒りを混じえながら黒い雷を纏い直し、そして真助を強く睨んだ。
「オマエ……!!」
「どうした?
オマエの強くなった力を見せてくれるんじゃなかったのか?」
挑発とも取れる真助の言葉。
それを聞いたアギトはさらに苛立ち、真助を倒そうと走り出す。
「見せてやるよ!!
オレの……」
「まぁ、見せてもらいたいとも思わないがな」
走り出すと同時に音もなく黒い雷とともに消えるアギト。
するとそれに対抗するかのように真助も黒い雷とともに音を立てずに消えてしまう。
音を立てることも無く姿を消した二人……
二人の居場所が見えない中、突然強い衝撃が周囲に走る。
衝撃が走ると共に何かが衝突する音が響き、その音とともに真助とアギトは姿を現し、再び音も立てずに二人とも姿を消してしまう。
二人が姿を消すと何度も強い衝撃が走り、そしてその度に衝突音が響き渡る。
時折黒い雷が刃のようになって現れると大地を抉り、さらにはどこからともなく無数の斬撃が現れて大地を刻んでいく。
何が起きているのか?
おそらく傍から見た第三者には分からないだろう。
だがこれだけは分かる。
真助とアギトは姿を確認出来ぬほどの速度で戦い、そして激しい攻防を繰り広げている。
そして強い衝撃音が響くとともに真助とアギトが百メートルほど距離を空ける形で姿を現す。
「……」
「……」
「……他愛もないな」
姿を見せた二人は少しの沈黙に陥っていたが、それを破るように真助が呟くとアギトの体に無数の斬撃の傷が現れる。
「が……!!」
「この程度で強くなったって誇らしげになってたのか。
これならギンジの方が歯ごたえがあるな」
真助は首を鳴らしながら言うと小太刀を握り直し、その中で負傷したアギトに視線を向けながら彼に告げるように言葉を発した。
「普通、人間ってのは失敗や敗北から何かを学習して成長するものだ。
けどオマエ……何にも学んでないだろ?」
「……ちょっと優位に立てたからって調子に乗るなァ!!」
アギトは体の中に黒い雷を取り込むように大きく息を吸うと、真助の方に向けて勢いよく吐き出す。
吐き出された息は烈風の如くブレスとなり、黒い雷が合わさったことにより、それは黒いビームのような攻撃へと変化した。
放たれた黒い雷のブレスは大地を抉りながら真助を消し去ろうと向かっていくが、真助は小太刀を構えようともせずになぜかゆっくりと歩き出した。
「……竜装術に選ばれたからドラゴンの真似してるのか?」
哀れだな、と真助は小太刀に黒い雷を纏わせながら呟き、小太刀に纏わされた黒い雷は数倍に膨れ上がるように激しく強くなっていき、その黒い雷を真助は斬撃とともにアギトが放った黒い雷のブレスに向けて解き放つ。
斬撃とともに解き放たれた黒い雷はさらに激しさを増しながらアギトの放った攻撃に向かっていき、真助の黒い雷はアギトの黒い雷を引き裂きながら炸裂して敵の攻撃とともに消滅していく。
「な……」
「そんなに驚かなくてもいいだろ。
オマエの攻撃と同程度の威力で放っただけだから対消滅しただけだ」
「なぜオレの力が……」
自身の攻撃が通じない、その事に驚きを隠せないアギトはそれを言葉として出してしまう。
そしてそれを聞いた真助は呆れたようにため息をつくとアギトのチカラが自身に通じない理由を語り始めた。
「たしかにオマエの力は姿を消す直前に比べたら増してはいる。
が、ただそれだけだ。
オマエの力が増してるってだけでオマエ自身の強さは何も変わってない」
「バカなことを言うなよ。
オレの能力はさらなる力を得て強くなった!!
それはつまりオレ自身が強さを得たことと同義、つまりオレは……」
「オマエはただ力に溺れてるだけだ。
強い力を得て自分も強くなったと錯覚している。
強さと力の優劣は直結しない……それに気づいていない時点でオマエは弱い」
「ふざけるのも大概にしろ!!
オレは以前より遥かに強くなった!!
