一四七話 仲間
「な……」
ヒロムへの攻撃を行ったガイのその姿に驚き、言葉を失ってしまった飾音は何が起きているのか理解できなかった。
あれほどヒロムへの攻撃を躊躇っていた雨月ガイが鬼月真助が倒れた後、人が変わったかのように攻撃に対しての迷いが無くなっていたのだ。
「なぜだ……!?
なぜ迷いもなく斬ろうと出来た……!?」
「迷ってるからだよ……だからこそ出来た」
「何を……」
「悩んだり迷って止まるくらいなら戦う。
今のオレに出来ることをやる……それだけだ!!」
ガイはヒロムに向かって走ると共に霊刀「折神」を構え、鋭い斬撃を放つように斬りかかるが、ヒロムは右手に黒い闇を纏わせると刀を防ごうと殴りかかる。
「!!」
刀と拳、本来なら刀が勝るはずだが、ヒロムの力を前に刀は弾かれてしまう。
が、それでもガイは構え直すとすかさず突きを放つ。
ヒロムはその攻撃も防ぐが、ガイはそれを読んでいたのか不意打ちのように蹴りを放ち、ヒロムを蹴り飛ばした。
「……!!」
不意打ちとはいえ自身の蹴りが当たると思わなかったガイは驚きを隠せなかった。
「おかしい……」
そう、ガイの知るヒロムなら確実に避けると考えていた。
なのに不意打ちの蹴りは命中した。
(ヒロムには先読みの技「流動術」がある。
オレの動きや気配から不意打ちくらいなら見切れるはずなのに……なんで命中したんだ?)
ヒロムの「流動術」。
その力はこれまでヒロムを見てきたガイはよく知っていた。
無意識下でも敵の動きを察知し、流れに身を任せるようにして攻撃を避けていく。
攻撃によっては普通は避けれないものもあるが、ヒロムの身体能力ならそれすらも避けれるだろうし最悪の場合は自慢の体術で弾くなりしてしまう、
ヒロムの力と「流動術」の前ではガイは勝ち目など無いに等しく、これまでもそれによって負けていた。
なのに、今のヒロムにはガイの攻撃が命中したのだ。
いや、それだけじゃない。
ガイの刀による攻撃もいつものヒロムなら不用意に防ごうとせずに避けるはずだが、闇を纏わせた拳で防いだのだ。
「もしかして……」
「試してみるか?」
ガイが何かに気づいたその時、まるでガイの考えを読んだかのようにソラが横に並び立ち、銃を構えだした。
「オマエのおかげで今のヒロムの弱点を見つけた」
「……奇遇だな。
オレもだよ」
「援護する……好きに暴れろ」
「そうさせてもらおうかな……!!」
ガイは構えると走り出し、ソラは銃口をヒロムに向けるなり引き金を引いて無数の炎の弾丸を放ちながら走り出す。
「無駄なことを……。
ヒロム、迎え撃て」
「……敵は潰す」
飾音の指示に従うかのようにヒロムは反応すると闇を身に纏うとともに迫り来る炎の弾丸を防ぎながらガイに向かって走り出す。
「あの闇……厄介だな」
「言われなくても分かってるさ!!」
ガイは霊刀「折神」に魔力を纏わせると一閃を放つが、ヒロムは闇を盾のようにして防ぐとともに高く跳び、右手に闇を纏わせるとガイに狙いを定めていく。
「死ね」
冷たい一言とともにヒロムの右手から闇が解き放たれてガイに襲いかかろうとするが、ガイは能力「修羅」の蒼い炎を刀に纏わせるとともに闇を切り裂こうと斬撃を放つ。
が、互いの強すぎる力が衝突したことにより大きな衝撃波が発生してしまってガイは吹き飛ばされてしまうが、ヒロムは闇を全身に纏うことで衝撃波を凌いでしまう。
「くっ……!!」
「さっさと立てよ、ガイ」
ソラが走る中で再び銃を構えるとともに彼の周囲に無数の銃口と砲門が出現し、その全てがヒロムに狙いを定める。
「いくぞヒロム……!!」
(今のヒロムに加減なんてしてたら埒があかねぇ!!
だったら容赦なく潰す気でいくだけだ!!)
「受けろ、無限の炎弾を!!
