二二一話 力への挑戦
「オマエたちがオレを倒す……?
ハハハハ……」
ヒロムを守るように立つ真助とギンジは武器を構えながらカズキを視界に捉え、そんな二人の姿を見るなりカズキはどこかおかしそうに笑った。
「笑わせてくれる。
大した力もないオマエたちに何が出来ると言うんだ?」
「力が無いから諦めるとでも思ったか?
悪いがオレたちがオマエより弱いのは分かりきってることだ」
「それに……ここで諦めたらヒロムが頑張ってくれた分が無駄になるからな」
「……なるほど。
仲間意識というやつか。
くだらないな……感情論が何の役にも立たないことを思い知らせなきゃ理解できないか?」
「理解してるさ。
人への思いがどれだけ人の可能性を大きくしてくれるのかはな」
だから、と真助は全身に能力「狂」の黒い雷を纏うと二本の小太刀・霊刀「號嵐」を強く握り、カズキを攻撃するために走り出した。
「力だけのオマエとは違うってことを教えてやるよ!!」
「……面白い。
そこまで言うのなら見せてみろ」
かかってこい、とカズキはそう伝えるかのように手を動かし、それを見た真助は加速しながら距離を詰めていた。
そんな中、ギンジは魔力を纏うとハンマーを振り上げ、思い切り地面を叩いた。
そして……
「岩作造兵!!」
ギンジがハンマーで地面を叩くと彼の周囲に岩の柱が現われ、柱の中から全身が岩や土で構成される人形の兵士が次々に現れる。
「やれ!!」
ギンジが合図を出すと現れた人形兵がカズキに向けて走り出す。
それと同時に真助は横へ逸れるように走っていく。
「数に任せても無意味だということは証明したはずだ」
カズキは冷たく言い放つと同時に指を鳴らし、地面を隆起させるとともに大地を震撼させ、それにより生じた衝撃波でギンジの作り上げた人形兵を破壊していく。
「くっ……!!」
数が多ければ倒せるわけではない。
そのことはヒロムの「クロス・リンク」による一撃である「グロリアス・ミーティア」で証明されたはずだ。
なのにギンジは人形兵を生み出して数で挑もうとした。
何故なのか?
その真意がハッキリしない中、ギンジは再び人形兵を作り出すとカズキに向けて再度走らせた。
「何度同じことをすれば気が済むんだ」
ギンジの行動を無駄としか思えないカズキはため息をつくと冷たい眼差しを向け、睨まれた人形兵は爆発でもしたかのように砕けながら散っていく。
「理解していないのか?
オレを相手にするのなら数ではなく力を示せ」
「んなこと分かってるさ!!」
ギンジは再び地面を強く叩き、今度は彼の前に巨大な岩の塊が現れる。
そしてギンジが右手をかざすと岩の塊はさらに大きくなりながら形を変えていき、その姿は次第に巨人のようになっていた。
「岩神巨激!!」
岩の巨人となったギンジの力は雄叫びを上げるなり拳に力を込めてカズキに殴りかかるが、カズキがそれを防ぐかのように蹴りを放って弾くと殴ろうとした拳が砕かれてしまう。
「まだだ!!」
まだ終わっていない、そう告げるようにギンジが言うと巨人の砕かれた拳が元に戻っていき、巨人はカズキに向けて再び攻撃を仕掛ける。
「自己修復の類か……」
カズキは再び迫り来る拳を避ける中で分析するようにつぶやき、そして岩の巨人に向けて無数の魔力の弾丸を放っていく。
魔力の弾丸は放たれると加速しながら襲いかかり、岩の巨人の体を次々に破壊していくが、同時に巨人は破壊された部位を新たに作り直しながら体勢を立て直していた。
「この程度の傷では壊れないか。
砕くのなら……徹底的にやらなければならないとはな」
