一二〇話 力と力
「叩き潰す!!」
ヒロムは勢いよく走り出すと目にも止まらぬ速さで駆け、カズマを翻弄するように周囲を縦横無尽に走るが、カズマはそれに対して焦ることもなくただ目でヒロムの動きを追っていた。
「……情報通りの速さだな。
けど……」
「オラァ!!」
ヒロムはカズマの背後に音もなく現れると殴りかかるが、カズマはそれを見事な動きで避けると殴り返した。
「!!」
「速いからこそ対処しやすい……攻撃の瞬間に姿を現すならそこを狙うだけなんだよ!!」
カズマは続けて攻撃しようとしたが、ヒロムは姿を消すと再び加速していく。
「ちっ……すばしっこい野郎だな」
カズマは舌打ちをすると右手に魔力を集中させ、そして構えると何も無いはずの地面に殴りかかる。
「くらえやぁ!!」
カズマが地面を殴ると大きな衝撃波が生み出され、生み出された衝撃波は周囲を駆けるヒロムの動きを止めてしまう。
「くっ……!!」
「そこか!!」
動きが止められたことで姿をハッキリと現したヒロムをその目で捉えたカズマは接近するために走り出し、その途中で右手に魔力を纏わせた。
迫り来るカズマを迎え撃とうとヒロムも全身に光を纏うと構え、そして加速してカズマに向かっていく。
「いくぞ、「覇王」!!」
「……ぶっ潰す!!」
ヒロムとカズマ、互いの距離が縮まったその瞬間にカズマは勢いよく殴りかかるが、ヒロムはそれを避けるとすぐさま殴り返した。
が、そのヒロムの拳をカズマは蹴りで防ぐとその場で体を回転させて勢いをつけて拳を放つが、ヒロムはそれを両手で止めようとしたが、カズマは攻撃を止めようとするヒロムの両手に拳がぶつかった瞬間に魔力を炸裂させてヒロムを吹き飛ばしてしまう。
「くっ……!!」
ヒロムは吹き飛ばされながらも何とかして体勢を立て直したが、カズマは両足に魔力を纏わせて走り出すと、地面を蹴る瞬間に魔力を爆発させて一気にヒロムとの距離を詰めてしまう。
「な……」
(なんて滅茶苦茶な……)
「まだまだ足りねぇなぁ!!」
カズマは距離を縮めたその勢いを上乗せするかのようにヒロムに向けて思いっきり殴りかかり、カズマの行動に驚くヒロムは防ぐことも出来ずにその身に受けてしまう。
「がっ……!!」
『 マスター!!』
「……問題ない、フレイ。
オマエはディアナと出力を調整しててくれ……!!
オレがコイツを……潰す!!」
殴られたヒロムはフレイに告げると全身に纏う光を大きくし、左の拳で勢いよくカズマに殴りかかる。
カズマはヒロムの攻撃を難なく避けるが、それをわかっていたヒロムは体を大きく回転させて右の拳をカズマに叩きつける。
「!!」
「まだだ!!」
ヒロムはさらにカズマを殴り、さらに右脚でカズマに数回蹴りを放つ。
さらにヒロムは槍を出現させるとカズマに斬りかかるが、カズマはそれを魔力を拳に纏わせて防いでみせる。
「さすがに不意打ちは効いたぜ……」
「これで終わりじゃねぇ!!」
ヒロムはカズマを斬ろうと何度も何度も槍を振るが、カズマはそれを呼符で防ぎ、可能ならば防がずに避けていく。
「この……!!」
攻撃が当たらない、そのことに苛立ち始めるヒロムの心が反映されたかのように槍の一撃は大振りになり、カズマは簡単に槍を掴んでしまう。
「!!」
「どうしたぁ……?
こんなものか?」
「テメェ……」
(どうなってやがる……?
