一〇三話 修羅
ガイの登場、それは予想もしていないものだったが、ヒロムにとってはありがたかった。
「助かったぜ、ガイ」
「気にするな……って言いたいんだけど、そこの彼は?」
ガイはノアルを指差しながらヒロムに彼について説明を求めた。
「あ、ああ……コイツは東雲ノアル。
オレたちが探してた例の能力者だ」
「コイツが……」
ガイはノアルの黒く変化した両手を見ると納得し、一言ノアルに伝えた。
「今は味方って認識でいておく」
「今だけでなくても味方なんだけどな」
「悪いな、オレもヒロムと同じで用心深い」
ガイはノアルに言うと、霊刀「折神」をアリスに向けて構え、そしてヒロムに問う。
「作戦はあるか?」
「作戦はまだだ。
けど、考えならある」
ヒロムはそれをガイに伝えようとしたが、ヒロムたちに向かって炎が襲いかかってくる。
「!!」
「危ないな」
ガイが刀を軽く振ると、炎が両断され、消えていく。
ガイの一撃、それを見たアリスは急に拍手し始めた。
「すごいな、「閃剣」のガイ。
太刀筋を見切るので精一杯だったよ」
「へぇ……見えてるってことは自慢したいらしいな」
「ガイ、耳貸せ」
ヒロムはガイのそばへと歩み寄ると、ガイにのみ聞こえるように説明し始めた。
ヒロムの説明を受け、ガイはなるほどと納得した様子で頷く。
「なるほど……知識があれば何でも再現できる能力、か」
「ああ、それ故に攻略法を思いついた」
「それが今言った話か……」
「オレはどうすればいい?」
ヒロムとガイの話に入ってくるようにノアルが話しかけ、それに反応するようにヒロムはノアルに一つだけ頼み事をした。
「オマエの一撃は双座アリスに高い効果がある。
突破口を開くために先陣を切ってほしい」
「そうか、わかった」
ヒロムの言葉に承諾の返事をしたノアルはアリスを睨みながら構えた。
さらにガイは「折神」に魔力を纏わせると刀を天に突きつける。
「さて……見せてやるか」
「?」
「蒼天抜刀!!」
ガイの刀の魔力が大きくなると蒼い炎となり、ガイの全身を飲み込んでいく。
蒼い炎は次々にガイの体と同化していき、ガイの全身に武装を施すように形を得ていく。
蒼い胸当て、蒼い手甲、脚部の装甲、鬼を思わせる両肩のアーマーには鬼の歯のようなパーツが左右に三つずつ付いており、背中には蒼い刀身の刀が四本、翼のように装備されていた。
「……修羅・絶天!!」
ガイは右手に持つ「折神」に蒼い炎を纏わせるとアリスに向けて殺気を放つ。
その殺気を感じ取ったアリスは、ガイを警戒するように全身に風や雷を纏わせ、構え始めた。
「少しは楽しめそうな装備だな」
「楽しむ余裕があればいいな」
ガイは背中の四本の刀を大きく広げると、刀から蒼い炎を放出し、蒼い翼をつくると飛翔する。
そして飛翔したガイはヒロムに一つだけ頼み事をした。
「ヒロム、悪いけどフレイたちを下がらせてくれ」
「ああ?」
「この姿は高出力を出せるが、如何せん一撃が激しくなるから巻き込みかねない。
オマエとそこの「魔人」なら避けれるかもだが、万が一もある……いいか?」
「……わかったよ。
けど、ユリナたちの守りは固めさせてもらう」
ヒロムが指を鳴らすと、フレイたちは話を聞いていたらしく、何も言わずに光となって消えていく。
これによりアリスの前に立つのはヒロム、ガイ、ノアル。
そして後方で見守るユリナたちとそれを守るようにクロナとセツナ、アルカが立っていた。
ヒロムたちの判断によるこの行動、それを目の当たりにしたアリスはただ呆れるかのようにため息をつき、そしてすべてを否定するように言い放つ。
「どんな手を投じてもオレには通じない。
まだ理解していないのか……さすがは「無能」、無意味なことを次から次に思いつくものだな」
「無意味かどうかは試してみないとわかんないぜ?」
それに、とヒロムの言葉に続くようにノアルはアリスにあることを指摘するように告げる。
「いつまでも強がるのはやめたほうがいいぞ。
その強がりは逆にオマエを弱く見せるだけだ」
「……黙れ!!」
ノアルの言葉に、怒りを抑えれないアリスは次々に雷や風、炎を放ち、ヒロムたちに襲いかかる。
ヒロム、ノアル、ガイはアリスの攻撃を難なく避けるのだが、ふとヒロムが背後を見ると、ヒロムたちの避けた攻撃が一つになると、混沌の闇を思わせるような黒い魔力の槍へと変化し、ユリナたちに向かっていたのだ。
