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レディアント・ロード1st season   作者: hygirl
精神干渉編
23/672

二三話 行動


シンクが去り、残ったトウマは悔しそうに近くの機材を蹴り飛ばす。


「くそ……!!」


「ダンナ、追いかけねえの?」


苛立つトウマに狼角は追いかけないのか確認するが、トウマは首を横に振るとそれを拒んだ。


「……追いかけても返り討ちにあうだけです。

あの力……データにはなかった」


トウマの力を圧倒するほどのシンクのあの身体能力。

トウマのデータで得た情報にも、これまで見てきたシンクからもそれについては把握出来ていなかった。


「とにかく今は戻って体勢を立て直します。

狼角さんが来て早々に撤退したということはこちらが万全ならどうにかできるということでもあるはずです」


「ずいぶん甘い考えだな」


トウマに対して言ったであろう言葉。

トウマは狼角を見たが、狼角は言っていないと首を横に振る。


一体誰が言ったんだ?

トウマは周囲を見渡すが、それらしい姿がない。


「オマエの敗因は自分への過大評価だ。

その力への過信が弱点に気づくことなく哀れに負けることになった」


「どこの誰か知らないが好き放題……」


「知ってるくせによく言うぜ」


近くで声がした。

ふとトウマが後ろを振り返ると、そこには一人の青年がいた。


青い髪に金色の瞳、黒いコートを身に纏った青年は静かにこちらを見つめる。

が、その瞳には底知れぬ殺意のようなものがあり、トウマも狼角も身構えてしまう。


いや、そもそも二人はこの青年を知っていた。

だからこそ、何もなくても警戒してしまう。


「一条カズキ……」


「どうした、八神トウマ。

そんなに驚いて?」


カズキはどこからか持ってきた椅子に腰掛けると、トウマを見ながら尋ねる。

が、トウマはそれに対してすぐに答えれなかった。


そもそも一条カズキが現れたのはトウマの背後。

そう、この廃工場の入口とは真逆に位置する。

仮に別の入口があったとしても、背後まで近づくとなればトウマか狼角が気づくはずだ。


「……何とか言えよ」


「いつからここに?」


「質問に質問で返すな。

聞いてるのはオレの方だ」

「関係な……」


「関係はあるだろ?

今のを次の十家会議で全員に言えば、オマエの立場はなくなると思うが?」

何を言っても意味が無い。


トウマが何を言ってもカズキは一切の間を与えることなく言い返してくる。


さすがというべきか。


「……「十家」最強の「一条」の当主がわざわざそのために来たのか?」


「同じこと何度も言わすなよ?

聞いてるのはこっちだ」


トウマは小さくため息をつくと、少し黙ると、カズキの質問に対して答えた。


「アナタがここにいることに驚いた。

多忙であるはずのアナタが十家会議にも滅多に姿を見せないのにここにいるのは驚くでしょ?」


「人によるだろうな。

オレはむしろ、あそこで釘を打ったオマエが独断で動いて、敗北してるのが驚きだがな」


「最初から見ていたのか?」


当然、とカズキはまたしてもどこからか持ってきたであろう飲料水のペットボトルを開け、それを口にする。


「……無様だな。

呆れて何も言えないな」


「貴様……」


狼角がカズキに対して反論しようとしたが、トウマはそれを制止し、カズキに対して告げる。


「何とでも言えばいい。

オレはあの「無能」を始末するためなら何でもやってやる」


「……くだらない」


「何?」


「そもそもその「無能」ってのはオマエの家が生み出した存在。

なのにそれを今になって始末しようとするとは、おかしな話だ」


「……おかしいと思うのか?」


「そう言ったんだがな……

頭が悪くて聞き取れなかったか?」

「貴様、それ以上は……」


トウマに対してのカズキの言葉に怒りを隠せなくなった狼角はカズキに殴りかかろうとした。


が、



「落ち着けよ」


気づけばカズキは狼角やトウマから離れた位置で椅子に座りながら二人を見ていた。


いや、それ以上にいつの間に動いたのかが二人は気になった。


「な……」


「何を驚いている?

