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レディアント・ロード1st season   作者: hygirl
心想恋華編
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一八四話 approach One Step


シンクの入院する病院。



ヒロムとユリナは病院の中に入ると受付に向かっていた。


あの後どこかへ立ち寄ったのかヒロムは手にビニール袋を持ち、ユリナは花束を持っていた。


「ねぇヒロムくん……本当にそれ渡すの?」


どこか不安を隠せないユリナは恐る恐るヒロムに確認を取るが、ヒロムは何の心配もいらないと言いたいような顔でユリナに言った。


「大丈夫。

昔のアイツは怪我とかしたらコレ渡せば喜んでたからな」


「昔って……子どもの時だよね?」


「ああ、アイツがオレのところから離れる前だから五歳とかの時かな」


「多分……変わってるかもしれないよ?

その、子どもの時とは違うかもだし……」


「ダメだったらその時はその時さ。

とりあえず……」


大将、と誰かがヒロムに声をかける。


声のした方に視線を向けると、そこにはイクトがいた。


「何しに来たの?」


「よぉ、シンクの見舞いだよ。

そろそろ目を覚ましてるだろうと思ったからな」


「なるほど……そのついでにデート?」


「ち、違うよイクト!!

これはその……ただ一緒にお見舞いに来たかっただけだからね?」


「姫さん、それを遠回しにデートと言うんじゃないのかな?」


違うよ、とユリナは照れながらイクトの言葉を否定するが、そんな中ヒロムはイクトのある変化に気づいた。


「イクト、その服……もらったのか?」


「ああ、これ?

蓮夜さんから支給されたんだけど……似合うだろ?」


イクトはヒロムに言われるとその場で一回転して今着ている服を披露した。


どこか軍服にも見えるような黒い装束、それを見たユリナは悲しそうな目でイクトを見ながら彼に言った。


「イクト……服買うお金ないの?」


「姫さん!?

金ないから恵んでもらったとかじゃないからね!?

「月翔団」に所属するってことで渡されただけだからね!?」


「ホントに?」


「ホントホント、マジホント!!」


騒がしいわよ、とイクトの後ろから白崎夕弦がやって来て、彼の頭を軽く叩いて注意した。


「他の人に迷惑かけないで。

見てて恥ずかしいから」


「すんません……」


「それよりもヒロム様、それにユリナもわざわざありがとうございます。

シンクのお見舞い、ですよね?」


「ああ、もう目を覚ましてるよな?」


「はい、今朝目を覚ましました。

病室に案内しますね」


***



とある病室。


病室にしては少し広い空間にベッドが一つ、個室というやつだろう。


そのベッドの上で氷堂シンクは包帯を体に巻き、点滴を打った状態で座っていた。


手には本を持ち、静かに読書をしていた。


「……」


次のページをめくると続きを読むように静かに視線を向け、窓越しに聞こえてくる小鳥のさえずりが彼の読書の一時を優雅にさせている。


「……」


次のページをめくろうとした時、病室の扉が開き、誰かがシンクのもとへやって来るように入ってくる。


本を読む中で気配か何かで感じ取ったシンクは栞を挟むと本を閉じ、やって来た人物の方へと視線を向けた。


その視線の先にはヒロムとユリナ、そしてイクトと夕弦がいた。


「……わざわざ来たのか?」


「オマエは「天獄」の一員だし、何より……オレの大事な友だちだからな」


「ふっ……嬉しいことを言ってくれるじゃないか」


ほらよ、とヒロムはシンクのもとへ歩み寄ると手に持つビニール袋をベッドに設置された台上へと置き、中身を取り出すと並べ始めた。


並べられた物を見たシンクは普段全く見せないような嬉しそうな表情を見せるとヒロムに礼を言った。


「わざわざ買ってきてくれるとは、ありがたいな」


「昔から何かある度にこれ欲しがってただろ?

だから今回もと思ってな」


「助かるよ」


シンクは嬉しそうにヒロムに礼を言うが、そのシンクの姿にユリナはどこか不思議な視線を送っていた。


それに気づいたシンクはユリナに向けて尋ねた。


「……どうかしたか?」


「あ、あの……本当にそれで良かったんですか?」


「ああ、ありがたいと思ってるよ」


「でもそれ……コンビニで売ってた氷、ですよ?」


シンクがビニール袋から取り出した物、それはコンビニに置かれているバーベキューなどの時に重宝される袋入りの氷だ。


ユリナはシンクがなぜそれで良かったのか、疑問でしか無かった。


そもそも氷なんて冷蔵庫の製氷機があればいくらでも作れるはずだ。


なのになぜなのか?

なぜわざわざコンビニで氷を買ってきてお見舞いの品として渡したのか、ユリナはそれが不思議で仕方がなかった。


……が、そのユリナの抱く疑問を解決するかのようにシンクは氷の入った袋を開けながら彼女に説明をした。


「オレの体は昔から特殊でな。

能力のおかげと言うべきかこれがあるとこういう時は助かるんだよ」


「?」


「疲れた時とかに疲労回復にいい食べ物を食べるだろ?

