一六〇話 限界突破!!
「これで最後だ!!」
フレイとラミア、二人と「クロス・リンク」をした姿で飾音の前に現れたヒロムは目の前の敵を目で捉えると攻撃体勢に入るように構え始めた。
右側はフレイをイメージしたかのような青と白に彩られた装飾、左側はラミアをイメージしたかのように紫と黒で彩られた装飾を施されたロングコートを羽織っており、ガントレットやブーツはロングコートと合わせるかのように左右で二人のイメージに沿ったようなデザインとなっている。
光と闇、それを表したかのようなヒロムのその姿を目にした飾音は不快感を顔に出し、そして苛立ち混じりにヒロムに向けて言った。
「まだ見てくれが変わるだけの借りものの力に頼るのか?
そこまでいけばただ哀れでしかないな」
「哀れ?
力を支配した気でいるオマエのことか?」
「……何?」
「他人を利用して力を吸収し、その力を見せつけてちっぽけな自分を大きく見せている……。
オレの目には今のオマエがそう映ってる……力を支配したと言い聞かせ、周りを屈服させようと必死な姿がな」
「黙れ!!
何も出来ずに闇に飲まれ、その手で仲間を傷つけたオマエが偉そうに……」
だからだよ、とヒロムの言葉に苛立つ飾音に向けて一言ヒロムは言うと、続けて話した。
「闇に飲まれたからこそ己の無力さを理解した。
そして……今のオマエの姿があの時のオレによく似ている」
「あの時?」
「オレの希望が絶たれ、死に物狂いで何かに縋ろうとしていたあの時だ。
今のオマエは……強さを求めすぎて目的を見失ってる」
「黙れ!!」
飾音はヒロムの言葉を否定するように叫ぶと闇を大きく放出し、そして闇により作り出された翼を二枚から四枚へと増やしていく。
その翼の変化は八神トウマの「天霊」の力による光の翼と酷似していた。
闇の翼、その翼からは想像を絶するほどの狂気と憎悪が放たれているが、それを前にしてもヒロムは何故か何の反応も示さない。
「何だ、あまりの力の差に声も出なくなったか?
さっきまでの威勢は……」
「強がってるのはオマエだろ、飾音」
ヒロムが怖気付いたと感じた飾音は彼を挑発するかのような言葉を言うが、ヒロムは臆するどころか平然とした態度で飾音に告げる。
「ここまでどうにかして計画を進めてきたのにそれを邪魔されると思って焦ってるんだろ?
オレを利用したかったのに叶わず、トウマも呆気なく倒れた。
次にオマエが倒されれば計画どころじゃない。
だからどうにかして力を見せつけてオレの心を揺さぶりたいんだろ?」
「黙れ……!!」
「強がって自分を大きく見せるのが楽なんだろ?
そうやって力を見せつけて、他人より優れてるって思い込みたいんだろ?」
「黙れぇぇぇ!!」
飾音は翼を大きく羽ばたかせると飛翔し、それと同時に消えてしまう。
飾音が消えた、それをヒロム含めて全員が認識した時には飾音は既にヒロムの背後へと移動していた。
「殺してやる!!
何もかも……オマエの全てを!!」
飾音は右手に闇と雷を纏わせると未だ背後にいる自分に気づいていないヒロムに襲いかかろうとした。
が、飾音の攻撃がヒロムに迫る中、ヒロムは背後を見ることも無く一切の音も立てずに姿を消してしまう。
「何!?」
ヒロムの姿が消えたことで飾音は驚き、そして姿なき相手への攻撃は当然のように空を切って終わりを迎えてしまう。
飾音の攻撃が空を切って空振りに終わると同時にヒロムが飾音の前に姿を現し、白銀の稲妻を纏わせた右手の拳が飾音の顔面に叩きつけられる。
「!!」
「強いなら驚くんじゃねぇよ!!」
ヒロムは左手に闇を纏わせると飾音の体に向けて解き放ち、解き放たれた闇は蛇の頭部の形へと変化すると飾音に噛みつく。
飾音に噛みついた蛇の頭は力を強め、そして飾音が纏っていた翼を砕いていく。
「な……」
「だから……驚くなって言ってんだよ!!」
ヒロムは右腕、右脚に白銀の稲妻、左腕、左脚に紫色の稲妻を纏わせると目にも止まらぬ速さで飾音に連撃を放ち、放たれた連撃は全て飾音に叩き込まれて彼の体にダメージを与えていた。
「がぁっ!!」
(な……なんだ、コイツの力は!?
