二三八話 身勝手な狂気
「よぉ……懐かしいなぁ!!」
「オマエは……」
「さぁ殺し合おうぜ!!」
逆立った銀髪の男は楽しそうな笑みを浮かべながら叫ぶと全身に魔力を纏い、真助のことを見つめていた。
視線を向けられる真助は目の前の男を前にして普段は見せないような驚いた顔をしていた。
そして、目の前の男がここにいることすら意外そうな反応を見せてもいる。
「なんでオマエがここに……」
「真助?
アイツのこと知ってるのか?」
「……まぁな」
「おいおい、冷めるような言い方するなよ?
オレとオマエの仲じゃねぇか」
二人がどういう関係なのか気になるギンジに真助は簡単な説明で済ませようとしたが、男はそれを許さぬかのように語り始めた。
「そいつとオレは同じ能力を持っている。
そしてかつてオレたちはどちらが強いかをハッキリさせようと幾度となく戦った間柄だ」
「……ハッキリさせる?
すでにハッキリさせたはずだ」
「おいおい……ハッキリさせるために殺し合うって約束だったろ?
なのにオマエは最初の戦いから最後の戦いまでオレの武器壊すだけ壊して姿晦ましただけだろ」
「……それでハッキリしてる。
オマエよりオレの方が強いってな」
「な、なぁ真助。
アイツは一体誰なんだよ!!」
「もしかしたら……ギンジも知ってると思うぞ、あの男のことをな」
「オレのが?
オレ会うのは初めてだぞ?」
初めて会うはずの目の前の男のことをギンジも知っていると言う真助。
一体誰なのか?
心当たりのないギンジは首を傾げると頭を悩ませ、該当するであろう人物を記憶から探り当てようとするも分からない。
そんなギンジの様子を察したのか真助は彼に分かるように説明をした。
「一年ほど前にあった東北地方での惨殺失踪事件、覚えてるか?」
「ああ、確かにそんなことがあったな。
けど、それがどうかしたのか?」
「その事件を引き起こしたのがこの男だ」
「な……本当なのか!?」
真助の言葉にギンジは驚くしかなかった。
心配が言っている一年前の東北地方の惨殺失踪事件。
その事件はある町に住む人々が次々に襲われ、そしてその町から能力者が一斉に姿をくらましたというものだ。
「ギルド」の決死の捜査によって姿をくらました能力者は発見されたが、発見された能力者の全員が意識不明の重傷を負っており、犯人の手掛かりを掴もうとしても一切手がかりが掴めなかった事件。
中には生命を奪われたものもいたこの事件は一切の手掛かりがないために捜査は難航し、未解決事件として未だ捜査が続いているとも噂されている。
能力者犯罪やテロに対応出来るように能力者で構成された特殊部隊ですら手掛かりを掴めなかったのになぜ真助は知っているのか?
驚く中でギンジはそれが気になっていた。
「なんで真助はあの時間の犯人があの男だって分かるんだ?」
「……知ってるというか、あの男以外ありえないからだ。
事件が起きる直前にオレはあの男を倒し、そして事件発生とともにあの男は姿を消した」
「それって……」
「そう、オレは強さを得るために北の辺境の地に向かい、そこで能力者を片っ端から倒し続けた」
すると男が誇らしそうに事件について語りだした。
「手始めに目をつけたのは軍隊に属する男だ。
鍛えてると思って楽しみにしてたが……呆気なく終わった上に「娘がいるから助けてくれ」と命乞いしてきた」
「まさか……」
「オマエ……強さのために……」
「ああ、最後のあの顔は最高だった!!
そして次から次に狙いを定めては潰し……価値もないと分かったから町も壊そうとしてそこにいる人間を襲った!!」
イカれたような笑い声をあげながら語る男に真助とギンジは不快感を抱いていた。
理解など不可能な男の言葉、それを聞いている二人はただ敵としてではない別の感情を抱いていた。
「強さのために無実の人間を襲うことが楽しいってのか?」
「オマエは優等生だもんな。
かつて一夜にして壊滅させたギャングとその町に住む賞金首どもを根絶やしにし、それからも強くなるために戦いを報酬とした賞金首狩りをしていた。
オマエがそんなことするせいでオレは辺境の地の名前も知らねぇ雑魚を潰したんだ」
「オマエ……!!
真助の行動とオマエの行動を一緒にするな!!」
「同じだから言ってんだよ。
そいつは正当化できる理由を提示して悪人を裁いたのと強さのために立ちはだかる敵を倒した。
オマエが仲間と信じるその男もオレとやってたことは同じ。
強さのために何かを踏み台にしたことに変わりはない!!」
「オマエなんかと真助を一緒にするな!!」
男の言葉に我慢出来なくなったギンジはハンマーを強く握ると走り出そうとしたが、それを止めるように真助はギンジの前に立って彼が男のもとへ向かう道を塞いだ。
「真助……?」
何故止める、ギンジは真助に対してそう思っていた。
あれだけ身勝手な発言をしている男を前にして、何故戦おうとする自分を止めるのか。
男の身勝手な発言に対して同じように怒りを感じてるはずなのに……何故?
「落ち着けギンジ。
怒りに身を任せては相手の思うつぼだ」
「落ち着けるかよ!!
