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レディアント・ロード1st season   作者: hygirl
精神干渉編
21/672

二一話 覇王と閃剣

オレには憧れを抱く者が二人いる。


昔から付き合いのある二人だ。



一人は純粋な人だ。

あの人は優しい、優しすぎる。


オレが小学生低学年の時に上級生と喧嘩した日も自分のことのように泣いていた。

怪我していたいのはオレだというのに……。


それ以来怪我をすると心配そうに声をかけてくれた。

いつからかオレはあの人に対して特別な感情を抱くようになっていた。


そんなあの人が中学になってクラスメイトから言いがかりをつけられていた。


「そうやって優しくして男の気を惹こうとしてる」と。


あの人は違うと必死に訴えていたが、日が重なるにつれてあの人はクラスメイトからいじめを受け始めた。


止めないと、と思ったがあの人はそれを拒んだ。


「気にしないで。

私が悪いから……」


あの人のあの寂しそうな瞳を今も覚えている。


中学生にもなれば抱いていた感情が恋心だというのはわかった。


だからこそ、オレはあの人のために動きたかった。


でも、いざとなれば何もできなかった。


そんな中であの人を助けたのはアイツだった。

オレが憧れるもう一人の男。


アイツは昔から変わらないくらいに怠惰だった。

なのにあの時のアイツは妙にやる気になっていた。


「ギャーギャーうるせえな。

そいつが何しようが勝手だろうが」


アイツの一言にクラスメイトは怒り、アイツを潰そうと不良に潰すように依頼した。

その数は後から聞いた話じゃ五十人はいたらしい。


だが、アイツはその不良全員を無傷で倒した。


そして、アイツは依頼主であるクラスメイトを教室に人がいる中で殴り飛ばした。


相手は女子だ。

男子が女子に手を出したと騒ぎになったが、騒がしい教室を一喝して黙らせるとその女子に告げた。


「自分じゃ何もできないくせに調子に乗るなよ?

次にふざけたことしたら……オマエの希望全部潰すぞ?」


アイツの一言、それはあの人のいじめを完全に止め、そしてあの人を守った。


あの人にとってアイツは恩人になった。


それまでもあの人はアイツに対してオレには見せない笑顔をたまに見せていたし、アイツのことをよく気にかけていた。


でも、それ以来あの人はアイツのことばかりだ。


何かあればアイツのため、何かあればアイツのこと、何かあればアイツについて。


何か行動しても、何か話し始めてもアイツが出てくる。


あの人にとってアイツは完全に特別になり、あの人にってアイツは自分のすべてになっていた。


もうオレはただの友達でしかない。


あの日抱いた恋心を、自分の気持ちを伝えるまでもなく終わりを感じた。

今告白してもここまであの人のわかりやすいアイツへの恋心には勝てない。



そう思ってもオレは気持ちを伝えようとした。


でも、いざとなれば恥ずかしくなり、結果がわかっていたからはぐらかした。


「オレと付き合ってほしいって言ったらどうする?」


遠回しにしか言えなかった。


あの人は顔を赤くして照れていたが、それでもオレにはわかっていた。

ここで答えを聞かなくても……アイツを選ぶことは。


「うれしいけど……私じゃガイに迷惑かけちゃうよ」


あの人なりの優しい断り方だ。

わかっていたからこそ、それがより一層わかる。


オレはそこで恋心を忘れ、ただあの人の恋を応援しようと、あの人のためにもアイツを守ろうと決めた。



なのに今アイツはあの人を悲しませている。


オレはそれが許せない!!



***


ヒロムとガイ、互いに睨み合いながら構えている。

ソラたちは止めようとしたが、二人のその姿に止めるのを躊躇っていた。


そしてユリナは涙を流し、泣き崩れていた。


「いい加減にしろよ、オマエ」


ガイは「折神」を抜刀できるように構え、そしてヒロムの動きに警戒していた。


ヒロムは苛立っているらしく、ただガイを冷たく睨んでいた。


「ああ?」


「オマエのために泣いてるんだぞ?

なのにそのオマエが悲しませてどうするんだよ?」


「……事実だろうが。

「ハザード」が発症してどうにかしなきゃならないのは変わらない。

それにオレはオレの目的がある」


「そのために心配してくれる人を悲しませるのか?」


「オレが守ればいいだけだ。

そのためにも戦う」


「……だから、そのためにユリナを悲しませるのかって言ってんだよ!!」


ガイは我慢が限界に来たらしく、「折神」を抜刀するとヒロムに斬りかかるが、ヒロムはそれを難なく避けるとガイに殴りかかる。


ガイはヒロムの拳を鞘で防ごうとするが、ヒロムはそれを察知したのか突然その場で回転してガイを蹴り飛ばす。


「く……!!」


「遅いんだよ!!」


ガイが立て直そうと考えた時にはヒロムはガイの目の前におり、すでにヒロムの拳がガイの腹部に命中していた。


「が……」


「この程度か?」


ヒロムはそのまま何度もガイの腹部を殴り、ガイに次々と攻撃を加えていく。


魔力を纏うガイだが、それでもヒロムの猛攻を受けて少しずつダメージを受けていた。


ガイはヒロムの攻撃を受ける中で何とか体勢を立て直そうと考えるが、ヒロムの猛攻は徐々に過激になっていき、ヒロムはガイを何度か殴ると勢いよく蹴り飛ばす。



ガイは何度か地面に叩きつけられながら転がるが、すぐさま立ち上がると刀を鞘に収め、体勢を低くした。


「……この……」

(こうなったら夜叉殺しで……)


