一〇七話 闘後の一時
ソラたちがどこに向かったのかはわからないが、とりあえずヒロムはユリナたちとともにショッピングモール内を歩いていた。
が、ハルカはシオンのところに行くと行ってどこに向かった定かでないシオンを追いかけて行ったので、今はいない。
(アイツがいないだけいいか……)
正直、ヒロムはハルカが苦手だ。
何故か?
そもそも人間性が合わないし、考えも根本から違いすぎる。
今ここにいれば間違いなく口喧嘩になっているはずだ。
そのハルカがいない分、少しは静かなのだが……
「……」
「これどう?」
なぜかリサとエリカ、アキナはヒロムの服を選び、そしてヒロムはそれを着せ替え人形の如く着替えさせられていた。
「こっちの方が似合うわよ」
「それよりこっちじゃない? 」
「いいえ、ヒロムはこの色が似合うの」
リサたちは次から次に服を持ってきてはヒロムに着させようとするが、ヒロムはため息をつくと、三人に告げた。
「あのさ……」
「どうかしたの?」
「いや……服なんて別に……」
「何でもいい、なんて言わないでよね」
アキナはさらに服をヒロムに渡すと、ヒロムの言おうとした言葉について話し始めた。
「ヒロムはジャージがあれば満足で十分に思ってるかもしれないけど、私たちとしてはオシャレしてほしいと思ってるし、そういうことに興味を持ってほしいって思ってるんだからね」
「……たかが布きれに興味を持てと?」
「見た目は大事なのよ?
オシャレすればアナタはもっとカッコよくなるし、そんなアナタを私たちも見たいんだもの」
「オレはそういうことに興味はないんだけどな……」
ヒロムは渡された服を順番に近くの棚に片付けると、店から出ようとする。
が、そんなヒロムの腕をリサとアキナはしっかりと掴み、ヒロムが出ていこうとするのを阻止してしまう。
「ダメだよ?」
「私たち、これでもさっきまで怖い思いしてたんだからね?」
「まさか、その怖い思いした分付き合えって?」
そうよ、とリサとアキナは声を揃え、そして笑顔でヒロムに告げる。
その笑顔を目の当たりにしたヒロムは小さくため息をつくと、何も言わずに店の中へと戻っていく。
「あら、ずいぶん素直ね」
「……巻き込んだのは事実だ。
埋め合わせくらいはする……ことにした」
「なんか今思いついたような言い方だけど……それなら遠慮なく付き合ってもらおうかな」
「そうさせてもらうよ……」
(その方が後々面倒なことにならないだろうからな)
リサとアキナが手を離し、ヒロムはどうにか納得してもらえたと安心したのだが、そこへユリナが心配そうに声をかけてくる。
「ヒロムくん、嫌なら無理しなくていいんだよ?」
「えっ……いや、大丈夫だ」
ユリナの言葉に少し動揺してしまうヒロムだが、問題ないことを伝えるが、ユリナは首を横に振ると、ヒロムに申し訳なさそうに話した。
「ヒロムくん、後で私たちが不満を言うと思って気をつかってくれてるから……」
「また人の考えを……。
たしかに思ってるけどさ」
「じゃあ無理しないでいいんだよ?」
ユリナはヒロムに言うが、ヒロムはため息をつくと、ユリナの頭を撫で、そしてユリナに言った。
「たまにはこういうのもいいと思った、それだけだ」
「それならいいけど……」
ヒロムに頭を撫でられ、恥ずかしくなったユリナは顔を赤くし、照れてしまい、ヒロムかり顔を逸らしてしまう。
するとアキナがユリナに一つ質問をした。
「ねぇ、なんでユリナはヒロムの考えてることが手に取るようにわかるの?」
「え、えっと……雰囲気とか仕草とか表情で……」
ユリナはなぜわかるのか簡単に説明し、それを聞いたアキナはヒロムをじっと見つめる。
「何だよ?」
「……私のことを何よりも愛してる、て思ってる?」
アキナの突然の一言にユリナたちはヒロムを見つめるが、ヒロムは首を横に振ると、アキナの頭を軽く叩いた。
「適当なこと言うな」
「酷……!!
否定しなくてもいいじゃない」
「オマエのそれは考えを読んでるんじゃなくて、自分の願望だろうが」
「ダメかしら?
というか、ヒロムは私たちのことどのくらい好きでいてくれてるの?」
話題を変えるようにヒロムに尋ねるアキナだが、その内容にヒロムは言葉を詰まらせる。
というのも、アキナがヒロムに振った話題はヒロムにとって答えるのが難しいからだ。
そしてアキナの言葉がきっかけで、ユリナたちの視線はすべてヒロムに向けられてしまい、状況的にアキナの質問には答えなければならない空気になっていた。
「えっと……」
ヒロムが少し言葉を発するだけで、ユリナたちはヒロムに対して答えを早く言ってほしいと伝えるような真剣な眼差しで見つめる。
「……急に言われても困る。
時間をくれ」
その視線に押し負けそうになるヒロムは思わず目を逸らし、曖昧な答えを返した。
が、それで納得する彼女たちではない。
「ダメ」
「今言って」
リサとアキナはヒロムに詰め寄り、答えるよう強要するが、ヒロムは後退りして間合いを取ろうとする。
が、間合いを取ったところで答えないといけない空気が消えないのもたしかだ。
「答えなさい」
アキナはじっとヒロムを見つめながら告げるが、ヒロムは頭を掻きながらどう答えるべきか悩んでいた。
(……答えろって言われても無理があるだろ。
今まで何にも気にしないで過ごしてきたからこうして誰に対してとか言われても……。
一人選べばいいのかもしれないけど、そうなったら残りの五人は傷つくのか?
