一九五話 killing bites
尋常ではない殺気を放つ弾馬銃哉を前に構えるヒロム、シオン、ノアル。
そんな中でシオンは弾馬と戦闘していたヒロムに敵についての情報を聞き出そうとしていた。
「ヤツの能力は?」
「……「魔弾」。
一定範囲に結界を生み出し、その空間内で自由自在に魔力の弾丸を放つ。
さらに厄介なのは放った弾丸の特性や性質を状況に応じて変えられるらしい」
「ヤツ自身が四方八方から撃てる銃ってことか。
ある意味厄介だな」
「何か策はあるのか?」
シオンの後にノアルがヒロムに質問をするが、ヒロムは首を横に振るとそれについて話した。
「まだ何も無い。
何せヤツの能力は対策を用意しても後出しで攻略される可能性がある」
「確かにヒロムの言う通りだな。
下手な作戦で攻めれば返り討ちにあうだけ、だからといって相手の動きに合わせて動いてるんじゃ後手に回るだけ」
「ならどうするんだ?
ヒロムの精霊やシオンの雷の速度なら……」
「鬼之神麗夜のことだ。
オレを殺すために全員が邪魔すると考えてあの男に手の内を明かしてる可能性がある」
「……なるほど。
つまり現状ヤツにはヒロムやシオンの手の内はバレてるということか」
「そういう事になるな」
(放たれるまで分からない弾丸の性質……未完成ではあるがあれを試してみるか……)
「……フレイ、あれをやる」
「分かりました……。
テミスたちはマスターを頼みます」
任せて、とフレイ以外の出現していた精霊は光となって消え、フレイも大剣を構える。
「……やるぞ」
ヒロムは小さなため息をつくとテミスの武装である銃剣を出現させて装備すると二人に伝えた。
「とにかく弱点を探る。
それが分かれば勝ち目はある」
「面倒だな……とっとと倒せばいいだけだろ」
「落ち着けシオン。
気待ちは分かるけど、それも弱点を晒させるまでの我ま……」
「いつまで話してんだよ!!」
ヒロムたちが話していると弾馬は苛立ちながら三人に向けて無数の弾丸を放ち、ヒロムたちは向かってくる弾丸を避けるようにそれぞれ別方向へと走っていく。
三人のその行動を見るなり弾馬はどこか楽しそうに笑みを浮かべる。
「なるほど……分散してオレの気を散らす作戦か。
けどそんなもんはただの悪足掻きなんだよ!!」
弾馬は叫ぶと同時に自身の周囲に無数の魔力の弾丸を出現させると狙いを殺すべき標的……ヒロムに狙いを定めると一斉に弾丸を撃ち放つ。
「オレの狙いはオマエなんだからあとの二人はどうでもいいんだよ!!」
「そうかよ……」
弾丸が迫って来る中でヒロムは銃剣を構えると引き金に指をかけ、迫り来る弾丸に向けて連続で炎の弾丸を放っていく。
放たれた炎の弾丸は速度を増しながら魔力の弾丸へ向かっていき、さらに接近していく中で乱回転を始めたのだ。
そして乱回転する炎の弾丸は魔力の弾丸を貫こうと接触し、、炎の弾丸と接触した魔力の弾丸は弾馬が何か指示を与えるわけでもなく爆発していく。
「!?」
「悪いけどやられっぱなしのまま終わると思うなよな」
「コイツ……!!
