一九二話 lightning preparedness
「雷鳴王」を発動してことにより雷と体が同化したシオンは強い意志をその身に抱きながら牙天へと告げた。
「倒す」のではなく「殺す」ことを。
次を与えずにここで終わらせることを宣言する言葉を敵に告げたのだ。
「殺す……?
貴様がァ……オレを?」
シオンの言葉を受けて牙天は不思議そうに首を傾げながらシオンを睨みながら彼に言った。
「その力なら知ってる……。
だからこそ言える……その程度でオレを倒すのは……」
「間違えんじゃねぇぞ。
オレはオマエを倒すんじゃなくて殺すつもりなんだよ。
オマエの全てをここで終わらせてやるんだからな」
「……貴様にオレが倒せると思うなァァァ!!」
シオンの言葉を聞くなり怒りを露わにした牙天は雄叫びをあげると全身に魔力を纏いながら動き出し、シオンに一気に接近すると襲いかかるが、シオンは雷を放出しながら音を立てずに消えてしまう。
「!?」
シオンの姿が消えたことにより牙天は攻撃の手を止めて消えたシオンを探すように周囲を見渡すがどこにもシオンの姿はなかった。
「ヤツはどこへェ……」
「オラァ!!」
姿を消したシオンを探している隙だらけの牙天の背後にシオンは現れると雷鳴を轟かせるとともに敵に拳を叩きつけ、さらに叩きつけた拳から雷を炸裂させる形でぶつけると牙天を勢いよく吹き飛ばしてみせる。
「!!」
不意をつかれたらしく牙天はシオンの攻撃で吹き飛ぶ中で受け身を取れずに何度も地を転がっていく。
「何が……」
「オラァァァ!!」
シオンは落雷のごとき速度で走り出すと一瞬で牙天に追いつき、吹き飛んでいる敵に追い討ちをかけるように拳の連撃を放っていく。
「ぐ……」
「オラオラオラァ!!」
体勢を立て直そうと考える牙天だが、轟音響かせながら放たれる目にも止まらぬ速さの連撃を前に思うように身動きが取れなかった。
そしてシオンも牙天に自由を与えぬようにと攻撃の手を緩めることなく力を強くしながら連撃を放ち続けていた。
「こ、コイツゥ……!!」
「オラオラオラァ、どうしたぁ!!」
手も足も出せずに一方的に攻撃される牙天を前にシオンは全身の雷を強くして力を増すと敵に猛攻を放ち、徐々に追い詰めていた。
連撃を放ち続けるシオン、そのシオンにはある思惑があった。
(再生能力があるなら再生速度を上回る速度で潰す!!
今ならそれが……)
「図に乗るなァァァ!!」
このまま攻めようと考えていたシオンだったが、攻撃され続けたことにより怒りが溜まりに溜まった牙天は雄叫びをあげるとともに衝撃波を発生させるとシオンを吹き飛ばし、体勢を即座に立て直すと空気弾を放ってシオンをさらに吹き飛ばしてしまう。
「ぐぁっ!!」
(この空気弾……重てぇ……!!
意識が……)
空気弾を受けたシオンは吹き飛ぶ中で空気弾の凄まじい力に意識が飛びそうになっていたが
何とか意識を保たせると受け身を取って立ち上がり、牙天を睨みながら拳が構えた。
「ホントに面倒な相手だな、オマエは……!!」
シオンは敵である牙天を見ながら少し苛立ちながら言うと走り出した。
「ネガ・ハザード」となった牙天、シオンの先ほどの猛攻でダメージを受けていたのだが、そのダメージはシオンを吹き飛ばしたこの短時間の間に回復していたのだ。
猛攻を放っていたシオンは牙天の咆哮と衝撃波によって全身にダメージを受けて負傷しており、再生能力のないその体は時間とともに疲弊しつつあった。
が、それでも「雷鳴王」を初土したままその身の雷を強く放出し続けていた。
そして傷ついた体の中にはこの手で殺すと決めた敵を潰すための強い意志がまだ残っていた。
それ故にシオンは戦うための力を振り絞ることが出来、そして牙天を前にしても屈しなかった。
「再生能力があることを後悔させてやるよこの野郎が!!」
シオンは牙天との距離を縮めると目にも止まらぬ速さで殴りかかるが、牙天にはそれが見えているのか難なく回避してしまう。
が、シオンは牙天の動きを予知していたのかそれを目の当たりにすると不敵な笑みを浮かべるとその場で体を回転させ、攻撃を避けた牙天に向けて蹴りを食らわせた。
「!!」
「悪いな……!!
