二一六話 向かう先
「雷帝王……?」
シオンの口から出た言葉を聞いたガイとイクトは何が起きるのか気になる様子でシオンを見つめる。
一方でシオンの攻撃に追い詰められているキリハは立ち上がるとシオンを睨みながらその言葉について忠告するように言った。
「余裕があるからって調子に乗ってるなら今すぐ考えを改めた方がいい。
どれだけ力を得てもオレには……」
「右腕と左足……」
「何?」
「今のオマエが負っている大きな傷だ。
その体であのスピードは出せないだろ?」
「オマエ……!!
オレのことをバカに……」
「事実を言っているだけだ。
だから怒りに任せて風の刃をブーメランのように投げるのはやめろよ?」
黙れ、とキリハは左手に風の刃を出現させるとシオンに向けて投げ飛ばし、投げられた風の刃はブーメランのように飛んでいく。
シオンの言った通りに風の刃が放たれ、それを見るとシオンはため息をつくと雷で弾いて天へと打ち返してみせる。
が、それをキリハは不敵な笑みを浮かべながら見ていた。
「は……」
(かかった……!!
どうせ晶眼とかいうので未来視してるといってもほんの一瞬のことだろ?
ならオレの仕掛けた……)
「打ち上げられた風の刃は数秒後に乱回転しながら無数の手裏剣となってオレに襲いかかるように降り注ぐ」
「!?」
「……言ったろ?」
シオンが目を閉じると天へと打ち返した風の刃が乱回転を始め、そして回転すると無数の手裏剣となってシオンに向けて放たれる。
そしてシオンは雷を少し放出して手裏剣を全て防ぐとゆっくりと目を開けてからキリハに告げた。
「オレにはオマエの動きが視えていると」
「コイツ……!!」
(偶然とか一瞬とかそんなレベルじゃあない!!
姫神ヒロムが感覚と経験で相手の動きを予測するのとは訳が違う……!!
コイツのは……本物の未来視だ!!)
シオンの瞳の力「晶眼」の恐ろしさにキリハは無意識なのか意識してなのかは分からないが数歩後退りし、それを見たシオンは彼に冷たく告げた。
「純血種を倒してハイブリッド種の凄さを証明すると言っていたよな?
けど今のオマエはその純血種に恐怖を抱いて逃げようとしてるぞ?」
「違う……!!」
「違う?何がだ?
オマエは本能的に感じたんだろ?
オレの力には及ばないことを……己の力の限界を」
「黙れ!!
オレの能力を攻略したくらいでいい気に……」
「安心しろ。
オレはもうオマエに付き合う気は無い」
決めてやるよ、とシオンは天にかざした右手をキリハの方へ向け、そして大きくしていた雷を今まで見せたことがないほどの規模の大きさへと強化しながら語り始めた。
「オレは「雷鳴王」の上をいく力を手にしようと特訓を続けてきた。
だが何度やっても成果は出なかった。
それはなぜか?
「雷鳴王」の力を超える力が肉体に与える負荷の大きさに対して体が無意識にセーブをかけていたからだ」
「オマエの話など……」
「だが今のオレならそのセーブを解くことができる……。
この瞳の映す未来に従えばな」
いくぞ、とシオンは右手の拳を強く握ると体勢を低くしてキリハに狙いを定めた。
そして……
「雷帝王……轟鳴!!」
シオンの身に纏う巨大な雷は音も立てずにシオンの体の中へと消えていき、それと同時にシオンの姿が消える。
「消え……」
消えた、それをキリハが認識した時にはシオンはキリハの背後を歩いており、そしてキリハの体は無数の雷に貫かれていた。
「……さよならだ。
夢に溺れし弱者よ」
シオンが指を鳴らすと彼の体から雷が溢れ出し、キリハの体を貫く雷が炸裂して彼に大きなダメージを与える。
「がは……」
雷に体を貫かれた上に炸裂したことでキリハは大きなダメージを受けて吐血し、膝から崩れ落ちるように倒れてしまう。
「バカな……」
「今のオレにはこれが限界だが、これだけのことが出来るこの力こそが雷帝王……オレの覚悟の力だ」
シオンの姿、それは先程までとは異なっていた。
雷がマントのようになり、そして全身に雷の鎧のようなものが纏われていた。
が、その姿は不完全なのかシオンの言葉が終わると音を立てることも無く消えてしまう。
そしてシオンの瞳は色のないような白から本来の赤い瞳に戻り、シオン自身はゆっくりと座り込んでしまう。
「シオン!!」
心配になったガイとイクトはシオンを守るように立つと武器を構え、キリハが起き上がってきても戦えるようにしていた。
が、シオンの攻撃を受けたキリハは起き上がる気配がなかった。
キリハが倒れたまま起き上がらない。
ただそれだけのことでこの戦闘は結末を迎えた。
「……倒したのか?」
「倒したはずだ。
……オレの辛勝だがな」
拘束しろ、とシオンはイクトに指示を出すように告げ、イクトは面倒くさそうに影の縄でキリハの体を縛り上げていく。
「これでいいか?」
「とりあえずはそれでいい。
……目を覚ましたら尋問するからな」
「方法は?」
「痛みを与えてもコイツは話をしないかもしれない。
だから危険な方法でいく」
「?」
「それは一体……」
「見てればわかるさ」
シオンはイクトの肩を借りながら立ち上がると倒れるキリハのもとへ歩み寄り、右手の人差し指と中指に雷を纏わせる。
そしてシオンは雷を纏わせた二本の指をキリハの額に当てると雷をキリハの中へと流し込んでいく。
何をしているのか、ガイは何が起きてるのか分からなかったがイクトだけは違った。
「オマエまさか……」
「ああ、コイツの頭にこっちから電気信号を送って強制的に喋らせる。
下手な尋問で耐えられるよりは自分から情報を話すように仕向けられたことの不甲斐なさで追い込まれる方が面白い」
「エグいことを……」
「ぐっ……」
シオンがキリハの額から指を離すと、倒れていたキリハはゆっくりと体を起こしてシオンたちに向けて言った。
「オレは話さ……ない……!!」
「残念だが「竜鬼会」について話すように電気信号を叩き込んだ。
オマエが頭の中でどう思おうがオマエは勝手にオレたちに情報を与えてくれるようになってるんだよ」
「ふざけるな……!!
