二一四話 戦闘種族
キリハの口から出た言葉、それはシオンだけでなくガイやイクトをも驚かせるものだった。
「アイツが……」
「シオンや真助と同じ……」
「オマエが「月閃一族」の人間……だと？」
「ああ、それもハイブリッド種のな」
ハイブリッド種、その言葉に疑問を抱くガイとイクトはキリハにそれを確かめるように質問しようとしたが、それよりも先にシオンがキリハに攻撃しようと殴りかかった。
キリハはそれを蹴りで防ぐと短剣を構え直し、すぐにシオンに斬りかかろうと動き出す中でガイとイクトの感じた疑問を解決させるように語り始めた。
「アンタや鬼月真助、それに栗栖カズマのような純血種を超えるために生み出されたのがオレだ。
「ネガ・ハザード」の実験を用いて竜装術を得たオレはさらに人体実験を受けて「月閃一族」の力を手に入れた!!」
キリハはハイブリッド種としての説明をしながらシオンに向けて斬撃を放つが、シオンは雷を纏うことで得たスピードを活かして回避していく。
が、キリハもシオンに負けじと斬撃を放つ短剣の速度を増していき、二人の攻防はガイとイクトが簡単に手出し出来ないものとなりつつあった。
が、そんな中でも余裕のあるキリハは続けて自分についての話をシオンに向けて語る。
「かつての戦闘種族として猛威を奮って畏れられていた一族は滅び、そして今いる末裔はその誇りすら失い堕落している。
だからオレは力こそが全てだったあの戦闘種族を再び繁栄させるためにその力を宿した。
この力で純血のオマエを倒し、新たな存在であるオレが優れていることを証明して全てを始める!!」
「繁栄？
その畏れられていた一族ってのはもはや人の記憶から消えかけているのにか？」
「忘れているなら植え付けるだけだ。
「月閃一族」の力を……その存在の偉大さを」
「そんなもん繁栄じゃない……ただ支配だ!!」
「それの何が悪い!!
「覇王」の軍門に下ったオマエが偉そうに言葉を並べるな!!」
キリハは足に魔力を集めるとシオンの腹を蹴り、さらに目にも止まらぬ速度で何度も斬撃を放つとそれをシオンに喰らわせようとする。
シオンは蹴りを受けたことにより一瞬動きが制限されてしまい、それによって回避行動が取れなくなって斬撃をその身に全て受けてしまう。
「がっ……!!」
「戦闘種族は戦いの中で生きているからこそ強くあれる。
オマエのその今の不甲斐ない姿がそれを物語っている!!」
斬撃を直撃で受けたシオンはその痛みによって動きが止まり、それを逃さぬようにキリハは次から次に短剣でシオンの体を斬っていく。
肉を引き裂くかのように放たれていく斬撃、シオンの身に襲いかかるそれを止めようとガイとイクトは動こうとしたが、キリハはそれを阻止するように二人に向けて斬撃を放つ。
「「!!」」
放たれた斬撃は二人の方へ向かっていき、ガイとイクトは迫り来る斬撃を回避すると構え直すが、そんな二人に向けてキリハはシオンに攻撃しながら告げた。
「オマエらの相手は後回しだ。
まずは旧型の純血種を殺して新型のオレの優れていることを証明しなくちゃならないからな!!」
キリハは短剣を強く握るとシオンに向けて勢いよく振り下ろすが、その一瞬に大きな隙をつくってしまう。
シオンはそれを見逃さず、キリハの短剣が来るであろう位置に雷を集中させて盾のように展開し、振り下ろされる短剣を弾き返してみせた。
「何!?」
「オラァ!!」
短剣を弾かれたことにより一、二秒ほど無防備になったキリハの体にシオンは雷を纏わせた拳を叩きつけ、敵を大きく殴り飛ばした。
……が、キリハは吹き飛ばされた中で体勢を立て直すように受け身を取ると短剣を構え直した。
