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レディアント・ロード1st season   作者: hygirl
戦撃絶真編
116/672

一一六話 敵来


ある研究所。


そこに一人の男がいた。


色素の抜けたような白い髪の男は灰色のコートを羽織り、口にガスマスクにも似た物を付けたままパソコンを操作していた。


「ここを掛け合わせれば……。

これでコイツのデータは完成だ」


「やってるねぇ」


男の背後に一切の音を立てずに葉王が現れ、葉王は男に声をかける。


が、男は葉王の方を見ることなくそのままパソコンを操作し続けていた。


「おい、ファウスト。

オマエの数少ないお友達の登場だぜぇ?」


「……友達なんて不合理なものを作った覚えはないのだが?」


「冷たいねぇ〜。

アンタの話し相手くらいにはなってやってるだろ?」


「その言い方だと面倒を押しつけられたかのように聞こえるが?」


「……まあ、アンタのその偏屈に関しては面倒だと思ってるけどな」


ほら見ろ、とファウストと呼ばれた男はパソコンの操作を終えると椅子から立ち上がり、葉王を見るなりポットやカップ麺、インスタントコーヒーの置かれたテーブルへと歩いていく。


テーブルの上はゴミで散乱し、資料や試験管、ビーカーなどが転がっていた。


「コーヒーでも飲むか?」


「遠慮しとく。

アンタの淹れるコーヒーをフラスコで飲まされるのはゴメンだ」


「フラスコも立派な容器だ。

マグカップとやらと変わりない」


そうかよ、と葉王はため息混じりに言うとファウストに一つ尋ねた。


「アンタのとこで管理していたクリスを連れいきたいんだが、どこにいる?」


「クリス……アレか。

アレなら今朝出ていったぞ」


「そうか……って何!?」


コーヒーをフラスコに淹れながら答えたファウストだが、その答えに葉王は驚いて声を出してしまう。


「いやいや、どこに行った!?」


「珍しいな、そんなに慌てて……」


「アンタな……アレは兵器だぞ?」


「仕方ない。

アレはオマエたちの管轄であると同時にあの家の管轄でもある」


「おいおい、あの女が許可したのか?」



そうだ、とファウストは答えるとコーヒーの注がれたフラスコを葉王に渡そうとしたが、葉王はそれを受け取るのを拒んだ。



そして葉王は次なる質問をした。


「クリスと一緒にいたヤツらは?

アレだけでもいいから連れて……」


「そいつらも一緒に行ってるんだけどな」


「……おいおい、笑えねぇよ」


葉王はため息をつくと先程までファウストが座っていた椅子に腰掛け、パソコンのモニターを見ながら愚痴をこぼす。


「アンタの管理甘すぎないか?

パソコンはセキュリティすら緩そうだし、アイツらは連れてかれるし……」


「例の研究所の件であの女も我慢の限界なんだろうな。

でなければこんなことしないだろうしな」


「……まさかわざとなのか?」


その通りだ、とファウストは返事をするとそのまま葉王に向けて話した。


「我々が完成させるべき兵器は一握りほどのデータだけでは足りない。

「ハザード・スピリット」の戦闘データも足りない部分が多い」


「ならクリスといるアイツらは何で完成した?」


「掛け合わせたのだ」


ファウストは葉王の隣からパソコンを操作し、モニターにあるものを表示させる。


表示されたそのデータ、それを見た葉王は興味を示すようにファウストに尋ねた。


「意外な方法、だなぁ」


「足りないから「ハザード・スピリット」は負荷に耐えれずに消滅した。

足りないなら補う、それだけだ」


「けどよぉ……「ハザード」を利用した時点で安定しないんだろぉ?

