一一八話 怒り
ヒロムとガイは走り出し、ライガ、リュウガ、サイガを倒そうと攻撃を放つ。
「無駄なことを……」
サイガはライガとリュウガを守るように立つと、二人の攻撃を弾き返そうとしたが、ヒロムは右手に力を集めるとサイガの顔を殴り、後ろへと仰け反らせる。
「何……!?」
「いつまでも余裕ぶってんじゃねぇ!!」
ガイはサイガに蹴りを放つと刀で何度も斬りかかり、サイガにダメージを与えていく。
「コイツ……力を増してやがる……!!」
「サイガ!!」
負傷したサイガを守ろうとリュウガとライガはガイに襲いかかるが、ガイの両肩のアーマーのパーツが分離すると二人の攻撃を防いでしまう。
「何!?」
「コイツの戦い方……」
「さっきまでと同じと思うなよ?」
オレのこともな、とヒロムはフレイの武装である大剣を手に持ってガイを飛び越えるとライガに叩きつけ、さらに大剣をロゼの武装であるハンマーに変えるとリュウガを殴り飛ばしてしまう。
「ぐあっ!!」
「がっ……!!」
「ガイ!!」
ヒロムはガイの名を叫ぶとともにハンマーをディアナの武装である槍へと変換すると周囲に無数の光の槍を出現させる。
そしてガイも頷くと翼となっている四本の刀を切り離す。
「修羅刃翼!!」
四本の刀は意思を持つように自在に動きながらリュウガとライガ、サイガに襲いかかり、三人の体に斬撃によるダメージを与えていく。
「この……!!」
「ふざけやがって……!!」
三人はどうにかして四本の刀の動きを読んで回避してみせるが、気づけばいつの間にか三人は一箇所に集められていた。
「まさか……」
「誘導されてくれて助かったぜ……やれ、ヒロム!!」
「グロリアス・ミーティア!!」
ヒロムが槍を地面に突き刺すと同時に光の槍が次から次に三人に向けて放たれ、三人はその身を槍に貫かれていく。
「「があああ!!」」
「このまま……」
ヒロムはこのままトドメをさせようと光の槍を新たに作り出すと放つが、カズマが魔力を身に纏うなり蹴りを放ち、光の槍をすべて破壊してしまう。
「……何!?」
「何手こずってやがる」
カズマはライガたちの体を貫いている光の槍を破壊すると、三人を殴った。
「!!」
「アイツ……仲間を!?」
カズマの行動にヒロムとガイは驚いてしまうが、殴られたライガたちは何も言おうとしない。
「オマエらがこんなもんなら用済みだな。
オレは帰ってもっとマシなヤツを探す」
何も言わないライガたちに冷たく言い放ったカズマ。
そんなカズマの言葉を聞いたライガたちは何も言わずに全身に魔力を纏うとヒロムとガイを見た。
「……アニキ、待っててくれ。
コイツらは……ここで殺してやる!!」
「ならさっさと証明しろ」
ライガの一言を受けたカズマは下がり、ライガたちは構える。
そんなライガたちの姿を見たガイはあることに気づいた。
「アイツら……」
「厄介だな」
ヒロムもガイの気づいたものに気づいたらしく、面倒くさそうにため息をついた。
「……最近の化け物は再生すんのが好きなのか?」
ヒロムは嫌味のようにつぶやき、ライガたちを睨む。
ヒロムが睨むライガたち、先ほどヒロムとガイの攻撃で負傷してボロボロのはずなのに、気づけばその傷が一切なかったのだ。
「……「ネガ・ハザード」ってのは新種の兵器らしいな」
「そうらしいな」
ヒロムとガイは警戒しながらも構え、ライガたちの動きに警戒した。
が、そんな二人の警戒する姿を見たライガはなぜか笑っていた。
「ハハハ……おかしいヤツらだ」
「ああ?」
「いいんだよ、力抜いてて。
……もうオマエらじゃ勝てないから」
「どういう意味だ?」
今にわかる、とライガは走り出すとともに音もなく消えてしまう。
「どこに……」
「ここだよ」
どこに消えたのか探そうとしたガイの背後にライガは現れ、その鋭い爪でガイを切り裂こうとしたが、ガイはそれに気づくと刀で防ぐ。
「この……!!」
「こっちにもいるぞ!!」
ライガの攻撃を防ぐガイに向かってサイガは走り出し、襲いかかろうとするが、ヒロムはそれを阻止するように殴りかかる。
が、ヒロムの拳は弾かれ、サイガはヒロムを殴り飛ばすとガイに攻撃を放つ。
「くっ……!!」
「ヒロム!!」
ガイはライガを押し返すとサイガの攻撃を回避し、すかさず斬りかかるが、刀はサイガに触れると弾かれてしまう。
「な……」
(さっきまで通じていたはずの「折神」の一撃が効かなくなった!?)