パワーとスピード、バランスのとれたこの「クロス・リンク」が対応されつつある。
まるで学習されてるような……)
「そうか……!!」
何かに気づいたヒロムは槍を手放すとすぐさま大剣を装備してカズマに斬りかかるが、カズマはヒロムが手放した槍を盾にしてそれを防ぐが、大剣の一撃により槍は砕けてしまう。
「やっぱ耐えれないか……」
カズマは砕けた槍を投げ捨てるが、ヒロムはそれを確認すると大剣を消した。
「あ?」
ヒロムの行動が理解できないカズマは首を傾げるが、ヒロムはそんなカズマに確かめるような言葉を発した。
「オマエ……「戦血」持ってんだろ?」
「……何!?」
ヒロムの突然の一言、それを聞いたガイは驚くが、ユリナとアキナ、エレナは何のことか分かっていなかった。
「ガイ、ヒロムくんは何の話をしてるの?」
「あ、ああ……「月閃一族」ってわかるよな?」
「うん、シオンや真助がそうだよね」
「それとヒロムさんのいう話は関係してるのですか?」
「そう、「月閃一族」には「戦血」と呼ばれる力がある。
戦う中で得た経験をそのまま強さに変換する力……ヒロムは栗栖カズマがそれを持ってると言ったんだ」
待ちなさいよ、とアキナはガイの話を聞いてあることに気づいたらしく、それをガイに確認した。
「それじゃああの敵の人は……」
「ああ、ヒロムの話が本当ならアイツは……」
「オマエは「月閃一族」だ。
違うか?」
ヒロムは確かめるようにカズマに告げ、対するカズマは舌打ちをすると面倒くさそうに答えた。
「……だったらなんだよ?
楽しませてくれるのか?
この心の渇きを満たしてくれるのか?」
カズマは全身に魔力を纏うとヒロムを睨み、そして殺気を放ち始める。
その殺気はユリナたちはもちろん、ユリナたちを守ろうとしているガイやアイリス、イシスも感じていた。
「アイツ……!!」
(ヒロムを前にしてまだこんな力を……!!)
「オマエの強さはわかった……けどな、そんなもんじゃ渇きは満たされねぇ……足りねぇんだよ。
オマエは強いけど……オレの期待を超えてはいない!!」
「……渇き、ね」
ヒロムはカズマが言う「渇き」という言葉を口にするとため息をつき、そして頭を掻き始めた。
「……面倒くさいな。
戦いを楽しみたいなら勝手にしてほしいし、巻き込むなって感じだわ」
「あ?
オレにも目的があるんだよ。
そのためなら容赦しねぇが、強いヤツと戦いてぇと思うのは戦士として当然だろうが」
「戦士として?
違うだろ……オマエ個人の欲望だろうが」
「何だと?」
クソが、とヒロムは吐き捨てるように言うと「クロス・リンク」を解除し、そしてカズマの殺気に応えるように殺気を身に纏う。
目に見えている訳では無い。
敵意にも似たそれをヒロムは全身に普通では感じることの無い何かを纏っているのは確かだ。
「……テメェ、逃げる気か?」
殺気を纏うヒロムだが、「クロス・リンク」を解除している今の姿はカズマとしては気にいらないらしく、苛立ちをぶつけるようにヒロムに言うが、ヒロムはそんなこと気にせずに話し始めた。
「シオンも真助も……「月閃一族」ってのは本当に戦うことに囚われている狂戦士だ。
そしてオレもオマエを……オマエたちを潰そうと怒りに囚われた愚者となっていた」
「あ?
テメェのポエムなんざ聞きたく……」
「忘れてたよ……オレにはオレの戦い方がある。
わざわざ狂戦士の力比べに付き合う必要ないってな」
するとヒロムのそばにメイアとエリスが現れ、そして二人は魔力を纏い始めた。
何か来る、それはカズマにはすぐわかった。
だからこそカズマは拳を強く握り、応戦出来るように構えた。
そんな警戒心の強いカズマを前にして、ヒロムは微笑むとカズマに告げた。
「教えてやるよ狂戦士……力だけが「覇王」の真骨頂じゃねぇってな!!」
するとヒロムが風に包まれ、さらにメイアとエリスが竜巻と吹雪となってヒロムを覆い始める。
「……クロス・リンク!!
