ファースト・コンタクト
「誰だ」
凛とした声が、張りつめた空気を震わせた。
ゆっくり手を上げながら、京介は状況を確認する。
今の声は京介の頭に銃を突き付けている女性。
まだ若い。京介とそれほど年も違わないだろう。
肝心の前橋統也はと言うと、部屋の窓から外を見ているようで、顔は確認できない。
それでもこの歓迎のされ方からして前橋統也に間違いないだろうと確信して、ひとまず安堵する。これで人違いだったらお笑い者だ。
次いで視線だけを動かし、横にいるはずの貴斗の様子を確認する。
貴斗も京介と同じ様に黒服の男に銃を突き付けられており表情にも多少の困惑の色が見えたが、それでも解放軍に志願しにきた自分たちが殺されるわけがないとタカをくくっているのだろう。必要以上に怯えたりしてはいなかった。
それどころか未だ背を向け続ける前橋に声をかける始末だ。
「あの、前橋さん! 俺たち、解放軍に入りたいんです! 今日はそのお願いに来ただけなんで、この物騒な物をどかしてもらえませんか?」
この状況でそんな事をいけしゃあしゃあと言ってのける貴斗の度胸にある意味感服し、それ以上におかしさすら感じる。
それは前橋統也も同じだったらしく、肩を震わせてクック、と忍び笑いをしている。
「統也、また尾けられたのね! 警戒は常に怠らないでって言ってるでしょう!?」
京介に銃を突き付けている女性が怒った様に言い、悪かったよ、と肩を竦めた前橋がゆっくりと振り返った。
「君たち、名前は?」
前橋の質問に貴斗が喜々として答えた。
「俺、二宮貴斗です! こっちは四条京介」
自分の自己紹介くらい自分でさせろ、と思ったが口には出さない。
「ふむ」
スッ、と細くなった前橋の目が発言した貴斗から京介に移る。
すべてを見透かしているような前橋の視線に、思わず京介は目をそらした。
「ちょっと統也、まさかこいつらを入れる気じゃないでしょうね?」
京介の横から批難めいた言葉が例の凛とした声で室内に響いた。
そのおかげで京介は前橋の視線から解放され、偶然にも助け舟となる言葉を発した脇の女性に目を向ける。
「……ま、彼らを入れるかどうかはともかく、優秀な人材は少しでも欲しい所だけどね。親父たちの半分にも満たない今の人数で反乱を起こしたところで、二の舞になるのは目に見えてる。今日だってその件でわざわざ学長に時間を取って頂いたんだ。俺が欲しいと思える人材なら、別に構わないじゃないか」
「でも後を尾けてくるなんて怪しすぎます。政府のスパイが苦し紛れにあんな事を言っただけかも……」
今度は落ち付いた雰囲気の声が、貴斗の脇に立つ黒服の影から聞こえた。
視線を向けると、黒服が邪魔で京介の死角になっていた場所にいたらしい、少し吊りがちな目が印象的な女性が二人を値踏みするかのように見つめていた。
「いや、それはないと思うよ。少なくとも彼に関しては」
そう言って前橋は京介に歩み寄り、ポンと肩に手を置いた。
「俺は過去に数回、彼に会った事がある。それに彼が解放軍に入ってくれれば少なからず士気は上がるだろうね」
「それはどう言う……」
困惑顔の女性二人を悪戯に成功した子供の様な表情で交互に見、前橋は続けた。
「彼は紫雲さんの……紫雲雅人さんの息子だよ。そうだろ、キョウ?」
室内の視線が一斉に自分に集まるのを感じて、京介はただ苦笑いをするしかなかった。