二二二話 生み出させる力
「狂」の力を高めた影響により広がった痣。
それによって右腕は黒く染まり、右目付近すらも肌が黒く染まっていた。
「さぁ、戦おうぜ!!」
強敵を前にして真助は首を鳴らすと走り出し、走り出すと同時にカズキに向けて黒い雷を放つ。
放たれた黒い雷は狼へと形を変えるとカズキに噛みつこうとするが、カズキは魔力を纏わせた手刀で黒い雷の狼を破壊する。
が、黒い雷の狼を破壊したカズキの手刀が纏っていたはずの魔力が黒い雷とともに消えてしまう。
「そういえばそういう能力だったか?」
「そういう能力だよ。
触れた魔力や能力を断ち切る黒き雷……それがオレの能力だ!!」
真助はカズキに接近すると同時に連撃を放ち、カズキを追い詰めようとする。
が、カズキは魔力を全身に纏うと加速しながら真助の攻撃を順番に回避していく。
さすがだ。
カズキの動きを見ると真助はただそう感じた。
ただの一度で相手の能力について理解する認識力、それに対する適切な対処を施す判断力。
世界とか力とか無駄に言葉を並べていただけのことはあると真助は思っていたのだ。
「当たらなければ意味が無いってか?」
「言わなきゃ分からなかったか?
その通りだがな」
「それならオレは当てに行くだけだ!!」
真助は右手に持つ小太刀……霊刀「號嵐」の刀身に黒い雷を集中させると黒い斬撃を放つ。
放たれた黒い斬撃はカズキに向かっていくもカズキはそれを簡単に避けてしまう。
「これで終わりか?」
斬撃を避けたカズキは真助に問うように言うが、対する真助はその言葉を聞くなり不敵な笑みを浮かべた。
その笑みはまるでカズキの言葉に対する返事のようであり、同時に真助に何かしらの思惑があるのではないかと感じ取れるものだった。
何かが来る、それだけはたしかに分かることであり、カズキもそれを警戒するように構えようとした。
その時だった。
「そういえばアンタは帰巣本能って言葉を知っているよな?」
帰巣本能。
耳にしたことのある者からすれば何の変哲もない言葉だ。
動物などが住処などから離れたとして、学習や経験による記憶ではなく生物として本能的にそこへ戻ってくる生得的なことを指す言葉だ。
当然の事ながらカズキはそれを理解しているし頭の中にあるが、真助はなぜそんなことを口にするのか。
カズキにとってはそこが不思議で仕方なかった。
「戦いを求めるとは申告されていたが……そのせいで頭のネジが外れたか?」
「安心しな。
元から外れてるからな……それに帰巣本能ってのは真面目な話だぜ?」
「どういう……」
どういう意味だ、とカズキが言おうとしたその時。
先程真助が放ちカズキが簡単に避けたはずの黒い斬撃がカズキを背後から襲いかかるように迫っていたのだ。
「な……」
何がどうなって斬撃が背後から襲いかかろうとしてるかはカズキにはわからないことだが、確かなことが一つあった。
この攻撃は避けなければならない、避けなければ何が起きるかわからないということだ。
「くっ」
カズキは背後から迫ってくる黒い斬撃をギリギリではあるが避けると真助と距離を取ろうと後ろへ飛ぼうとするが、真助は驚きの行動を取った。
真助のもとへ戻るように向かっていく黒い斬撃を真助は右手に持つ小太刀で切り裂き、切り裂かれた斬撃は小太刀の刀身に吸収されると大きな黒い雷へとなっていく。
「まさか……」
「悪いな……。
これを狙ってたんだよ!!」
小太刀の刀身を大きくするように黒い雷はさらに大きくなりながら形を変えていき、真助の身の丈以上の長さを持つ黒い刃へと変化した。
長く黒い刃を得た武器を振り回しながらさらに力を溜め、そして真助はカズキに向けて斬撃を放とうとする。
「狂技……魔神斬波!!」
真助の放った斬撃は黒く、そして大きな力を発揮しながらカズキに向かっていき、そして敵の命を斬ろうとするように襲いかかる。
向かってくる斬撃に向けてカズキは魔力の弾丸を放つが、黒い斬撃は「狂」の力を有しているがために魔力の弾丸を簡単に引き裂くとそのまま勢いを落とすことなくカズキに迫っていく。
が、カズキは迫り来る斬撃を前にしているのに驚く程に落ち着いていた。
それどころか通じないと分かっているはずの魔力を右手に纏わせていた。
「無駄だ!!