「しま……」
「オレに任せろ!!」
焦るヒロムを安心させるようにガイが言うと、肩のアーマーの左右に三枚ずつ付いたパーツが分離し、勢いよくユリナたちの前で円を描くような動きを初める。
蒼い炎を纏うと、描いた円が浮かび上がり、さらにそれが蒼い炎となり、巨大な盾へと変化していく。
「!!」
「修羅盾天!!」
盾となった蒼い炎は迫り来る槍を受け止めると破壊し、代わりに蒼い炎を次々にアリスに向けて放ち始める。
「コイツ……!!」
「悪いがオレも無駄に強くなったわけじゃない。
ヒロムのやりたいことのために障害を排除し、ヒロムの守ると決めたものをともに守れるようにオレはその強さを手にしたんだ!!」
ガイはアリスに一気に迫ると刀で斬りかかるが、アリスは氷の塊を出現させるとそれを盾に形成し直し、ガイの一撃を止めようとする。
が、ガイの刀は霊刀「折神」。
その「折神」の霊刀としての力は魔力を与えられればあらゆるものを斬るというもの。
つまり、
「はっ!!」
ガイの刀は氷の盾を簡単に両断し、さらなる一閃を放とうと振り上げる。
「ナメるなよ、ガキが!!」
ガイが刀を振り下ろす瞬間、アリスは右手に蒼い炎を纏わせ、刀を受け止めてしまう。
「この力……「修羅」も再現できるってか」
「言っておくが、オマエらのデータはすべてオレたちが持っている。
つまり再現できないことは……」
「ならそのデータにない力を使うだけだ!!」
ガイが言うと、背中の四本の刀がガイから切り離され、柄の部分が現れるとともに蒼い炎を纏い、意思を持つように飛翔し始めたのだ。
「これは……!!」
「修羅刃翼!!」
四本の刀は次々にアリスに襲いかかり、アリスに回避されても旋回してすぐにまた襲いかかっていく。
「くっ……」
「ヒロム!!」
「おうよ!!」
ガイの合図とともにヒロムはハンマーを振り上げ、勢いよく地面を叩く。
するとアリスの周囲に無数の黒い球体が現れ、アリスに襲いかかり、それの直撃を受けたアリスは傷を負ってはいなかったが、何かに圧力をかけられているかのように動きが鈍くなっていく。
「また……重力か!?」
「そう、ユリアの重力操作だ。
そしてこれがロゼの能力……」
ヒロムがハンマーを振ると、無数の白い雷がアリスに降り注ぎ、彼を追い詰めていく。
「聖光なる雷撃……裁きの力だ!!」
アリスは重力操作により動きが鈍る中で何とか回避し続けるが、そんなアリスにガイとノアルが迫っていた。
「隙だらけだな」
「だが油断はできない」
ガイの刀の一閃、ノアルの黒い手に備えし爪で切り裂こうと襲いかかるが、その瞬間、アリスは霧となって消えてしまう。
「「!!」」
ガイの刀とノアルの爪がぶつかり、衝撃を生むが、二人は距離を取るとアリスを探した。
ノアルはガイの刀の一撃を受けてしまったが、「魔人」の力があるからなのだろうか、一切のダメージを受けていなかった。
「いい太刀筋だな」
「感心するヒマあるなら探せよ」
「オレがやる」
ガイとノアルのもとへと一瞬で移動したヒロムはハンマーを地面に叩きつける。
するとヒロムたちの周囲に黒い球体がいくつも現れ、それらが何かを引き寄せようと回転を始める。
「グラビティ・バインド!!」
ヒロムが指を鳴らすと球体はさらに回転し、何かを引き寄せ始める。
が、それは一つだけではなかった。
引き寄せられるそれを見たガイとノアルは驚くしかなかった。
「おいおい……!!」
「まだつくれたのか……」
ヒロムが作り出した球体が引き寄せたもの、それは先ほどガイが破壊したものと同じような形をした人形だ。
その人形は十体以上はあり、次々に球体に向かって引き寄せられていく。
「とにかく破壊するぞ!!」
ガイとノアルは引き寄せた人形を容赦なく次から次に破壊していくのだが、それでも人形は次々に引き寄せられてくる。
「コイツら……キリがねぇ!!」
「さすがにオマエの「修羅」でも厳しいか……」
「「ではおまかせを」」
すると何か二つの光の軌跡が二人の視界を横切り、そして次々に人形を破壊していく。
「あれは……」
人形を破壊していく二つの正体、それはユリナたちの守りを担当していたはずのクロナとセツナだった。
立ち止まることなく目にも止まらぬ速さで破壊を続ける二人の姿は圧倒的だった。
がそれでもアリスは姿を現さない。
どこに行ったのか?
