一八七話 research means
「では精霊について詳しくお話しさせていただきますね」
精霊についての情報を求めるソラに向けてアリサは自身が知っている精霊についての情報を語り始めた。
「精霊の基礎……については省略しますか?」
「ああ、そこはいい。
精霊がこの世界に姿、形を保つには宿主となる人間の魔力が不可欠で現界する間は常時魔力が供給されている。
万が一にも宿主からの魔力供給が途絶えると精霊は現界する力を失って消えてしまう」
「そこは姫神さんの精霊でご存知ですよね。
でしたら……精霊の種類についてまずはお話ししましょう」
「精霊の種類……?」
「精霊には生まれ持ってその身に宿す精霊と儀式的な契約に基づいて宿す精霊、そして能力を媒体として新たに生み出す精霊と分けることが出来るんです」
「なるほど……。
あの時のアイツの言葉はそういう意味だったのか」
アリサの話からソラは愛華のパーティーでヒロムがセラを現界させた時のバッツの言葉を思い出していた。
『ふざけてるのか、オマエ……!?
あとから契約するか自分の魔力で生み出す他に今更新しく精霊を手にするなんて方法はないんだよ!!』
「あの時のセリフ?」
「あ……いや、以前バッツが言っていたのを思い出していたんだ。
ヤツもあとから契約するか自分の魔力で生み出すって言ってたからな」
「そうでしたか……。
ということは何となくで知ってる感じですよね?」
「そうだな……詳しく説明してもらえるか?」
もちろんです、とアリサは笑顔で言うとソラに向けてバッツも以前言っていた方法について話し始めた。
「まず契約によるものですが……これは言葉通り精霊を契約して宿すと言ったシンプルなものです」
「シンプル、か……」
「シンプルなのは言い方だけですね。
その仕組みは少し複雑ですから」
「やはり契約と言うからには何らかの誓約があるのか?」
その通りです、とソラの言葉に対してハッキリとした返事で答えると彼女は続けてそれについて話した。
「契約というのは宿主と精霊が行うものなのですが、その際に精霊側から何かしら要求されることが多いようです」
「要求ってことは……何かを渡すのか?」
「そうですね……捧げるというべきでしょうか。
精霊によっては魔力を一定量日々与えたり、生命力を対価にしたり……最悪の場合は誰かの命を奪ったりしないといけない可能性もあるようです」
「命……か。
それを事前に知る方法はないのか?」
「それは契約の儀式を行うまで分からないんです」
「どうしてだ?」
「それは……」
「儀式によって力量を測られた後にしかどの精霊に選ばれるか分からないからです」
ソラとアリサの話に入ってくるように十束が紅茶を運んでやって来る。
十束は二人に紅茶の入ったカップを渡すと自身の言葉の続きを話し始めた。
「契約による精霊の獲得にはまず儀式を行い、それに則った流れに従う中で精霊を宿す人の力量を自動的に測ります。
その上で適した精霊が自動的に選ばれるんです」
「選ばれるってことはこちら側に選択権はないってことか」
「そうですね。
すいません、お話の邪魔をして」
「いや、ありがたい。
それで十束さん、話の続きをお願い出来ますか?」
分かりました、と十束はソラの言葉に従って話の続きを語りだした。
「契約による精霊……契約精霊はランダムに選ばれる代わりに精霊と宿主との適合性は高いものです。
ただしお嬢様が仰っていたように対価を求めてきます。
それは力量によって決まるわけではなく、精霊たちの気まぐれによって決まります」
「つまり……弱い精霊でも魂を寄越せと言ってきたり、強い精霊が適量の魔力供給を求めたりするってことか?」
「左様でございます」
「……回りくどいな。
何で統一してないんだ?」
「契約精霊について記された書物によれば契約精霊は別世界を通じて現界して宿るらしいのですが、その精霊は一人ではなくそれまでに何人もの宿主を経ているとされています。
だから精霊が求めるものが契約の度に変わるのは前の宿主から得た対価の満足度が関係してると記されていました」
「……なるほど。
そうなると契約精霊は現界した時点である程度の知識と経験があり、対価を支払ってでも宿す価値がある精霊もいるってことか」
「そうなりますね」
「じゃあ自分の魔力で生み出す精霊は?」
それは私から、と十束と交代するようにアリサが言うとソラの質問に答えるようにもう一つの精霊について話し始めた。
「契約によって宿す精霊を契約精霊と言うのであれば、この方法で宿す精霊は創造精霊と呼ばれています」
「自分の魔力や能力で生み出すから創造、か……」
「もしソラが本気で精霊を求めているならこの方法になると思うわ」
「その方法は?」
ソラの質問に対してこれまで何でも答えていたアリサだが、突然言葉を詰まらせてしまう。
何故なのかとソラは十束に視線を向けるが、その十束も難しい顔をしていた。
「……言い難いことなのか?」
「方法……といえるハッキリとしたものは無いんです」
アリサの口からゆっくりと告げられた言葉、それを聞いたソラは唖然としていた。
そしてアリサの言葉について言及するようにソラは彼女に質問をした。
「どういうことだ?
