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始まりの音

「おーい、京介!」


背後から迫る駆け音と同時に、自分の名が呼ばれたのを聞いて、四条京介はうしろを振り返った。


息を切らせて走ってくる人物は、二宮貴斗。


この四月になって出会った新たな友人、のはずなのだが、出会ってすぐにこの二人は意気投合し、まさに竹馬の友といったような雰囲気を漂わせている。


そう、この春。西暦2033年4月、四条京介は無事に第一志望の大学に合格し、大学生となっていた。


「なんだ貴斗か。そんなに慌ててどうしたんだよ? あの糞みたいにダルい洗脳思想の講義でも休講になったか?」


洗脳思想の講義、とは俗に言う日本史である。


捏造された歴史を教授が当たり障りなく淡々と語るだけのくだらない内容なのだが、教授も間違った歴史を学生に教えるのが忍びないらしく、講義に出るだけで単位をもらえるという事で中々の人気を誇っている科目だ。


「いや、そんなん知らん。そうだと嬉しいけどな……。って違うんだって! あのな!」


と言葉を区切ってあたりをキョロキョロと見まわし、誰も聞き耳を立てていないのを確認すると、声を低くして京介に耳打ちする。


「さっきな、学長室にある人が入っていくのを見たんだ。誰だと思う?」


「さぁな」


わかるわけないだろ、と言いたげな京介の返事も気にせず、貴斗は胸を撫で下ろした。


「良かった……。京介の耳の早さは異常だからな。もう知ってたらどうしようかと思った」


「いいから教えろよ」


と京介が促すと、ああそうだった、と再び周囲を窺う様子を見せながら貴斗が言った。


放っておくとすぐに話がずれるのは貴斗の悪い癖だ。


「なんとだな、前橋統也だ! サングラスと帽子で顔を隠してたが間違いねぇ! あれは解放軍の前橋だった!」


飛び出した名前に面食らいながらも、冷静に周りの人が聞き耳うぃ立てていなかったか確認する。


「そんくらいで一々騒ぐな、ガキくせぇ」


はしゃぐ貴斗を子供と馬鹿にしながらも、自分の心拍数が上がったのを自覚せずにはいられない。足は自然と学長室のある校舎へと向いていた。


「何言ってんだよ。俺もお前も同じ考えでこの大学に入ったんじゃないのッ! やっぱ俺たちの考えは正しかったわけだ」


貴斗の言う、この大学を選んだ理由。


それはすなわち、先の反乱の首謀者である前橋健吾、紫雲雅人、前橋薫、そして解放軍のリーダー前橋統也が全員この大学に在籍していたという事実。


解放軍に参加する事を夢見て、しかしテロ組織のリーダーとして国際指名手配されている前橋統也と接触する事は簡単ではない事も知って、それでも何とかして解放軍へ入るための糸口を掴もうと入ったのがこの大学だった。


「でも入学早々、あの前橋統也に会えるなんてな! こんなに上手くいくとは思わなかったぜ!」


興奮を隠しきれない貴斗の相手はせず、京介は統也に会う方法を考えていた。


目的の校舎には着いたが、この校舎には講義室はない。


教務課の置かれる入口付近ならともかく、校舎の奥を一学生である京介たちが歩きまわるのははばかられる。


どうしたものかと考えているうちに、ある疑問が浮かび上がった。


「おい貴斗、お前なんで学長室の前になんて行ってたんだ?」


京介の質問に貴斗はニヤリと歯を見せて笑った。


「帽子とグラサンで変装してる男なんかいたら後をつけたくなるのが男の性ってもんだろ」


呆れて一瞬言葉に詰まる。


「お前……長生きしないな……」


そんな京介を尻目に、貴斗は京介の腕を掴んで走り出した。


「ま、いーから! 早く行こうぜ学長室!」


その言葉にギョッとする。


「お前、まさか学長室に飛び込むつもりか?」


「当たり前ッ!」


「バカ! やめろ!」


京介が止める間もなく、貴斗は失礼しまーすと学長室に飛び込んだ。


もちろん、京介の腕を掴んだまま。


次の瞬間、撃鉄を引く音とこめかみに当たる冷たい鉄の感触に京介は背筋が凍るのを感じた。

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