カズキが呆れながら言うとそれに反応するように無数の刀剣が彼の周囲を舞うように現われ、そしてそれらは一斉に放たれると岩の巨人を破壊しようと襲いかかる。
迫り来る刀剣を避けることも出来ずに直撃を受ける岩の巨人は魔力の弾丸の時とは違って想像を超えるほどの速度で岩の体を削られていき、そして気づけば巨大な岩の巨人は粉々に砕かれていた。
「ちぃ!!」
「悔しがることは無い。
オマエはここにいる中でもっとも力のない能力者だからな」
「だからって諦めるか!!」
カズキの言葉を否定するようにギンジは強く言うとハンマーを振り回し、そして何度も地面を叩くと一体、二体……と岩の巨人と人形兵を生み出していき、軍隊を思わせるような規模で作り上げるとカズキに向けて行動を開始させる。
が、そんなギンジの努力を否定するようにカズキは右手を敵に向けながら言った。
「諦めなくても実力の差は確定している」
カズキの右手が魔力を纏うと突然衝撃波が放たれ、その衝撃波が人形兵と岩の巨人たちを襲うと同時に全身を風化させていき、そして衝撃波に耐えれなくなった人形兵と巨人は崩れ落ちながら消えてしまう。
「な……」
「実力の差は確定していると言ったはずだ。
オマエではオレには及ばないし、ヒロムたちにすら勝てない」
黙れ、とギンジは強く言おうとしたが、カズキは再び右手から衝撃波を放つとギンジが手に持つハンマーを破壊し、その上で勢いよく吹き飛ばすとギンジを飛ばした先にある壁へと叩きつけるように激突させる。
「が……!!」
壁に叩きつけられたギンジは衝突した際に生じる衝撃によって体全体に激痛が走り、そしてカズキが放った衝撃波によって負った傷も伴って倒れてしまう。
「所詮この程……」
「まだだ!!」
倒れたと思われたギンジは傷を負いながらも立ち上がり、そして全身に魔力を纏うと走り出した。
が、体が負傷してるせいかその動きは先程に比べると少しキレがなく、彼の走る姿を見たカズキもガッカリしていた。
「勇敢と無謀を履き違えるな。
オマエのそれは無謀、ただ醜いだけの惨めな行為だ」
「無謀だから諦めろと言われて簡単に納得出来る思考は持ち合わせてねぇ!!」
ギンジはカズキに接近すると殴りかかるが、カズキは魔力すら纏っていない拳で防ぐとギンジを何度も殴り、彼にトドメを与えるかのように回し蹴りを放つ。
放たれた回し蹴りはギンジの顔に命中、そしてギンジはその力によって蹴り飛ばされると転がるように倒れてしまう。
「くそ……」
「もう立ち上がるな。
これ以上は……」
「オレを忘れてねぇよな?」
すると真助がカズキの背後から斬撃を放ち、その命を狩り取ろうとする。
「ほう……」
(この男を囮にして背後に回ったか。
だが……)
「その程度では通じない」
カズキは右手で迫り来る斬撃を握り潰すと真助に接近し、拳の連撃を放つが、真助はそれを霊刀「號嵐」で防ぎながら攻撃を凌いでいた。
「先程の男よりは幾分かマシだな、「狂鬼」。
囮に利用することによる認識誘導……見事な判断だ」
「悪いがオレはギンジを囮にしたつもりはない」
「ほう。
他に思惑があったのか?」
「そんなもんはねぇよ。
ただ……仲間を囮にしてまで掴みたい勝利はオレにはない!!」
黒い雷を大きくすると反撃と言わんばかりに真助はカズキに小太刀による猛攻を放つが、カズキはその全てを簡単に避けてしまう。
どんなに真助が攻撃を放ってもカズキに掠ることもなく避けられ、小太刀はただ空を切っているだけで終わる。
「どうした?
当たらなければ意味無いぞ?」
「願わくば避けないで欲しいんだけどな!!」
「頑張って当ててみろよ?
