二〇八話 紅く燃える
「オレたちの力……見せてやろうぜ!!」
やる気に満ちるソラは全身に紅い炎を纏う。
そしてソラの瞳が赤く光ると、彼の全身の傷が一瞬で消えてしまう。
「何……!?」
傷が一瞬で消えた。
その事に驚きを隠せぬ目の前に敵として現れたソラの心の中の恐怖……ヒロムだったが、新たな武器を作り上げるとそれを手に取って構えた。
二本の刀……それはヒロムの精霊・セツナが武器として使用する二本の刀だ。
抜刀された二本の刀を手にしたヒロムは構えながらソラを視界に捉え、ソラも紅い炎を全身に纏いながら拳を構えた。
「……何をしたかは知らないが、今度は確実に終わらせてやる」
ソラの身に何が起きたのか、ヒロムの中で解決はしないままだったが、解決させるよりも倒した方が早いと判断したヒロムはソラを倒すために走り出す。
『来るぞ、ソラ』
「分かってる。
さぁ……いくぞ!!」
自身の中にいるイグニスと向かってくるヒロムに向けて言うとソラは迎え撃つべく走り出し、そして右手から炎をヒロムに向けて放った。
放たれた炎は球へと形を変えてヒロムに襲いかかるが、ヒロムはそれを刀で両断して消し去るとソラの首を斬り落とそうと刀を振る。
が、ソラは刀の一閃を難なく避けるとヒロムの刀に向けて右手から炎の弾丸を放ち、放たれた弾丸は二本の刀の刃を破壊していく。
「!!」
「破壊されると思わなかったか?」
ソラは右足に炎を集中させると連続で蹴りを放つが、ヒロムはそれを稲妻を纏わせた拳で弾きながら防いでみせた。
が、ソラの連撃にヒロムは防御を強いられ、その結果なのかソラの蹴りを防いだヒロムの拳は少し火傷を負っていた。
「……なるほど。
この短時間で何があったかは知らないが力を増したらしいな」
自分の手の負傷した痕を見ながらヒロムはどこか余裕を見せながらソラに言い、そして銃剣を出現させるなり手に持つと構えながら質問するように言った。
「己の無力さを痛感して限界に達したか?
それともあえてその力を隠していたのか?」
「さぁな。
オマエが知る必要あるか?」
『まぁ、知ったところで倒すけどな』
「当然、知っても知らなくてもここで倒すだけだ!!」
ソラはイグニスに向けて言う言葉を強く口に出すと同時に拳に炎を纏わせて殴りかかる。
が、ヒロムは銃剣でそれを防ぐと距離を取るように後ろへと跳び、ソラとの距離を少し開けると構え直しながらソラに向けて言った。
「強くなったのは認めるが、急に独り言が増えたな。
自分の気持ちを紛らすためか?」
「さぁな。
どうせオマエに言っても理解出来ねぇよ」
『理解されたいと思ってもいないくせに』
「うるせぇ。
どの道オレは言う気はない」
『ハイハイ、オッケーだ。
ならさっさと戦い終わらせようぜ』
「そのつもりだ」
「まったく……オマエには何か霊でも見えてるのか!!」
ヒロムは銃剣を構えるなり無数の炎の弾丸を放ちながらソラに向けて再び走り出すが、ソラは右手に炎を纏わせると前方に大きく放出して弾丸を防いでみせた。
「この程度……」
『おい、誰が精霊だって!?
アイツふざけてるだろ!!』
「心霊でも見えてるんじゃないかって意味だろ?
それで毎回怒るなよ」
『ああ!?
言っておくが……』
「来るぞ!!」
『……あとでしっかり話してやる!!』
お好きにどうぞ、とソラは両脚に炎を纏わせると走り出し、走る中で地面を蹴る瞬間に炎を炸裂させながら加速していき、目にも止まらぬスピードに到達するとソラはヒロムの周囲を駆け回りながら連続で蹴りを放っていく。
ソラの猛攻に何とかして止めようと考えるヒロムは全身に稲妻を走らせると銃剣に力を込めて一閃を放とうとするが、ソラは渾身の蹴りを銃剣に向けて放つとともにヒロムの武器を破壊し、無防備になったところへ何度も蹴りを叩きつける。
「こ、コイツ……!!」
「どうした?
さっきまでとは逆になったな」
「くっ……この……!!」
ヒロムはソラの蹴りを受ける中で音もなく拳銃を出現させると引き金を引いて弾丸を放つが、放たれた弾丸はソラに迫ると黒く焼け焦げて消えてしまう。
「ふざけやがって……!!」
「その程度じゃ通用しない」
『見ろよ、アイツ上手くいかなくてテンパってやがるぞ』
「ああ、このまま……」
このまま攻めるぞ、と言おうとしたソラは炎を纏い直すのだが、纏った炎は徐々に勢いをなくしていた。
「な……」
何が起きてるのか?