オレはただ普通にしてるだけだ」


「……」


「どうした?

まるで過去に屈辱的な思いでもさせられたような顔をして」


「……屈辱的、か。

あるさ……他の当主の前で無様に敗北させられたのだからな」


「おかしな事を言う……

オマエがオレに勝てると思ってるのか?」


黙れ、とトウマが言おうとすると同時にカズキの周囲に形状の違う無数の刀剣が出現する。


「な……」


「口の利き方には気をつけろよ?

今のオマエらはオレの合図一つでいつでも始末できる。

……そもそもオマエらがこうして恥を晒しても未だに生きてられることを少しは有難く思え」


「全てはオマエの思うがままになると思うなよ……?」


「それはこっちのセリフだ。

オマエが思ってるように事はうまく進まない。

例えば……「七瀬」がその「無能」に加担してるようにな」


「何だと!?」


カズキの口から出た言葉にトウマは驚く以外できなかった。


「十家」の一角を担う「七瀬」が自分が始末しようとしているあの男に協力しようとしていると言うのだ。


そして、シンクが撤退した理由もトウマは理解した。


「ヤツはそれをわかった上でここに来たのか……」


シンクが「七瀬」の加担を知っているとすれば、ここに現れてもそれはあの男にとっては利益にしかならない。


シンクの身に何かあればすぐに「七瀬」へと伝わる。

つまり、すぐにトウマの立場は危うくなる。


「なぜ、あの「無能」に?」


「そんなこと知るか。

オレからすれば「十家」内で大した力もない「七瀬」が何をしたところで関係はない」


「無関係だってか?」


「当然だろ。

オマエ達が束になってもオレは倒せない」


カズキの言葉にトウマは何も言い返せなかった。


それが事実だからだ。

過去に一度、トウマは「十神」の当主とともにカズキに挑んでいる。

が、その結果は惨敗。

カズキを一歩も動かさすことも出来ずに、ダメージも与えられずに敗北したのだ。


「強者の余裕か?