インフィニティ・フレア・バレット!!」
ソラの声を合図に銃口と砲門から次々と炎の弾丸が放たれ、その全てが狙いを定めた敵へと向かっていく。
「……その程度で」
炎の弾丸が向かった先、そこにいるヒロムは避けるのでもなく防ごうとするわけでもなく、なぜか迫り来る炎の弾丸に向かって走っていく。
「な……」
(まさか自分から受けに……)
ヒロムの行動が予想外すぎるがために驚きを隠せなかったソラだが、ヒロムは迫り来る炎の弾丸を次から次へと何一つ無駄のない動きで回避しながらソラとの距離を縮めるように接近していた。
そしてヒロムはソラの周囲に展開されている銃口や砲門を次々に破壊してソラの攻撃手段を潰していくとともにソラに狙いを定めて全身に闇を纏い始める。
が、そんなヒロムを前にしてソラは不敵な笑みを浮かべながら全身に紅い炎を纏い、そして拳を構えるとヒロムに襲いかかる。
「狙い通り!!」
ソラは襲いかかるとともにヒロムに紅い炎を叩きつけるが、ヒロムは闇を強くするとともに炎を相殺して防いでしまう。
が、ソラはヒロムに蹴りをくらわせるとともに大きく後ろへと吹き飛ばしてみせると叫んだ。
「やれ!!」
「任せろ!!」
吹き飛んだ先で受け身を取ったヒロムの背後から刀を鞘に収めたガイが一瞬で距離を詰めるとともに回転しながら一気に抜刀し、一閃を放つ。
「受けろ……夜叉殺し!!」
ガイは霊刀「折神」を高速で抜刀するとともに一線を放ったことで鋭い斬撃がヒロムに向けて放たれる。
受け身を取った直後で反応出来るはずもない、そう考えていたガイだが、ヒロムはそれを裏切るように咄嗟に闇を体から放出して斬撃を防いでしまう。
「な……」
甘いね、と自身の攻撃を防がれたことに驚くガイに向けて飾音は一つヒロムについて語る。
「オマエたちは今のヒロムが「流動術」を使えないことに気づいたようだが、そんなものなくてもそいつは強いのは確かだ。
一瞬スキをついた程度じゃ倒せな……」
「それはどうかな?」
飾音の言葉を遮るようにイクトが言うとともにヒロムの影から無数の拳が現れるとともにヒロムに襲いかかっていく。
「!?」
「影連撃!!」
突然の攻撃、ヒロムは闇による防御も回避も出来ずにその身に受けてしまう。
「少しは効いたか?」
影の拳による攻撃を受けたヒロムに向けて一言告げると共にイクトはソラの隣に並び立つかのように歩み寄り、そしてソラに向けて言った。
「加勢する……。
文句ないよな?」
「……勝手にしろ。
その代わり、勝手に倒れるなよ……?」
イクトの体はボロボロだった。
「ネガ・ハザード」やバッツとの戦闘、そしてヒロムを止めようとして受けたダメージ……それによりイクトは万全とは呼べない状態だった。
が、それはガイやソラも同じこと。
飾音を相手にした際に受けたダメージは大きく、下手をすればイクトよりもボロボロだ。
そして同じように傷だらけの状態の能力者が一人、ガイやソラたちのもとへと歩み寄ると雷を身に纏う。
「オマエらだけにやらせるかよ……」
全身に雷を纏わせたシオンはどこか苦しそうな表情を浮かべつつもヒロムに向けて構えており、闘志はしっかりとあった。
そしてその闘志はヒロムに向けられていた。
「悪いが……オレもまぜてもらう」
「バカ言うな……。
その体で……」
「オマエらも似たようなもんだろうが。
それに……ここでやらなきゃ真助の努力が無駄になる」
ガイが止めようとする中でシオンは戦う意志を示し、そして真助のことを口にした。
「同じように傷ついていたアイツが命を削る危険性のある能力を限界まで発動しようとしていた。
それなのに休んでたら笑われるだろうが……」
「……そう、だな」
シオンの言葉に納得したガイはシオンを止めようとせず、ソラやイクトとともに構えた。
傷だらけの四人、戦えるような状態でないにもかかわらずに立ち上がり立ち向かおうとする姿に飾音はため息をつくと呆れたような表情で彼らに告げた。
「無駄なことだと分からないのか?
オマエたちが躊躇い無く攻撃出来るようになったところでオレの兵器は倒せない!!」
やれ、と飾音が指示を出すとヒロムはガイたちに襲いかかるが、そのヒロムの一撃をイクトは身を呈して受け止める。
「……勘違いするなよ!!
ヒロムはアンタのじゃない……オレたちの仲間だ!!」
「仲間?
その仲間が今オマエたちを倒そうとしているのにまだそんなことを……」
「分かってねぇな、オマエ」
飾音の言葉を遮るようにシオンは言葉を発すると共にヒロムに接近すると蹴りを放ち、イクトを救い出すと同時にヒロムを少し蹴り飛ばす。
「オマエはヒロムのことを知らない。
オレたちはヒロムと出会って多くのことを学んだ」
体勢を立て直したヒロムはシオンとイクトに攻撃を仕掛けるが、二人はそれを避けると拳に魔力を纏わせてヒロムの体に拳を叩きつける。
その攻撃を受けたヒロムは仰け反り、そして怯んでしまう。
「何!?」
「……大将がいたからオレたちは巡り会うことができた」
「ヒロムがいたからこそ強さを求められた!!」
イクトとシオンはさらなる攻撃を仕掛けるが、ヒロムはそれを闇で防ぐと弾き、二人を倒そうと闇を放つ。
が、それを紅い炎を纏ったソラが身を呈して防いだ。
「……オマエがいたから、何をすべきか答えを導けた!!