「……驚いたな。
オレの攻撃を受けてまだ動けるなんてな」
キリハは少し驚きながら言うが、それもそのはずだ。
キリハが放っていたのはヒロムが得意とする格闘術からの拳撃やイクトの影の腕の拳などの打撃ではなく、人を斬り殺すための手段である斬撃だ。
人の肉を切り裂く一閃、血を流させる鋭き痛み、時には容易に命を絶つその力を何度も受けながらシオンは何も無いかのように動けている。
が、その理由をシオンが語らずともキリハは彼の今さっきの行動で分かっていた。
「まさかオレの連続攻撃を斬撃を受ける瞬間に纏ってる雷をその点に集中させることで簡易的な盾にして防いでいたんだな。
傍目からは目にも止まらぬ速度の連続攻撃にやられてるように見えるのに……芸達者な野郎だな」
「……勝手に言ってろ」
「何？」
「そういう話がしたいのなら勝手に言ってろ。
オレの狙いはもう達成した」
「何を……」
何を言っている、そう口にしようとした時だ。
キリハの短剣が突然雷を帯び始め、それが炸裂すると短剣が砕け散っていく。
「何!?」
突然武器が破壊されたがために動揺を隠せないキリハ。
そんなキリハに向けてシオンは首を鳴らすと彼に向けて何をしたのか懇切丁寧に解説していく。
「オレの狙いは最初から短剣の破壊だ。
雷を纏うオレの速度に対応出来るオマエを相手にこのまま長々と戦い続けるのも癪だったから破壊させてもらった」
「いつの間にこんな仕掛けを……」
「オマエが自分から仕掛けにハマってくれたんだろ？
強さがどうのとかオレの姿がどうとか言いながら斬りまくって来たのは」
「まさか……」
「頭悪いだろオマエ？
オレはオマエの本気の一撃を防いだ上で武器破壊するためにオマエの連撃を防ぎながら短剣に炸裂させるために帯電させてたんだよ」
「そんなこと……」
「少し前のオレなら無理だった。
だが強くなろうとするオレの意思に力が応えたからこそ成せた技だ」
シオンの芸当を未だに信じられないキリハは戸惑いを隠せずに余裕を無くしつつあるが、そんなキリハに向けてシオンはただ一言真実を告げた。
「かつてのオレならオマエの言葉に理解を示していた。
だが今のオレにはオマエの言葉は響かない」
「どうして……」
「力だけでは超えられないものがある。
それを真に理解していないオマエにオレは倒せない」
「黙れ!!
オマエの能力はオレより……」
「オレの力よりオマエが優れてるって？
そういうのはオレを倒してから言うんだな」
シオンは雷を纏い直すと走り出し、キリハはそれに対抗するように魔力を大きくすると走り出した。
そしてシオンに接近するとキリハは両手に魔力を収束させ、それを鋭い刃を持つ剣のように変化させるとシオンに襲いかかる。
が、シオンはそれを避けようとせずに右手に雷を纏わせるとキリハの魔力の剣を拳で破壊していく。
「何……!?」
「悪いがオマエの攻撃は読めてる」
シオンに剣を破壊されたキリハは驚き、そんなキリハに冷たく一言告げるとシオンは彼の顔に拳を叩きつけ、さらに足に雷を纏わせると連続で敵の体を蹴る。
雷を纏った蹴りはキリハに直撃、それによって大きなダメージを与えながら敵を追い詰めつつあった。
「な、何が……」
「ハイブリッド種には無いようだな。
戦いの中で学ぶ力というのは」
「学ぶだと？
強さがあればそんなもの……」
違うな、とシオンは雷をさらに足に纏わせるとキリハを蹴り飛ばし、蹴り飛ばされたその勢いのまま倒れたキリハに向けて告げた。
「ただ力が強くても限界がある。
それを乗り越えるために己と向き合う必要がある」
「……そんなもの弱者の戯言!!