「ネガ・ハザード」のことは事前に勉強済みなんだよ!!」
蹴りを受けた牙天は仰け反ってしまって動きが鈍り、その隙をつくようにシオンは牙天を殴り、両手に雷を集中させると牙天に叩きつけて炸裂させた。
炸裂した雷は牙天の全身を駆け巡ると炸裂した勢いと衝撃で牙天の体を覆う表皮を切り裂きながら吹き飛ばしていく。
「がァァァァ!!」
「再生能力で再生したダメージ相応の力を得ながら「ハザード」特有の破壊衝動による力の増幅……それら同時に行うのがオマエらの得意分野だろうがけどな……!!
オマエのその後付けの力よりオレの中の力の方が……「戦血」の方が優れてるんだよ!!」
シオンは牙天を殴り飛ばすように強く力を叩きつけると
、両手に雷を集めながらその力を強くしていき、そして両手の雷を二本の槍の形へと形成していくと武装として用いるために手に握る。
そして手にした槍を構えるとシオンは殴り飛ばした牙天を追うように走り出して離れてしまった距離を縮めるとすかさず槍で斬撃を食らわせた。
「が……!!
何故だァ……!!」
シオンの雷の槍による斬撃を受けた牙天は何かに困惑して始め、その影響なのかシオンに襲いかかろうと攻撃を繰り出そうとしてもシオンの槍に防がれてしまう。
「何故だァ……何故特別なチカラを得たオレが……何の選ばれた力もない貴様に苦戦しなければならないんだァ!!」
「……!!」
牙天の言葉、それを聞いたシオンは飾音との戦闘で言われた一言を頭の中で思い出してしまった。
『選ばれた力もないただの能力者がオレを倒せるわけないだろ?』
「……うるせぇな!!」
思い出すと同時に苛立ちが増し、それに伴う形で雷を強くするとシオンは牙天にさらなる攻撃を放っていく。
放たれた攻撃は牙天の身を抉りながら確実なダメージを与えていた。
「ヒロムやノアルのような特別な力がないのなんざ分かってんだよ!!
だけどな……だからこそオレはオレの持てる力を出し切ってでも強くなってアイツらを超えると決めたんだ!!」
シオンは右脚に雷を纏わせると高く跳び、さらに二本の雷の槍を牙天に向けて投げる。
投げられた雷の槍は落雷のように轟音響かせると牙天の体を貫き、敵の体に電撃を帯びさせる。
「ぐはっ……!!」
「覚悟決めろやこの……」
「……黙れェェエエ工!!」
シオンが何かをしようとしたその瞬間、雷の槍に貫かれたままの牙天は無数の空気弾を生み出すとシオンに向けて放っていく。
「!!」
「力を得たオレが負けるはずなど無いのだァァァ!!」
「……いいや、勝つのはオマエじゃない。
シオンだ」
どこからともなくノアルの声がすると無数の魔力の弾丸が飛んで来て牙天の放った空気弾を相殺していく。
「!?」
「ノアル……!!」
シオンが魔力の弾丸が飛んで来た方向へと目を向けると、そこにはノアルがいた。
そしてそのノアルの右腕は黒く染まりながら巨大な砲門のような銃器に酷似した形へと変化していた。
「ノアル、それは……」
「魔人式造形術……魔銃。
援護は任せろ」
ノアルがシオンに告げるなり左手を牙天に向けて突き出すと、彼の左手は勢いよく伸び始める。
「な……!?」
「純粋な「魔人」の力……その身に刻め!!」
ノアルの伸びた左手は牙天の首を掴むと敵を空へと投げ飛ばし、投げ飛ばされた牙天は身動きが取れずにいた。
「貴様らァ……」
「あとは任せるぞ、シオン」
任せろ、とシオンはノアルに告げると全身から雷を放出しながら無数の雷の大剣を生み出していく。
「雷帝抜剣!!
