一線越えちゃった!?偽装結婚で資金稼ぎ!?
本作は敬愛する松山せいじ先生の「鉄娘な3姉妹」「ゆりてつ」に触発されて著した女の子だけの鉄道旅行モノです。
第一話のテーマはズバリ「鉄道と金」
鉄道旅行と言えば資金繰りですが、本作はその鉄道旅行に必要なお金というテーマをシリアスにダークに取り上げました。
鉄道モノなのに鉄分は少なめですが、本作をきっかけに鉄道と金について考えてほしいと思います。
「ええー!?部費が足りない!?」
大宮大成高校鉄道部部室。
舎利弗南が部費の明細を見て驚愕する。
「しかも1年分」
「前回派手にやっちゃったからね〜」
「4人でJR東日本管内の、しかも特急料金だけ別にかかるとなるとそれだけはいっちゃうよね」
左衛門三郎絹・文珠四郎楓・勅使河原絵未の3人はそれを聞いてため息が出ている。
「飲食代だって4人で結構したんだし…」
「ちよっ…私のせいだっていうの?」
「おかげで1年間活動できなくなっちゃうんだから!」
「ちよっと、やめてー!」
絵未と絹の諍いに南が仲裁する。
「ともかく、こうなったら部費に頼らないで私たち独自に部費、即ち旅費を調達するしかないわ!」
楓がここぞとばかりに動き出す。
「それは即ち?」
「ジャジャジヤッジャジャ〜ン!アルバイト〜!」
「アルバイト〜?」
楓が求人誌を取り出す。
「それもほら!見てみて!」
楓が求人欄を3人に見せる。
―とても簡単なお仕事!必要なのは印鑑を持ってくるだけ!珍しい名字の方歓迎!
「珍しい名字って私たちの事じゃん?文珠四郎に左衛門三郎、勅使河原、舎利弗!」
「まぁ…そりゃそうだけど…」
「怪しくない?この求人票から怪しさぷんぷんなオーラがするんだけど…」
「部活動の危機よ!背に腹は代えられない!贅沢は言えない!いざ、面接の申し込み!」
楓が携帯電話から求人票の番号に電話をかける。
―ピポパ
―トゥルルルルトゥルルルル
「もしもし、求人誌RJを見たんですけど…」
「いいの?学校に黙ってアルバイトなんて?」
「うちは黙認してるしいいんじゃない?」
電話をかけている裏で3人がひそひそ話を始める。
「―はい、わかりました、よろしくお願いします!では失礼します!」
―ピッ
「面接いいって!」
「おお!」
「それでなんだけど履歴書の他に親の印鑑持ってきてだって!仕事に使うからって」
「親の印鑑?」
「ますます怪しくない?」
「もう面接申し込んじゃったし後には引けないよ〜」
(親の印鑑かぁ〜どうも胡散臭いなあ〜でも部活動存続の危機!ここは何とか乗り越えないと!)
―ググッ
「協力するよ!行こう!みんなで!」
「あ、おう…」
「それでどこなの?」
「都内渋谷の…」
南が腹を括ったかのように求人票を見つめ、こぶしを握り、みんなの意見をまとめ上げる。
―翌日
学校のあと、親の印鑑を手にした4人は大宮から湘南新宿ラインで一路渋谷に向かった。
15:57発
平塚行き(籠原始発)
2851Y
E233系(15両)
「Fライナーだったらもっと早いのにな〜」
「大宮からは選べないんだからしょうがないでしょ」
絹が地元を走る東武東上線?地下鉄副都心線?東急東横線を直通するFライナーの話題を持ち出す。
渋谷
16:35着
渋谷駅の迷路のような複雑な構内をかき分け、地上に出て求人票の地図に記された目印のあるビルの前にたどり着いた。
「ハハ…なんだか、ビルからも怪しさプンプンだね…」
「でもここで間違いないんでしょ?」
「うん、“国鉄金融”って看板でてるね」
渋谷の小ビル。喫茶店とテレクラの中間の階に国鉄金融はあった。
4人はそのビルに恐る恐る入っていく。
国鉄金融の扉の向こうからは男の怒りの声が響き渡る。
「田母神さん、居ますか?居ますー!?今日の3時まで入金お願いしますよーっ!!」
「うわっ!やっぱ怖いよ…」
南がビビる。
「後には引けないって、さぁ!」
楓が先頭を切ってドアをノックする。
―コンコン
「失礼します、本日面接の予定を入れておりました文珠四朗楓と左衛門三郎絹、勅使河原絵未、舎利弗南ただいま参りました!」
「おう!入ってくれ!」
ドアの向こうから別の男の声が出てくる。
4人は恐る恐るドアを開けて中に入ると、眼鏡に4つのピアス、蓄えたあごひげに鋭い目つき、縦長に厳つい顔つきといかにもアウトローらしい風貌の男がソファーに座って待機していた。
「よろしくお願いします」
(うっ!!うぐっ!!)