「どうしたあ?

オレをその程度で倒せると思ったかあ!!」


するとヒロムは一瞬で距離を詰めるとガイが抜刀できぬように柄を勢い良く蹴ってガイの体勢を崩し、再びヒロムはガイを蹴り飛ばした。


「が……!!」


「悪いな……

バレバレだぞ?」


***


ヒロムとガイの戦闘、ガイが一方的に攻撃される光景にハルカは驚き、目を疑っていた。


「どうなってるの……?」


「……やはりあの速度……」


気になるのか、とソラがシオンに尋ねるとシオンは何も言わずに頷いた。

それを確認したソラはシオンだけでなくイクトやハルカ、そしてユリナ達にも説明した。


「ヒロムはある技を用いることで回避性能が上がっている」


「ある技、だと?」


「流動術、ヒロムが五歳で見捨てられた日から五年かけて完成させた気配を読む力だ」


「気配を?」


「簡単に言うとな。

ヒロムの流動術は相手の気配や殺気を感じ取り、さらに相手の挙動や行動パターンからどうやって攻撃されるかを瞬時に察知してそれに従うことで回避している」


「そんなにすごいのか?」


例えば、とソラがコインを出すと天高くへと投げた。


そして、ソラはシオンに質問した。



「今投げたコインは何秒後に落ちる?」


「知るか!!」


「そう、それが普通だ」


「何?」


「ヒロムはそれを風の流れ、コインの軌道、そして落下速度からそれを予測する」


「……その説明、いつ聞いてもおかしいよな」


話に横から割って入ったイクトはため息をつくと戦闘中のヒロムとガイを見た。


ガイの攻撃に対してヒロムは難なく避け、そしてガイが反応できないであろうタイミングで攻撃を放ち、命中させている。


「一度戦って経験するとさあ……あれが異常で仕方ないんだ。

何せあれが未来予知と違うって言い張るんだから」


「……そうか!!

オレと戦った時もオレの攻撃をすべて避けたのは流動術か!!」


「そう、あの時のオマエの感情的なあの攻撃はすべて流動術で読まれていた」


「だがそんな技、弱点がないわけじゃないだろ?」


「……昔はあった。

アイツが集中していないと使えない」


今は、とシオンがソラの言葉に対して質問しなおした。

ソラもシオンが気付いたであろう点を説明するようにその質問に答えた。


「今のアイツはどんな状態でも発動できる。

そう、集中しなくても無意識で発動するレベルだ」


「無意識だと……?」


「ああ、つまり、こっちが意識的に攻撃してもあいつは無意識のうちに避けてしまう。

そう、今もガイは攻撃を当てようとして攻撃しているが、ヒロムはただ単純に戦うことだけを考えている」


「じゃ、じゃあみんなも覚えたらいいんじゃ……」


無理なんだ、とハルカの言葉を優しく否定するとソラは続け様に説明した。


「流動術ってのはまず、無意識ですべてを反応できるようになるまで集中しなければならないらしい。

それも一切の雑念があってはならないらしい。

そしてヒロムが完成させたレベルになるには無意識で発動できなければならず、その無意識で全ての攻撃に反応できるようになることが条件らしい」



「ま、無理だね。

些細な物音にすら反応しちゃいけないレベルの集中力なんてね」


「じゃあ……」


ハルカが結論を求めている。

そう感じたソラはただ、どれだけ現実的でないかを告げた。


「もし覚えるとなれば……ヒロムが完成させてから改良した年月の倍以上……

つまり単純に言えば今から十年以上はかかるかもな」


***


ちくしょう、とガイは軽く舌打ちすると刀を構えなおそうとした。


(……さすが流動術だな。

こっちの攻撃を全部読んでやがる……

それに「ハザード」が厄介だ)


「おいおい、その程度か!!

もっと来いよ!!

まだ足りねえ、足りねえんだよ!!」


「……」

(好戦的、か……。

普段のヒロムがやる気になったと思えばありがたいが……

このままいけば自我が消える……)


何とかしようとガイは斬りかかるが、ヒロムは斬りかかろうとするガイの腕を蹴ることでそれを防ぎ、さらに軽く跳ぶと回転してガイを再び蹴る。


「くそ……」

(戦い方も徐々に変わってきてやがる……!!