アリサ……アンタは創造精霊について知ってるような言い方だった。
なのに今アンタはその精霊を手にするハッキリとした方法と言えるものが無いと言った。
何故だ?」
「……そうですね、知らないわけではありません。
ですが……方法としてアナタにこれだと自信を持って伝えれるものが無いのです」
「つまり……方法はあるんだな?」
「方法はあります。
でも……確証がないんです」
これまでのアリサからは出なかったハッキリとしない言い方。
ソラはそれだけで創造精霊の存在について何となく理解したが、アリサの言う確証のない方法というのは気になってしまう。
「確証がなくてもいい。
その方法を教えてくれないか?」
「……分かりました。
方法は色々あります。
魔力の一部を媒体に精霊としての意思を宿させて生み出す方法、能力を極限まで高めることにより生まれる力が精霊として昇華される方法……挙げると多くなるので具体的な例だけにさせてもらいますが、とにかく方法は色々あります」
「それなのに確証がない、と。
変な話だな……」
「……その理由はとても簡単です。
これらの方法は誰がやっても精霊へと結びつく可能性があるわけではないからです」
「つまり?」
「これだけ多くの方法があるにもかかわらず、その手に精霊を掴める人が一人いれば奇跡と言っていいほどの確率です」
「なるほど……」
アリサの説明が終わるとソラは頭を抱え、そしてため息をついてしまう。
何かあったのかと十束は彼を心配そうに見つめるが、ソラは頭を抱えながら説明された内容を確かめるようにアリサに言った。
「……創造精霊の生み出す方法は多くあるが、それに反するように精霊を宿す確率は極めて低い。
契約精霊に比べると安全である代わりに精霊を手に入れられないことを大前提に考えなきゃならないってことだな?」
「そうなりますね……」
「……確証がないというよりは確実性がないって感じか」
ソラは再びため息をつくと困ったような表情を浮かべ、気持ちを落ち着かせようとするかのように十束の入れた紅茶を口にする。
そんなソラの表情を見たアリサは彼に対して疑問に思ったことを質問した。
「どうしてそこまでして精霊を手に入れたいのです?
ソラは今でも十分強……」
「今のままじゃダメだからだ。
「八神」との戦い……あの戦いでオレは結局誰も倒せなかった」
(射角……魔力増幅剤の副作用で消滅したアンタを倒せなかったし、救えなかった……)
「これから先、復活したトウマやオレたちを危険視しているヤツらが襲ってきたりする可能性もある。
その時に戦えるように強くならなきゃならない」
「ですが力が全てでは……」
「分かってる。
力を御しきれなかったときの苦しみはな。
けど……」
ソラは「炎魔」の力を制御出来ていなかった時の自分のことを思い出す一方で、脳裏にヒロムの姿を浮かべていた。
そして拳を強く握るとどこか悔しさと悲しみを感じさせるような表情をアリサと十束に見せながら胸の内に秘めた思いを口にした。
「アイツにこれ以上無理はさせられない……。
このままアイツが人でなくなる運命を辿るというならオレが断ち切ってみせる……!!」
「ソラ……」
「相馬様、一つ質問してよろしいでしょうか?」
胸に秘めた思いを口にしたソラに向けて十束は何か気にあることがあったのか、彼に向けて質問をした。
「別に構わないけど……何です?」
「アナタの仕える王……姫神ヒロムさんは当初は十一人を宿されてましたよね?」
「ああ……真助と戦った後にセラたちを、この間の「八神」との戦いで全ての精霊を出現させたから今は二十四人だ」
「でしたら……何か聞いておられませんか?」
「何を?」
「その精霊たちが現れる前兆が何かあったのではないかと思いまして。
聞いておられませんか?」
「……いや。
アイツからは何も……」
ヒロムからは何も聞いていない、そう応えようとしたソラだったがある事を思い出すと十束への言葉を言い直すように再び言った。
「ヒロムは何も言ってなかったけど、真助との戦いを見てた夕弦がそれらしいことを言ってたな」
「その方は何と?」
「ヒロムが明らかに追い詰められてる時に真助がトドメをさせようと放った一撃を止めた後アイツの体は銀色の魔力に包まれたらしい。
その後ヒロムは誰かに向けて話していたらしいんだ。
「誰だ?」って」
「なるほど……それは聞けてよかった」
ソラの話を聞くなり何かに納得した十束はアリサに向けてあることを伝えた。
「お嬢様、相馬様が精霊を宿せる方法……可能性がある方法があります」
「何ですって!?」