「いつまでも同じだと思うなよ!!」
サイガはガイの腹を殴ってガイを仰け反らせると、続けざまに蹴りを入れ、勢いよくガイを殴り飛ばした。
「がぁぁあ!!」
ガイは勢いよく吹き飛び、サイガの一撃により「修羅・絶天」の武装が砕けてしまう。
「バカな……」
「オマエらぁ!!」
体勢を立て直していたヒロムはマリアの武装であるガントレットを拳に付けるとライガとサイガに殴りかかろうとしたが、横から現れたリュウガがヒロムの拳を止めてしまう。
「!?」
「悪いな……オレたちの力の前に消えろ」
「ざけんな……!!
オレの力はまだ……」
「無理なんだよ、オレたち「ネガ・ハザード」の前ではな」
「何?」
リュウガはヒロムの拳を離すとヒロムを殴ろうとし、ヒロムはそれを避けるとリュウガから離れようとしたが、ライガとサイガがそれを阻止するように襲いかかってくる。
「くっ……!!」
ヒロムは攻撃を放ってくるライガとサイガの一撃を避けると再び離れようとしたが、リュウガは二人の攻撃を避けたヒロムの体を掴み、そして全身に魔力を纏わせる。
「コイツ……離せ……!!」
「教えておいてやるよ、「ネガ・ハザード」についてな。
オレたちはオマエを倒すために生み出された「ハザード・チルドレン」だった。
だがある日、オレたちはこの体に精霊の力と魔人の力を投与され、ある奇跡を起こした」
「何が言いたい……!?」
「オレたちは「ハザード」による破壊衝動の増幅を力へと変換する力を持った新種の精霊の姿を得た。
オレたちは戦いが増す度に強くなるんだよ!!」
リュウガは魔力を炎へと変えるとヒロムを勢いよく上空へと投げ、無数の炎弾をヒロムに叩きつけていく。
「ぐぁぁあ!!」
まだだ、とライガは衝撃波を放ち、さらにサイガは魔力をヒロムに放つと炸裂させ、ヒロムを吹き飛ばしてしまう。
大きく吹き飛んだヒロムは勢いよく地面に叩きつけられ、ユリナたちの前に倒れてしまう。
「くそ……」
「ヒロムくん!!」
リュウガたちの攻撃によりヒロムの体はひどく負傷し、「ソウル・ハック」による白銀の稲妻の勢いが弱まってしまう。
「オレたちは受けたダメージをただ再生するんじゃない。
その経験からそれ相応の力を手に入れる」
倒れるヒロムにトドメをさせようとリュウガはライガやサイガとともにヒロムの方へと歩き始める。
「オマエたちの一撃はすごかった。
だが、そのおかげでオレたちは強くなれた」
「この……野郎が……!!」
ヒロムは何とかして立ち上がると拳を強く握り、そしてリュウガを睨んだ。
戦意は失っていない、だからこそヒロムは立ち上がった。
そんなヒロムの姿にリュウガは呆れ、ため息をつくと告げた。
「大人しく死ね。
オマエには……」
待て、とカズマはリュウガに向けて忠告した。
「クライアントからの指示を忘れんなよ、リュウガ。
そいつを殺すのはそれからでもいい」
「……わかってますよ」
クライアントという言葉が誰を指して言っているものなのか気になるヒロムだが、そんなヒロムに対してリュウガは一つ告げた。
「まだ見せたことのない精霊を呼べ。
オマエのすべてを見せてみろ」
「……なるほど、な」
リュウガの一言、それを聞いたヒロムは何か気づいたらしく、ため息をつくとリュウガに向けて言った。
「オマエら……葉王の部下か何かだろ?
