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レディアント・ロード1st season   作者: hygirl
心想恋華編
173/672

一七三話 creep noise


とある高層ビル。



その屋上に設置されているヘリポートに一人の青年が立っていた。


黒いフードを深く被り、コートを羽織ったその青年はどこか遠くの景色を見るように何も無い所をずっと見ていた。


「……この世界は美しい。

人の命の輝き、紡がれる想い、触れ合うことで繋がる心……。

この世界とは全ての生物において完成させられたと言っていいほどの優れた種によって構築されている」


どこか詩のようにも聞こえる言葉を並べる青年だが、突然ため息をつくと周囲を見渡しながらさらに言葉を発する。


「だが醜くなりつつある。

美しいはずの世界が必要のない穢れに蝕まれ、破滅の道に向かっている。

悲しいことだ……こんな悲しいことがあっていいのだろうか……」


許せない、と青年が言うと空気は一気に重くなり、そして晴れていたはずの空が薄暗い雲に覆われ始める。


「これ以上の穢れの繁殖は許さない……我々の手であるべき形に戻さなければならない」


「一人で勝手に感傷に浸るところ悪いが、そろそろいくぞ」


するとどこから現れたのか全く気配を感じさせることなく青年が彼の背後に現れる。


黒い髪に前髪は黄色のメッシュが入っており、黒いロングコートに身を包んだ体には腕や脚に無数のベルトを巻き付け、両手は鋭い爪を有したガントレットに覆われていた。


「おい、聞いてるのか?」


反応しない彼に青年は冷たく言うとその青い瞳で睨むように見つめるが、彼は振り向くなり青年に告げた。


「少しだけ時間をくれないか?

確かめたいことがある」


「おい……まだ先延ばしにする気か?

さすがにこれ以上は待てないぞ」


「いや、ほんの二時間ほどでいい。

確かめたいことがあるんだ」


「確かめたいこと?

