二〇〇話 迷心戦士
「竜鬼会」という敵を前にして協力する方針になり、ヒロムと蓮夜もやる気になっていた。
が、その二人のやる気に水を指すように栗栖カズマはある事を二人に言った。
「意気込むのはいいがどうやって敵の居場所を突き止める気だ?
それがハッキリしてないのならそのやる気もムダだろ?」
「うわ……空気読む気ないだろオマエ」
「オマエの命を狙ってたオレに空気を読まれても嬉しくないだろ?」
「オマエまだ気にしてるのか……」
カズマは少し前の自分の行動を思い出すように言い、それを聞いたヒロムは呆れていた。
かつてカズマは「ネガ・ハザード」のリュウガ・ライガ・サイガとともにヒロムの命を奪おうと現れたが、その仲間は前回の「八神」との戦いの最中に八神飾音の手で葬られてしまった。
そして失意の中、行き場のなくなったカズマはガイたちに監視させる中でここに居座っている。
そのせいかは分からないが彼はヒロムとの今の関係性をよく思ってないところがある。
仲間という意識はなく、敵だった事実だけで彼はヒロムのそばにいることに違和感を感じているのだ。
「気にしない方がどうかしてる。
オレは今監視されてるだけ、用が済めば姿を消すしかない」
「別にそこまでしなくていいだろ?
オマエは「八神」に利用されて……」
「他人に利用されてたからオマエの命を狙ってたことは不問になるのか?
「八神」に利用されてオマエたちの敵になったのは事実だ」
「事実かどうかじゃないだろ。
今オマエがどうしたいかが大事で……」
「アイツらを守れず、敵だった相手と呑気にす暮らしてる現状を受け入れろって言うのか?」
「……はぁ。
オレは別にオマエの何もかもを否定する気は無いんだけどな……」
「オレはオマエの命を奪って否定しようとしていたがな」
ヒロムとカズマ、一切交わることのないこの会話に空気は重くなっていくだけ。
気まずい空気の中で蓮夜はため息をつくとカズマに一つ提案をした。
「……自由になりたいなら釈放してもいいぞ」
「蓮夜、何言って……」
「落ち着けヒロム。
栗栖カズマは確かに敵だったがそれは紅月シオンも鬼月真助も同じだった。
オマエがコイツのことを許してるのなら同じようにすればいいだけだ」
「蓮夜……」
「バカにしてんのか?」
蓮夜の言葉を聞いたヒロムはその対応に少し感謝するが、カズマは違った。
何か気に障ったらしく、不満を抱いたような目で蓮夜を睨んでいた。
「害がなさそうだから野放しにしてもいいってか?
今のオマエらにとってオレは相手にする価値もないか?」
「そうは言ってないだろ。
オマエが悩んでるなら無理にここに縛る必要がない、だからヒロムたちの監視を解いてもいいって言ってるだけだ」
「オレはオマエらの守ろうとしたものを壊そうとした。
それでも許せるのか?」
「……ならハッキリ言ってやる。
今この場で戦う意志が固まってないのはオマエだけだ」
反抗的な態度のカズマに少し苛立つ蓮夜は事実をオブラートに包もうともせずに直接伝えていく。
「意志のない人間はこの場にはいらないんだよ。
それこそヒロムや「天獄」が命を奪われる原因になる。
……邪魔でしかないんだよ」
「意志がない人間?
コイツやオマエらのために誰もが賛同すると思うな」
「勘違いするな。
オマエがヒロムのやる事に賛同するしないはどうでもいい。
問題はオマエが本気で戦う気がないなら目障りなだけだ」
「テメェ……団長か何だか知らねぇが調子乗りやがって」
「事実だ。
オレは「月翔団」の団長、そしてコイツらの命を預かる立場だ。
ヒロムやそこにいるヤツらも例外なく「姫神」にかかわる者を守る使命がある以上、オマエみたいなヤツがいるせいで命が危険に晒されるのはごめんだ」
「それはオマエがオレを敵として認識してるからだろ?
今更……」
分かってないな、とカズマの言葉を遮るように蓮夜は彼にある事を告げた。
「オマエの大事な仲間はもういない。
いつまでも消えた仲間のことで後悔しても何も起きないんだぞ?」
「黙れ!!
アイツらは……リュウガたちは死にたくて死んだんじゃねぇんだ!!」
蓮夜の言葉に苛立ちを隠せず、声を荒らげてしまうカズマ。
そんなカズマに向けて蓮夜はさらに話を進める。
「ならオマエの仲間の命を奪ったのは誰だ?
オマエにそんな感情を抱かせる原因をつくったのは誰だ?」
「黙れって言ってんだろ!!
敵討ちでもしろってか?そんなことしてアイツらが戻ってくるわけでもないのに……意味なんてねぇだろ!!」
あるさ、とカズマの言葉を訂正するかのようにヒロムは言うと続けて彼に向けて言った。
「オマエの仲間……リュウガたちはオレの親父の攻撃によるダメージを受けたせいで「ネガ・ハザード」の力に耐えれずに命を落とした。
助かったかもしれない命をあの人体実験のせいで救えなかった……」
「アイツらが自分で受けて招いた結果だ。
今更変えられないだろ……」
「今までは無理でもこれからは変えられる。
「ネガ・ハザード」を利用する「竜鬼会」やその人体実験を平然と行うヤツらを根絶やしにすればリュウガたちのように苦しむ人が減る。
ヤツらのふざけた人体実験を潰せばオマエのこれからは変えられるはずだ」
「……これから、か。
笑わせるな」
カズマはヒロムの言葉に呆れながら言うとどこかへ向かおうとする。
そしてリビングから出る直前に足を止め、ヒロムに向けて冷たく告げた。
「アイツらのため?これからのため?