オマエの存在がオレたちの道標だったんだ!!」
「だから……目を覚ませ!!」
ガイはソラはの肩を踏み台にして高く跳び、刀を振り下ろすとともに闇を斬り裂いてみせる。
「!!」
「バカな……!?」
(なぜヒロムのチカラを凌いでいる!?
ヤツらにそんな力は無いはずだ!!)
「返してもらうぞ……飾音!!」
「「オレたちの仲間を!!」」
ガイ、ソラ、イクト、シオンは強く叫ぶとともに魔力を纏われ、それと同時に飾音を威圧するほどの闘志が放たれる。
飾音は一瞬戸惑うが、それを覆すようなことが起きてしまう。
「……「八神」のため、それはさせない」
ヒロムの猛攻を受け、そして倒されたはずの八神トウマがヒロムの横に並び立つように現れたのだ。
「天霊」の能力を持つトウマの身体はヒロムの猛攻で負傷していたが、いまや動けるまでに回復していた。
だが人造聖剣「天霊剣」があった時に比べると再生能力は劣っているのかその体からは完全に傷は消えていない。
「トウマ……!!」
「やぁ、トウマ。
協力してくれるよね?」
「……「八神」のためなら、オレはアナタの考えに従います」
「なるほど……」
飾音の言葉に対する返事をしたトウマに向けて一人の男が呆れたような顔で彼に告げた。
「結局オマエは「八神」のためと理由をつけないと何も出来ないんだな……。
ヒロムを利用するためにオマエも利用されていたのに、まだ付き従うのか?」
「……黙れよシンク。
オレは「八神」を「十家」最強の存在にしてみせる。
そのために力になって貰えるなら、父さんの計画にも協力する」
哀れだよ、とため息をつくとシンクはガイたちの前に立ち、そしてガイたちに告げた。
「オマエらは……休んでろ」
「オマエはどうする気だ?」
「……「八神」の怨念をここで潰してヒロムを取り戻す」
シンクが魔力を纏うとともに周囲に冷気が満ち始め、そしてシンクは氷を身に纏い始めた。
が、シンクの体はボロボロ。
とても一人で戦える状態ではなかった。
「無茶だシンク。
オレたちと一緒にヒロムを止めてからでも……」
「悪いなガイ……オレはやらなきゃならない」
「オマエ、こんな時にまで償いとかふざけたこと……」
「ふざけてるかもな。
けど……これで最後だよ」
だから、とシンクは全身に氷を纏うとともにソラへと伝えた。
それはソラの予想をはるかに超えた、誰も予期していない言葉だ。
「ヒロムのことは……任せたぞ」
「な、何を……」
「……さよならだ」
シンクはガイたちが聞き取れないくらい小さな声で呟くとともに冷気と風を発生させるとガイたちを吹き飛ばしてしまう。
吹き飛ばされたガイたちは受け身を取れずに倒れ、そして身に纏っていた力が消えてしまう。
「……シンク……!!」
何かしようとするシンクを止めようとソラは叫ぼうとするが、声が出ない。
そんなソラを気に留めることもなくシンクはさらに冷気と風を強め、そして全身に纏っていた氷が白い炎へと変わっていく。
いや、炎というには冷たいものだ。
炎らしい熱さはなく、見るものを内側から凍えさせるかのような異様な気配を感じ取れる。
「……」
白い炎に包まれていく中、シンクの中でユリナの言葉がよみがえる。
『全部が終わってからやり直すことも出来るんじゃないんですか?
死んじゃったら……ヒロムくんのために何かをすることも出来なくなるんですよ?』
彼女からの言葉、なぜか今になってよみがえってくる。
「……悪いな、お姫さん。
これまでのケジメはオレがつける必要があるんだよ。
だから……」
(ヒロムの未来はアンタらに託す……)
「……心魂を喰らえ。
絶氷の力、我が魂を燃やして全てを凍らせろ……!!」
すると突然、白い炎が大きくなり始めるとともにシンクの全身を飲み込んでいく。
そしてシンクを飲み込んだ白い炎は急速に冷え固まると巨大な氷塊となり、勢いよく砕け散って氷を飾音たちへと飛ばしていく。
「こんなものか?」
飾音が手をかざすと風の壁が出現し、向かってくる氷をすべて防いでしまう。
砕け散った氷塊の中からシンクが姿を現すが、その姿はあまりにも白く、冷たさしか感じ取れないほどに静かなものだった。
「……覚悟はしなくていい。
オレの命と共に……散れ」