それなら選んだらオレって……)
あの、とエレナはヒロムとアキナの間に割って入ると、ヒロムに向けて伝えた。
「こ、答えにくいのでしたら今はやめておきませんか?
その……ヒロムさんもお時間をいただければお答えいただけるなら……」
「そ、そうだよ」
するとユリナはエレナの言葉に賛同するようにアキナに向けて言った。
「ヒロムくんもさっきの戦いで疲れてるだろうし、私たちが追い詰めちゃダメだよ」
「……二人ともヒロムに優しすぎない?」
「そういうアナタはヒロム様に対して答えを求めすぎですよ」
ユリナとエレナのヒロムに対する対応に少しばかり呆れるアキナだが、そのアキナについてチカは思ったことを告げた。
「ヒロム様に対しての愛も強いですし、少し主張が強いのではありませんか?」
「……ダメ?」
「少し抑えてもいいのではないですか」
「じゃあ、そうする」
チカに言われ、これ以上ヒロムに何か言おうとするのやめたアキナだが、チカは安心してくださいと言ってるかのようにヒロムに微笑んだ。
よかった、と安心するヒロムだが、その安心した瞬間に生まれた隙をつくかのようにリサとエリカがヒロムの腕に抱きついてくる。
「おい……」
「私たちの控えめの愛情表現です」
「リサも私も控えめなのよ?」
「どこがだよ……」
二人の謎のさじ加減にため息をつくしかできないヒロムは助けを求めるようにユリナを見つめ、それに気づいたユリナは首を縦に振るとリサとエリカに離れるように伝える。
「ふ、二人とも離れてあげて。
ヒロムくんが困って……」
「ユリナ、ヒロムくんを抱きしめるとすごく癒されるよ?」
「え……」
リサの一言、それを聞いたユリナは説得を止め、ヒロムを見つめつつ、どうしようか悩み始める。
そのユリナの悩み利用するかのようにエリカはエレナにも聞こえるように伝えた。
「今ユリナとエレナが抱きしめてあげたらヒロムくん、大喜びするよ」
「そ、そうなの……?」
「わ、私もですか……?」
「おい、勝手なこと言うな」
「というか、もう六人で抱きつけば解決よね?」
アキナが一言提案するとユリナとエレナ、リサとエリカはなぜか頷き、そしてヒロムを見つめた。
「いや、ダメだからな!!」
そうですよ、とチカはヒロムの言葉に頷きながら言うと、リサとエリカをヒロムから離れさせ、そしてユリナたちに告げた。
「ここ(ショッピングモール)は人の目がありますからやめましょう。
ヒロム様に迷惑もかかりますから、帰ってからにしませんか?」
「そうそ……ん?」
チカの言葉、それがおかしいとすぐに気づいたヒロムは確認するようにチカに尋ねた。
「チカさん?
何を仰ってるんです?」
「すみません……ですが、ユリナたちが納得するにはこれしかないかと……」
「いや、それで納得するはず……」
わかった、とユリナたちはチカの提案を素直に受け入れてしまう。
思わぬ展開にヒロムは驚くしかなかったが、チカはヒロムに向けて解決しましたよと言わんばかりの笑顔を見せた。
「……強引な方法だな」
チカの行動に少しばかり感心するヒロムはそれ以上の言葉が出ず、とにかく何とか危機を回避したことに安心するしかなかった。
***
ショッピングモールの外。
ソラはガイたちにあることを話していた。
シオンはハルカが来たがために早々に二人で帰っていったため不在だが、今いるメンバーだけで話は進んでいた。
「スパイがいる!?」
ソラの口から出た言葉、それが予想外なことだったがためにガイたちは声を出して驚くしかなった。
「ああ、間違いなくな」
「けどよ……何を根拠に?」
スパイがいる、その結論に至った根拠が何なのか気になったイクトはソラに質問した。
ソラもそれに対して自分の推測を交えて話し始めた。
「考えすぎかもしれないが、ヒロムは以前ここで狼角に、今日は地下駐車場に獅角。
さらに遡ればヒロムとイクトの前に斬角が現れた。
ヒロムの動きが筒抜けだと思わないか?」
「偶然の可能性は?」
真助の質問に対する回答としてソラは首を横に振ると、それについても語る。
「真助は知らないだろうが、オレたちはヒロムの「ハザード」が原因で揉めたんだ。
そしてその「ハザード」について明確に知ったのも斬角戦だ」
「……待てよ。
相手は「十家」、こちらの知らない情報網が……」
「さらに言えば、今日に至るまで、ギルドは現れたか?」
ソラの一言、それによりガイたちはギルドの存在を思い出させられる。
能力者犯罪やテロに対応できる能力者で構成された特殊部隊であるギルドは警察と同じと考えてもいい。
これまでヒロムたちは激しい戦闘を繰り広げてきたが、それでもギルドは現れなかった。
それはなぜか?
ガイはその理由を思い出すと、ソラに確認するように言った。
「シンクが前に言ってた「十家会議」でギルドの動きが封じられてる?」
「ああ、その可能性はあるな。
だが、その情報はオレたちにはない」
「いやいや、ソラ。
大将にもオレらにも、今のシンクにもそれを知ることは……」
一人いるさ、とソラは言うが、そのひと言で何かに気づいたガイとイクトの顔色は一気に悪くなっていく。
それは、考えたくもないことだったからだ。
「待てよ……それってスパイどころか……」
「ああ、オレたちはすでに「十家」の手の中で踊らされ続けていることになる」