どうやって安定させた?」


「……葉王、オマエのおかげだ」


ファウストはさらにパソコンを操作し、そしてある戦闘映像を再生させた。


その戦闘映像を見た葉王はオドロキ、この映像についてファウストに問う。


「おい……どこで手に入れた?」


「この戦闘映像……オマエと「覇王」の戦闘映像は有意義に活用させてもらっている。

何せここまで質のいいものは……」


「質問に答えろ……!!」


葉王は立ち上がるなりファウストに掴みかかるが、ファウストは臆することなく葉王を見つめ、葉王の質問に対する回答を述べた。


「カズキから受け取った。

これでいいか?」


「……ああ」

(アイツ……!!)


「それで……なんでこの映像とアイツらの完成が関係してるんだ?」


「オマエが「覇王」の真価を引き出してくれたからだ。

この映像からもわかるほどに「覇王」は急激な成長を遂げた」


「ああ……特別ゆえの力か……」


葉王はヒロムと初めて戦った時を思い出していた。


戦士としての桁外れな成長速度を見せ、自分の嫌いな感情論で底知れぬ強さに達してしまうあの強さ。


今思い出しても恐ろしく思える。


「……気に入らねぇけどなぁ」



***

「なんでオレなんだよ……」


日差し射す暑い中、ヒロムはガイとともにユリナ、エレナ、アキナの買い物に付き合わされていた。


といっても先日のように服だの水着だのではなく、単純な食材の買い出しだ。


要するに、荷物持ちのようなものだ。


ヒロムとガイは野菜やら肉やらの入った買い物袋を両手に持って歩いているが、ヒロムは文句ばかり口にする。


「この暑い中ユリナたちに持たせるのも申し訳ないだろ?」


「今の世の中ネットで揃えられるのにこんな苦労してまで買うべきなのかねぇ……」


ヒロムを納得させようとするガイだが、口を開けばヒロムはまた文句を言う。


「ったく……」


ヒロムがため息をついていると、ユリナがヒロムが両手に持つ買い物袋の一つを持とうと手を伸ばした。


「……どした?」


「あ、あの……代わりに持とうかなって……」


「いいよ、別に。

どうせならガイに持たせようかと思ってるし」


「残念だな、ヒロム。

オレも両手に持ってるんだ」


「どうにかして持てよ」


「いや、オマエが持ってろよ」


他愛もないヒロムとガイの会話を心配そうに見るユリナだが、そんなユリナの姿を微笑ましそうにエレナは見ていた。


「ふふ……」


「何かおかしかった?」


ユリナを見て微笑んでいるエレナが気になったらしく、アキナはエレナに尋ねてみた。


「あ、いえ……ユリナも私やアキナと出会った時には想像出来ないくらいに積極的になってるなって」


「そうね……エレナと二人でヒロムのベッドに忍び込んでたみたいだし」


待って、とエレナはアキナに慌てて確認しようとした。


「なんでそれを……」


「やっぱり。

だから朝変だったのね」


「……え?

もしかして……」


「適当に言ったら当たるとは思わなかったわ」


「あ、あの……」


エレナがアキナに言い当てられたことに驚く中、二人の話が聞こえたユリナはアキナに申し訳なさそうに話しかける。


「その……ごめんなさい」


「いや……気にしてないけど」


アキナに謝っても怒られるとばかり思っていたユリナはアキナの予想外の反応に困惑してしまう。


「お、怒ってないの……?」


「怒らないわよ。

ヒロムが好きだから忍び込んだんでしょ?