そんなに当てたいのならな」
「言われなくてもやってやるよ!!」
真助は「號嵐」に黒い雷を収束させて斬撃を放つが、カズキはまたしてもこれを避けてしまう。
防ぐのでも破壊するのでもなく、ただ最小限の動きだけで避けたのだ。
それはまるで真助に本気を出してみろと挑発しているかのように……
「この野郎が!!」
カズキの動きに少し苛立ちながら攻撃を仕掛けようとするが、カズキはそれよりも先に真助の体に掌底突きを叩きつけ、さらに真助の動きを制限するかのように連続で蹴りを放っていく。
「が……」
「こんなものか、戦闘種族の力は。
オマエたち誇り高い一族の力はこの程度か?」
真助に対して「月閃一族」の力について問うカズキはさらに真助に連撃を放ちながら追い詰めていき、真助は攻撃を放っていた先程から一転して防御に徹させられていた。
防御に専念させられる真助。
そんな真助に向けてカズキはさらに問うように言葉を発する。
「誇り高き一族の末裔がこのザマでは一族を築き上げてきた先代たちが情けなくなってくるな。
人の想いとやらのために戦おうとする「覇王」に感化されたがためにオマエたち一族の運命は悲劇的な末路に導かれるだけだ」
「そんなこと……」
「戦いに全てを捧げて生きてきた一族が感情論に左右される。
それがどれだけ屈辱的なものか。
紅月シオンも栗栖カズマもオマエもあの男の影響で堕落していく。
無様以外の何物でもない姿にな」
「そんなこと……分からねぇだろ!!」
カズキの連撃を受ける真助は黒い雷を全身から放出してカズキに襲いかからせようとするが、カズキはそれを避けるように真助から距離を取ろうと後ろへ跳ぶ。
カズキの猛攻が止まり、真助は構え直すとカズキに向けて一言告げた。
「一族の未来とかそんなもの分かるわけないだろ」
「何?」
「人の運命とかそんなもんは生きてみなきゃ分からねぇ。
強さで全てが決まる世界なんてあるわけが無い」
「そういう世界が存在するからこそ「無能」の名で見捨てられる人間がいる。
理解してないのか?」
「理解してないのはオマエだ。
オマエの言うその男は全てを覆そうと立ち上がって戦っている。
運命だとかそんなものを壊すために……自分の力を証明するためにだ。
そいつが戦っている限り……オマエの言う世界は成り立たないんじゃないのか?」
「力の無い弱者の夢物語に過ぎない。
力に憧れるから現実から目を逸らして幻想に目を向けて夢を語る。
世界とは常に力の支配で成り立つ絶対的なものだ」
くだらねぇ、と真助はため息をつきながら言うと「狂」の黒い雷を身に纏い直し、そしてそれは徐々に大きくなりながらも真助の体の中に吸収されていく。
「世界、世界、世界……。
力、力、力……。
馬鹿の一つ覚えみたいに同じ言葉並べやがってよ。
そろそろ聞き飽きたぜ」
黒い雷が体内に入った影響なのか真助の右頬の黒い痣が広がっていき、広がった痣は彼の顔の右半分を黒く染め、そして右腕をも漆黒に染めてしまう。
変化した体を確認した真助は小太刀を握り直すとカズキに視線を向ける。
「何だそれは?」
「闇に堕ちたヒロムを助けようとして「狂」の力を限界まで発動したオレの体はその力の反動で右腕と右目付近にまで痣が広がった。
だがおかしなことにあの戦闘の後、何も無かったかのように痣は元のサイズに縮小していた」
真助の体の変化に少しの警戒心を抱くカズキに対して自身の身に起きたことを語り始める。
「この痣はオレの体を蝕むはずなのに何故か元のサイズになった。
理由は分からない、だが……こうして力を発動すると痣は大きくなって奥底から力が湧き上がってくる!!」
「得体の知れぬ力に身を委ねたか……」
「たしかに得体の知れない力だ。
けど……奥の手としては十分な力を発揮してくれる。
オマエの言う力としては十分だ!!」
覚悟しろよ、と真助は小太刀を強く握ると体勢を低くしながら構え、そしてカズキを睨みながら告げた。
「ここからのオレは……狂ってるくらいに戦いを求めるからな!!」