受けろ、轟雷!!」
シオンが右手を勢いよく振ると無数の雷の大剣が動き出し、意思を持つかのように牙天に向かっていきながら雷を強く放出していく。
「オレが……貴様らに負けるなんて……!!」
「雷鳴王・奥義!!
轟雷・絶雷鳴!!」
無数の雷の大剣が牙天に襲いかかると同時に敵の体が帯びていた電撃が炸裂し、さらに雷の大剣は稲妻となって敵を穿つ。
無数の雷撃と稲妻が牙天の体を穿ち貫き、そしてその身を黒く焼き焦がしていく。
「が……」
全ての攻撃が直撃したことにより牙天は相当なダメージを受け、それによって力尽きて地面に落下してしまう。
受け身も取れずに勢いよく不時着した牙天は地に伏すように倒れ、そして力を使い果たしたのか元の人の姿へと戻ってしまう。
「な……何故だ……」
元の姿に戻っても全身に重傷を負ってしまっている牙天は立ち上がろうにもそれが出来ず、地を這うようにゆっくりと動こうとしていた。
が、ダメージが酷いせいで力が入らないのか動こうとする牙天の意志に反して体は微動だにしなかった。
「なぜ……オレが……」
「……」
倒れる牙天を見下ろすようにシオンは視線を向けながら「雷鳴王」を解き、ノアルも変化した両手を元に戻していく。
「貴様ら……まだ終わってないぞ……!!」
戦闘状態を解いた二人を睨みなが牙天は戦う意志を示そうとするが、彼の体はすでに限界に達しているのか動こうとしない。
必死になって足掻こうとする牙天に対してシオンは現実を突きつけるように彼に告げた。
「終わったんだよ、オマエの負けでな。
力に溺れて……踊らされた挙句敗北したんだよ」
「ふざけた事を言うな……!!
再生さえすれば次こそは……」
「無理なんだよ、もう。
オマエに次はないんだからな」
「ふざけ……」
ふざけるな。
牙天がシオンに向けて叫ぶように言おうとした時、牙天の体が徐々に粒子へと変化し始めたのだ。
「な、何だこれは……!?」
自分の体の変化、牙天はどこか怯えながら消えゆく体を止めようとしていた。
だがそんなことをしても止まるはずもなく、それどころか牙天の思いを裏切るように粒子へと変化していく速度が増していく一方だった。
「な、何をした……!!
貴様らはオレに何を……」
哀れだな、とノアルはため息をつくと何が起きてるのか理解していない牙天へと真相を告げた。
「アンタは「ネガ・ハザード」になったことで力を得た。
その代償として肉体が限界を超えた時に消滅するリスクを背負ったんだ」
「何……!?」
「力を得た……たしかにそうかもしれないが、同時にアンタは命を捨てたんだ」
「ふざけるな……!!
そんな話、聞いてないぞ……!!」
「……つまりアンタは使い捨てにされたんだな」
「狼角様たちを愚弄するつもりか……!!
オレは……オレは……」
ノアルの言葉を否定しようと牙天は必死になるが、彼の体は完全に粒子へと変化すると静かに散って消えていく。
「……」
シオンは何も言わずに静かに目を閉じると黙祷を捧げる。
敵だったはずの相手へのせめてもの行動。
それを見たノアルは彼に向けて尋ねた。
「……後悔してるのか?」
何がだ、とシオンは静かに目を開けるとノアルに質問で返し、それに対してノアルは詳しく言い直した。
「助からない命だったとはいえ、その手にかけたことを後悔してるのか?」
「……まさかだな。
オレは「月閃一族」、戦闘種族だ。
敵の命を奪うことに躊躇いはない」
「……そうか」
「それに……ヒロムの手を汚させることだけはさせたくないからな」
シオンはどこか恥ずかしそうに言うとどこかへ向かおうと歩き始める。
どこに行くのだろうかとノアルが不思議そうにしていると、シオンはため息をつくなり彼に伝えた。
「何してんだよオマエ……。
さっさとヒロムのところに向かうぞ」
「ああ……分かった」




