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レディアント・ロード1st season   作者: hygirl
覇王進動編
13/672

一三話 狂いし拳


 

 精霊の使役による利点は何よりも使役者がない力を補える点だ。

単純に戦闘参加者の人数が増える点や戦術の幅が増えていく点もある。


 だがその反面、使役する側には大きな弱点を伴うことになる。


 使役者となる人間が倒れ意識を失えば魔力供給は止まり、精霊は姿を維持できなくなり消えてしまう。

この消えるというのは「死」というわけではない。

停電でテレビの画面が消えると思ってもらえればいい。


 そのため、基本的に能力者が精霊の使役者、「精霊使い」と対峙した際の戦い方としてまず教えるのは「使役する人間を先に倒せ」だ。

一切の例外なくこれが必ずと言っていいほど適用される。


 では精霊使い側はどう対処するべきなのか。

単純な話だ。自分で戦うことができる強さを得ればいいだけのことだ。



***


「オラオラ、どうしたあ!!」


 炎の翼を纏いながら飛行する拳角を挑発するようにヒロムは大きな声を出す。

その姿、いや光景にユリナとハルカはただただ言葉を失い、驚いていた。


「あれが……ヒロムくん?」


「嘘……でしょ」


 ユリナもだが、ハルカはヒロムの今のあの状態が信じられなかった。

この戦闘が始まるより前にユリナの献身的な行為に対してヒロムの態度と今のヒロムの拳角に対しての態度は明らかに違った。

むしろ先程までの方が親しみやすいが、今の状態はただ怖いとしか形容しようがない。


「あれが……姫神くんなの?」


「知らない……あんなヒロムくん」


 ユリナは明らかにヒロムに対して怯えていた。

そしてユリナはヒロムのみに何が起きているのか確かめようとそばにいるフレイに確認しようとした。

が、そのフレイがユリナの思っていた反応をしていなかった。


「何が……起きているの!?」


 何も知らない、フレイの反応はまさにそれだ。

初めて見たかのように驚き、言葉を失っていた。

が、ユリナはそれだけで今のヒロムが危険なのだと理解した。


「だ、ダメ……!!

このままじゃ……」


***


 拳角はその身に炎を纏うと、急降下し、ヒロムに殴りかかる。

が、ヒロムはそれを難なく避けると拳角を殴る。


「ち……!!」


「もっとだ……もっと滾らせろ!!」


 ヒロムが殴りかかろうとすると拳角は全身を炎に変えると周囲にその炎を拡散する。

そして周囲に拡散された炎はさらに分裂すると次々に拳角へと姿を変えていく。


「炎の造形分身か……くだらない」


 ヒロムが首を鳴らすと同時に無数の拳角が殴りかかってくるが、ヒロムはそれらの攻撃を避けては分身を次々に破壊していく。


「こんなもので!!

オレが!!

楽しめると思うなあ!!」


 目の前にいるのが分身であるからなのか、ヒロムの攻撃は拳角の顔を何度も殴り、倒れたそれに対しても強い蹴りを食らわせたりと徐々に凶暴さが増していた。


「時間稼ぎなんて下らねえ!!

とっとと出て来いよ!!」


 ヒロムがすべての拳角の炎の分身を破壊すると、ヒロムの前に炎が集まり、拳角へと姿を変える。

また炎の分身の可能性もあると思われたが、ヒロムの顔には笑みが浮かんでいた。


「さっさとそうすればよかったんだよ。

大した力もないくせに……時間稼ぎなんざしやがって!!」


 ヒロムは一気に拳角との距離を詰めると殴りかかるが、拳角はそれを回避するとヒロムの腕を掴んだ。


「あ?」


「なめるな……!!