あれと同じだよ」


「でもこれは氷……」


だからだよ、とシンクはユリナが話してる途中にもかかわらず服から氷を取り出すとそれを貪るように食べ始めた。


突然の行動にユリナは驚き、初めて見たであろうイクトと夕弦も若干彼の行動に引いていた。


「ええ!?」


「うわ……知覚過敏なら間違いなく死んでるな……」


「何言ってるのよ……。

というかシンク、アナタのそれは何の意味があるのかしら?」


「ん?

特異体質、てやつだな。

氷を食えば傷が治るんだよ、不思議なことにな」


「いや、特異体質で済む話なのか!?」


大きな声でツッコミを入れるイクトだが病室ということもあり夕弦が静かにするように睨み、それによりイクトは軽く頭を下げて謝ると黙った。


イクトが黙ったことにより、彼と交代するかのようにユリナはシンクが口にする氷について質問をした。


「あの……氷なら冷蔵庫とかで作れますよね?

それに病院の人に頼めば……」


「こんな体質、普通の人間からしたら化け物扱いされるからな。

穏便に済ませるならこの方がいい」


「そ、そうなんだ……」

(この人からしたら私やヒロムくんは普通の人じゃないのかな……?)


それに、とシンクは氷を食べるのをやめるとユリナに向けて氷についての説明の続きを話し始めた。


「オレはこれでも「八神」を裏切ったことによって命を狙われてる。

ヤツらが糸を引く人間がどこにいるかも分からない以上、誰もが利用するコンビニの方がこういう時は安全なんだよ」


「でもここはヒロムくんの家が……」


「管理はしてるな。

けど「八神」は「十家」に属す家、その気になれば紛れ込ませることも出来るはずだからな」


「……こんな調子だから起きてから食事を取ることも拒否してるのよ」


夕弦が呆れていると、シンクはユリナが手に持つ花束を見ながら彼女に言った。


「姫野ユリナ……だったな。

わざわざ選んで来てくれたのか?」


「あ、これですか?

せっかくですので何かあった方がいいかと思ったので……」


「そうか、ありがたいな」


シンクはユリナに礼を言うと彼女から花を受け取り、そして氷を食らうのをやめると彼女に向けて頭を深く下げた。


「え、あ……あの……!?」


「すまなかった。

オレの判断のせいでキミにまで迷惑を掛けてしまった」


「え……そんなことは……」


「ヒロムのそばにいて支え続けてくれたんだろ?

感謝の言葉しかないんだ」


「頭を上げてください……」


シンクの突然の行動にユリナは戸惑ってしまい、シンクに顔を上げさせると彼の目を見ながら伝えた。


「私はアナタのせいだとか思ってませんから。

ヒロムくんも……それに皆もアナタのことを責めたりしてませんから気にしないでください」


「……そうか」


「はい、気にしないでくださいね。

あっ……花瓶に花さした方が……」


「花瓶か?

任せろ」


シンクが指を鳴らすとベッドに設置された台上に冷気が集まっていき、それが氷塊になると形を変えて花瓶へと変化した。


シンクはベッドの近くにある冷蔵庫からペットボトルの水を出すとその花瓶へと注ぎ、ユリナから受け取った花をそこへさした。


「これで大丈夫だな」


「す、すごい……」


「氷の能力者が造形することにおいて不可能があってはならないからな。

このくらいなら造作もないさ」


ところで、とシンクはユリナから受け取った花をさした花瓶を見ながらヒロムに向けて質問をした。


「まさか氷と花のために来たんじゃないだろ?