アイツに頼まれてオレの力を引き出そうとしてるんだろ?」
「詮索する暇があるならさっさとしろ」
「……うるせぇ」
リュウガの命令するような言葉に向けてヒロムは強く言い放つと、さらに続けてリュウガに、リュウガたちに向けて吐き捨てるように言った。
「オマエらの言いなりになってたまるか……!!
オレはオレの意思で戦う……!!」
「……そうか。
なら仕方ないな」
リュウガは右手に炎を纏わせるとユリナたちの方を見ながら、その炎を撃ち放った。
「え……?」
「コイツ……!!」
自分の方に向かってくる炎に困惑するユリナ、そんなユリナを守ろうとガイは刀に魔力を纏わせると炎を斬り消そうとしたが、炎は刀が触れると同時に大きな爆発を起こし、ガイをユリナたちのもとへと吹き飛ばしてしまう。
「がっ……!!」
「ガイ!!」
目の前で自分たちを守ろうとして負傷したガイにユリナたちは駆け寄るとガイに声をかける。
「ガイ、大丈夫?」
「しっかりしてください!!」
ユリナとエレナがガイに呼びかける中、アキナはリュウガを睨むと叫ぶように言った。
「この卑怯者!!
こんなことしてまで勝ちたいの!?」
「……これは遊びじゃない」
リュウガは再び炎をユリナたちの方へと放つが、ガイは立ち上がるなり炎を防ごうとする。
「ガイ、やめて!!」
「……黙ってろ」
ダメです、と炎を防ごうとするガイを守るようにアイリスが槍で炎を破壊し、そしてガイに伝える。
「彼女たちのために戦うことは死ぬことではないでしょ?」
「けど……!!」
「うざ……」
ガイとアイリス、二人の行動に不快感を露わにするライガはヒロムにも聞こえるように言った。
「そんな足でまといのために戦う意味なんてないだろ。
そいつらは力もなく無駄に生きて、無駄に資源を浪費する……世界に何の貢献もしない愚かなだけの存在だろ」
「何を……」
「そいつらの代わりなんてそこら辺探せばいくらでもいるだろ?
それにこだわる意味も価値もないって気づかないのか?」
ふざけるな、とヒロムは拳を強く握りながらライガの言葉を否定するように言うが、ライガはそれを笑うとヒロムに言い返すような言葉を発した。
「ふざけてるのはオマエだろ。
何かを守るために戦う意味なんてないだろ。
オマエは戦いを望んでいる……ならそのためだけに戦えよ!!」
「オマエ……!!」
「さっさと精霊を出せ」
するとサイガがユリナたちを見ながら歩き始めた。
「出さないなら一人ずつ殺すだけだ」
「黙れ……」
「力無きものを始末してやるんだ。
感謝してほしいくらいだ」
「黙れ!!」
サイガの言葉を強く否定するようにヒロムは叫ぶと、全身に白銀の稲妻を走らせ、そして冷たい眼差しでリュウガたちを睨んだ。
「……力を手にしたくらいで調子に乗るなよ……?
……殺す」
ヒロムは白銀の稲妻をさらに大きくすると動き出し、それを見たサイガはヒロムに狙いを変更して迎撃に向かった。
「殺す?
オマエの力はオレたちに及ばないことは証明されたんだ!!
強がるのも……」
「黙れ」
ヒロムは音もなくサイガの背後に現れ、それに気づいたサイガも振り返ると同時に攻撃しようとした。
が、サイガが振り返ると全身に痛みが走る。
「……あ?」
サイガの体は抉られたような巨大な切り傷が出来ており、血が吹き出していた。
ヒロムの方を見るとヒロムは大剣を持っており、その大剣には血が付着していた。
「なんで……オレの力を……」
「力無きものを始末しようとしてたんだよな……オマエ?」
ヒロムは左手にテミスの武装である銃剣を装備すると、サイガの抉られた傷口に銃口を向けて引き金に指をかけ、サイガの体に何度も炎弾を撃ち込んだ。
「がぁぁぁあ!!」
「ならオレがやってやるよ……無様な姿を晒してる無力なオマエらの始末をな!!」




