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レディアント・ロード1st season   作者: hygirl
天獄激闘編
153/672

一五三話 誰が為


「今のオマエはこの闇に支配された精神世界で目を覚ましたに過ぎない意識だけの存在。

そしてオマエの求める力は今外の世界に全て託されている……つまり、今のオマエには何も無いんだよ」



不敵な笑みを浮かべながらヒロムに向けて語るゼロと名乗るヒロムにそっくりな男は全身から闇を纏い始める。


冷たく、人間らしい温かさもない機械のようにも思える冷徹な眼差しはヒロムを捉え、そして闇に呼応するかのように精神世界が闇に染まっていく。


「何も無い……?

アイツは……フレイはオレのために頑張って想いを届けようとしていたんだ。

何も無いわけが……」


「所詮はオマエへの感情や願望だけが届いただけ。

外の世界へと託した精霊の力とその使役の権限も外の精霊が持ってるだけで今のオマエには届いていない。

オレがこの世界を支配しているかぎりオマエには何も届かない」


「それなら……オマエを倒して取り戻すだけだ!!」


ヒロムは拳を強く握るとともに走り出すが、そのヒロムの行動を前にゼロはため息をつくしかなかった。


「取り戻すとは勘違いし過ぎじゃないか?

オレは何も奪っていない、この精神世界に来たのはオマエに届けられたのは精霊どもの無駄で生ぬるい感情だけだ」


「アイツらの想いは無駄じゃない!!」


ヒロムはゼロに接近すると勢いよく殴りかかるが、ゼロは闇を盾にするとヒロムの拳を防ぎ、ヒロムに闇を放って吹き飛ばしてしまう。


「く……!!」



ヒロムは吹き飛ばされてしまっても何とかして体勢を立て直すと構え直すと再び走り出そうとするが、ヒロムが動こうとするよりも先にゼロがヒロムの前に接近していたのだ。


「な……」

(速い……!!)


驚くヒロムのことなどお構いなしにゼロは蹴りを放つが、ヒロムはそれを避け、攻撃を避けたヒロムを倒そうとゼロはさらに連撃を放つが、ヒロムはその全てを華麗な体捌きで避けてみせる。


「コイツ……」

(コイツの速度は「流動術」で何とか反応出来る。

けど、肝心のオレの攻撃がコイツに通じないんじゃ……)


「自分の攻撃が通じないままじゃ勝ち目がないってか?」


ゼロはヒロムの考えを読んだかのように言葉を発するとヒロムに向けて帯状の闇を放ち、鞭へと変化させるとヒロムの体を縛りあげると勢いよく地面へと叩きつける。

「がっ……!!」


「なんで考えが分かったか不思議か?

そんなもん、オレがオマエの闇だからに決まってんだろうが!!」


「黙れ……!!

オマエはオレの闇なんかじゃない……!!」


「否定したけりゃすればいい!!

力で認めさせるだけだ!!」


ゼロはさらに鞭を振り回し、ヒロムを振り回しながら何度も地面や城壁へと叩きつけて、ダメージを与えていく。


「ぐっ……!!」


「今更目覚めて外に出て何が出来る?

オマエは仲間を傷つけた!!

裏切られ、自身の無力さを痛感したオマエは絶望してオレに支配された!!」


「黙れ……!!」


ヒロムは力任せに鞭を引きちぎるとゼロの攻撃から逃れるが、ゼロはそれを見越していたのか指を鳴らすと同時に槍を装備してヒロムに襲いかかる。


勢いよく振り下ろされた槍をヒロムは何とかして避けるとカウンターとして蹴りを放つが、ゼロはそれを槍を盾にして防いでしまう。


「オマエには「流動術」による先読みがあるかもしれない。

だがオレには長年オマエの中で闇として過ごしてきた中で見てきたオマエのデータがある!!

先読みしようがオレはオマエのはるか先を進んでいる!!

オレに勝てる見込みはねぇんだよ!!」


ゼロはヒロムの体を掴むと腹に蹴りを食らわせ、さらに頭を掴むと地面へと勢いよく叩きつけてしまう。


「!!」


「何も出来ないで倒される気分はどうだ?

