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レディアント・ロード1st season   作者: hygirl
竜装魂霊編
211/672

二一一話 想言


屋敷のユリナの部屋。


正確には屋敷にある一室を宿泊用にユリナが借りた部屋だが、ユリナが宿泊しやすいようにとフレイたちが用意しているためユリナのための部屋と言っても過言ではなかった。


その部屋でユリナは可愛らしいピンク色のパジャマ姿で洗濯の終わった衣服を畳んでいた。


衣服を畳む中、ユリナはヒロムのことを考えていた。


「ヒロムくん……大丈夫かな」

(体の四割って言われてもあまり分からないから、ヒロムくんの体に異常が出てることくらいは分かったけど……。

もしかして苦しいとかあるのかな?

体質が変わったりとか……)


「はぁ……。

ヒロムくんのことが分かっても私も頭悪いからわからないよ……」


ユリナはため息をつくと小さく呟き、そして衣服を畳む手を止めてしまう。


「……こんなことならもっと勉強しておけばよかったかな」

(こんな私だからヒロムくんも話すの躊躇ってたんだもんね……)


ヒロムのことを知るもどうしていいか分からないユリナは少し弱気になってしまう。


ユリナが弱気になっている中、部屋の扉を誰かが三回ノックした。


「あっ、今開けるね」


誰が来たのか、扉の先に誰がいるのか少し気にしながらユリナは扉の方へと向かい、扉の先で待つ誰かを迎えようと扉を開けた。


ゆっくりと開けられた扉、その先に立っていたのはヒロムだった。


「よぉ」


「ヒロムくん……どうかしたの?」


「いや、その……少し話をしたくてな」


「そ、そうなんだ。

あっ、部屋に入って話しよ……」


どこか気まずそうなヒロムに少し緊張しながらユリナは部屋に案内し、ヒロムは恐る恐る部屋に入っていく。


ユリナは部屋の扉を閉めると鍵をかけた。


別にヒロムを閉じ込めようとしてるわけではない。

ヒロムがここにいると嗅ぎつけてリサたちが来る恐れがあるから未然に阻止しようとしているのだ。


「あっ、好きなところに座ってね……」


「あ、ああ……じゃあ遠慮なく」


ユリナに言われてヒロムは床に座り、ユリナは目線を合わせられるように隣に座った。


「……」


「……」


が、ヒロムとユリナは沈黙によって話が始まらず、部屋は静寂に包まれていた。


「……」


「……ど、どうかしたの?」


静寂を払うようにユリナが言葉を発し、ヒロムは少し間を置くとユリナに言った。


「……今日は色々とすまなかった。

その、迷惑かけたな」


「き、気にしないでよ。

ヒロムくんにも考えがあったんだし、それを言うなら私の方も謝らないと……」


「いや、悪いのはオレだ。

その……ユリナのことを甘く見てた」


ヒロムが何を言っているのか分からないユリナは首を傾げ、そんなユリナにヒロムは説明するかのように話した。


「ただでさえオレは「八神」や他の敵と戦うことがあるのにそれにユリナを巻き込んでしまってた。

だからこれ以上余計な心配をかけて気持ち的に追い詰めたくないって思った。

だから説明出来るような環境になってから順に話そうとしてた」


「う、うん。

それはヒロムくんが教えてくれたから……」


「けど多分、そう思ってても説明しなかったかもしれない。

ユリナはトウマが現れてアイツがオレの事を話しただけで泣き崩れていたその姿を目の当たりにしてたからオレは……これ以上追い詰めるようなことは避けようと説明しなかった気がするんだ」


「……」


「……無責任だよな。

ユリナのためとか言いながら都合よくすませようとしてる。

結局は……」


違うよ、とユリナはヒロムの手を握ると優しく伝えた。


「都合がいいとかじゃないよ。

ヒロムくんは今まで一人で背負おうとしてくれてたんだから。

私たちのことを気にかけてそうしてくれてたなら謝らなくてもいいんだよ?」


「だけどその結果ユリナをあんな風に怒らせた。

どんな形で解決したにしてもオレの判断は間違ってた」


反省の色を見せるヒロムだが、そんなヒロムに向けてユリナはある事を伝えた。


「あのねヒロムくん。

間違ったとか間違ってないとかって誰にもわからないと思うの。

ヒロムくんが判断したことが正しい時もあるだろうし、間違ってる時もある。

人間なんだからそんなの仕方ないよ」


「ユリナ……」


「それに……謝らなきゃならないのは私の方なんだし」


「どういう意味だ?」


「……ヒロムくんがそうやって気にかけてくれてるのに私はヒロムくんのためにってわがまま言って泊めてもらったり色んなことさせてもらってたから、迷惑だったんじゃないかなって」


そんなことない、とヒロムは言うがユリナは首を横に振ると彼に向けて伝えた。


「ヒロムくんは優しいから気にしてくれてないだけだよ。

私今までヒロムくんに無茶ばっかり言ってたから」


「ユリナはオレのためを思ってくれてたんだろ?

気にしなくていい」


「でも……」


「オレはユリナに一度ひどいことを言った。

それでもこうして力になってくれるのはありがたいことだと思ってるよ」


ヒロムが何のことを言ってるのか分からないユリナは不思議そうに彼を見つめ、その視線を受けたヒロムは少し気まずそうに何についてかを話した。


「オレが「ハザード」に発症したんじゃないかって時にガイと揉めただろ?