何をだ?いくらオマエの頼みでもこれ以上待てないぞ、ヴィラン」


「大丈夫だ、ノーザン・ジャック。

すぐに終わるように手配しているから確認すれば終わる」


「手配だと?」


「昨日の輝きを放つあの王をもう一度見たいんだよ」


そうかよ、と青年……ノーザン・ジャックは彼、ヴィランに冷たく言うと彼に背を向けながらどこかに向かおうとする。


「どこへ?」


「悪いがオレにも都合がある。

他の仕事を済ませに行くだけだ」




***


ショッピングモール。


そのモール内にあるケーキ屋。

ケーキ屋にしては規模は大きく、ファミレスのような広さがあり、それを最大限に引き出すために用意されたメニューがある。



ヒロムはユリナの願いを叶えるため、ユリナたちとユキナ、レナを連れてここへ来ていた。


「……人多いな」


店員に席へ案内されるとヒロムはすぐに座り、辺りを見回すように視線を送る。


店内の席は満席に近いほどのお客がおり、その半分以上が女性客だ。


ヒロムと同じような男性客もいるが、青春を感じるような男同士ではなくカップルでの男性客がほとんどだ。


そんな中で別段付き合ってるわけでもない少女八人とともに店内へと現れたヒロムへの視線を少し冷たく、そしてその視線を受けたヒロムもその理由を理解していた。


「一人の男がこんなに女を連れて歩くのは珍しいを通り越して怪しさを感じるんだろうな……」


「どうかしたのヒロム?」


別に、とヒロムはアキナに言うとあくびをした。


そんなヒロムを見るなりレナは呆れた様子でヒロムに言った。


「こんなに美女が揃ってるのに退屈なの?」


「いや……滅多にこういうことしてないから気疲れしてるだけだ」


「あら、美女と一緒にいる野獣とは思えない言葉ね」


「誰が野獣だ。

……まぁ、この状況だけを見れば否定は出来ないが」


レナの言葉に対してヒロムは軽く言葉を返すとメニューを手に取ってそれを見始めた。


「にしても……ケーキの種類多いな」


「そりゃそうでしょ。

ここは多くの種類のプチケーキ食べ放題コースが人気なんだし、それを楽しみに来たんでしょ?」


「……ユリナが来たいって言ったからな」


レナに当たり前のように言われるとヒロムは冷たく一言返し、再びあくびをした。


するとアキナとレナ以外の姿が見えないことにヒロムは気づいた。


「……アイツらは?」


「もうケーキ取りに行ってるわよ」


「アキナはいいのか?」


「私はエレナに頼んであるから大丈夫。

そんなことよりヒロム、今……」


「悪いが今なら何してもバレないとか言うなよ?

抵抗するのも面倒だからな」


「あら、じゃあ抵抗しなくても……」


よくないです、とユリナはアキナの後ろから言うとヒロムの隣へと座り、テーブルに一口サイズのプチケーキをいくつも乗せた皿を置いた。


イチゴのショートケーキ、ガトーショコラ、チョコケーキ、フルーツケーキ、チーズケーキなど……


ケーキ屋では定番であろうそれらが一口サイズになったプチケーキが盛り付けられた皿を見るなりヒロムは小さくため息をついた。


「そんなに食えるのか?」


「う、うん。

小さいから大丈夫だよ?」


「太っても知らないぞ?」


「そういう事を女の子に言っちゃダメだよ?」


はいはい、とヒロムは軽い返事をユリナに返すとレナにあることを頼んだ。


「コーヒーをブラックで頼む」


「何?取りに行けって言いたいの?」


「いや、そう言ったんだが?」


「……あとで何かお礼してよね」


レナはどこか嫌そうな顔をしながらコーヒーが置かれているであろうドリンクコーナーに向かっていく。


それと入れ違いになる形でリサがエレナとエリカとともにテーブルへと戻ってくるとそれぞれ取ってきたケーキを盛り付けた皿を並べていく。


どうぞ、とエレナはヒロムとアキナに二人のために取ってきたであろうケーキを渡す。


「ありがとね」


「サンキューな」


「いえ、お気になさらず。

飲み物は今チカがユキナと取りに行ってますので……」


「え、レナに頼んだけど……」


ちょっと、と少し怒りながらレナがこちらに戻ってくるとヒロムに対して文句を言い始めた。


「コーヒー取りに行ったらユキナがもう用意してるって言ってるんだけど!!

私行った意味なくない!?」


「……コーヒーは?」


「今チカとユキナがみんなの分と一緒に持ってくるわよ」


「いや……行ったなら手伝えよ」


うるさい、とレナは呆れながら言ってくるヒロムに告げると座ってしまう。


「すみません、遅くなりました」


チカがユキナとともにトレーにヒロムたちの飲み物を乗せてこちらに運んで来ると、順番に飲み物を配っていく。


「ヒロムはコーヒーで良かったよね?」


「ああ、助かったよユキナ」


「ねぇ、コーヒー頼まれた私には?」


「いや……手ぶらで帰ってきただけだろ?」


「はぁ……労いの言葉くらいあってもいいと思うんだけど……」


「文句の多いやつだな……」


ヒロムは小さくため息をつくと渡されたコーヒーを一口飲む。


が、ヒロムはコーヒーを口にすると少し不満があるような顔を見せた。


「ヒロムくん?」


「……ユキナ、オマエ何か入れたか?」


「うん、入れたよ?

疲れてるみたいだから糖分必要だと思ったから砂糖を」


「オレは無糖派なんだが……」


「あ、ごめんね。

レナ、暇なら入れ直してきて」


「ちょっとユキナ!?