苦しいか、辛いか?理解しろ……それがオマエの限界だと!!」


ゼロはヒロムの頭から手を離すと腹に蹴りを入れ、蹴り飛ばすとともにヒロムの体を地面を転がさせるように倒してしまう。


「クソ……」


「悔しいか?何も出来ぬ己が。

腹立たしいか?無様にやられる惨めな自分が。

無力な自分がたおれて倒れて何も出来ずにいることが悔しいか?」


「黙れ……!!」


「……黙れ、か。

オマエが何を言わなくてもオレの中にはオマエの感情が流れてくる……つまり、オマエが何を思っているかは手に取るようにわかる」


「適当なことを……言うな……!!」


ヒロムは何とかして立ち上がると構えようとするが、ゼロはそんなヒロムに容赦なく闇を解き放ち、ヒロムを倒そうと力をぶつける。


が、その一撃を受けたヒロムは全身にダメージを受けながらも倒れぬように耐えると拳を強く握って立て直してみせた。


が、そのヒロムの姿が気にくわなかったゼロはさらに魔力を放ち、ヒロムはその力に耐えれずにせっかく立て直したというのに膝をついてしまった。


「ぐっ……!!」


「理解してないのか?

オマエは父親に踊らされ、オレを完成させるためにだけ復讐心を抱くように仕向けられたんだよ。

仲間のアイツらも父親が都合よく用意してオマエのために戦うように仕向けてたに過ぎない。

初めからオマエに味方はいない……それどころかオマエには何の価値もない!!」


「……オマエこそ理解してるのか……?」


ゼロがヒロムに向けて言い放つ中、ヒロムは息を切らしながら彼に向けてあることを告げた。


「さっきから力任せに攻撃放ってるけど……結局オマエはオレを否定したいのか?

今のもそうだ……まるでオレの知らぬところで生まれた自分に怒りを感じ、そして全てをなかったことにしようとしてるかのように思える……」


「何を言うかと思えば……オレはオマエの闇、つまりオマエの感情の一つだ。

オマエを否定して全てを手に入れたいと思うのはごく自然、全て破壊して消したいと思うのは……」


「だったら何でこの世界を壊さない……?

なんでオレが目障りなら目を覚ます前に殺さなかった……?」


ヒロムの抱いた疑問、それをゼロにぶつけた途端、彼の口から出ていた言葉は止まり、そしてなぜか戸惑っているような表情を一瞬浮かべたのだ。


それを垣間見たヒロムは何か考えが思いついたのか、ゼロに向けてさらに言葉を投げかけた。


「……羨ましかったんだろ?

オレの中にいたのなら、この世界でオレがフレイたちと過ごしていた時間を見たのなら、オマエもそこに加わりたいって思ったんだろ?

だからアイツらを手に入れるためにオレが必要だと思ったんだろ……?」


「違う……黙れ!!」


「黙れ、か……。

散々オレのこと見下してたオマエがその言葉を口にするとはな……」


黙れ、とゼロは全身から闇を放出すると同時にヒロムに接近するとヒロムの顔を殴り、さらに蹴りを食らわせてヒロムを吹き飛ばして倒してみせる。


が、倒れたヒロムは力を振り絞ると何とかして立ち上がり、口の中が切れたのか血を吐き出し、深呼吸するとゼロに向けて告げた。


「……オマエにだけは渡さない。

アイツらはオレのかけがえのない仲間で……大切な家族だ。

オマエみたいな自分勝手なヤツに渡してたまるか……!!」


それは先程までの疑問などではない。

ヒロムの内にある強い意志そのものだった。


「……ふざけた事を言うな……!!

オマエの存在が憎い、ただそれだけだ!!

オマエを完全否定して……全てをゼロにしてオレは完成するんだ!!」


それを聞いたゼロは激しい憎悪を抱き、そしてそれを反映させるかのように身に纏う闇を大きくしていく。


そして大きくなった闇はより一層黒くなり、精神世界を震えさせるほどの禍々しい力へと変わり始めていた。


「コイツ……オレが想いのために強くなるように、怒りや憎悪を強さに変えてるのか……!!」


「オマエとは違う!!

オレは支配者になるために破壊者となる!!