オレが戦うのは……オマエを楽しませるためじゃない!!」


 拳角はヒロムを勢いよく持ち上げ、その体を空中に浮かせると拳に力を入れる。

そして、拳角はその拳に炎を纏わせてヒロムの腹部に思いっきり叩きつけ、ヒロムを大きく吹き飛ばす。


「オレとオマエとでは覚悟が違う!!」


「……そうかよ」


 拳角の一撃を受けて吹き飛ぶヒロムは何もないはずの空を殴り、態勢を立て直す。

その光景に拳角は驚いた。


 ヒロムが今やったのは空を殴って衝撃波を起こし、吹き飛んで生じた勢いを相殺したという荒業。

常人ではできない、いや、拳角にもできるかすら定かではない。


「なんだよ、結構いい攻撃するじゃないか……」


 しかもヒロムは攻撃を受けたはずなのに平然と立っていた。

仮にも拳角は元プロボクサー、その拳の一撃は並の大人の一撃とは違う。

まして、拳角は能力者だ。

攻撃を魔力や炎で強化していたため、その威力は桁外れだ。


 なのに、ヒロムはそれを受けても立っている。

それどころか、喜んでいる。


「……最高だ!!

これだよ、これ!!

こういう一撃を待ってたんだあ!!」


 ヒロムは数回軽く跳ぶと、一瞬で拳角との距離を詰め、拳角に殴りかかる。

が、拳角はその攻撃を避け、反撃に入ろうとしたが、ヒロムはそれを読んでいたのか拳角の腹に膝蹴りを食らわせる。


「!!」


「オイオイ……この程度も避けれねえのか、ああ!?」


 ヒロムは拳角の頭を掴むとそのまま何度も何度も拳角に蹴りを食らわせ、さらに拳角の顔に膝蹴りを入れる。

その姿は最早何かを守ろうと戦うものの姿には程遠い、まるで破壊を楽しむ戦士そのものだった。


「オラオラ、オラオラ!!」


「調子に……乗るな!!」


 拳角はヒロムの蹴りを何とか防ぐと殴りかかるが、ヒロムはそれを避けると右脚を高く上げ、勢いよく拳角の左肩へと叩きつける。

踵落とし、それが命中した拳角の左肩から骨が砕ける音が響く。

さすがの拳角もこの展開は予測できていなかったのだろう。

思わず左肩を押さえながら痛みに必死に耐えていた。


「がああああ!!」


「はは……まだやる気かよ。

もう底は見えたんだよ」


 ヒロムは拳角に一切の情けをかけようとせず、ただ拳角を殴り続ける。

それも執拗に骨が砕けているであろう左肩を狙って攻撃している。


「この……」


「なんだ?

リングの上でもねえのにまともな戦い望んでんじゃねえよ!!」


 ヒロムは軽く跳ぶと一回転し、その勢いのまま拳角に回し蹴りを放つ。

蹴りを避けることができなかった拳角は直撃を受け、勢いよく地面を転がりそのまま倒れてしまう。

が、意識はあるらしく、何とかして立ち上がろうとする拳角だが、左肩の負傷により左腕の機能が停止したらしく、右腕だけで必死に立とうとしている。


「……無様だなあ。

散々オレを見下してきたくせに……」


 ヒロムが拳角にとどめを刺せようと歩き始めた時、ヒロムも予期せぬことが起きた。


「もうやめて!!」


 ユリナがヒロムに向けて出せるだけの声を出して叫んだ。

それにヒロムは反応し、歩みを止めユリナの方へと視線を送る。

が、そのヒロムの眼差しは戦いに身を投じぬユリナに送るべきものではない。


「ああ?

何だよ?」


「も、もうその人は戦えない……と思うからこれ以上は……」


 ヒロムの冷たい眼差しにユリナは怯え、涙目になりながらも必死に自分の気持ちを伝えようとした。

しかし……


「うるせえな……。

こいつをここで殺さなきゃ……オマエが危険なんだぞ?」


「そ、その気持ちはうれしいけど……」


「……ああ?

何が言いたいんだよ?」


「……隙あり!!」


 拳角は全身に炎を纏うと、不死鳥のように大きな炎の鳥となるとヒロムに向かって走り出した。

 