その扱い酷くないかしら!?」


「レナ……落ち着いて」


ユキナの適当な発言に少し声を荒らげるレナに対して落ち着くように伝えるユリナ。


そんなユリナの姿を見るとリサとエリカはなぜか嬉しそうに笑っていた。


「二人ともどうかしたか?」


二人の笑顔に気づいたヒロムは何かあったのか尋ねると、彼女たちは口を揃えて理由を答えた。


「ユリナ大変そうだなぁって思ってたの」


「なんか世話焼きなお姉さんみたいで面白いしね」


「リサとエリカも少しは手伝ってよ〜……」


ヤダ、とユリナの申し出を笑顔で断ると二人は何も無かったかのようにケーキを食べ始める。


いや、何も無かったかのようではなく、元々何も起きてはいない。


「……賑やかだな」


「そうですね」


話の方向性はバラバラだが、どちらにしろ盛り上がっているユリナたちを見るなりヒロムは呟き、それを聞いたエレナは微笑みながら頷いた。


そんな中、チカがユキナとレナに対してある質問をした。


「そういえばお二人はどうして以前の愛華様のパーティーに参加されなかったのですか?」


「それ今聞く? 」


「大した理由じゃないよ〜?」


「アキナも来てませんでしたけど、何かあったのですか?」


「それは……」


チカに言われて少し答えに戸惑うような様子を見せるアキナだが、レナとユキナは違った。


というより二人に関しては答える必要もないといった感じだ。


「どうしてですか?」


詰め寄るかのようにチカが質問し直すと、アキナはユキナとレナの顔を見、そして三人はほぼ同時に答えた。


「だってヒロムいないと思ったから」


「ヒロム来てないかもだしいいかな〜、て」


「ヒロムがいる可能性低そうだったから」


「うわ……三人ともほぼ同じ理由」


アキナたち三人の答えの中身がほぼ同じに近い結果にエリカは驚き、ヒロムは三人の理由を聞いて不思議そうな顔をしていた。


「なんでオレがいないのが参加しなかった理由になるんだ?」


「だってヒロムがいないとつまらないし」


「ヒロムと会えないなら退屈だしね〜」


「ていうかヒロム、自分の誕生日パーティーも来てなかったじゃない。

なのに参加するとは思えなかったからよ」


アキナ、ユキナ、レナの三人の言葉にヒロムはため息をつくと、三人の言葉について追及するように質問をした。


「それはオレのせいなのか……?」


「だって私たちみんなアンタの誕生日パーティーに参加したのに当の本人はやる気ないとかでドタキャンしたみたいだし」


「それは……事実だ」


レナの言葉に反論しようとヒロムは考えたが、反論の余地もないと理解するとため息混じりに事実を認めてしまう。


そしてそれを隣で聞いていたユリナはヒロムの言葉に驚き、真相を確かめようと質問をした。


「どうして行かなかったの?」


「それは……ユリナがリサとエリカと三人で用意してくれてるってフレイに言われたから断るのは申し訳ないかなって……」


「あっ、ハルカのこと……」


「リサ、今は黙っておこうね」



「でも愛華さんたちも用意してたんだよね?」


「オレがいなくても大人たちが上手くやってくれると思ったんだけど……」


ユリナの質問に順に答えるヒロムだが、ユリナはどこかご不満があるような顔でヒロムをじっと見つめていた。


「いや、その……」


何か言い訳をしようとしたヒロムだが、自分に向けられるユリナの目を見るとそれが出来なくなり、少しの沈黙の時間を置くとユリナに頭を下げた。


「……何かあったら事前に相談します」


「約束だよ?

私たちにもちゃんと言ってね」


はい、とヒロムが返事をするとご不満があるような顔をしていたユリナは微笑み、仕切り直すように手を叩いてリサたちに言った。


「この話はもう終わりにして、ケーキ食べよ!!」


「でもユリナ、パーティーの話を始めたのはユリ……」


「リサ、とりあえず揚げ足取るのやめて」


「……さっきからリサとエリカは漫才でもしてるのか?」


「「違うよ!!」」


ヒロムの言葉を訂正するようにリサとエリカは声を揃えて言い、それを聞いていたユリナたちは楽しそうに笑っていた。



だがまだ彼らは知らない。


身を潜めていた闇が動き出していることに……

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