ソラは何が起きてるのか理解できなかったが、イグニスは分かっていたようだ。
『どうやらオレの力に体が順応してないから体力消耗しすぎてるな……』
「おい、こんな時にそんな理由で不発とか笑えねぇぞ!!」
『笑えねぇな……。
けど手はあるぞ?』
どんな手だ、とソラはイグニスに尋ねる中で一旦ヒロムから離れようと大きく後ろへと跳んで答えを聞こうとする。
そんなソラの言葉を受けてイグニスはその方法について語った。
『今のオレたちだから出来ることだ。
……要はオレとオマエが交代するだけだ』
「あ?
何言って……」
『いいから体を貸せ』
イグニスがソラの頭の中で一方的に告げるとソラの瞳が突然赤く光り、ソラの動きが止まってしまう。
「スキだらけだ!!」
チャンスだと言いたげな様子で拳銃を捨てて稲妻を全身に駆け巡らせるとヒロムは走り出し、そしてソラに接近すると拳に力を込めて殴り飛ばそうと顔面目掛けて攻撃を放つ。
……が、ソラは不敵な笑みを浮かべると音もなく姿消してその攻撃を避けると敵の背後へと現れる。
背後に現れたソラに攻撃しようとヒロムは振り返ろうとするが、それよりも先にソラがヒロムの顔面を殴った。
「!?」
「……ったく、この程度かよ。
加減してんのなら現実を見せてやるよ!!」
ソラは瞳を赤く光らせるとヒロムを何度も殴り、敵の頭を掴むと勢いよく顔面に膝蹴りを食らわせる。
「が……!!」
「オラオラ……こんなもんか!!」
ソラはさらにヒロムの腹を何度も蹴ると掴んだヒロムの頭を地面に叩きつけ、頭から手を離すと今度はヒロムの足を強く握ると壁の方へと投げ飛ばし、さらに無数の炎の球を放って攻撃する。
投げ飛ばされたヒロムはうまく受け身を取って体勢を立て直そうとするが、それを邪魔するように炎の球が彼に襲いかかる。
「!!」
「はっ……!!
少し力入れたらこれかよ」
『おい……どうなってんだよ!?』
ソラの頭の中にソラの声が響く。
いや、これはおかしい。
なぜソラの言葉がソラの中に響いているのか?
その答えは今のソラの体にあった。
「うるせぇな、ソラ。
オマエは休んでろ」
『ふざけるなよイグニス。
大体これは何が起きてるんだよ』
「今のオレとオマエは一心同体。
さっきまではオマエが自分の体を動かしてたが今はオレが体を動かしている。
主導権を入れ替えたのさ」
ソラは……ソラの体を動かすイグニスは体の中にいるソラに向けて説明するが、ソラは納得いかない様子だ。
『勝手なことしやがって……。
それも高貴な存在故の所業か?』
「オマエがここで死んだらオレも死ぬからだ。
当然の処置だし、オマエはそうして中にいる状態なら体力を回復させられる」
『……体力戻るまで変わるってことか?』
「そのつもりだったが相手が弱すぎてそれよりも先に終わりそうだがな」
『言っておくけどこれは……』
「元々はオマエの試練だけど今はオレたちの試練だ!!」
ソラの体を動かすイグニスはヒロムに向けて走り出すと足に炎を纏わせ、炎を炸裂させると同時にヒロムの眼前に移動して蹴りを食らわせる。
蹴りを受けたヒロムは大きく仰け反り、イグニスは追撃と言わんばかりに至近距離から紅い炎を敵に向けて放ち、ヒロムはその炎を避けれぬまま直撃してしまう。
「ぐぁぁぁあああ!!」
「こんなもんかよ試練の間ってのは!!
全然楽しめねぇ……オマエじゃ退屈しのぎにもならねぇ!!」
イグニスは両腕を「炎魔劫拳」に変化させると紅い炎を腕に纏わせてヒロムの体に拳を叩き込む。
……が、イグニスの拳がヒロムに命中するその瞬間にヒロムの体は黒い霧に変化し、そして拳が空を切るようにヒロムは消えてしまう。
「これは……」
『イシスの幻術だ!!
ヤツは……』
「幻術とか効かねぇし」
イグニスは紅い炎で無数の球をつくると自分の後ろを一切見ずに後方へ放っていく。
放たれた炎の球は勢いよく飛んでいき、飛んでいく中で何かに衝突したのか途中で爆発を起こす。
「!!」
爆発の中からヒロムが現れ、それを嬉しそうな眼差しで確認したイグニスは彼に向けて告げた。
「幻術使うならもっと強いのを使うんだな。
大抵の幻術はオレには効かねぇ」
「貴様……何者だ?