「麗凍」メイア!!「迅刀」エリス!!」
ヒロムを覆う竜巻と吹雪は周囲を凍結しながら大きくなっていき、巨大な氷柱へと変化してしまう。
「……舞い踊れ、美しく散るは麗華の如し!!」
氷柱が勢いよくヒビ割れ、中より風を放出しながらヒロムが装い新たにして現れる。
首元を白いファーで覆われた黒い服、白いブーツを履いて黒いロングパンツを身に纏い、腰には水色の布を巻き、青いグローブを装備していた。
さらに右肩にはメイアが身につける王冠、左肩にはエリスの髪飾りを思わせるアーマーが装着されていた。
「クロス・リンク……完了。
「氷凛迅踊」!!」
現れるなりヒロムが魔力を纏うと冷気を帯びた烈風がカズマを襲い、ヒロムの周囲に雪の結晶が舞う。
「キレイ……」
ヒロムのその姿を見たユリナとエレナはその姿に魅了され、ガイとアキナも新たなヒロムの姿に興味を抱いていた。
「あれがヒロムの新しい力……」
「ああ、ヒロムの「クロス・リンク」……その六番目の姿か」
(力任せじゃあの男に勝てないと悟ったヒロムの選んだ一手だ。
必ず何かやってくれる!!)
「……だりゃ!!」
冷気を帯びた烈風に襲われていたカズマは魔力を大きく放出して烈風を相殺すると構えた。
「……女みてぇな見てくれで勝てると思ってんのか?」
「今にわかる……この力の全てがな」
見せてみろや、とカズマは走り出し、勢いよくヒロムに殴りかかる。
が、ヒロムは一切慌てることなく、まるで流れに身を任せるかのように綺麗な動きでカズマの攻撃を避けていく。
「な……」
「当たらないさ」
「ふざけやがって!!」
カズマは自身の攻撃を避けたヒロムに次々に攻撃を放つが、ヒロムはそれらをすべて掠めることも無く余裕を見せつけながら避けていく。
「この野郎……急に動きが……!!」
中々捉えることの出来ずにいるカズマはどうにかして攻撃を命中させようと力任せに放つが、それでもヒロムは避けてしまう。
「当たらねぇよ。
オマエじゃ止めれない」
「何しやがった!!」
何も、とヒロムはカズマの一撃を避けると左手に風を纏わせるとカズマに掌底突きを放ち、後ろへと吹き飛ばさせる。
「ぐっ……!!」
「悪いな、わざわざオマエの成長に付き合うほどオレは優しくねぇんだよ」
「何を……」
するとヒロムは浮遊し、さらに周囲に竜巻を起こし、さらに吹雪を発生させる。
「くらえ……ブリザード・フロー!!」
ヒロムが叫ぶと竜巻と吹雪がカズマに襲いかかり、カズマの自由を奪いながら体を凍りつかせていく。
「ぐぅおおおおお!!」
体が凍りつく中でカズマは気力で耐え切ろうとし、魔力を炎のように激しく纏うが、それでも体を凍りつかせていく氷は侵食し続けていた。
「この……」
「抵抗するな。
……したところで無駄だ」
「クソ野郎がぁぁぁあ!!」
カズマの全身の魔力が赤く光ると突然雷へと変化すると氷をすべて砕き、そして竜巻と吹雪をも消し去っていく。
「少し優位になれたくらいで調子に乗るなよぉ!!
まだオレの渇きは満たされてねぇんだよ!!」
「この力……アイツと同じか」
カズマの身に纏う赤い雷、それを見たヒロムはある男を思い出していた。
ヒロムに対する怒りを己の能力である赤い雷の糧として戦っていた角王の男を思い出していた。
「……斬角と同じ「憤撃」か」
「憤撃」。
能力所有者の怒りを純粋な力へと変換し、赤い雷を使役する力を与える力。
「少し面倒だな……」
(ヤツは戦う度に「戦血」でスペックが上がる。
それに加えて怒りの感情で強くなる能力を使役する……)
「……これは少し手の内晒さなきゃならねぇか」