オレには不要だ!!」
「だったらオマエはその程度の力しかない!!」
シオンは身に纏う雷の一部を右手に集めるとそれに形を与え、そして槍へと変化させると手に取って再び走り出した。
「造形術!?」
「オマエの情報にはなかったか？
なら訂正しておけ!!」
キリハが立ち上がると同時にシオンは雷鳴を轟かせながら姿を消し、シオンが姿を消した途端キリハの周囲に無数の雷が降り注がれていく。
降り注がれる雷は徐々に大きくなり、そして気づけばシオンはキリハの頭上に姿を見せていた。
「な……」
「オマエの敗因はただ一つ……。
「月閃一族」を甘く見た事だ!!」
シオンが槍をキリハに向けて投げる瞬間、槍は無数の雷の槍へと姿を変え、さらに雷鳴を轟かせると一瞬でキリハに襲いかかって敵の身を焼き払おうとする。
「御神槌雷槍!!」
シオンが叫ぶとキリハに襲いかかる雷の槍は一つとなり、そして爆音を響かせると同時に炸裂してキリハを吹き飛ばす。
その力の大きさ故に周囲に力の余波となる衝撃が走り、ガイとイクトはそれに吹き飛ばされぬように耐えていた。
「くっ……!!」
「こんな大技隠してたのかよアイツ!!」
驚いたか、とシオンは着地するなりイクトに言い、シオンが着地すると力の余波が消えたのか周囲を走る衝撃が止んだ。
「オレにも隠し玉の一つや二つ用意してあるんだよ」
「……みたいだな。
かなりビビったけど……」
「それよりヤツは？
倒せたのか？」
「……いや、まだだ」
「何？」
「さすがと言うべきか……ヤツも竜装術に認められた能力者ということはある」
「どういう……」
「ああああああああぁぁぁ!!」
どこからともなく聞こえてくる叫び声。
それは人の叫び声の枠を超えたもの……まるで竜の雄叫びにも似たものだった。
その雄叫びにも似た叫び声がする場所に風が勢いよく集まっていくとその中心にいる男は風の翼を広げながら叫んだ。
「ぶっ殺してやる……紅月シオン!!」
シオンの大技を直撃で受けたはずのキリハ。
にもかかわらずその身には大したダメージはなく、それどころか姿は変化していた。
両手両足には魔力と風の爪、体を覆うように集まる風は鎧のようになり、そして風は翼だけでなく尻尾までも作り上げていた。
「竜装術……」
「あれがアイツの……」
「竜装術の再生能力とは厄介だな。
いや……「ネガ・ハザード」特有の再生能力か」
黙れよ、とシオンが観察するように呟くのを聞いて苛立つキリハは彼を睨みながら宣言した。
「オマエを殺す!!肉片一つ残さず殺す!!
ここまでオレをバカにしたヤツは初めてだ!!
オマエは……絶対に殺す!!」
「……どうやら思考回路が壊れたようだな。
今のアイツはただの殺戮兵器だ」
「どうする？
ここは三人で……」
オレがやる、とシオンは作戦を立てようとするイクトに言うと続けてガイと彼に向けて伝えた。
「アイツはオレの手で倒す。
ヤツの言う純血種とハイブリッド種とかいうわけのわからん比較を終わらせる」
「この姿のオレを今のオマエが倒せるとでも言いたいのか!!」
シオンの言葉を聞くなり怒りを剥き出しにしながらキリハは無数の斬撃を放つが、シオンは雷を放出して防ぐと体を雷と同化させていく。
「雷鳴王」、シオンの持つ力の中でシオンの身体能力を強化できる技だ。
雷と同化した体、その影響を受けて長く伸びる髪、そして鋭さと殺意を増した瞳はキリハをしっかりと捉える。
「ぐ……。
オマエにはそれが残っていたか。
だがオレには及ばな……」
「勘違いするな。
オレの隠し玉はまだ他にある」
するとシオンの瞳が一瞬白く輝く。
「教えてやるよ。
「月閃一族」のみが……選ばれた一族のみがその身に宿す力をな!!」