4人は心の中でその男の風貌を見て怖気づく。
「おう、座れ!」
4人はとりあえず一礼してソファーに座る。
「これからの面接、こちらも本当のことを言うからお前らも本当のことを話せよな。嘘はすぐバレルからね」
「はっ、はいっ!!」
鋭い目つきで男は4人の顔を見る。
「それじゃあ電話で言っていた履歴書と印鑑出して」
「はい!」
4人は持参した履歴書と印鑑を机の上に出す。
「まずはこれを見てくれ」
―バッ
男は男性鉄道員の写真を数枚出して4人に見せる。
「JRグループの駅員に保線員、東武の運転士に小田急の車掌、京成の作業員…俺はこいつらにトゴ(10日で5割)で金を貸していたが、回収が困難になってきた。そこで今回お前らに頼む仕事ってェのはズバリ、こいつらをお前らの籍に入れてもらう!」
「!?」
「籍を入れるってまさか…!?」
「そう、結婚は結婚だが、こいつらの名字を変えるための結婚、偽装結婚だな」
「偽装…結婚…?」
「こいつらがお前らと婚姻する際に、こいつらの方がお前らの方の名字に変更する。まァ入り婿だな」
(それって犯罪なんじゃ…)
4人はまさかの仕事内容に唖然とした。
「ククク…驚いてるな…さらに説明するとお前らは言うまでもなく未成年。親の同意が必要不可欠だ。そこでお前らに親の印鑑を持ってこさせた。俺がその印鑑を使ってお前らの親になりすまして婚姻届に印を押して署名もする。そうすりゃこいつらは皆、マッサラの鉄道マンだ。カードの1枚や2枚作るのも屁じゃねぇ」
「!?」
「そんなことでその鉄道マン達の借金を回収できるんですか!?」
「「回収できるんですか?」じゃねェ、回収すンだよ!」
「!?」
男の眼光が光る。
「俺たち闇金の客はよ、銀行はもちろん消費者金融からも見放されたブラックリストな鉄道マン・鉄ヲタどもだ。人並み以下のクセにあれ乗りたいこれ乗りたい、あっち行きたいこっち行きたい、鉄道関連の仕事に携わりたいなんてワガママぬかす身の程知らずのクズどもに終止符を打つのが、俺たち闇金の仕事だ…!」
「……」
「ちょっと、さっきからおかしいですよ!!鉄道マンや鉄ヲタ達を身の程知らずのクズだなんて言い放って!!求人票に書いてあるコトと全然違う!!こんなの詐欺、犯罪じゃないですか!!」
絵未が堪り兼ねて立ち上がり男に怒声を飛ばした。
「おい!」
ビクー
男が眼光を絵未に飛ばすと絵未は一転して怖気づいた。
「自分の立場わかってる?」
「立場って…」
「金を稼ぎてェから求人票を見てウチに来たんだろ?本当はわかってるはずだ、世の中金だ。金が全てなンだと」
「そんな…!」
「おい!」
またも男は絵未に眼光を飛ばして会話を遮る。
「鉄道に乗るには何が無けりゃ乗れねェんだ?」
「そりゃあ…乗車券に特急券と…」
「突き詰めれば?それを手にするには?」
「運賃に料金、即ちお金?」
「そうだ。よく言えたな」
絵未はいい心地をしていなかった。
「世の中金が全ては極端じゃねェ!金が無けりゃ電車に乗れねェ、特急や新幹線にも乗れねェ、行きたいところに行けねェ…金の無い奴は鈍行列車にすら乗る事ができねェんだ。歩くしかねェんだよ!」
(なんていう暴論だ…暴論だ…暴論だ…暴論だ…暴論だ…!)