……戯言もほどほどにしとけ。
そんなふざけたこと言ってるから敵が増えるんだよ」
最後の言葉を言うとカズマは出ていき、ガイと真助はカズマを追いかけようとするもヒロムがそれを止めた。
「……追わなくていい」
「けど……」
「……アイツにはアイツの考えがあるだろうしな。
オレたちがとやかく言っても今は聞く耳持たねぇよ」
「悪いなヒロム、オレが余計なことを言ったせいで……」
ヒロムがガイと真助に話していると蓮夜が申し訳なさそうに頭を下げた。
「少し大人げなかった。
オマエにも考えがあってアイツを好きにさせようとしてたのにな」
「気にするなよ。
アンタもアンタの考えがあったからこそああいう言い方になったんだろ?
それくらいアイツも分かってるさ」
「だといいがな……。
このままじゃ足を引っ張る可能性があるぞ」
「……足を引っ張るようなヤツが敵の居場所のこと気にすると思うか?
アイツは強がってるけど実際はどうにかしたいと思ってるはずさ」
それより、とヒロムは話を戻すように蓮夜に質問した。
「カズマも言ってたけど敵の居場所が分からないなら動きたくても動けない。
どうする気だ?」
「そこは大丈夫だ。
ロビンとカルラに一任することにしてる」
「あの二人に?」
「不満か?」
まさか、と蓮夜の言葉をヒロムは鼻で笑うと彼に向けて告げた。
「アンタやスバルに劣らない実力者の二人が手を組むのなら問題ないさ」
「坊っちゃん、それは聞き捨てなりませんね……」
「もちろん獅童さんも実力者だけどな。
まぁ危険度で言えばあの二人には劣りますけど」
「……坊っちゃんも冷たいことを言われるようになりましたね」
「無駄話は後にしろ。
とにかく二人が手掛かりを探しに行くから帰ってくるまでは大人しくしとけよ?」
「……善処するさ」
***
庭園。
リビングを出たカズマは屋敷を出ると苛立ちながら歩いていた。
「くそっ……!!」
(イライラする!!
アイツらといたせいでオレは……!!)
『オマエのこれからは変えられるはずだ』
「……戯言言いやがって!!」
ヒロムの言葉を思い出したカズマは苛立ちを露わにしながら吐き捨てるように言うが、周りに誰もいない中で言ったために声は虚しく消えていく。
そして言葉が消えていく中でカズマはため息をつくと頭を抱えた。
「……分かってんだよ、今のままじゃダメだってことくらい。
アイツらのために何かやらなきゃってことくらい分かってんだよ。
だけどオレは……」
「何悩んでるんだ、若いの」
カズマが弱音を口にしていると後ろから彼に誰かが声をかける。
カズマが後ろを振り向くとそこにはロビンがいた。
よぉ、とタバコを吸うロビンはカズマに向けて挨拶をするもカズマは警戒して何も言わない。
「……愛想わりー野郎だな」
「オマエは?」
「オレか?
ロビン、「月翔団」の迎撃戦闘部隊「絶火」の部隊長だ」
「……他の部隊長は中にいるぞ」
「らしいな。
オレは次の仕事があるから参加してねぇだけだ」
「次の仕事……?」
「ああ、テロリストの巣窟探しだ」
それより、とロビンはカズマに向けてある事を訊ねた。
「悩んでんだろ?
何したいのか、どうすべきか迷ってんだろ?」
「……アンタには関係ねぇだろ」
「オマエ、歳は?」
「あ?」
「歳は?」
「……十九だ」
若いな、とロビンはタバコの煙を吐くとある話を彼にした。
「まぁ、人生これからだな。
九年前、ある男は七歳のガキを誘拐しようとした。
その類まれなる才能と特別性に興味を抱いた賞金稼ぎの十九歳の男だったが、七歳のガキの機転の速さに負けて倒された」
「……その男は?」
「紆余曲折を経て信頼される関係になって仕えてるさ。
得意の銃を武器に前線で戦う戦士としてな」
「その男は何で信頼されるようになったんだ?」
「信頼される関係になりたくてなったんじゃない。
そいつは……ガキに出会ったことでやりたい事を見つけただけだ」
ロビンの話を聞いても何が言いたいのか分からないカズマは不思議そうな反応を見せるが、そんなカズマにロビンはある事を言った。
「悩んでるなら気晴らしについてくるか?」
「何?」
「どうせカルラと二人で行くだけだし、オマエが増えたところで気にならねぇよ。
どうする?元賞金稼ぎ二人の仕事についてくるか?」
ロビンの誘い、それを受けたカズマは少し悩むが答えはすぐに決まり、そしてそれをロビンに伝えた。
「気晴らしに付き合うだけだ。
どうなっても知らないからな?」
「ガキの子守りぐらい慣れてんだよ。
まぁ、ストレス発散程度で気楽に来いや」