こうなったら……)


ガイは体勢を立て直すと、再び「折神」を収め、体勢を低く構えた。

「夜叉殺し」、それを放つ体勢だ。


ガイは息を整え、集中すると目を閉じた。


「ああ?

またそれか?」


「何とでも言え!!

これで決める!!」


ガイはヒロムに向かって走り出すと、さらに体勢を低くした。


が、ヒロムはそれに臆することなくガイに攻撃しようとする。


が、ガイはそれを予想していたかのようにヒロムを避けて背後に回ると勢いよく抜刀し、一閃を放とうとする。


「夜叉殺……」


「……その程度かって聞いただろうが!!」


ヒロムは一切振り返ることなくガイの刀の柄を殴って抜刀を阻止し、そのまま回し蹴りをガイに放ち、刀をガイの手元から弾き飛ばす。


「な……」


ヒロムはガイを思いっきり殴るとその場に倒れさせ、馬乗りになると足でガイの腕を押さえ、右手でガイの首を掴む。


「く……!!」


「どうした?

ここまでか?」


「……」


待って、とハルカがこちらに少し近づくとヒロムに対して問いかける。

突然のことでソラとイクトはハルカに戻ってくるように言うが、ハルカは聞く耳を持たない。


「どうしてそこまでして戦うの?

皆があなたのために何かしようとしてるのにどうして……」


「何が言いたい?

オマエも潰すぞ?」


「や、やってみなさいよ!!

みんなに守られるしかないくせに……」


「オレのこの命はなあ……!!

フレイたちの命でもあるんだよ!!」


ハルカの言葉に対して、ヒロムは突然大きな声で叫んだ。

そして、



「オレが無様に死ねばフレイたちも死ぬんだ!!

なのに何もしないでただ黙ってろってか?

ふざけるな!!」


「!!」


ヒロムの真剣な表情からの真剣な言葉、それにハルカは圧倒され、ただ驚くとともに言葉を失うしかなかった。


「……こいつらがどうにかしようとしてるのは知ってんだよ。

必死にどうにかしようとしてんのも!!

けどな、そのたびにこいつらが傷つくなら、オレにどうしろって言うんだ!!

黙って見てろっていうのか?

自分のために傷つくこいつらを前に何もしないで!!」


「それは……」


「トウマもそうだ……。

結局オレを潰したいんだ。

だったらオレがあいつを倒さなきゃ何も終わらない……!!

オレは今そういう状況下にいるんだよ!!」


「……ヒロム……」


もういい、とヒロムはガイからどくとその場から去ろうとした。


そんなヒロムをソラは止めようとしたが、それでもヒロムは止まろうとしない。


「どこ行く気だ?」


「……もうわかっただろ?

オレを止めることは無理だ。

もう「ハザード」の進行は……」


すると先程まで泣き崩れていたはずのユリナが突然ヒロムに抱きついた。

ヒロムは少し嫌そうな顔をするが、ユリナのその震える腕に気づいたヒロムは何も言わずに歩みを止めた。


「……何?」


「……なんで、一人で背負い込むの?」


「ああ?」


「みんなヒロムくんのためにこうして力になろうとしてるのに、どうして一人で頑張ろうとするの?」


「オマエには……」


関係あるよ、とユリナは震えながらも声を出し、ヒロムに強く訴えた。


「みんなできることやろうとしてるんだよ!!

ヒロムくんのために!!」


「オレは……」


「ヒロムくんのために頑張ってるんだよ?

みんなヒロムくんを心配してるんだよ?

確かに私は何もできないけど……何かできることがあるかもしれない!!

だから、できることがあるなら力になりたいの!!」



ユリナは徐々に大粒の涙を流し始め、それを見たヒロムもさすがに何も言えずに黙ってしまう。


「……」


ガイは起き上がるとヒロムを見て、そしてヒロムに告げる。


「……オマエが戦うのは止めない。

でもな、今こうして涙流してでもオマエを思ってくれているやつがいることだけは忘れるな」


「……」


けど、とリサが横から話に入ってきてまだ解決していない疑問を全員にぶつける。

それはとても重要なことだ。


「ヒロムくんのその症状を止める方法はどうするの?」


そう、そもそもこうしてヒロムとガイが戦うことになったのも「ハザード」についてのことでもめた結果だ。


いや、本題はずっとそれだった。


ヒロムも当てがあるわけでもなく、ガイたちもどうするべきか考えている最中だった。


ましてユリナ達がわかるわけもなく、知っている可能性がある人間は夕弦やシンクだが、今ここにはいない。


どうするべきか、と全員が考えているとフレイが口を開き、話し始めた。


「少し、いいですか?」


「フレイ?」


「その方法なのですが、一つだけ可能性があるかもしれません」




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