オレを殺せ……!!」
殺さない、とシオンは首を鳴らすと雷をキリハの左腕に向けて放ち、放たれた雷はキリハの左腕に当たるとそのまま敵の腕を焼いていく。
「がぁぁぁぁぁあ!!」
「あとは右足だけだ。
四肢を失いたくないなら諦めな。
抵抗すれば最後の足を攻撃してから情報をもらうだけだからな」
「く、クソが……!!」
為す術もなく一方的に追い詰められるキリハはシオンに向けて憎悪と殺意に満ちた視線を送りながら睨むが、シオンはそんなこと気にすることもなく倒れる敵に指示を出すように言った。
「さて……教えてもらおうか。
オマエたち「竜鬼会」の目的全てと他の仲間がいるであろう居場所と潜伏先を」
「こ、ことわ……」
「拒否権はオマエにはない」
シオンは自身の指示に背こうとするキリハの頭を掴むと敵の全身に雷を流し込み、断末魔のような悲鳴を上げさせながら告げた。
「ああああああああぁぁぁ!!」
「さて、苦痛から解放されたいなら答えろよ。
今のオマエたちの目的は一体何なのかをな」
激闘の末敗北したキリハは苦痛にもがき、そんな敵に情けをかけることも無くシオンは情報を聞き出そうとガイとイクトの前で尋問を始めた……
***
シオンたちがキリハとの戦いを終えて尋問を始めようとしている頃……
別行動を取るヒロムと真助は商店街のベンチに腰掛けて座っていた。
「……」
「……」
二人はどこか退屈そうにある方向を見ていた。
その視線の先には雑貨屋があり、ユリナとユキナ、チカが三人で楽しそうにショッピングをしている。
「……ヒロム。
目的地はここじゃないよな?」
「当たり前のこと言うなよ。
オレたちは人を迎えに行く途中だ」
「止めなくていいのか?」
「別にいいだろ。
ああいうのもいい気分転換になるんじゃねぇの?」
「……優しいな」
「一応、な。
冷たくしたら後で怒られるからな」
たしかに、と真助が笑っていると二人のもとへと誰かが近づいてくる。
誰が来たのか、それを確かめようとヒロムと真助が視線をそちらに向け、そして視線の先にいた人物に真助は意外そうな顔を見せた。
「おお、オマエかギンジ」
「来ちゃ悪いのか?」
逆立った銀髪の少年・岩城ギンジがため息をつくなり尋ねるような言い方をし、それに答えるように真助は首を横に振るとなぜここにいるのかを尋ねた。
「なんでここに来たんだ?」
「今さっき退院したのさ。
あの決戦の時、「ハザード・チルドレン」の足止めで負った傷を治してた。
退院した直後に団長って人からヒロムたちに合流するよう言われて屋敷に向かう途中で出会ったんだ」
決戦、というのは「八神」との戦いの時のことだ。
彼は能力強化の人体実験を受けた後遺症で「ハザード」に発症、そして前回の戦闘ではその「ハザード」を利用して作られた兵士「ハザード・チルドレン」の足止めを担当していた。
その際のダメージと「ハザード」の進行によりシンクと同じように入院していたのだが、それを終えるなり白崎蓮夜の指示でヒロムたちに合流しようとしていたと言う。
「何のためか聞いたか?」
「とりあえずヒロムが何かするだろうから力になってやれってさ。
何かするのか?」
「……人を迎えに向かうところだ。
その護衛任務だがどうだ?」
「面白そうだな。
ついて行くよ」
「……何も面白くはないと思うけどな」
「で、他に人を待ってるのか?」
「ああ、ちょうど今……」
お待たせ、とユリナがユキナとチカを連れてヒロムたちのもとへと戻ってくる。
戻ってくるなりユリナはヒロムに一言謝った。
「ごめんね、待ってもらって」
「いや、大丈夫だよ。
何か買ったのか?」
「ううん、もう少し見ていたかったけど待たせるのも申し訳なくて帰ってきたの」
そうか、とヒロムは一言言うと立ち上がり、それに続くように真助も立ち上がる。
そしてヒロムは立ち上がるとユリナたちにギンジのことを伝えた。
「今から向かう場所にギンジも連れていくことになった。
まぁユキナは初めましてだよな?」
「え……うん。
別に関心はないけど」
「せめて本人がいないところでそういうの言ってくれないかな?
オレ目の前にいるのに……」
「ユキナって呼んでくれていいわ」
「簡単な自己紹介だな……。
岩城ギンジだ、ギンジでいい」
「……さて、お話はその辺で終わってくれるか?
そろそろ迎えに行くぞ」
ユキナとギンジ、初対面の二人が挨拶を交わすのを見るとヒロムは先に歩き始める。
それに続くようにユリナはユキナとチカと一緒に後ろを歩いていき、真助はギンジとともに後ろを守るようにゆっくりと歩き始めた。