それなら!!」
ヒロムに攻撃を防がれた弾馬は次なる弾丸を無数に放っていく。
するとヒロムは銃剣を投げ捨てるとベルナの武装である大鎌を手に持ち、それを勢いよく振って自身の目の前に巨大な竜巻を発生させる。
「な……」
「これで十分だろ」
ヒロムが一言言うと魔力の弾丸は炸裂して無数に分裂していき、分裂した弾丸はヒロムに襲いかかろうとするも彼の目の前に出現した竜巻に吸い寄せられていくと竜巻の中で砕けていく。
「バカな……!?」
二度も連続で攻撃を防がれたことに動揺しているのか弾馬は言葉を失っていた。
そんな弾馬に攻撃を放とうとシオンとノアルは敵に向かって走っていた。
「チャンスだ!!」
「今のうちに仕留めれば勝てる!!」
「……ふざけるなぁ!!」
弾馬は我に返ると天に無数の魔力の弾丸を出現させ、それを雨の如く地上のシオンとノアルを襲おうと降り注がれていく。
「ちっ!!」
シオンとノアルは天より襲いかかってくる弾丸を何とか走りながら避けると、弾馬から大きく離れた位置で構え直した。
「便利な能力だな……!!」
「近づこうにも近づけないな……!!」
「当然!!
この「魔弾」の能力、オマエたちが簡単に攻略出来ると思うなよ!!」
弾馬は高らかに大声でシオンとノアルに向けて告げるが、そんな中でヒロムについてある疑問を抱いていた。
「あの野郎……」
(どういうわけか魔力のみの弾と炸裂拡散弾を見分けやがったな。
それも弾丸が放たれた直後にだ。
何故だ?ヤツは仲間が現れるまでそんな判断力なんてなかったのに……一度見たから出来た?違うな。
オレの能力はそんな簡単に攻略出来ない……)
「ヤツは何をしたんだ……!!」
ヒロムが何かをした、それだけは弾馬の中でハッキリしていた。
だがそれ以上のことは分からない。
何をしたのか気にする弾馬のことなど気にすることも無くヒロムは竜巻を消すと大鎌を持ったまま走り出し、それに合わせるようにシオンとノアルも再び走り出した。
「シオン、ノアル!!
挟撃してくれ!!」
「よくわからんが任せろ!!」
「ヒロムの頼みならやってやる!!」
シオンは全身に雷を纏い、ノアルは両手を黒く染めると爪を鋭く尖らせる。
そしてヒロムに頼まれた事を成し遂げようと二人は加速するとそのまま弾馬に接近していく。
「オラァ!!」
「はっ!!」
「この……!!」
接近するなりシオンとノアルは弾馬に攻撃を放つが、弾馬はそれを避けようと後ろへと跳ぶ。
弾馬の目論見通りに二人の攻撃は命中することなく回避出来たが、それで終わりではなかった。
「ナイスだ!!」
ヒロムはシオンとノアルを避けるかのように高く跳ぶと弾馬に向けて大鎌を投げつけた。
投げられた大鎌は回転しながら弾馬に迫っていき、シオンとノアルの攻撃を避けるために後ろへと跳んだ弾馬は魔力の弾丸を生み出すと大鎌を撃ち落とそうと次々に放っていく。
放たれた弾丸は大鎌に命中して破壊に成功するが、破壊した大鎌の中から黒い霧が放出され、それらが弾馬の視界を遮ってしまう。
「な……」
(あの野郎……!!
今の一連の流れは全部……)
「はぁぁあ!!」
さきほど爆発によって吹き飛んだはずのフレイが背後から接近すると弾馬に向けて勢いよく大剣を振り下ろした。
「コイツ……!!」
「「「オラァ!!」」」
弾馬は何とかしてフレイの大剣の一撃を回避するが、黒い霧の中を駆けてきたであろうヒロムとシオン、ノアルがフレイの一撃を避けたばかりの弾馬を殴り、勢いよく殴り飛ばしてみせた。
「がっ!!」
殴り飛ばされた弾馬は何度も地面を転がるように吹き飛び、吹き飛んだ先でどうにかして立ち上がってみせた。
が、弾馬を見るなりヒロムは何かを確信したように彼に告げた。
「弾馬銃哉……オマエの能力は厄介だよ。
だけど……その厄介な能力にも弱点はあった」
「弱点だと……!?」
「オレたちを散々遠距離から攻撃していたオマエはなぜかシオンとノアルの攻撃を避けた後もフレイの一撃を避けた後も攻撃を放たなかった。
それは何故か?オマエの弾丸は強力なのに何故放たなかったのか……それは一定距離で敵に向けて放つとオマエも巻き込まれるからだ!!」
「コイツ……見抜いたのか!!」
「どうやら正解みたいだな。
ならもうオマエの好きにはさせない!!」
「マジかよ……この短時間で……!!」
ヒロムの言葉に驚きを隠せない弾馬だが、それと同時に怒りを募らせていた。
「……ムカつく」
「あ?」
「ムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつく……ムカつくんだよ!!」
弾馬は同じ言葉を何度も連呼しながら魔力の弾丸を出現させていく。
さらに身に纏う魔力も大きくなり、そしめ魔力は紫色に染まり始めていた。
「オマエを殺すのに使うつもりはなかったが仕方ねぇ……!!