問題起こしてないなら何も言わないわよ」


「は、はい……」


「ヒロム相手に一番問題起こしそうなヤツが言っても説得力ねぇな……」


黙って、とアキナはガイにデコピンをするとヒロムの後ろへと回ると、後ろからヒロムを抱きしめる。


「おい……暑苦しい……」


「じゃあお姫様抱っこね」


「荷物あるんだけど」


「じゃあおんぶ」


何でだよ、とヒロムはため息混じりに尋ねるとアキナは少し照れながら答えた。


「……私も甘えたいからよ」


「ああ?」


「とにかくおんぶしてくれないと離れないわ」


「ちっ……面倒だな」


「じゃあこのまま歩く?」


「……ったく」


わかったよ、とヒロムが折れる形で話は済み、アキナはヒロムにおぶさろうと乗りかかる。


「お……オマエ、重い……」


「ちょっと失礼よ!!」


「だ、大丈夫!?」


「無理しないでくださいね……」


心配そうにヒロムとアキナを見るユリナとエレナ。

そんな二人の様子にガイは横から一言言った。


「羨ましいのか?」


「ふぇ!?」


「い、いえ……!!」


「まあ、一晩一緒にいた分くらいは我慢してやれ。

アキナも満足するだろうしな」


「う、うん……」


ガイに言われて納得しながらもアキナを羨ましそうに見るユリナ、そんなユリナをガイは面白そうに見ていた。


「そうだ!!」


するとユリナが何か閃いたらしく、ガイを見るなり歩み寄って一つお願いをした。


「ガイ、ヒロムくんの荷物持ってあげて」


「ユリナさん、オレの両手の荷物を知ってて言ってるのかな?」


「そうすれば私たちヒロムくんと手を繋げるから……」


「そうすればオレの苦労が倍になるだけなんだけど?

というか少しくらい我慢しなさい」


「……ヤダ」


「ヤダ、じゃない。

可愛い言い方しても持ってやらない」


ユリナがじっと見つめる中、その視線に気づきながらもガイは無視するように歩いていく。


「重……」


「だから失礼よ!!」


アキナを背負ったヒロムは荷物を持ちながら少しずつ進んでいるが、何やら揉めている。


「何やかんやで仲いいな、アイツら」


「そうだね。

……羨ましいけど」


「ユリナって結構根に持つタイプなん……」


ユリナに向けて言おうとした言葉。

ガイはそれを最後まで言い終えることなく止めると背後に振り向く。


「……悪いアキナ、ハグなら後から付き合ってやるから降りてくれ」


ヒロムも気づいたらしく、アキナや離れるように告げる。


しかし、何のことか分からないアキナはまた重たいと言われてると勘違いしてしまう。



「な……だから重た……」


「敵が来た」


「え……?」


ヒロムはアキナに降りさせると荷物をアキナに渡し、アキナやユリナ、エレナを守るように三人の前に立つ。


それに続くようにガイはユリナとエレナに荷物を渡すと、霊刀「折神」を構えた。


「……出てこいよ」


「いるのはわかっている」


「…………なるほど」


すると物陰からゆっくりと金髪に薄緑のマントを纏った青年が姿を現す。


「女にチヤホヤされてる馬鹿かと思ったけど、少しはやるみたいだね」


「誰だオマエ?」


「教えてあげるけど忘れるなよ?

……いや、覚えても意味無いか」


「どういう意味だ?」


「だって……」


青年のそばに新たに二人の青年が現れる。


赤い髪にバンダナをした青年と、青い髪で右眼が隠れた青年。


三人の青年の視線はヒロムへと集まっていた。


「オレたちはオマエを殺すために来たんだからな」


「ヒロムを……!?」


「なるほど……「八神」の差し金か」


違うな、と三人の背後からゆっくりと一人の青年がこちらに向かって歩いてくる。


紅い髪を後ろで束ね、茶色のロングコートを纏った青年は首を鳴らすと三人の青年の前に立つ。


「アニキ……!!」


金髪の青年の「アニキ」という言葉、それを聞いたヒロムとガイは後から来たあの青年が目の前の敵のリーダーだとすぐにわかった。


その上でガイは後から来た青年に問い詰める。


「オマエたちは誰の指示でここに現れた?」


「……さぁな。

どうせ知ったところでこれから起こることは変えられない」


「答えろ。

オマエたちが「八神」からの刺客でないなら誰の指示で動いてるんだ?」


「うるせぇ野郎だな、おい。

そんなに知りたきゃオレたちを倒せや」


「……結局そうなるのか」


「ただし……このオレ、栗栖カズマはそう簡単にはやられねぇ」

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