それなのに……なんでそんなことを言われなきゃならねぇんだ!!」
アギトは真助の言葉を耳に入れたくないのか今まで以上に強く叫び、そして自身の身に纏う黒い雷をさらに大きくさせると雷の一部を無数の矢へと造形して真助に向けて撃ち放つ。
放たれた矢の形をした黒い雷は真助に向けて飛んでいくが、真助は身に纏う黒い雷を消すと小太刀を構え直す。
「な……」
「……はっ!!」
迫り来る黒い雷の矢。
真助は迫ってくる矢に一閃を放つだけで破壊する。
二本、三本……次から次に迫ってくる矢を同じようにただ小太刀を一振して破壊していく。
正確に矢の脆い部分に一撃を加えて破壊する、それを何の迷いもなく簡単に成功させていく真助にアギトはただ言葉を奪われていた。
「ば、バカな……」
「……」
言葉を失い、動きが止まったアギトのもとへ向かうように真助は走り出すと一瞬で彼の目の前に移動し、彼の体に掌底突きを叩き込む。
さらに真助はアギトの体に叩き込んだ掌底に力を込め、アギトの体内へと伝導させる。
すると伝導した力がアギトの体内で炸裂でもしたのか衝撃を走らせ、アギトの体を内側から傷つけていく。
「が……!!」
(まさかこれは……発勁……!?)
「ヒロム直伝の覇王式発勁だ。
能力を持たないアイツは能力者対策で開発したこの発勁で相手の魔力を内側から炸裂させて暴発させる術に辿り着いた……らしいが、当の本人はこれを使う前に大抵の敵を倒すから滅多に使わないらしい」
「く、そ……!!」
真助の掌底より放たれた発勁により内側からダメージを受けたアギトは口から血を吐き出し、アギトが怯んでる隙をつくように真助はアギトに蹴りを入れて吹き飛ばした。
蹴り飛ばされたアギトは抵抗することも無く吹き飛ばされた先で倒れ、倒れるアギトを見ながら真助は語り始めた。
「たしかにオレもアイツに負けた後、強さを求めようとした。
だからアイツに負けないようにいくつか武術に手を出そうとしたが、それは間違いだってすぐに気づいた」
真助は頭の中にこれまで自分が見てきたヒロムの戦う勇姿を思い浮かべていた。
どんな相手にも臆すること無く挑んでいき、選択を迫られて迷いを抱いても答えを導こうとするその強い意志。
そして力がないからこそ人の心を知り、誰かのために戦おうとするその生き様を真助は改めて感じていた。
そしてそこから学んだことを彼はアギトに向けて語る。
「本当の強さは力だけじゃない。
その先にある大切なものを守ろうとする意志を持った強い心を持つ人間になれるかどうかだ。
今のオレを強くしたのはそれを知ることが出来た心があるからだ」
「心……?
反吐が出る……」
真助の言葉を否定するかのようにアギトは言葉を吐き捨てると立ち上がり、そして真助の右頬の黒い痣を見ながらあることを指摘した。
「その心とかいうのでオマエのその蝕まれた身体は治るのか?
強さを得ても、その呪いがある限りオマエに未来はないはずだ」
「……これは戒めだ。
強さに固執してきた過去の自分に対してのな」
笑わせるな、とアギトは真助の言葉に冷たく返すとあることを言った。
それは「狂」の能力によって蝕まれて出来た真助の右頬にある黒い痣についてだ。
「その戒めという呪いを消す方法をオレが教えてやっただろ。
オレと同じようにその方法をやれば消せるんだよ」
「そうまでしてコレを消したいとは思わねぇな」
「……強がるなよ、真助!!
戦うためには生き長らえる必要がある!!
そのためにはその呪いが邪魔だ!!
それを消す唯一の方法……オマエが大事だと思っている心の支えをこの世から消せば治るんだからな!!」
「オレには必要ない」
「今のオマエの心の支えはあの「覇王」だろ?
だったらそいつをオマエが殺せば……」
だからだよ、と真助は再び黒い雷を身に纏うとアギトを睨みながら……殺意を身に纏いながら冷たい言葉を放つ。
「オレが戦うのはアイツのため。
アイツの道を断つくらいなら……死んだ方がマシだ!!」




