一六九話 encounter girl
「全然……見当たらない!!」
走っていたのか、それともただ歩き疲れたのか……
理由は定かではないが、先ほど遠くからヒロムたちの後ろ姿を見ていたと思われる少女は息を切らしていた。
息を切らす少女の隣にいたもう一人の少女は平然とした態度でおり、疲れている彼女へ向けて言った。
「見間違いじゃないの?」
「私が見間違うと思ってるの?」
「……その自信が空回りして失敗してるのを何回も見てるから言ってるんだけど」
「そ、そんなことないわよ!!
たまたまよ、たまたま!!」
「……そのたまたまで二時間もこのショッピングモール内を何往復もさせられてるこっちの身にもなってくれない?」
「それは……もう、文句言わないでよ!!」
「はいはい……って電話すれば早くない?」
したわよ、と呆れる彼女に向けて少女は言うとため息をつきながら携帯電話の画面を見ながら説明した。
「三十分おきくらいに電話してるんだけど出ないのよね……」
「……三十分おきに電話される身にもなった方がいいと思うけどなぁ」
「う、うるさいわね。
とにかく探すわよ!!」
「じゃあ二手に分かれない?
二人で一緒に探してもキリないし……」
「そうね。
じゃあ何かあったら連絡してよ?」
少女の提案を即決するなり彼女は走っていく。
走っていく彼女に向けて手を振る中、少女は呆れた表情を浮かべながら呟いた。
「ていうかもう帰ってる可能性とか考えてないのかな……」
***
ショッピングモール内にある洋食レストラン。
高級感溢れる店の内装、そして提供される料理もそれに見合っている高級感が溢れ出ていた。
そんなお店にヒロムはユリナたちとともに来ていた。
七人という人数のためか大きなテーブルに案内されるとヒロムはすぐ席に座ったのだが、ヒロムの隣に誰が座るかでユリナたちは相談していてなかなか席につかない。
「ジャンケンにする?」
「ジャンケンしかないでしょ?」
「何でもいいからさっさと決めろよ……」
未だに悩むユリナたちの姿を見ながらため息をつくヒロムだが、そんなヒロムの右隣にリサが何も言わずに座ってくる。
「……いいのか?
勝手に陣取っても」
「あら、映画の時はアキナのお願いってことで隣即決したんだからここで私が座っても文句はないでしょ?」
「それもそうだな……。
リサがこの店に来たいって言ったんだからな」
「本当はヒロムくんと二人っきりで来てイチャイチャしたいんだけどなぁ〜……」
ダメだよ、とヒロムの左側にユリナは座るなりリサに注意した。
エレナたち四人はヒロムとリサ、ユリナと向き合うようにテーブルの向かい側に座っていく。
そんな中、リサはユリナをからかうように言った。
「ユリナったら、嫉妬してるの?」
「してないもん」
「もう、可愛い言い方しちゃって〜」
「一応言っておくけど、ヒロムくんを困らせちゃダメだからね」
「……その前にオマエらがさっさと座らないから店員が困ってるんだがな」
「ご、ごめんなさい……」
「まぁ別にいいけど」
それより、とアキナはヒロムに向けてあることを質問した。
「映画、面白かったでしょ?」
「ああ?
別に普通だったよ」
「今人気なんだけどダメだった?」
「うーん……なんかフィクション感強すぎて話が入ってこなかった」
ヒロムの感想を聞いたユリナたち六人の少女が全員驚いたような顔をした。
「感動しなかったの?」
「よくあるハッピーエンドだろ。
感動したエリカには悪いけどオレは感動しなかったよ」
「主人公と先輩の急接近のシーンはドキドキしませんでしたか?」
「いや……ごめん、チカ。
台本感強くて何も」
「あ、ああいう恋愛は憧れませんか?」
「エレナ……女七人連れてる時点でああいう恋愛とはかけ離れてるからオレの中には憧れとかはないかな」
「告白するきっかけになった友だちとのケンカのシーンも?」
「強いて言うなら……パンチの出し方が下手だった」
「……」
「……」
ユリナ、チカ、エレナ、リサの質問に対してヒロムは素っ頓狂な答えを返し、それによりユリナたちは唖然としていた。
「何かおかしかったか?」
「とりあえず料理頼みましょ」
「話はそれからね」
リサとアキナはヒロムを見ながら彼に伝えた。
「「……覚悟しててね?」」
「お、おう……」
………………
数十分後。
昼食となる料理を注文し、それらが運ばれてきてテーブルに並ぶ中でヒロムはアキナとリサに話を聞かされていた。
「あのシーンは感動するところなの?
分かる?」
「い、いや……」
「感動必須映画なんだけど、ヒロムは真剣に見てた?」
「あ、ああ……一応……」
「一応?
眠たくなったの?」
それはない、とアキナの言葉を否定するヒロムだが、そのヒロムの目はアキナを見ておらず、全然違う方向を見ていた。
その反応を見たアキナは全てを察してため息をつくと、彼に伝えた。
「全部を理解しろとは言わないけど、少しは理解しようとしてよね」
「これでもしてるさ。
ただああいうのはどうも性にあわないからな……」
「文句言わないの。
次映画行く時はちゃんと見てよ?」
分かったよ、とヒロムは軽い返事を返すと料理食べようとする。
「とりあえず飯食おうぜ」
「……理解してるか不安だわ」
「オレからすればオマエらのスキンシップがエスカレートしないかが不安だよ」
「もう、喜ばないでよ」
「喜んでな……」
あーん、とリサは自分の注文したパスタを一口ヒロムへ食べさせようとする。
「……何?」
「もう、分かってるでしょ?