強くなってるはずのオレが……反応出来ない……!?)
「オラァ!!」
ヒロムは軽く跳ぶと体を回転させ、右脚に稲妻を纏わせると飾音の体に回し蹴りを食らわせ、そして勢いよく蹴り飛ばしてみせる。
蹴り飛ばされた飾音は大きく吹き飛び、何度も地面に叩きつけられながら転がるようにして倒れてしまう。
「バカな……!?」
ありえない、飾音はただ自分の身に起きていることを信じることが出来なかった。
求めていた力を手に入れ、他者を圧倒してしまえるほどの強さに到達したはずの自分が反応出来ないほどの力をヒロムは発揮していた。
それも通じないと思い知らせたはずの「クロス・リンク」でだ。
「そんなはずは……」
「オラァ!!」
起き上がろうとした飾音のもとへヒロムは一瞬で接近すると空高くへ蹴り上げ、さらに左脚に稲妻を纏わせると大地を強く蹴って飛び上がる。
飾音に迫る中でヒロムは白銀の稲妻と紫色の稲妻で翼を作り上げてさらに加速し、飾音の周囲を目にも止まらぬスピードで飛び回りの過程で飾音に攻撃を食らわせていた。
「が……!!」
「オラオラオラァ!!」
抵抗出来ぬ飾音、その飾音に向けて一方的に攻撃を放ち続けるヒロムは飾音の頭を掴むなり地面へ叩きつけるかのように投げると同時に翼となっていた白銀と紫色の稲妻を無数の蛇と龍の形に変化させていく。
「なんで……こんな「無能」に……!!」
「いけっ!!」
ヒロムが叫ぶとともに蛇と龍へ形を変えた稲妻は走り出し、飾音との距離を一瞬で詰めると敵である彼に食らいつき、そのまま地面へ叩きつけると炸裂して飾音の体内に衝撃を走らせ、全身に大きなダメージを与えていく。
「がぁぁ!!」
「これで……」
急降下したヒロムは飾音にトドメをさせようとしたが全身に激痛が走ってしまい、動きが止まってしまう。
「ぐっ……!!」
(体が……力が増幅しすぎて負荷に耐えれなくなってるのか……!!)
「だとしても……!!」
ヒロムは痛みに耐えながら構えようとするが、そんなヒロムの前で飾音は立ち上がると闇を纏い始める。
飾音が闇を纏うとダメージを受けて負傷したはずの肉体は目を疑うような速さで再生し、気がつけば飾音の体から一切の傷が消えていた。
「な……」
「素晴らしい……!!
オマエの精霊から力を吸収したことでオレの肉体は人を超越した!!
どんな力を使われようともこれなら負けることは無い!!」
飾音は四枚の闇の翼を纏うと一気に加速してヒロムに接近し、勢いよく殴りかかる。
が、ヒロムはそれを難なく避けて反撃の一撃となる蹴りを放って蹴り飛ばそうとするが、全身に走る痛みによって力が入らず、それにより威力が落ちてしまって飾音に簡単に防がれてしまう。
「なんだ?
この幼稚な攻撃は?」
「くそ……」
「一瞬強くなるだけの「クロス・リンク」でオレの力を超えられると思うな!!」
飾音は闇を放出しながらヒロムに何度も攻撃を放ち、ヒロムも稲妻を纏いながら飾音の攻撃を受け流すように防いでいく。
が、全身に走る痛みのせいでヒロムはただ攻撃を防ぐことしか出来ず、飾音はそれを好機だと感じたのか徐々に力を強めていた。
「どうした、どうした?
さっきまでの勢いはどこに消えたんだ!!」
「くっ……!!」
反撃に転じようと試みるヒロムだが体は思うように動かず、ただ攻撃出来ぬまま防御を強いられていた。
(痛みが……それに力が強すぎて体が言うことを聞かない……!!)
「このままじゃ……」
このままじゃ勝てない、ヒロムはそれを言葉にして口から外へ出しそうになっていた。
が、それを止めるかのように誰かが叫んだ。
「諦めんなヒロム!!」
「……!!」
飾音の攻撃を必死に防ぐ中でヒロムに向けられた言葉、その声の主の方にヒロムが目を向ける。
その視線の先にはボロボロになりながらも立ち上がっていたガイがいた。
「ガイ……」
「ここで諦めたら今までのオマエの努力が無駄になる!!
だから……諦めるな!!勝てよ、ヒロム!!」
「……うる、せぇな……!!」
(けど……助かったぞガイ!!)
