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レディアント・ロード1st season   作者: hygirl
天獄激闘編
165/672

一六五話 安息の時

ヒロムの屋敷。



「八神」との激闘から一夜が明けた。


激しい戦いにより彼らは体力的にも精神的にも疲れている。


肉体へのダメージは姫神愛華による治癒術で癒せても、疲労に関しては消えることは無く残っている。


一晩経った今もそれは残っている……



「はぁ……」


リビングでくつろぐ中で何かをするわけでもなく、雨月ガイと相馬ソラ、そして鬼月真助はソファーに座りながらため息をついた。


三人とも姫神愛華の治癒術を受けているため傷はある程度癒えてはいるが、完全に回復したわけではなく安静にするように言われているが、安静にしなければならない状態が彼らには退屈で仕方なかったのだ。


「やることないな……」


ガイはため息混じりに呟き、それを聞いたソラも頷くと呟いた。


「全くだ……いつもなら特訓してるのに……」


「安静にしとくのって結構キツイな……」


「トランプでもやるか?」


どこからともなく取り出したトランプを見せながら真助はカードゲームでも提案するが、ガイもソラも乗り気ではなかった。


「いや、遠慮しとく……」


「オレもだ……」


「そうか……ところでソラ、イクトは?」


何でオレなんだよ、と言いたげな目でソラは真助を見ると、真助は何故なのかソラに説明した。


「オマエとイクトってコンビなんだろ?」


「……ガイ、オマエが吹き込んだのか?」


「いいや何も。

むしろソラとイクトの仲の良さを見れば誰でもそう思うんじゃないか?」


「……心外だな」


ソラは少し不快感を顔に表しながら勘違いしてると思われるガイと真助に説明した。


「いいか?

オレとアイツは仲なんざ良くない。

何だったら犬猿の仲と言ってもいいくらいだ」


「けどこの屋敷に盗聴器あるってわかった時はイクトと調べてたよな?」


「いいか、ガイ?

アレは夕弦もギンジもいたから関係ない」


「けどイクトがバッツにやられた時はかなり心配してたよな?」


「あくまで仲間としてだ。

真助、オマエが倒れてもアイツが倒れても同じように心配する」


「けど……」


「つうかいつまで続ける気だ!!

違うったら違うんだよ!!」


少し苛立ちながらソラはガイと真助に言い、ガイと真助はどこか面白そうに笑っていた。


「バカにしてんのか!?」


「いや……何やかんやで今は嫌がっててもイクトとは協力するしなって」


「……戦闘に関してはアイツの方が経験は多い。

戦闘知識ならオレは負けてるよ」


けど、とソラはガイたちに勘違いされないように念を押すように言った。


「いざアイツとオレが戦えば勝つのは間違いなくオレだ」


「……それはどうでもいいけど」


「よくねぇよ。

アイツよりオレの方が数倍強い」


「で、イクトの居場所は?」


知るか、とソラはため息をつくなり真助に言い、少し考えるとイクトについて話した。


「昨日の一件で蓮夜さんといるんだろ?

連絡係か知らないけど「月翔団」に入れられてたしな……」


「羨ましいのか?」


「んなわけねぇだろ。

……ところでアイツらは?」


アイツら、ソラの言葉が何を指すのか分からない真助は首を傾げるが、何となくで理解したらしいガイはそれをソラに伝えた。


「栗栖カズマならまだ意識が戻ってない。

東雲ノアルの方は一応シオンが見張ってるけど、栗栖カズマが目を覚ますのを待ってる」


「アイツが?

何のために?」


「さぁな、それは直接聞けばいいと思うけど……アイツなりにオレたちが見張りやすいようにしてるんじゃないか?」


「あと気になったんだが……ヒロムはどこに行ったんだ?

ガイとソラは聞いてないのか?」


辺りを見渡すようにキョロキョロしながら真助はヒロムを探そうとするが、姿は見当たらない。


どこに行ったのかと探す真助に対して居場所を知るガイは優しく教えた。


「ヒロムならデート中だよ」


「おお、あの男が?

相手はあのお嬢様方の中の誰なんだ?」


「……いや、全員だ」


心配の言葉に対してソラが答えると、真助は信じられないというような感じでキョトンとしていた。


「ん……全員?」


「そ、全員だ」


「……おかしくないか?」


「そこは……気にしたら負けだ」



***


同じ頃のファミレス。


このファミレスは二十四時間の営業を年中無休で行っており、様々な客層が利用している。


「あー……疲れるぅー……」


夕弦とともにファミレスに訪れていたイクトはテーブルを枕にするようにうつ伏せになりながら深いため息をついた。


深いため息、そして気の抜けた言葉。


コーヒーを飲んでいた夕弦はイクトのそれらを耳にすると呆れた様子で彼に言った。


「……疲れたも何もただ「月華」の隊員に挨拶しただけよ?」


「それが無理なんだよ。

オレにはああいうお堅いことは向いてない」


「アナタね……社会人になればそんな機会いくらでもあるし、ヒロム様の今後次第では「天獄」の一員として公の場に出て何かしなきゃならないかもしれないわよ?」


「いや……後半の可能性はない」


どうして、と夕弦がイクトに訊ねると彼は顔を上げるなり自信満々に答えた。


「あの大将がそんな面倒なことになるようなことをすると思えない」


「……まぁ、ヒロム様なら目立たないようにするわよね」


イクトの言葉に納得した夕弦は小さくため息をつくと、話を変えるようにイクトに尋ねた。


「あの子たちとは上手くやっていけそう?」


「ん?ああ……「月華」の人ら?