ホントは何か別で用があるんじゃないのか?」


「……お見通し、か。

シンクに話す前に夕弦とイクトに確認しときたいことがあるんだ」


「オレたちに?」


「何です?」


「オマエらは「月翔団」の内部で「世界王府」について情報を手にしてないか?」


ヒロムの質問、それは用件だけを簡単に伝えた上でのものだ。


それを聞いたイクトと夕弦は首を横に振るが、ヒロムの口からある単語が出たことにより何かある事はすぐに理解していた。


「大将、その質問から察するに……「世界王府」が現れたのか?」


「ああ、鬼桜葉王が昨日オレらの前に現れるなりそれを伝えてきた」


待て、とヒロムの言葉に対してシンクは言うと、彼はヒロムの言葉から感じた疑問を解決しようと単刀直入に尋ねた。


「オレら……というのは姫野ユリナも含まれてるのか?」


「そうだけど……何でだ?」


「いや……ヒロムが彼女の前で平然とそういう話をするのに少し驚いてしまったからだ」


「気にしなくていいさ。

ユリナはそこまで弱くないしな」


「……そうか。

で、他の情報は?」


シンクの言葉に対してヒロムは鬼桜葉王から受け取った写真を手渡し、それを受け取ったシンクとイクトと夕弦は何が写っているのか確かめようと見始める。


「コイツらは……?」


「一人はヴィラン、コイツに関しては「一条」も情報がないらしい。

けど……もう一人の方はノーザン・ジャックと呼ばれる殺しの天才らしい」


「殺しの天才?」


「オレもよくは知らないけど、ノーザン・ジャックについて詳しい理由をヤツに聞こうとしたらはぐらかされたんだよ」


なるほど、とイクトがヒロムの説明で納得しているとその隣でなぜか夕弦は深刻そうな顔をしていた。


「どうかしたか?」


夕弦の深刻そうな顔に気づいたヒロムは何かあったのではないかと思って彼女に声をかけ、声をかけられた夕弦はノーザン・ジャックについてヒロムに質問をした。


「……そのノーザン・ジャックという男の他の情報はありますか?」


「他の情報?

鬼桜葉王が言うにはコイツは殺しに関しては人の域を超えた天才で狙った相手は逃がさない。

そして標的を殺す際は容赦なく、そして虫の息であっても情け容赦なくトドメを刺す……コイツに狙われたヤツはその時点で呼吸すら許されないような言い方をしてたけど、それがどうかしたか?」


「……今朝団長からある事件について聞いたんですが、犯人に繋がる決定的証拠もなく情報も少なかったので覚えておく程度にしておくつもりだったのですが……」


「もしかしてあの事件のこと?

でもアレと今の大将の話って関係あるか?」


何のことだ、とヒロムはイクトに問うと彼は何のことか分かっていないヒロムに自分と夕弦が聞いた話について語り始めた。


「発見されたのは昨日なんだけど、ある軍事施設が襲撃され、そこに所属していた兵士と関係者が惨殺されてたんだ」


「複数犯か?」


「いいや、蓮夜さんから聞いた話じゃ複数犯にしては争った痕跡も侵入した跡も少なすぎるから単独の可能性が高いらしい」


「それで……その事件とノーザン・ジャックにどんな関連性が?」


シンクの質問に答えたイクトに向けて続けるようにヒロムは質問すると、彼は夕弦の方を見て何かを確認するとヒロムに向けて説明し始めた。


「殺し方が徹底されてたらしい。

心臓や動脈を狙うように刃物で刺され、首の神経を抉るように鋭利な刃で斬られたような傷跡……蓮夜さんが手にした情報では殺害された兵士たち全員が確実に命を奪われる形で殺されてるんだ」


「それでノーザン・ジャックと関係があるかもって思ったのか……」


それだけじゃありません、と夕弦はヒロムに向けて事件の現場となった軍事施設について語った。


「この軍事施設、実はある「十家」が管理していたんです」


「まさか「八神」か?」


「いえ……ですが「八神」とは密接な関係にあると言ってもいいと思います」


「密接な関係……?

それって……」


アイツか、と夕弦の説明から何かに気づいたシンクは舌打ちをし、何のことか気になったヒロムとユリナが彼に視線を送るとシンクは二人に向けて話した。


「覚えてるか?

パーティーの会場にバッツが現れる前……オレや真助が鬼桜葉王に襲われた時に七瀬アリサが屋敷に来てオレと話してたのを」


「ああ、たしかデバイスシステムとかいうやつのことだったな……」


「武器を携帯したり、能力を使えるようにする道具……だったよね?」


「ああ、その研究と開発にかかわっていたのは「八神」と婚約関係にある……」


「……「四条」か?」


その通りだ、とヒロムの言葉に対してシンクが言うとそれに続くように夕弦が解説した。


「この軍事施設にて殺害された関係者の中に一人だけそのデバイスシステムにかかわってる人がいたようです。

そして……殺害されたこの人物の体には何かを探してついたような痕跡があったそうです」


「……待てよ、もしノーザン・ジャックがかかわってるのならヤバいだろ?」


自身の考えがある点に至った瞬間、ヒロムは頭を抱えながらイクトたちにその考えを伝えた。


「トウマは「ハザード・チルドレン」たちと併用する形で「四条」と協力してデバイスシステムを完成させ、武器や複数の能力を扱える力を生み出そうとしていた。

ノーザン・ジャック……つまりヤツが属する「世界王府」がそれを知った上で襲撃したなら……」


「敵が探していたのは……」


「デバイスシステムの情報!?」


「でもそれで何かしたり出来るの?」


出来るさ、とユリナの疑問に答えるようにヒロムは言うと続けて何が起きるか、その可能性について告げた。


「ヤツら「世界王府」はテロリストを束ねている。

デバイスシステムの情報が本当に奪われたのなら……今までただ武器を手に取ってただけのテロリストが無差別に力を行使できる殺戮集団になっちまうってことだ……!!」

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