あの日から時は経過している。

今も同じようになると思うな」


「「十家」の血も流れていない凡人の能力者に裏切られた挙句、敗北しておいてよく言えるな」


「オレはまだやれた。

ただアイツが逃げただけだ」


そうかよ、とカズキが指を鳴らすと無数の刀剣は砕け散り、粒子となって消えていく。


そしてカズキは立ち上がるなり、トウマに告げる。


「オマエのその行動力は見ていて面白い。

どうだ、力を貸してやろうか?」


「何?」


「悪い話じゃない。

オマエを今以上の強さにしてやるよ」


カズキの言葉、それは簡単に信用出来るものではなかった。


同じ「十家」とはいえ、互いに手の内を明かしているわけではない。

当然ながらカズキに対しても手の内は明かしていない。

故にカズキの真意も定かではない。


「……何が目的だ?」


「オマエに語るほどではない。

が、ここでオマエに手を貸して今後どう動くかを見たいというだけだ」


「……どうせ見返りを求めるんだろ?」


「そう思うならオレを楽しませろ。

オレのこの退屈な日々に刺激を寄越せばそれでいい」


***

時は戻って、

現在


ヒロムの「ハザード」をどうやって止めるか。

その話になっていた最中、フレイがヒロムたちに申し出た。


「その方法なのですが、一つだけ可能性があるかもしれません」


「な……」


「本当か!? 」


フレイの言葉にソラとガイは前のめりになりながらフレイに尋ねる。


フレイは二人に少し落ち着くように促すと、説明を始めた。


「マスターの発症した「ハザード」の症状が現れた時、一瞬ですがマスターはそれを押さえ込もうとしました」


「ああ、確かに……」


イクトにも心当たりがあった。


ちょうど斬角と戦っていた時、「ハザード」が進行し始め、フレイたちでも止めれないと思われた時だ。


突然頭を押さえながら苦しみそしてその直後に元に戻った。



だがイクトにはそれが解決の糸口になるとは思えなかった。


「でもあれは偶然なっただけじゃないのか?」


「ええ、ですからその偶然を利用するんです」


「何をする気だ?」


「マスターに「ハザード」の症状が現れた時、その症状を私たちで請け負うんです。

それでマスターは正気を保てるはずです。

マスターに宿る精霊である私たちなら出来ると思うんです。

そうすれば「ハザード」による精神の崩壊も……」


「バカにしてんのか?」


するとヒロムがフレイを睨むと、続けてフレイに告げる。



「そのやり方じゃオマエらが苦しむだけだろうが。

オレがそれを許すと思ったか?」


「ですがマスターが私たちを心配するように私たちもマスターを心配してるんです。

私たちにだってマスターの役に立つことは出来るんです」


「悪いがそれでもオレは反対だからな。

オマエらの気持ちはありがたいが、苦しむのはオレだけで充分だ」


ヒロムとフレイの言い分、それは互いが互いを思っているからこそ交わることはない。


ヒロムもそれをわかっているからか、それ以上は何も言わずに歩いていこうとする。


「どこいくんだよ」


「……ここで考えてても仕方ない。

オレはオレなりに調べにいく」



ヒロムは振り返ることもなく歩いて去っていく。


一人にはできないと判断したフレイとマリアはヒロムの方へと走っていく。


「あ……」


「ユリナ、追いかけてくれないか?」


ヒロムを追いかけようか迷ってしまったユリナにガイは、ヒロムを追うように勧める。


「今オレらが追いかけても結局ヒロムと意見がぶつかって終わる。

ユリナならアイツの話を聞いて、何か手助けしてやれると思うんだ」


「で、でも……」


ユリナは追いかけてほしいと言われても素直にそれが出来なかった。


ユリナの脳裏にはまだ、先程のヒロムのあの冷たい眼差しが焼きついていた。


それをほんの少しだが思い出してしまい、追いかけようとしても足が止まってしまう。


すると、そんなユリナを見兼ねたリサとエリカがため息をつくと、すぐさまユリナの手を掴んで走り出した。


「え……二人とも……何!?」


「うじうじしてないで行くなら早く行くよ!!」


「リサの言う通り、早くしないと見失っちゃうから!!」


待って、とユリナは二人に引っ張られながらもヒロムを追いかけていった。


それを確認したガイはため息をつくと、ソラとイクト、そしてシオンに話し始めた。


「ヒロムの「ハザード」を見てどう思った?」


「危険性しかないが、もしヒロムが完全に制御したとなればそれなりの力はあると思うぜ?」


「けど、リスクが高いのが難点だよな」


だが、とソラとイクトの意見を聞いた上で、シオンは二人とは全く違う意見を述べた。


「今のヒロムにとって戦うことが守ることであるなら、「ハザード」の発症にも意味があるはずだ」


「意味、か。

それこそ神のみぞ知る事実だ」



「ならどうする?

このままヒロムのやりたいようにやらせるか?」


強くなる、とソラの問いに対してガイは答えると、続けて話した。


「ヒロムのためにもこのままではいられない。

アイツが手を出さなくてもいいくらいに強くなってアイツより先に敵を倒す。

それがオレらにできる「ハザード」を進行させないための方法だ」


「ま、そうなるよな 」


するとソラはイクトの腕を掴むと強引に連れていこうとする。


さすがに突然のことだったため、イクトも抵抗しようとしたが、ソラは有無を言わさずに連れていく。


「ちょ、相馬さん!?

ちょっと〜!!」




「騒がしい野郎だ 」


「じゃあ、オレらも行こうか」


ガイはどこかへ向かおうと歩き始めるが、シオンはハルカとともにどこに行くんだと不思議そうにガイを見ていた。


「ああ、シオン。

オレの特訓に付き合ってくれないか?」


「何のために?」


「一度手合わせして欲しかったのさ。

何か都合悪いか?」


面白い、とシオンは笑うとガイについて行くように歩き始めた。

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