一六二話 すれ違う意思
「久しぶりですね、トウマさん」
愛華はトウマに向けて言うが、愛華に話しかけられたトウマはどこか嫌そうな顔をしていた。
愛華には理由は分からなかったが、トウマがそれを解決させるように話し始めた。
「親のもとを離れ、「八神」に全てを捧げたオレはもうアンタにとっては他人なんだな」
「どういう意味ですか?」
「トウマさん、なんて余所余所しい呼び方を母親が子供にするのか?」
「他人なんかではありません!!
「八神」の当主になると決めたアナタもヒロムさんも私の大切な家族です!!」
「……父さんはもういない。
その家族ってのも無いに等しいだろ」
愛華の言葉に対して異論を述べるようにトウマは次から次に言葉を放ち、そして愛華に向けて告げた。
「アンタとそこの男は「姫神」、オレは「八神」……。
父さんがいようといまいとどの道戦うことは避けられない。
どっちが正しいかハッキリさせる必要があるんだ」
「飾音さんの思いを無駄にする気か?」
「だからこそオレは「八神」として「無能」を潰す。
父さんの思いを……父さんが「八神」のためにしようとしていたことが間違いでなかったことを証明する為にも!!」
「違います!!
飾音さんは……」
「何も知らないで今さっき知ったのに偉そうに言うな!!」
トウマは愛華に向けて殺気を放つと光を纏い、危険を感じたガイとソラは愛華を守ろうとする。
が、なぜか愛華は二人を止めるとトウマに向けて言った。
「……アナタの言う通り何も知りませんでした。
そして何も出来なかった。
ですが、これからのことを考えることは私にも……」
「これから?
今までもこれからもオレの中にあるのは「無能」を始末することだけだ」
「トウマさん!!」
「……さよならだ。
次にアンタに会う時は……ないだろうな」
トウマは愛華に背を向けるとその場を去ろうとする。
それを見た葉王はため息をつくと指を鳴らし、彼が指を鳴らすと戦場となっていた廃工場に倒れる「八神」と「四条」の能力者たちが音も立てずに消えてしまう。
「……何の真似だ?」
「余計だったかぁ?
一人で背負って帰るつもりだった?」
「……まさか。
この借りはいつか返す」
どうも、と葉王が軽く手を振るもトウマは無視をし、トウマはカズキをじっと見つめた。
「……何だ、気持ち悪い」
「近々話がしたい。
こちらから出向く」
「……勝手にしろ」
カズキに何かを告げたトウマはそのまま去ろうとしたなが、動きを止めるとヒロムのことを横目で見ると未だ倒れたままの彼に告げた。
「今度会う時は殺し合いだ。
オマエのいう人の思いが力の前でどれだけ無力かを証明してやる」
「オマエ……」
「オレは……オレのことを裏切ったアンタが許せない……!!」
トウマは光の翼を広げるとともに素早く飛翔し、すぐに視認出来ぬところまで飛び立ってしまう。
トウマの姿が見えなくなっていく中、ガイたちはトウマの最後の言葉が気になっていた。
『オレのことを裏切ったアンタが許せない……!!』
ガイはヒロムの方を見て確かめようとするが、ヒロムも心当たりがないらしく悩んでいるような顔をしていた。
「オレが裏切った……?」
「……覚えはないのか?」
「……ない、な」
(オレはアイツに何かをしたのか……?)
心当たりのないヒロムはトウマとの間に何があったのかを思い出そうとするが、そもそも心当たりのないものを思い出すのは無理がある。
ヒロムは少し考えようとするが、そんな中にで一条カズキはヒロムたちに背を向けるなり立ち去ろうとしていた。
「葉王、あとはまかせるぞ」
「まかせるってことは好きにしていいのかぁ?」
カズキの言葉を受け、葉王はどこか楽しそうに笑みを浮かべながら言ってカズキの反応を窺うが、カズキは大した反応は見せずにただ一言だけ葉王に告げた。
「……計画に支障が出ないレベルなら好きにしろ」
「わかった。
そうさせてもらう」
いくぞ、とカズキは双座アリスとともに音も立てることなく消え、それを確認した葉王はヒロムのもとへ近づくなり指を鳴らした。
何かされる、そう感じたガイは葉王を止めようとしようとしたが、葉王が指を鳴らすと彼の前に石版が一つ現れる。
それはヒロムが闇に支配されている時に葉王がフレイに渡した石版だ。
「こいつは返してもらうぞぉ。
もう今のオマエたちには不要だろうからなぁ」
葉王は石版を手に取るなり懐に隠し、ヒロムの今の姿を見ながら話し始めた。
「どうだ?
勝利した気持ちは?」
「……嬉しい、て言うと思うか?」
「出来れば言ってもらいたいなぁ。
でなきゃ面白みがねぇ」
「狂ってるな……」
「それはお互い様だろ、姫神ヒロム。
勝つために命すら犠牲にしようとするその覚悟の決め方は狂ってるなと思うけどなぁ?」
そうかよ、とヒロムは葉王の言葉に少しばかり嫌そうな反応をするとどうにかして立ち上がるが、体は限界に達しているがためにすぐに倒れそうになってしまう。
が、そろを見兼ねたガイとソラはヒロムの体を支えると肩を貸し、何とかヒロムを立たせた。
「……オレとオマエが同じって言うなら、いつかは決着をつける必要があるってことだよな?」
「当たり前のこと言うなよォ?