試練の間に干渉する貴様は相馬ソラではないはずだ」
爆発によって負傷したヒロムはイグニスに気づいたらしく真相を確かめようとするが、イグニスはそんなことに付き合う気は無いと言うかのように炎をヒロムに向かって放つ。
放たれた炎をヒロムは避けるが、それを狙っていたかのようにイグニスはヒロムに接近すると腹に蹴りを食らわせる。
「が……!?」
「弱い幻術使う上に攻撃も行動も思考パターンとアルゴリズムさえ理解すれば何の強さもない。
オマエは……ただ弱い!!」
イグニスは両腕の「炎魔劫拳」に紅い炎を纏わせると目にも止まらぬ速さで拳の連撃……ラッシュを放ち、その全てがヒロムに命中していく。
「ヒャハハハハハハハ!!」
「化け物が……!!」
「化け物?
違うな……オレたちは魔人だ!!」
イグニスは両手を合わせるように強く叩き、それに反応するように巨大な炎がヒロムに襲いかかる。
「エンシェント・ヒートダウン!!」
巨大な炎は無数の剣となりながらヒロムを襲い、そしてヒロムを追い詰めていく。
追い詰められるヒロムが稲妻を纏って逃れようとすると剣となった炎が龍となって逃がさぬように縛り上げると爆発し、ヒロムを炎で焼きながら吹き飛ばしてしまう。
吹き飛ばされたヒロムは地面を転がるように倒れ、そしてそれを見たイグニスは炎を纏いながら見下ろしていた。
見下ろしていたというよりは見下ろすような形になっている。
「おい……こんなもんか?」
『やりすぎじゃねぇのか?』
「やりすぎじゃねぇよ。
むしろオレらがコイツに合わせて多少本気になったんだからコイツにも本気になってもらわねぇとな」
『本気?
あれは……』
「今も本気ならそれで終わる。
けど……」
仕方ない、とイグニスの言葉を遮るようにヒロムは立ち上がると指を鳴らし、指を鳴らすとヒロムの体の傷が全て消えてしまう。
『な……せっかくダメージ食らわせたのに回復されたぞ!!
どうするんだよ!!』
イグニス越しにそれを見ていたソラは驚き、どうするのかを思わずイグニスに聞いてしまう。
が、イグニスはあくびをするなりソラに告げた。
「あれはオマエの心の恐れだから普通の人間とは違って再生してもおかしくはないが……問題はここからだ」
『問題……?』
「体力はどんくらい戻った?」
『半分くらいだけど……オマエが終わらせるんじゃなかったのかよ?』
「そうしたかったが……想定外の展開になった。
オレの筋書きではこのまま終わる予定だったのによ……」
イグニスはどこか面倒くさそうに言い、ソラは何を言いたいのか分からずにいたが、その答えはすぐに目の前のヒロムが教えてくれた。
「……発動」
ヒロムは光に包まれると姿を変えていく。
白のコートとそれに連結するように存在する青い腰布を身に纏い、そしてその下には青い衣装と白のズボン、さらにガントレットとロングブーツを装着したヒロムのその姿、それをソラは見たことがあるから知っていた。
ヒロムが精霊・フレイとディアナの「クロス・リンク」を発動した状態、「天剣流星」の姿なのだから。
『アイツ、「クロス・リンク」を再現しやがったのか!!』
「ああ、本物のアイツが使うアレを再現しやがった。
おかげで長引きそうだ」
『……方法はあるのか?』
「ある、あるけどオマエ次第だな」
『あるならやるぞ。
オレは何でもやってやる』
「嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか。
じゃあ……返すぞ」
イグニスの……ソラの瞳が赤く光ると彼のそばに紅い炎が人のような形となるとイグニスのあの異形の姿となり、ソラは元の肉体に戻ったからか自分の手を開いたり閉じたりを繰り返していた。
「炎魔劫拳」の解除された腕を見ながらソラはイグニスに向けて言った。
「……おかしな感覚だ。
自分の体を他人に動かされるのは」
「オマエの体も悪くないが、こっちの方がしっくり来る」
「そうかよ……で、立ち話のためにこうしたのか?
アレを倒す方法について教えろ」
「分かってるよ。
コレをやるよ」
イグニスは紅い炎をソラの右手に灯すと、その炎をある形に変えていく。
「これは……!!」
「オレからのプレゼントだ、ソラ。
それはオマエの……新しい力だ!!」