4人は心の中で呆れ返った。
「お前ら電車に乗りたいから金を稼ぎに来たんだろ?その為にちょっとテメーの手を汚すくれーでオロオロすンじゃねェ!!」
(なっ…!)
「なら聞くけどよォ…お前らに罪悪感があるなら何故日常では感じない?」
「はい?」
「それはどういう意味ですか?」
とが聞き返す。
「動物を殺す罪悪感も無く駅弁を食い、自然を壊す罪悪感も無く線路を敷きまくる、今の生活は負担を感じない様にできているから人間が鈍感になる。つまり普段は鈍感でいていざここぞという時に罪悪感が出る。罪悪感を感じるなら鉄道やめればいい話だし、乗りたいなら罪悪感を吹っ切るしかねェんだ!お前らはどうしたいんだ?」
男が選択を迫る。
(うう、暴論だ…暴論だ…暴論だ…暴論だ…!)
(でもお金が必要なのは確か。その為に犯罪に手を染めるなんて…)
4人の心の中が大いに揺れる。
「俺は別にいいんだぜ。このまま他所当たるのも罪悪感に負けちまうくらいならそうしたら?」
男がハッパをかける。
「や、やります…!」
楓が言いかけるも、南が止めに入る。
「待って!私たちにふさわしい本当のチャンスが来るから!あと少しで来るから!必ず来るから待つんだ!その時まで…!」
「フフフ…ふざけたことを……来ねェよ!そんなもん…!」
男は南の制止を振りほどいた。
「無責任に、何の確証もなくよく言うぜ。なんだ?その“待つ”ってェのは?」
男が続ける。
「一体“何”を“いつまで”待つつもりだ?平凡な学生生活といえば聞こえはいいが、半ば眠ったような意識で欝々と“待つ”?冗談だろ?」
「……」
「そういうのを無為っていうンだよ!そんなことをしても、乗りたい列車がゆっくり小刻みに消えていくだけの話だろ……」
(うう…その通りだ…その通りなんだけど…)
―パシッ
楓が南の腕をとる。
「南、この腕は何のためについているの?」
「え?」
「リスクを恐れて動かないなんて言うのは、大人の休日倶楽部に入るべき年寄りたちのすることだよ!年老いた者にとってその手は、これまでの長旅で得た“何か”を守る手、つまり放さないための手よ…だけど…持たざる者、若者がそれじゃあ話にならない!若者は…掴みに行かなきゃだめだっ!」
―バン
楓が親の実印を男に差し出す。
「ちょ…楓…!?」
「でなきゃ道は開かれないっ…!」
「この印鑑が、私達を開放し、未来へ導く……見逃す気なの?この“救い”を……」
「くっ……!」
(救いだって?)