アイツは真助のことを……」
「あまり感情に身を任せると、オマエの中の「ハザード」が進行する。
だから落ち着け」
「だけど……」
怒りの抑えられないギンジは真助に反論しようとしたが、真助の瞳を見るとそれをやめてしまう。
自身のことを言われているはずの真助は一見冷静に振舞ってるように見えたが、その瞳からは漲る闘志と溢れんばかりの殺気を感じられたのだ。
それを見て心配が怒りを抱きながらも抑えて冷静になっていることをギンジは理解し、自分の中にある怒りを鎮めるかのように言葉を発することをやめた。
そんな真助とギンジの姿を見た男は落胆したのかため息をつくと真助を見ながら告げた。
「おいおい……しばらく見ない間に腑抜けちまったのか?
話聞いてたら吐き気するし、今の姿見てたらさらに悪寒が走る」
「……好きに言ってればいい。
オマエのように強さのために何かを犠牲にする気は無い。
仕えるべき主である鬼之神麗夜を殺してまで強さを得ようとしたオマエにはな」
「仕えるべき主?
鬼之神麗夜?
……なるほど、オマエはそう考えてるのか?」
真助の言葉を聞くとなぜか男は面白そうに笑い出し、そして真助の言葉に補足するようにある事実を告げた。
「鬼之神麗夜を殺したのはオレじゃないが……そもそもオレたちは鬼之神麗夜に仕えてはいない」
「何?」
「ふざけるなよ。
オマエたちは「装鬼会」から脱する形で……」
「オレたちは「覇王竜」のために集い、その中でオレはあの方の力になる報酬として鬼月真助……オマエと再戦する機会を与えられたのさ」
「覇王……竜……?」
「それが黒幕……?」
男の口から語られた真実。
それを聞いた真助とギンジは驚きを隠せなかった。
いや、驚くのも無理はなかった。
「姫神」に仕えながら裏切ろうとした鬼之神麗夜は自身の作り上げた「装鬼会」から派生するような形で「竜鬼会」をつくって仲間割れしたことによって殺された、と二人はもちろんのことガイやシオン、それに蓮夜たち「月翔団」の者が考えていた。
なのにその考えを根底から覆すような真実を目の前の男が告げてきたのだ。
敵の言葉、それを鵜呑みにして信用することが危険だということは真助もギンジも分かっている。
「いい加減なこと言うなよ。
デタラメ言ってオレたちをかき乱したいだけだろ?」
「敵の言葉を簡単に信用出来るわけないだろ」
「……だったらオマエたちの情報が正しいって理由もないはずだ。
オマエたちが必死になって集めた情報が本当に正しいものか?」
「それは……」
惑わされるな、と真助はギンジに向けて告げた。
男の情報と自分たちの持つ情報、どちらが正しいかは問題ではなかった。
ただ真助はギンジが二つの情報の真偽を気にするあまり判断力が削がれることを阻止したかったのだ。
「オレたちとアイツが持つ情報が異なることはたしかに気になる。
だが今気にするべきはそこじゃない」
「……悪い」
「……頼みがある」
すると真助は両手に持つ小太刀……霊刀「號嵐」を握り直してギンジに対してあることを頼んだ。
「コイツの相手はオレが引き受ける。
オマエはガイたちを探して、合流したらヒロムのもとへ向かえ」
「な……」
突然の真助の頼み、それを受けたギンジは驚くと頼みを聞き入れずに彼に反論してしまう。
「ダメだ!!
オレだけ行くなんてダメだ!!」
「ヤツの狙いはオレだ。
そのオレがここで相手をしてる間にガイたちと合流しろ」
「だったらアイツを倒してから……」
「もしヤツがウソをついてるのなら……他に敵がいるかもしれない。
万が一のことを考えればここで二人は揃ってアイツを相手するのは得策じゃない」
「あ……」
真助の言葉、万が一の可能性を告げられたギンジは何も言えなかった。
この状況下で真助は誰よりも冷静になり、そして誰よりも最善の手を尽くそうとしている。
その意志を感じたギンジはこれ以上彼に何かを言うのは失礼だと思ったのだ。
だからこそ真助の頼みに対しての反論をやめると、確かめるように彼に確認の言葉をかける。
「……無理だけはするなよ?」
「安心しろ。
オレはオマエより強いからな」
「……正論だから何も言えねぇ」
「そうだな……ならこうしよう。
コイツを倒して無事に帰れたら……オマエに稽古でもつけてやるよ」
「分かった。
楽しみにしてるから……帰ってこいよ」
あとは頼む、とギンジは真助に伝えると背中を向け、その場を離れようと走っていく。
ギンジの走っていく姿が見えなくなるまでは男が手出しせぬように真助は警戒していたが、男はギンジを逃がすつもりらしく追いかけようとせず、真助と二人っきりになると面白そうに笑いだした。
「足でまといを逃がしたか。
ようやく……本気になってくれたようだな!!」
「……勘違いするなよ」
男の言葉に対して冷たく言い放つと真助は全身に黒い雷を纏い、小太刀を強く握って構えると男に向けて告げた。
「アイツは足でまといなんかじゃねぇし、オレは最初から本気だ。
最初から……オレたちの敵を倒すために戦う覚悟は出来ている」
「オレたちだと?
オマエの相手はオレ、つまりオレはオマエの敵だ。
なのになぜオレたちと言った?」
「たしかに目の前にいるオマエはオレが相手をする。
だが……オレの前にオマエが立ちはだかるということは、オレたちの道を塞ぐの同義。
だからこそオレたちの敵だ」
「……なんだその変な理屈は。
まぁいいか……決着つけようぜ、鬼月真助!!
このオレ……アギトとオマエのどちらが強いかをな!!」
男は……アギトは叫ぶとともに魔力を纏い、そして真助と同じ黒い雷を身に纏う。
「さぁ、始めようかぁ!!」
「ああ、始めてやるよ……。
強さに固執するオマエを終わらせるための戦いを!!」