ガイとノアル、クロナとセツナが人形を破壊しながら探す中、ヒロムはハンマーから手を離し、地面に置くと目を閉じた。
「ヒロム!?」
突然の行動に困惑を隠せないガイ。
だが、ヒロムもこの状況下で何の考えもなく無謀なことはしない。
「……」
「……隙だらけだな!!」
するとアリスがヒロムの頭上に現れ、巨大な魔力の剣でヒロムの首を切り落とそうとした。
が、ヒロムはそれを目を閉じたまま避け、さらにそのまま魔力の剣を素手で破壊してしまう。
「な……」
「助かったぜ……アリスちゃん」
「オマエ……その呼び方をするな!!」
アリスはヒロムに殴りかかるが、ヒロムはそれを回し蹴りで弾き返し、さらに回転して蹴りを食らわせて吹き飛ばさせると、ユリアとロゼとのクロス・リンクを解除してしまう。
それにより重力の球体は消え、吸い寄せられていた人形たちは動きが止まる。
「何を……」
「これで最後だ……クロス・リンク!!
「迅翔」クロナ!!「修羅」セツナ!!」
ヒロムが叫ぶとともにセツナは蒼い炎、クロナは黒い雷へと変化していき、ヒロムが両手を広げて手をかざすと炎と雷はヒロムの周囲を駆け回る。
「我が魂、修羅となり狂人となりて斬り倒す!!」
炎と雷がヒロムと一体化すると、周囲に無数の衝撃波が生じ、アリスはそれに襲われてしまう。
「がっ……」
「クロス・リンク……完了!!
「修羅迅刀」!!」
姿を現したヒロムは白い羽織りを纏い、角を施されし肩当て、首には黒いマフラーとピンク色のマフラーを二つとも首に巻き、背中には二本の刀を携えていた。
「いくぞ!!」
ヒロムは二本の刀を抜刀すると、一瞬でアリスに接近し、刀を振り下ろして襲いかかるが、アリスはそらを蒼い炎で防いでしまう。
「その程度で倒れるオレじゃない!!」
「いいや、これでオマエの弱点はわかった!!」
「何?」
ヒロムはアリスに蹴りを入れるとそのまま蹴り上げ、二本の刀を一つにするように重ねる。
「クロス・ウェポン」
すると二つの刀が一つになり、新たな姿・大太刀へと姿を変えたのだ。
「ガイ、アレやるか?」
「やってみるか」
ヒロムはガイに提案すると魔力を足に纏わせて高く跳び、ガイも蒼い炎の翼を用いて飛翔する。
二人は一気にアリスとの距離を詰めると、さらに加速してアリスの頭上へと飛んでいく。
そしてヒロムは大太刀に炎と雷、ガイは刀に蒼い炎を纏わせると構え、斬撃を放とうとする。
「覇王・閃剣……」
「合体奥義!!」
「「双天絶翔斬!!」」
二人の放った斬撃は十字の形をつくりながらアリスに向かい、そしてアリスに衝突する瞬間に炸裂して、無数の斬撃となってアリスを襲う。
「あああ!!」
アリスは斬撃を次々にその身に受け、地面に叩きつけられるように落下し、倒れてしまう。
ヒロムとガイは着地すると鞘に刀を納め、アリスの動きに警戒した。
「こんなはずは……」
アリスはどうにかして立とうとするが、ダメージが大きかったのか、中々立てないでいた。
「抵抗するな。
オマエはもう終わりだ」
「まだだ、まだ……」
「情けないなぁ」
するとアリスの前に一人の男が現れる。
その男はアリスにとっては援軍であり、ヒロムにとってはただただ危機感を思い出させるだけの相手だ。
「何をしに来た……!!」
「おいおい、助けに来たんだぜぇ〜、アリスちゃん」
呑気にアリスに話しかける男にヒロムは刀を抜刀し、敵意を向ける。
その敵意に気づいた男はため息混じりに告げる。
「少しは強くなったみたいだな、姫神ヒロム」
「……鬼桜葉王!!」