その時にユリナに……」


「あっ……」


どうやらヒロムの説明で思い出したらしく、ユリナは少し引きつった笑顔を見せた。


「あの時の……」


「そうあの時の……」


『そろそろ黙れよ……!!』


ヒロムとガイが決闘を行う流れになった時、それを止めようとしたユリナに向けて冷たくヒロムが言い放ったこの一言。


それを思い出したユリナはぎこちない笑顔を見せ、当の本人は申し訳なさそうにしていた。


「その……すまなかった」


「……あの時はちょっと傷ついたかな。

ヒロムくんにあんなこと言われるとは思わなかったから……」


「……本当にすまなかった。

あの時は……」


「大丈夫だよ。

ただ心配されるくらいなら助けて欲しいって思って言っただけって分かってるから」


「……そう解釈されると恥ずかしいな」


「いつも優しいヒロムくんがあんな風に言うなんて何か理由があったからだってちゃんと分かってるもん」


それに、とユリナはヒロムに向けてぎこちなさの無くなった笑顔を見せながら今の気持ちを素直に伝えた。


「ヒロムくんは何かあればすぐに助けてくれるから私は安心していられるって思ってるの。

だから今からは必要以上にわがまま言ったりはしないように気をつけようと思うの」


「オレからすればユリナよりリサたちの方がかなりわがままな気がするけどな」


「そうかな?」


「……まぁいいや。

とりあえずユリナには改めて謝りたかっただけなんだ」


「そっか……。

あ、あのね……もう少しお話しない?」


「わがまま言わないって今さっき言ってたのにもう言うのか?」


「あ、これは……」


冗談だよ、とヒロムはユリナの頭を撫でながら言い、頭を撫でられたユリナは頬を赤く染める。


頬を赤く染めて恥ずかしそうにするユリナに向けてヒロムはただ優しく言った。


「ユリナが話したいのなら好きなだけ付き合うよ」


「……うん!!」


***


同じ頃……


誰もいないキッチン。


大人数での夕食だったが食器類は全て綺麗に洗われて食器棚に陳列されていた。


「はぁ……」


ため息をつくなりキッチンへと入ってきたガイは頭を掻きながら食器棚からグラスを取り出し、冷蔵庫の前に移動すると扉を開けて、烏龍茶の入った容器を取り出してグラスに注いでいく。


「……」


「あれ?

盗み食いか?」


烏龍茶をグラスに注ぐ中、イクトがキッチンへ顔を出すなり彼に声をかける。


イクトはガイに声をかけると歩み寄ろうとキッチンに入り、食器棚を開けるとガイと同じようにグラスを取り出した。


「オレももらおうかな」


「……喉が渇いただけか?」


「何のこと?」


とぼけるなよ、とガイは呆れ気味に言うと烏龍茶を一口飲み、そしてイクトに向けて言った。


「誰かから何か話を聞いてここに来たんだろ?

でなきゃオマエがわざわざこんな時間にオレのところに来るわけがない」


「あらら……信用ないね、オレは」


「信用してないわけじゃない。

オマエがわざわざオレに声をかけたことに理由がないわけが無いからな」


「そうかい……。

まっ、さっき巫女さんから聞いたんだよ」


「ハルカから?

何を?」


イクトが言う「巫女さん」。

それは雨木ハルカのことだ。


彼女の家は神社で、それが理由でイクトは親しみを込めてハルカをそう呼んでいる。


ヒロムのことを「大将」、ユリナのことを「姫さん」と呼ぶのと同じような感覚で……


だが問題はイクトがハルカから何を聞いたかだ。


「何について聞いたんだ?」


「姫さんたちが大将のことになるとある意味悪い方向に共感していくって話」


「……あれか。

ヒロムへの好意を持つとなぜかそれに共感して同じようになろうとする……そのせいでユリナたちは変わりつつある」


「悪いことなのか?」


どうかな、とガイはイクトに烏龍茶の入った容器を渡すと話を続けた。


「良くも悪くもない……これは人の捉え方による。

ユリナたちは良く思ってるが、ハルカや……オレは悪いと思ってる」


「……気にいらないのか?

大将ばかりモテるのが」


「そんなんじゃねぇよ。

ただユリナたちがこのままヒロムにばかり囚われるのはどうかと思うけどな。

……全員が幸せになる道はないからな」


「ふーん……。

オレはてっきりかつて恋したユリナがヒロムに夢中になるのが嫌なのかと思ってた」


イクトの何気ない一言、それを聞いたガイは思わず吹き出してしまう。


吹き出した勢いで少しむせてしまい、そしてガイは急に何言うんだと言わんばかりにイクトを睨みつけた。


その鋭い視線を受けたイクトは笑うとガイに向けて言った。


「気づいてないと思ったか?

「ハザード」のことを話した時も誰よりも怒ってたし、何よりガイって姫さんに優しすぎるからな」


「気のせいだ」


「気のせいではないだろ?

少なくとも姫さんのことを好きだったからこそ今の変化を目の当たりにしてショックだったんだろ?」


「……ちっ。

オマエってたまに面倒な事するよな」


「どうも」


「……好きだったよ、ユリナのことは。

でも諦めたのはそんな理由じゃない」


「どんな理由で?」


「……見てて辛くなったのさ。

ヒロムのことばかり嬉しそうに語るユリナの笑顔がな」


なるほど、とガイの失恋にも近い話を聞いたイクトは頷きながら話を聞き、そしてガイに向けて言った。


それはからかうような言葉ではなく、真剣なものだった。


「気持ちはよく分かったけど、伝えなくていいのか?」


「オレの気持ちをか?」


「伝えなくて後悔とかないの?」


「……後悔ならとっくにしたさ。

だから今は応援することにした」


ガイはグラスに入った烏龍茶を一気に飲み干すとグラス置いてため息をつき、そしてイクトに告げた。


「少し気を紛らわせたい。

手合わせに付き合え」


「今から?」


「……誰のせいでこうなったと?」


「了解ですよ」


イクトは少し嫌そうに返事をすると烏龍茶を飲み、そしてガイとともにキッチンを後にした……



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