この世界に同じヤツはいらない。
オレとオマエが同じなら……どっちかが消えるまで戦わなきゃなぁ」
「オレが……勝つ。
オレがフレイたちとオマエを倒す。
オマエの力を……オレたちの力で超えてみせる」
強気だな、と葉王は面白そうに言うとある事について語り始めた。
「これでオマエは全ての精霊を解放した。
全ての精霊……二十四の精霊は全て姿を現し、そしてオマエはその証を手にした」
「全て……どうやって知った?」
葉王の言葉を聞いて質問をしたのはヒロムでも彼を支えるガイやソラでもなく、彼らの後ろにいたイクトだった。
「大将も知らなかった、飾音さんもバッツも知らなかったはずの四人についてどこでどうやって知った?」
「その質問に答える必要あるか?」
「あるに決まってる。
さっきの石版もそうだが、完成ってどういうことだ?」
「おいおい……質問のオンパレードかよ。
まぁ、語ってやるから待てよ」
葉王は指を鳴らすなりどこからか椅子を出現させて座ると、イクトの質問について答えた。
「あの石版はパラドクスの石版……て呼ばれてる。
人の可能性、思いの具現……この石版は矛盾や大きな差異のある事象を確定させる未知の力を持っている」
「矛盾や……事象を……?」
訳が分からん、と葉王の説明を聞いても理解出来ないシオンは舌打ちをしながら言うが、その隣で真助が確認するように葉王に言った。
「つまり、その石版の力があれば本来は生み出せない奇跡を生み出せるのか?」
「まぁ、簡単に言えばなぁ。
もっと細かく言えば石版の力によって限界を超える力を得たり、内に眠る力を覚醒させたり出来る。
そして、記憶にすらない精神世界に封じられた精霊を目覚めさせることもな」
「……石版のことはいい。
なんで大将の精霊のことを……」
「とある預言者が言ったのさ。
『覇王の名を継承せし者、時と心を紡ぐ二十四の魂宿して世界に抗う』ってな」
「預言者……?
それは一体……」
「これ以上は教えれねぇな。
あとは自分の力で調べな」
イクトの質問に対しての回答を終わらせるかのように葉王が手を叩くと、今度はヒロムが葉王に向けて質問をした。
「……前に言ってたよな。
オマエたちはオレとトウマが争うことで何かを得られるって……」
「ああ、結果としては求めてるものはまだ得られてないけどなぁ……」
「オマエは何を求めていたんだ?」
「……オレを殺せる力だよ」
葉王はただ一言だけ言うと微笑むが、ヒロムたちはその一言を受けて言葉を失っていた。
冗談なのか本気なのか……冗談だとしても笑えないし、本気ならどういう意味なのか分からない。
そう思っていると葉王は奇妙な笑みを浮かべながら詳しく話し始める。
「どいつもこいつも大した力もない、戦ってもすぐに壊れる。
楽しめはしないし面白みもない……退屈で死にそうだ。
だから……オレを満足させるくらいの殺されるか殺すかの戦いができるヤツがほしいんだよ」
「……狂ってる」
「狂ってるさ。
いや、この世の中で強者に君臨するヤツは全員狂ってるのが普通だ」
「それはアンタが仕えてる一条カズキもか?」
そうだ、とガイの言葉に対して葉王は頷くと言及するように語った。
「アレは異常だ。
死への恐怖もなければ生きることへの意味も拘りも無い。
未だ地に倒れたことの無いアイツは命すら価値がないと思ってるのだからなぁ」
「……オレたちは普通だ」
「いいや、姫神ヒロム。
オマエは既にこちら側の人間だ」
どういう意味だ、とヒロムが聞こうとすると葉王は立ち上がって椅子を消し、笑みを浮かべたまま一言告げた。
「……もうオマエは普通じゃない。
オマエは選ばれた「鍵」だ」
「鍵……?」
「……そのうち分かるさ」
じゃあな、とヒロムたちの疑問が全て解決させることもなく葉王は風とともに消えていく。
残されたヒロムたちは葉王によって疑問を抱かされたままで困惑しているが、そんな彼らに愛華が一つ提案した。
「ここで考えるのでしたら、一度帰りませんか?」
「帰る?」
「屋敷に戻りましょう。
ここに長居するよりも屋敷で手当をしながら話しませんか?」
「待ってください愛華さん。
オレたちはともかく、ヒロムやシンクは屋敷よりも病院に連れていかないと……」
「ガイ、アナタの言うことは正しい判断です。
ですが「一条」の動きを警戒するとこのまま向かうのは危険すぎます。
屋敷には蓮夜もいるはずですから、病院への搬送は彼らに護衛を依頼してからにしましょう」
それに、と愛華はヒロムに向けて微笑みながら伝えた。
「まずはケガをしても無事だったことを報告しないとですよね、ヒロムさん」
「……そう、だな」
「では行きましょうか」
愛華に言われて目的地が決まったヒロムはガイたちの支えを受けながら向かおうとするが、そんな中で意識を失ったシンクを担いだシオンは確かめるようにヒロムに尋ねた。
「アレは連れていくか?」
シオンは少し離れた場所で倒れている栗栖カズマを指さしながら言うと、ヒロムはイクトを見ると何も言わずに頷き、イクトはため息をつくと頷き、自分の影から腕を作り上げるとカズマを掴んだ。
「いいのか、大将。
コイツは……」
「オレのせいで巻き込まれた被害者だ。
治療してやらないとダメだ」
「……分かった」
イクトはカズキを自分のもとへと引き寄せると背負い、少し面倒くさそうに歩き出す。
「……帰るか、アイツらが待ってる屋敷に」