大丈夫だろ、オレは大将たちの中で社交性NO.1なんだから」


「社交性……というよりはアナタの場合は少しお気楽なだけでしょ?」


言い方だよ、とイクトはコーヒーにスティックシュガーを一つ入ると続けて言った。


「要はあの人らと馴染めれば何の問題もないんだから。

影のように溶け込むのはオレの得意分野だ」


「何を言いたいのかよく分からないけど、アナタに馴染める自信があるのは分かったわ」


「手厳しいねぇ。

まぁオレなりに努力はするけどさ」


ところで、と夕弦はコーヒーを飲もうとするイクトに対してある質問をした。


「アナタはヒロム様のことをどう思ってるの?」


「何だよ急に?

大将のことは信頼して……」


「そうじゃないわ。

今のヒロム様の戦い方についてよ」


夕弦が言うヒロムの戦い方、それが何を表すか分からないイクトは首を傾げる。


そんなイクトを見た夕弦は少し呆れながらも自分の言葉を説明するように話し始めた。


「ヒロム様が強くなってるのは間違いないわ。

精霊の力を纏うことで能力者と対等に戦えるようになる技を会得され、そして新しい精霊も宿された」


「新しいというよりは目覚めたの方が正しいかもな」


「……形はどうであれ、ヒロム様の精霊は今では二十四人。

そして異なる二人の精霊の組み合わせにより発動される「クロス・リンク」の種類は全部で十二個」


「それだけ大将にとっては戦うために選べる選択肢があるってことだな」


でも、とイクトの言葉に対して付け加えるかのように夕弦はある事をイクトに告げた。


「それらを何のリスクもなく行えると思うの?

精霊を宿す人は本来一人につき一人が当たり前だったのにヒロム様は二十四人も宿して平然と使役してる。

何かリスクがあってもおかしくないと思うわ」


「そのリスクを減らすためかは分かんないけど、大将はフレイたちと繋がれるように魂を精霊のものへと昇華させる「ソウル・ハック」を考案したんだろ?

だったら……」


「その「ソウル・ハック」もよ。

一つに繋がって力を共有出来るのならそれによる負荷は何十倍にもなるはずよ。

それなのに精霊の力を纏って戦うなんて……明らかに何らかのリスクがあっても変じゃないわよ」


夕弦の言うことはもっともなことかもしれない。


ヒロムの「ソウル・ハック」、「ソウル・ハック・コネクト」、「クロス・リンク」。


これらはどれをとっても強力かつ相手にすれば苦戦を強いられることは間違いない。


そしてその力の源となっているのがフレイたち二十四人の精霊。


彼女たちには一人一人にハッキリとした自我と意思があり、そしてヒロムの思想などを理解出来るほどの認識力もある。


味方としてはそれらを使って戦うヒロムは心強く、敵となれば厄介な存在ではあるが、たしかに何かしらのリスクがあってもおかしくない。


むしろ、何かあるように思える。


だが……


「何かあったとしても大将は分かった上でやめないと思うぞ?

大将にとって戦うために必要な力なんだから手放さないだろうからな」


「ええ、それは理解してるわ。

だけど……」


「気持ちは分かる。

けどオレたちが止めても大将は聞かないだろうし、フレイたちもブレーキ役を任せたところで役目果たさなさそうだしな」


「そうよね……どうしたらいいのかしら」


どうすべきか悩む夕弦、そんな彼女とは対称的にイクトは頭の中で既に答えが出ていたらしく、悩む彼女へとその答えを伝えた。


「止まらないなら止めなきゃいい。

大将もやりたいことをやれば自然と止まるだろうしな。

オレたちはそんな大将が倒れないようにフォローに徹したり道を塞ぐ敵を倒せばいいと思うぜ?」


「……お気楽な考え方ね」


「むしろあの大将にあわせて真面目に考えても上手くいかないなら意味無いだろ?」


「……それもそうね」


夕弦は小さくため息をつくと、イクトを見つめながら伝えた。


「じゃあ、私とアナタはヒロム様のために出来ることをしましょうか」


「おっ、いいね。

やることが決まれば何の問題もないね」


「まぁ、問題は何をするべきかが決まってないことなんだけど……あ、そういえば聞いた?

ヒロム様のデートのこと」


アレか、とイクトはどこか不満があるような顔で答え、それを見た夕弦はイクトの様子を確かめようと尋ねた。


「……何かあったの?」


「いや、軽い嫉妬かな。

夕弦と付き合うようになったとはいえ、未だにあの大将があんなにモテるのが信じられないんだよ」


「嫉妬、ね。

でも今回のデートの内容を知ってるなら嫉妬しなくていいんじゃないの?」


「だって全員とだろ?」


「一人で全員と同時にデートするなんてアナタに出来る?」


「無理だな。

六人全員を同時に相手にしながら、さらに六人の願いを叶えながら進めるなんて難易度高くてオレには無理ゲーすぎる……となれば大将にはもっと無理か」


「こういうことには疎い人ですからね。

アナタが難しいと言うなら苦戦されるかもしれないわね。

いい報告が聞けるように心待ちにしてましょう」



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