「南、絹、何を躊躇してんの!?」
「掴もう!組んだ腕をほどき、共に掴もうっ…!!」
「迷うことはない!その印鑑と履歴書は私たちの未来そのものなのだから!」
(う、ううっ…もう腹を括るしかないっ)
ーバン
「これ、親の印鑑です!」
「お金の為に協力します!!」
4人の心は金に傾いた。
男に履歴書と親の印鑑を差し出す。
(結局金か…)
「よし!この婚姻届の「妻になる人」の氏名、住所、本籍、両親の名前を記入して、「婚姻後の夫婦の新しい氏」の「妻の氏」にレ点をして、「届出人」の欄に署名押印しろ!その他の欄は俺と債務者どもが書く」
「はい!」
4人は男が差し出した婚姻届に、個人情報を記入し、4人の姓に債務者の姓を変えるのが目的なので「妻の氏」にレ点をし、届出人の欄に署名し、拇印を押した。
「これでよし!お金はこの婚姻届が受理されたら渡してやる」
(ついに犯罪に手を染めてしまった…16年間真っ当に生きてきて…)
(これでおしまいだ…)
(ついにやっちまったなぁ〜)
4人は心の中で良心の呵責に喘いだ。
(フフフ…)
男が薄ら笑みを浮かべる。
「ついでにいい機会だから教えてやる。お前らの毎日って今ゴミって感じだろ?」
「はい?」
「結局金だ!金のある所に切符や特急券が集まる!金のねェ奴はとことん搾り取られ、尊厳まで奪われる」
「そりゃあ……まぁ…」
「だろ?それはな、金を掴んでねェからだ!」
「か…金…?」
(また金〜?)
もはや呆れ気味に南が聞き返す。
「そうだ!金を掴んでねェから毎日がイキイキじゃねェんだよ!頭に靄がかかってンだ!上野東京ラインと横須賀線・総武快速線のグリーン車は“出してもいいような追加料金”の金額にしてあるからみんなこぞって乗りたがるンだぜ。あれが1駅で830円も取るような新幹線だったら誰もわざわざ1駅2駅乗ろうとはしねェ!今のお前らがそうだ!」
「!!」
―プツン
4人の中で何かが吹っ切れた。
「支払いたくても支払えない金額の追加料金にうんざりしているンだ!毎日新幹線を見はするだろうが、文字通り高架の上だ!自分には届かない…その乗れないストレスが、お前らから覇気を吸い取る。真っ直ぐな気持ちを殺してく!」
(うう…胸が痛いよ…)
「真っ直ぐ自分の経験にしようと考えられねェ…ハナっからあきらめてあげく…ラストランにすら間に合わない」
「……」
「この仕事はそんなお前らの負け癖を一掃するいいチャンスだ…人生を変えろっ…!」
「!!」
「よろしくお願いします!!」
4人は男に深々と頭を下げた。
4人は国鉄金融の入っていたビルを後にする。
「あの男の言うこと当たってる…」
「でしょ?」
「私は確かに…なんていうか…すっごい煮詰まっていて……」
(あの男の言うことに感心してりゃあ世話ない…しかし…)
男が窓から帰宅する4人の様子を窓から見る。
「フフフ…ああいう頭のゆだった奴ばかりだと大助かりだが、最近のガキは慎重だからな、難儀したぜ。ククク、俺が“いい人”なわけがねェじゃねェか…!話にならねェ甘ったれ…鉄がああいう単純な人間であればあるほど、いのいちに餌食、食い物!」
「で、この後あいつらの親の印鑑使ってどう婚姻届出すんですか?」
事務所にいたもう一人の男が聞いてくる。
「まずあいつらの履歴書に書いてある親の情報と印鑑から俺があいつらの親になりすまして、債務者と彼女たちの婚姻届の「その他」の欄に、例えば“舎利弗南の婚姻に同意します 妻の父親 舎利弗尊 印 妻の母親 舎利弗昌子 印”と書く。これで未成年者の場合の保護者の同意は得られたことになる。続けて債務者が残る「夫になる人」の欄に記入して署名、捺印。証人には他の債務者になってもらう」
「なるほど」
「さらには婚姻届が受理されたと同時に転居届も出して債務者の名字も住所も電話番号も変える。さらにはそうしてできた生まれ変わった債務者の新しい住民票を手に顔写真、印鑑、現金で運転免許の試験を受けさせる。原チャリなら一日で簡単に試験合格できるから、真新しい番号に生まれ変わった名前での運転免許証が即日交付される」
「なんだかすごいですね…」
「だから言ったろ?回収すンだよ!回収するためにはどんな手段だってとるさ…」
「……」
―数日後
国鉄金融から再び連絡をもらった4人は再度湘南新宿ラインで渋谷を目指す。
先日と同じ列車で。
大宮
15:57発
平塚行き(籠原始発)
2851Y
E233系(15両)
渋谷
16:35着
「失礼します」
国鉄金融のオフィスに通され、ソファーに通された4人。
「まぁ座れ。聞いてくれ。この前の婚姻届は確実に受理された。よってあの鉄道マンらは真っ白な鉄道マンとなった!」
「真っ白?」
「金融ブラックリストの対義語、金融ホワイトのことだよ。まぁ要するに新たに借金できるようになった、というわけだ」
(そんな!それじゃあ私たち新たな借金の片棒を担がされたことになったんじゃ?)