このままやられっぱなしは気に入らねぇ!!
殺す、テメェらの命は確実に終わらす!!」
「コイツ……」
「口調変わってねぇか?」
ヒロムとシオンが警戒する中、弾馬は笑みを浮かべるなり叫んだ。
「……竜装術!!
魔弾竜!!」
弾馬の叫びとともに彼の周囲に出現した魔力の弾丸が弾馬の体に吸い込まれていき、吸い込まれた弾丸が弾馬の体をアーマーのように覆っていき、体に覆われた魔力から無数の銃口と砲門が出現し、彼の両腕は巨大なキャノン砲となっていく。
「「!!」」
「竜装術……!!」
「……オマエら如きにこれを使うことになるとはなぁ!!」
弾馬はキャノン砲に変化した両腕を三人に向けて構えると巨大な弾丸を放つ。
「来るぞ!!」
「分かって……」
放たれた弾丸は音もなく消失してしまい、そしてヒロム、シオン、ノアルは大きな爆発に襲われて吹き飛ばされてしまう。
「「「!!」」」
「マスタ……」
ヒロムのもとへ向かおうとしたフレイだが、フレイ自身も突然爆発に襲われてしまう。
「きゃぁぁあ!!」
爆発に襲われたヒロムたちはボロボロになって倒れ、そしてそれを弾馬は見下ろすように見ながら笑っていた。
「おいおい一撃かよ!!
大した事ねぇなぁ!!」
「この……!!」
(何が起きた!?
あの弾丸……全く「視えなかった」!!)
ヒロムは立ち上がる中で考えるが、弾馬はヒロムに向けてあることを告げた。
「この姿のオレに弱点はない!!
至近距離だろうが関係ない!!」
「……そうかよ。
本気で殺すつもりで行かなきゃ無理か」
「そうだな……これ以上は野放しに出来ねぇ!!」
「この力は危険すぎる……!!」
ヒロムの言葉に続くようにシオンとノアルは言うと立ち上がり、ヒロムの横に並び立つと弾馬を睨む。
フレイも立ち上がるとヒロムのそばへと歩み寄り、さらにヒロムの精霊・ディアナが出現する。
「……「クロス・リンク」!!
「天剣」フレイ!!「星槍」ディアナ!!」
フレイとディアナは光となるとヒロムを包み込み、ヒロムは装いを新たにして現れる。
白のコートとそれに連結するように存在する青い腰布を身に纏い、そしてその下には青い衣装と白のズボン、さらにガントレットとロングブーツを装着したヒロムはその手に大剣を持つと構えた。
さらに……
「……「雷鳴王」!!」
シオンは全身に雷を纏わせると体と同化させ、肉体を強化していく。
「はぁぁあ!!」
ノアルも黒く染めた両手の爪をさらに鋭くさせるとさらに胴体をも黒く染めていく。
三人のその変化に弾馬は面白そうに笑っていた。
「その程度の力でオレに勝てると思ってるのか?」
「笑いたきゃ笑え……その余裕はオレたちがぶっ潰してやる!!」
ヒロムは全身に光を纏うなり加速しながら走り出し、そして高く飛ぶと大剣を振り上げる。
「いくぞ……!!
その身に宿す魂燃やしてオレを滾らせろ!!」