「炎極鳳凰撃!!」


 周囲を炎で焼き焦がしながら接近する拳角に対してヒロムは小さくため息をつくと右手の拳を強く握り、態勢を低くした。


「うぜえよ」


 ヒロムは接近する炎の鳥を勢いよく殴る。普通なら炎に負けてヒロムが負傷する。

だが、ヒロムの拳が触れるとともに炎の鳥は消え、拳角が姿を見せる。


「な……」


「やっぱりここで潰す」


 ヒロムは現状に驚き無防備となった拳角を何度も殴り、そしてとどめの一撃と言わんばかりに殴り飛ばした。

拳角が地面に叩きつけられ、転がっていく姿をヒロムは確認すると嬉しそうに笑みを浮かべる。


「あ〜あ、最高に楽しめた……」


 ヒロムが動こうとすると、背後からユリナがヒロムを抱きしめ、ヒロムを止めようとする。

が、あまりの恐怖にユリナの体は震え、今にもヒロムが強引に振りほどきそうになっていた。


「離せ」


「もうやめて……」


「オマエを守らなきゃ……」


「お願いだから、戻ってきて……!!」


 ユリナが大粒の涙を流しながら必死にヒロムに訴えかける。

それによるものなのか、ヒロムの体から徐々に力が抜けていく。


「……離……せ」


「お願い……」


 離せ、と言おうとしたヒロムは突然膝から崩れ落ちる。

ユリナはヒロムを抱きしめ、フレイやテミスたちはヒロムを心配してヒロムに駆け寄る。


「マスター!!」


「ご無事ですか!!」


「……あれ……?

何で……オレ……こんな疲れて……」


 ヒロムの反応がおかしい。

フレイたちはすぐにそれに気づいた。


「覚えてないのですか?」


「いや……うん。

オマエら下がらせてオレが戦った直後から……ハッキリしてない」


 あれだけのことをしているのにヒロムは覚えていない。

つまり、ユリナが必死に止めようとしていたのも知らないのであろう。


「……イシス、異空間を解除して。

ガイたちと合流しないとマスターが」


「任せて!!」


 イシスが杖で地面を叩くと、徐々に景色が歪んでいく。

そして気が付けば戦闘が始まる前の場所に移動していた。


「……ヒロム……?」


 ソラの声がた。

声のした方を見たヒロムたちはただ驚くしかなかった。

視界に入ったソラの姿、全身が血だらけで起き上がれぬほどの体の傷。

さすがのヒロムも言葉を失っていた。


「オマエ……!?」


「オマエも……どうかしたのか?」


 自分よりも重症なのに他人の心配をするソラに何か言おうとしたヒロムだが、何を言うべきか思いつかない。


「終わったか!!」


 するとガイとイクトがこちらにやってくる。

が、二人とも少し傷を負っていた。


そして、二人の来た方向からゆっくりと刃角が歩いてくる。


「……何があった?」


「それが……」


「角王の一人は倒せました。

ですがマスターが……」


「大将がどうかしたのか?」


「詳しくは後で聞く。

今は残りの一人を……」


「何~?

「無能」のくせに拳角に勝ったのかよ。

じゃあ、無事なオマエら二人潰して……」


「じゃあ、オレも混ぜろ」


 するとヒロムたちと刃角の間に天高くより大きな雷が落ちる。

何が起きている、とガイたちは推測しようとしたが、雷の中からシオンが姿を現し、刃角に向けて槍を構える。


 刃角もシオンを警戒して歩みを止めて全身に雷を纏う。


「よお、角王」


「オイオイ……呼んでないんだけど?

紅月シオン」


「そうか。

じゃあ、勝手に邪魔する」


「オマエ、飾音さんと一緒なんじゃ……」


 確かにシオンがここにいるのはおかしい。

そう思ったのはイクトもだが、シオンはすぐにそれについて答えた。


「ああ、適当に口裏合わせてもらってる。

「覇王」を助けるためにな」


「シオン……」


「まあ、オレだけじゃないがな」


 すると突然、刃角に無数の氷柱が襲い掛かる。

しかし刃角はそれに驚くことなく「無刃」で氷柱を斬り落としていく。

そして刃角はその氷柱から攻撃してきたのが誰かを言い当てた。


「裏切ったのは本当なんだな、シンク」


「ふ……仲間になった覚えはない」


 すると刃角の背後からゆっくりとシンクが歩いてくる。

刃角の目つきが変わり、さらに倒したはずの射角が起き上がると何とか構えようとする。


「裏切り者が……」


「だから、仲間になった覚えはない。

オマエらはオレの目的「天獄(てんごく)」のために利用されてただけだ」


「天獄?」


「それよりいいのか?

この戦闘は「一条」も見ているぞ?」


「何を言うかと思えば……」


 シンクの言葉に刃角は呆れた様子だった。


「一条」、「八神」と同じ十家の一角であり、十家の頂点に立つ家系。

その頂点に立つ「一条」がなぜこの戦闘を?