南がホワイトの意味を聞いてびっくりする。
「それじゃあ約束のバイト代だ、受け取れ!」
―ドン
男が机の上に大量の札束を用意した。
「うっうぉっ!?」
「全部で80万円、一人頭20万円が報酬だから4人分な」
「は、80万円っ…!?」
「ううっ…」
(1人20万円…私が…私がどれだけ働けば…届くんだこの金額に…それを…ものの数日で印鑑を貸しただけで…すごいっ!!いいの?こんなにあっさり…こんな大金…)
目の前に積まれた、自分たちでは到底稼ぐことのできない80万円の束に4人は驚愕している。
それに4人は恐る恐る手を取り、1人当たり20万円ずつ分け与えた。
「あ、ありがとうございます!!」
4人は男に深く礼をした。
「これでお前らの仕事は終了だ。それとついでにお小遣いをくれてやる」
「お小遣い?ですか?」
男は机に切符の束を出す。
―ドン
「これって…!」
「青春18きっぷ…!?」
「そうだ!この18きっぷの束をこの新橋の金券ショップに持って行って換金してこい。そうすればかなりの額になる」
「18きっぷを…換金…?」
「18きっぷシーズンになると使い切れなかったりするきっぱーが余った分を金券ショップに売りに来るンだよ。店側は1回でも使用したきっぷは安く買い叩くが未使用のまだ期限が切れていない18きっぷなら定価に近い金額で買い取ってくれる」
「そんなことがあるんですか…」
「今回は俺の名刺をその店に見せれば他より高く買い取ってくれる」
男は名刺と店の地図を描いた紙を4人に渡す。
4人は男から渡された18きっぷ赤券の束と男の名刺と地図、そして報酬の金額を持って国鉄金融を後にする。
金券ショップの場所は新橋。渋谷から銀座線で一本の場所にあるため4人は銀座線に乗って一路新橋に向かった。
新橋
17:59発
浅草行き
B1725
1000系6両
新橋
18:12着
金券ショップのメッカ、ニュー新橋ビルにその店はあった。
「濃いみどりの窓口」
「すみません」
「はい」
「こちらの方の紹介でこれを買い取ってほしいんですけど」
「んん?」
金券ショップの男はしばらく国鉄金融の男の名刺を擬視したのち態度を変えて18きっぷの束を受け取り、買取査定に入った。
「紹介の方ですね?でしたら枚数を数えて査定しますので今しばらくお待ちください」
「…………」
―数分後
「はい、1枚あたり10500円で、計50枚でしたので、合計525000円ですね」
「525000円!?」
―ガーン
買取金額を見た4人に衝撃が走る。
「ありがとうございます!!」
18きっぷの束は50枚もあり、すべて未使用だった。
4人は買取金額の525000円を受け取り、新橋から上野東京ラインで帰路についた。
一気にお金が入ったのでグリーン車に乗った。
新橋
18:42発
籠原行き(平塚始発)
1922E
E231系(15両編成)
「いや〜新橋から大宮までのグリーン車移動って快適でいいね〜」
「それよりも、旧新橋停車場とか見たかったなぁ〜」
「だ〜め!もう夜も遅いしお母さんたちも心配するでしょ?それに今回得た金はちゃんと鉄道部の部費としてプールします!」
「ちえ〜」
「それにしても青春18きっぷにそんな事情があったなんて…知らなかった」
「金券ショップに売りに来る人の事?」