オマエを……」


「破壊者として破壊した後の世界を支配する……?

何も無い世界で一人なら支配者なんて当たり前のことだろ……」


「何……?」


「支配者なんてただの欲望の塊でしかない……破壊者だって己の力を誇示するために起こす行動の末路……結局残るのは孤独になったオマエだけ、そんな中で何を支配するんだ?誰にその力を示す気だ?」


「何が言いたい……!!」


「……矛盾してるんだよ、オマエのその考え方は。

支配者は全てを人から独占して自由を奪ってこそその名を名乗れる。

破壊者は全てを破壊するからこそその名で恐れられる。

支配すれば破壊できない、破壊すれば支配できない……オマエは欲望のままに何もかもを求めすぎてるんだよ」


「黙れ……!!

何も出来ないオマエが偉そうに語るな!!」


ゼロは全身に闇を纏いながらヒロムに襲いかかるが、ヒロムはその攻撃を簡単に避けると拳を強く握ってゼロの顔面に叩きつけた。


「!?」


顔面に殴打を受けたゼロは大きく仰け反り、ヒロムはゼロを蹴りとばすとさらに告げた。


「もうオマエの攻撃は受ける気はねぇ……。

オレの今ある力でオマエの全てを打破して、アイツらの想いに応える……それがオレの意志だ!!」



ヒロムの覚悟を表したような言葉、それがゼロを気迫で圧倒し、それと同時に精神世界が大きく変化し始める。


世界を包んでいた闇の一部が消え、そこから溢れ出てくる白銀の輝きが世界の装いを取り戻すかのように光を照らしていき、ヒロムの全身に魔力が纏われ始める。


そして……


白銀の輝きの中から一筋の光が地上に降り注がれ、ヒロムの前に人の背丈はあるであろう大きさの光の鍵が現れる。


「これは……」


それが何なのか分からないヒロムは確かめようと手を伸ばして光の鍵に触れてみる。


するとヒロムの手が触れたと同時に地面に光の円とともに光の鍵が差し込めそうな大きさの鍵穴が現れ、光の鍵は意志を持つかのように鍵穴へと差し込まれていく。


差し込まれた鍵は一回転し、そして大地を揺らすとともに四本の光の柱を出現させるとヒロムの体に纏われていく。


「……!!」

(何だこれは……!?

内側から何かが……)


『……やっとこの時が来た』


ヒロムの頭の中に響く女の声、その声に覚えのないヒロムは少し戸惑ってしまうが、女の声は続けてヒロムに伝えた。


『大丈夫ですよ。

私たちはアナタの中でずっと一緒にいたのです』


「オレの中に……?」


『知らないのも無理はありません。

ですが……全てを説明する時間もありません。

だから一つだけ答えてください。

アナタは……これから知るであろうアナタの真相を受け入れることが出来ますか?』


「オレの真相……」


女の言葉、女の正体が分からないなら本来なら信用するべきでは無い。


だがヒロムに迷いはなかった。


「今更逃げる気は無い。

オレがなぜこうなったのか、その全てを知ることができるならオレはどんな運命も受け入れてやる!!」


『……それを聞いて安心しました!!』


四本の光の柱は形を変えて球体になるとヒロムの体に重なり、そしてそのままヒロムの中へと消えていく。


光の球体がヒロムの中に入っていくと同時にヒロムの頭の中に何かがよみがえり、そしてヒロムは体の奥底から今までにないほどの力が溢れてくるような感覚に直面していた。


馴染みがあるような、暖かさのある懐かしいような感情と頭の中でよみがえる記憶のようなものがヒロムの中で何かを変えていた。


「これは……」


『全てはアナタのため、私たちのことをアナタはもう思い出してるはずです。

まずは目の前の敵を倒してください』


「……ああ、任せろ!!」


いくぞ、とヒロムが叫ぶとともにヒロムの全身に白銀の稲妻が現れる。


その稲妻は「ソウル・ハック」の力そのものだった。


「バカな……なぜだ!!

ここに精霊はいない、オマエがその力を使えるはずがない!!」


「オマエに教える気は無い。

ただ……ここからのオレは負ける気がしねぇから気を抜くなよ!!」

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