この斬撃に魔力は……」
「通じないのは理解している。
何度も説明されずともわかっている事だ」
カズキの右手に纏われた魔力が突然膨れ上がると何かの形を得るように動き出し、そしてそれはそのまま剣のような形を成していく。
柄に鬼の装飾が施された黒い剣、魔力が変化したとは思えぬような姿となった剣を手にするとカズキは斬撃に向けて一閃を放つ。
放たれた一閃により真助の斬撃が破壊され、カズキは剣を構えるなり真助に向けて言った。
「魔力を切り裂く力だというならその力では対処できない力を放つだけだ」
「……何をした?」
「知りたいなら己の力で答えを導いてみろ」
「答えとかどうでもいい!!
どうせ倒せば関係ないからな!!」
真助は全身に纏う黒い雷をさらに大きくさせると今まで以上に加速しながらカズキの周囲を駆け、敵の周囲を駆ける中で四方八方から何度も斬撃を放ち続ける。
が、カズキはその全ての攻撃を手に持つ黒い剣で防ぎながら真助に向けて攻撃を放ち、真助は小太刀で防御しながらも駆けていた。
「オマエがそんな武器を隠していたとは驚きだよ!!」
「隠していたつもりは無い」
「まぁ、オマエの考えなんて知らねぇけどな!!」
真助はさらに加速しながらカズキを翻弄しようと周囲を駆け巡る。
だがしかし、カズキはそんな真助の動きなどに動じることも無く剣に力を纏わせると巨大な斬撃を真助に向けて放つ。
「ちい!!」
真助はカズキの放った斬撃を避けると体勢を立て直そうと一度距離を取ると、ひとまず何が起きているのか頭の中で整理し始めた。
「さすがは自称最強……」
(にして一条カズキ……ヤツは何をした?
どこからともなく刀剣や銃器、盾やミサイルなどを出現させる能力だと思っていた。
だがヤツは今、魔力を武器に変化させた。
造形術による魔力を剣の形に形成するとかいうものじゃなく、魔力そのものを実態のある剣に作り替えやがった……)
「人間の先入観ほど怖いものは無い」
真助が頭の中で思考を働かせる中、カズキは突然何かを語りだす。
「初めて見たり聞いたり、経験したりした時に先入観は本質を見ようとせずに表面にあるものしか捉えないで判断させる。
「覇王」と謳われる姫神ヒロムも能力が無いから「無能」と蔑まれるが実際は誰よりも選ばれた存在であり、八神トウマは「天霊」の力について知るとそれを万能だと勘違いして負けを味わっている」
「何の話してんだ?」
「オマエは今、オレの能力について考えていたようだな。
どこかにストックしている武器を出す能力じゃないのか、てな」
まるで心を見透かされたかのように言葉を発するカズキに対して真助は少し表情を歪めてしまう。
そんな真助に向けてカズキはあることを伝えた。
「そもそもその発想が間違っている。
オマエのその発想……物体を転移させる程度の能力なんて弱点だらけで弱すぎるからな」
「ならその手に持ってる剣が答えなのか?」
「察しがいいな。
オマエの言うようにこの剣に答えがある」
「その剣が答えだって言うなら……オマエの能力は魔力を武器などに置換する能力ってことか?」
「……その程度で終わると思ってるなら考え直すべきだ。
オレの能力は人智を超えているのだからな」
「何を……」
見るがいい、とカズキが黒い剣を構え直すと剣に黒い雷が纏われていく。
「何!?」
カズキの剣が纏う黒い雷を見て驚きを隠せぬ真助。
そんな真助に向けてカズキは雷を帯びた斬撃を放つが、真助は困惑しながらもそれを避けてみせる。
そして攻撃を避けた真助はカズキを問い詰めるように言った。
「なんでオマエが「狂」の力を使えるんだ!!」
「理由が気になるのなら教えてやろう。
オレはこの剣を生み出す過程でオマエのその力に対抗出来る剣を思い描いた。
それを元にしてオレはこの剣をつくった……「黒い雷を纏える剣」をな」
「その剣の力だと言いたいのか!!」
「そうだな……それに関してはこの剣に与えた力だ」
与えた?