ガイの叫びを受けたヒロムはどこか嬉しそうな表情を浮かべると拳を強く握り、そして飾音の拳の一撃を受け止めてみせる。
「!!」
「……あんな風に言われたんだ……負けてたまるかぁ!!」
ヒロムは飾音を押し返すと全身に稲妻を走らせ、そのまま連続で飾音を殴った。
全身にはまだ痛みが走る、それでもヒロムは白銀と紫色の稲妻を激しく、そして大きくさせながら全身に走らせていく。
「うおおおお!!」
ヒロムの力は強くなっていき、彼の放つ攻撃は飾音が防ごうとするよりも先に命中し、確実に飾音を追い詰めていた。
が、飾音もやられっぱなしではない。
「……ナメるなぁ!!」
反撃しようと飾音も闇を纏いながら攻撃を放つが、ヒロムは左脚に稲妻を纏わせると蹴りを放って相殺し、続けて敵の顔に蹴りを食らわせた。
「!!」
「負けてたまるか……アイツらの思いと……フレイたちの想いを背負ってるんだ……!!
オレの全てを犠牲にしてでもオマエはここで倒す!!」
ヒロムは右腕に白銀の稲妻を収束すると飾音を殴り飛ばし、そして白銀と紫色の稲妻をこれまでにないほどに大きくさせながら全身へ駆け巡らせていく。
大きく、そして激しく駆け巡る稲妻の一部を翼に変え、さらに白銀の稲妻に龍、紫色の稲妻に蛇の形を与えると飾音に向けて走らせる。
龍と蛇の形を得た稲妻は飾音に迫っていき、接近すると同時に敵を喰らおうとするが、飾音は蒼と紅の炎を放出して防いでしまう。
「この程度で……!!」
「まだだ!!」
ヒロムは翼を大きく広げると飛翔し、飛翔すると同時に一瞬で目で追えぬほどのスピードとなって飾音に連撃を食らわせ、攻撃を防がれた龍と蛇を左右の拳へ纏わせると敵の体へ叩きつけて炸裂させる。
「がっ……」
「はぁぁあ!!」
ヒロムは右手に白銀と紫色の稲妻の二つを同時に纏わせる。
すると二つの稲妻は強い輝きを放ちながら一つになっていき、一つになった稲妻は無数の色の輝きを放つ光となっていく。
「ここで……終わらせる!!」
ヒロムは右手の拳を強く握ると、輝きを放つ光を纏わせながら飾音に向けて走り出す。
「させるか!!」
ヒロムの右手に纏われる輝きを放つ光、それを見て何か嫌な予感を感じたのか飾音は闇を放出すると弾丸にしてヒロムに向けて放っていくが、ヒロムは迫る弾丸を加速しながら避けていくと、飾音との距離を詰めて拳を構える。
「オラァァァァ!!」
ヒロムは輝きを放つ光とともに拳に力を込めて飾音の体に叩きつけようと一撃を放った。
が、飾音の体に拳が叩きつけられると同時に彼の体は闇に覆われ、光から守られようとしていた。
「コイツ……!!」
「ここで終わるわけにはいかない!!
「八神」を最強にするため……ここで終わるつもりは無い!!」
「いいや、ここで終わらせる!!
オマエの野望も……オレとオマエの関係も……オマエの全てを終わらせてやる!!」
ヒロムの言葉に呼応するように光はより強い輝きを放ち、飾音の身を覆う闇を徐々に消し払っていく。
「な……何……!?」
「はぁぁあ!!」
ヒロムが拳に力を入れ、そして飾音を力一杯に殴ると光は闇を完全に消し去り、飾音を大きく仰け反らせる。
が、闇が邪魔をしていたのか飾音自身に光によるダメージはなく、不敵な笑みを浮かべながら構え直そうとしていた。
「どうやらオマエの全てを使ってもここまでのよう……」
「いいや、これで……最後だ!!」
ヒロムが天に向けて右手をかざすと、その手にフレイの武装である大剣が現れ、ヒロムがそれを掴み取ると大剣は無数の輝きを放つ光に包まれていく。
大剣を手にしたヒロムは勢いよく振り上げ、飾音に向けて振り下ろす。
「そんなもの!!」
飾音は大剣を止めようと闇を放つ体勢に入るが、それに反するように闇が現れない。
「な……」
「終わりだ!!」
大剣は振り下ろされ、飾音の体に大きな斬撃を食らわせながら身を抉っていく……!!