 刃角が呆れているとシンクが真実告げた。


「どうやらオマエらの主は最強の機嫌を損ねたようだぜ。

「一条」の当主……一条カズキは臨時の十家会議の招集を行ったんだぜ?」


「何?」


「言ってることの意味が分かるよな?

一条カズキはオマエたちの愚行を証拠に残そうとしている。

そう、オマエたちのヒロムへのこの襲撃をな」


「ハッタリを……」


 すると刃角の携帯電話が鳴り響く。

刃角は「無刃」の刃を消し、それを懐に入れると携帯電電話を取り出し、通話に応じた。


「はい。

……トウマ様?」


 トウマ様、つまり相手はトウマなのだろう。

しばらくすると刃角は妙に焦ったような様子で射角と拳角を見、ため息をつくと通話を終える。


「……どうやらマジのようだな。

トウマ様から帰投命令が出た」


 刃角は雷を纏うと、前にも止まらぬ速さで射角と拳角を回収するとシンクを見て一言伝える。


「トウマ様からの伝言だ。

いずれオマエに真意を確かめに行くってな」


「なら伝えろ。

オレは理想とする「天獄」でオマエをつぶす、と」


 いいだろう、と刃角は周囲に巨大な雷を出現させると雷と共に消えていく。

敵が去った、つまり……


「勝ったのか……」


 ガイとイクトは緊張の糸が切れたのか、その場に座り込んでしまう。


「だな……。

つうか、シオンは来るの遅いんだよ」


「これでも最速だ。

それより馴れ馴れしく名前で呼ぶな」


 シオンはイクトを軽く蹴るとヒロムのもとへ向かった。

ヒロムは今もなお座り込んだ状態で疲弊している。


「大丈夫か?」


「……ああ。

なんか……疲れた」


「……そうか」

(やはり、というべきか……)


 ヒロムの姿に何か思うところがあるらしく、シオンは小さくため息をつく。

ところで、とシオンはシンクに対してある質問をした。


「オマエがさっき言ってた「天獄」ってなんだ?」


「それはオマエがヒロムの力になるってことでいいのか?」


「何が言いたいかはわからないが……そう思っていい」


 シオンの答え、それを訊いたシンクは安堵のため息をつく。


「そうか、ならば説明しようか」


 シンクはゆっくりとヒロムのもとに向かうように歩き始め、そしてそのまま話し始めた。


「オレの言った「天獄」とはかつてヒロムが抱いていた夢を実現させるためのもの。

今となってはオマエが忘れていてもおかしくないものだが……

オレにとってはあの頃から理想として信じてきた」


「ヒロムが忘れている?」


「そう……あの日、オマエがすべての希望を失う前に言っていたんだ」


「……?」


 シンクの言葉から何の話なのかわからないヒロムは少し困惑していた。

ガイとソラも何の話なのか二人で顔を合わせて確認するが、互いに知らないと首を横に振る。


 そしてシンクはヒロムの前に来ると、どういうことか説明をつづけた。


「無理もない。

あの日のオマエはまだ、自分の可能性を信じていた。

だからこそ、オレはその力になろうと思った」


「……知らねえよ」


「あ……」


 シンクの言葉を聞いたソラはふいに何かを思い出したのか、ヒロムに告げた。


「オマエが五歳の時にオレやガイたちの前で言ってた夢だ。

オマエが絶望したあの日からまわりが馬鹿にしたせいで忘れたあの夢だ」


「夢……?」


「ああ。「いつか、オレが能力と精霊を使って皆を守れるくらい強い王様になるんだ。」……だ。

それがヒロムを中心とした独自部隊「天獄」だ」


 シンクの口から出た言葉により、ヒロムはすべて思い出した。

そして、ヒロムはため息をつくとシンクを見て呆れた顔で今思ってることを伝えた。


「……あんな夢物語を信じてたのか?」


「あの時はそうかもしれない。

でも、今なら実現できる」


「……オレに能力はない」


「だが「覇王」と呼ばれるだけの実力はある」


「まさか……」


 シンクはまるで王に忠誠を誓う騎士のごとく膝をつき、頭を下げ、ヒロムに告げる。


「……今こそオレたちを導く「天獄」の王となってくれ」



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