何を言ってるのか真助には分からなかったが、そんな真助やこの場にいるヒロムたちに向けてカズキは衝撃的な言葉を口にした。
「教えてやるよ。
オレの能力は「オレが求めたあらゆる物を具現化し、あらゆる力を与える創造の力」……その程度の力だ」
「な……!?」
「オレの求めたものをただ具現化するだけの力……あらゆる手段を簡単に壊せる力だ。
今からもう一度、この力を受けてみるか?」
カズキが左手に魔力を纏わせると、魔力は形を変えて蛇腹剣へ変化し、カズキはそれを手に取ると勢いよく振る。
振られた蛇腹剣の刀身が分離しながら鞭のように真助に襲いかかるが、真助はそれを小太刀で防ぐと弾き返した。
「こんなもの……」
「油断するなよ?
オレがつくったのは「相手の命を奪うまで攻撃する蛇腹剣」だからな」
すると蛇腹剣の切っ先の形状が何か生物の頭のようになると意思を持つかのように動き出した。
いや、意思があるのだ。
蛇腹剣を避けようと走り出した真助を見るなり切っ先は真助を捉えながら軌道を変え、真助が小太刀で破壊しようとしたらそれを回避する。
「コイツ……!!」
「おっと。
コレを忘れるなよ?」
カズキは真助に向けて黒い雷を帯びた斬撃を放ち、放たれた斬撃は真助の手から小太刀を弾き飛ばしてしまう。
「しま……」
「さて、せっかくだからもう一つ見せてやろう」
カズキが呟くと同時に蛇腹剣の刀身が枝分かれするように無数に増え、大量に増えた切っ先が真助に向けて一斉に襲いかかる。
「真助!!」
「うぉぉぉぉ!!」
真助は迫り来る分裂した蛇腹剣の切っ先に向けて黒い雷を放つが、黒い雷は引き裂かれるように蛇腹剣に破壊されてしまう。
「オレを楽しませようとした努力は認めてやる。
ただそれだけだ」
「くっ……」
迫り来る刃を前にして真助は諦めかけた。
だがその時、白銀の稲妻と紫色の稲妻が真助の背後からカズキの方へと向かっていくように飛んでいき、そして蛇腹剣の無数に分裂した刀身を破壊していく。
「!!」
「……ようやくその気になったか」
突然のことで驚く真助に対してまるで待ち望んでいたかのような笑みを浮かべるカズキ。
カズキの視線の先、そこには「クロス・リンク」を解いて白銀と紫色の二色の稲妻を身に纏うヒロムがいた。
ヒロムの隣には彼の精霊であるフレイとラミアが並んでおり、それを見た真助はヒロムが何を企てているのかをすぐに見抜いた。
「やめろヒロム!!
あの「クロス・リンク」だけはダメだ!!」
「悪いが真助……もう覚悟は決めた」
「そういう問題じゃないはずだ!!
その「クロス・リンク」を発動すれば……」
「後戻り出来なくなるかもしれない。
そんなことは言われなくても分かってるさ」
だけど、とヒロムはカズキによって檻に閉じ込められているユリナ、チカ、ユキナに視線を向けながら真助に言った。
「これ以上アイツらを苦しませたくない。
ここで終わらせれるなら……オレはこの力を使う!!」
「やめろ!!」
「いくぞフレイ、ラミア。
クロス・リンク……!!」
真助の言葉を無視するようにヒロムが叫ぶとフレイは白銀の稲妻、ラミアは紫色の稲妻となってヒロムを包み込み、ヒロムはそれを身に纏いながら姿を変えていく。
「今のオレに……限界はねぇ!!」
姿を現したヒロム、右半身はフレイを彷彿とさせるような装飾、左半身はラミアを彷彿とさせるような装飾を纏っていた。
ガントレットとロングブーツを装備し、ヒロムは稲妻を纏うと音もなくカズキの前に現れ、拳を叩きつけようと殴りかかる。
カズキは攻撃を防ごうと防御を試みたが、ヒロムの拳は彼の予想を超えた速度だったらしくそれが間に合わず、ヒロムの拳は何にも阻まれることなくカズキを殴り飛ばしてみせる。
「!!」
殴られたカズキは勢いよく吹き飛ぶが、体勢を簡単に立て直すと両手に持つ武器を捨てて拳を構えた。
「ようやく本気になったか。
その「クロス・リンク」の力……見せてみろ」
「ああ、見せてやるよ。
オレたちの限界なき力を!!」