ほら、あーん」
「……はぁ」
ヒロムは小さなため息をつくと口を開け、リサからのパスタを一口食べる。
「おいしい?」
「……おう」
「ひ、ヒロムくん!!」
「ヒロムさん!!」
「ヒロム!!」
「ヒロム様!!」
するとリサの行動に影響されたのかユリナ、エレナ、アキナ、そしてチカがリサの真似をするように自分の注文した料理を一口ヒロムへ食べさせようとしていた。
「え……えっと……」
四人の行動にヒロムは困惑し、そんなヒロムの姿を面白そうにエリカはからかった。
「モテモテだねぇ〜。
あっ、せっかくだから私も……」
エリカはなぜか面白そうに便乗しようと自分の料理を一口ヒロムに食べさせようと動き始める。
「……リサ、助けてくれ」
この状況をどうにかしようとリサに助けを求めるヒロム
だが、リサはにっこりと微笑むとその笑顔のままヒロムに伝えた。
「ダメよ?」
「……マジかよ」
「というか、嬉しくないの?
六人の美女に囲まれてあーんしてもらえるのよ?」
「これでも喜んでるさ。
けど……同時に困ってるよ」
「困ることなんてある?」
「あるさ。
……男としてこんな一時を過ごして問題ないか考えるとな」
ヒロムはまたため息をついてしまうが、そんなヒロムにリサはあることを言った。
「気にしなくていいと思うわよ?
私たちみんなヒロムくんと一緒にいたいからいるわけだし、別にこうしてみんなと過ごしてるのも嫌じゃないわけだし。
気にしなくてもいいんじゃない?」
「それは分かってるよ。
けど、周りの目が……」
「他人の言葉なんて関係ないわよ」
ヒロムの言葉を遮るようにリサが強く言うと、その言葉にヒロムは驚いてしまって続けて言おうとしていた言葉を止めてしまう。
突然の言葉で驚いたというのもあるが、ヒロムにとってリサのこの言葉は予測すらしていなかった。
驚いて言葉の出ないヒロムに対してリサはユリナたちを見るなり彼に告げた。
「ここにいるみんな、全員が周りの目なんて気にしてないわ。
アナタといたい、アナタのためにそばにいたい……そのためなら常識なんて必要ないもの」
「イカれた理屈だな……」
「そうさせたのはヒロムくんが私たちにとってあまりに魅力的すぎたからだよ」
ヒロムとリサの会話に入ってくるようにエリカが言い、彼女は続けてヒロムに伝えた。
「他の誰でもない、目の前にいるヒロムくんに全てを捧げてもいいと思ってるからみんなここにいるんだから。
周りの目が気になるとか言わないで自信持ってよね?」
「……全てを捧げても、か」
とりあえず、とリサはユリナたちを見ながらヒロムに告げた。
彼女たちはヒロムに一口食べてもらおうとヒロムを待っている。
「ユリナたちからのあーんをちゃんと受け取らないとね」
「……それは逃れられないってか」
***
昼食を済ませ、レストランをあとにしたヒロムたち。
しかし……
「……はぁ」
店を出るなりヒロムはため息をつき、そして疲れたような表情をしていた。
「大丈夫?」
心配になったユリナはヒロムに歩み寄ると声をかけるが、ユリナの言葉に対してヒロムは首を横に振るとその理由を語った。
「この短時間で変に疲れた……。
ただの食事のはずがリサたちからの恋愛話を聞かされる展開になるなんて思わなかった……」
「あ、あれは……ヒロムくんも悪いから仕方ないと思うよ?」
「女心とやらを理解するのは到底無理がある……」
「でもフレイたちと一緒にいるなら何となくで分かったりしない?」
ユリナの一言を受けてヒロムは少し考え込むが、すぐに返事を返した。
「あれはオレの方に合わせてくれるから気にしたことねぇな。
だからか同じように考えようとすると余計に難しくなるんだよ……女心とやらを理解するのは難解だ」
「そ、そうなんだ……」
ヒロムの言葉に少し呆れた様子のユリナだが、ヒロムの中に少しだけ変化があることを知ると嬉しくなって微笑んでいた。
「あ、あのね……」
ユリナがヒロムに向けて何かを提案しようとした時だった。
「見つけた〜」
ユリナの言葉を遮り、そしてヒロムとユリナの会話を終わらせるように一人の少女がゆっくりとこちらへ向けて歩いて来る。
腰……下手すれば膝裏位まではありそうな水色の長い髪は綺麗に手入れされているのが分かるほどに美しく、スラッとしたその背丈と整った容姿。
それを引き立たせるかのようにコーディネートされた衣装は大人らしさを感じさせ、とくにショートパンツから見える美脚は視線を釘付けにされるのではないかと思ってしまうほどだ。
「綺麗な人……」
それらもあってユリナの目にはこちらに向かってくる少女がモデルのように見えていた。
「絶対に見間違えてると思ってたけど、案外探すと見つかるんだね〜」
美しい外見とは裏腹にどこか気の抜けたような話し方をする少女はヒロムとの距離を縮めるとにっこり微笑むと彼を見つめた。
「オマエ……」
「会いたかった……アナタのこと、感じたかったの」
少女はヒロムに急接近すると突然彼に抱きついてしまう。
「……ええ!?」
突然のことで一瞬理解が追いつかなかったのか、ユリナは少し遅れて驚くとそれを声に出してしまった。
「な、なな、何してるんですか!?」