「うん、それに濃いみどりの窓口に置いてあった販売用の18きっぷもあれ1枚5回分で11300円だったでしょ?定価が11850円で550円しか違わないけど、駅とかじゃなくてあのようなお店で買う人もいるんだなって」
「今回の事で分かったけど、世の中いろんな事情が絡み合って成り立っているからねぇ。綺麗事ばかり言ってられないって…」
「だいぶわかってきたじゃない」
「さて、次はどのアルバイトして部費を調達するの?」
「そうだよ!私たちの部活動はとにかく金がかかるんだから、130万円くらいでうきうきしてどうするの!?」
「だめだ!仕事数が増えればアラが出る。アラが出ればバイト代どころの話じゃなくなる!それに今回は使い切ってしまった1年分の部費を埋め合わして旅行資金を得るのが目的!本当にお金が足りなくなった時にするのがちょうどいいんだ!欲をかくな!」
「そうだね、楓ちゃんのいう通りだね」
「だね。楓ちゃん頭いいからなぁ〜」
「褒めても何も出ないよ」
グリーン車の車内で今回の仕事で得た大金13250000円の使い道は部費と4人で決定した。
大宮
19:18着
4人は大宮で解散した。
部費は4人で均等に331250円ずつ分けて1晩各々の財布に保管することにした。
翌日、昼休みに学校を抜け出した4人は埼玉の地銀、SSA銀行に大宮大成高校鉄道部の口座を作り、そこに各自保管していた昨夜のお金13250000円を預けた。
だが数日後、4人の自宅に市役所からの戸籍異動の知らせが届く。
それを見た親はびっくり仰天!
一目散に大宮大成高校に足を運んだ。
4人は学校で授業中だったので、4人のクラスの担当である生城山灯子が親との対談に応じた。
「一体うちの娘はどうなってしまったのでしょう?」
「私たちの知らないうちに除籍なんて何があったんでしょうか?」
「本人たちに問い質したいところですけど、私たち普段の仕事が激務でなかなか問い質す時間もないんです!」
「恥を承知でお願いします。どうか、事件の真相を解明してください!」
「すれ違いの日々で何もしてやれなかったのが悔やまれます…」
「どうか、よろしくお願いします!!」
親達は事件の解決を教師生城山灯子に依頼した。
「どうか、顔を上げてください」
「……」
「任せてください…この一件、私が仕切らせていただきます」
「!?」
「本当ですか!?」
「全て…仕切らせていただきます…」
「ありがとうございます!!」
灯子は依頼を引き受けた。
だが保護者を見るその目は白かった。
この一件は放課後の職員会議にあがった。
「どういうことだ?」
「わが校始まって以来の出来事だぞ?」
「生城山先生!どうなさるおつもりなのです!?」
校長以下教職員が灯子に詰め寄る。
「任せてください…この一件、私が仕切らせていただきます」
灯子は動揺することなく冷静に切り返す。
その夜は4人の中で親子の会話はなかった。
すれ違いの生活に加え、親も親で教師に事件解決を丸投げした負い目があったからだった。
翌日、灯子は鉄道部の4人を呼び出した。
「あなたたち、私のあずかり知らぬところで大事件が起こっていたけど、これはどういうことかしら?」
「そ、それは…」
4人に市役所からの戸籍異動通知書を見せ、4人はたじろぐ。
観念したのか4人は灯子に事の経緯を話した。
「あなたたち人生を何だと思ってんの!?鉄道旅行の資金のために偽装結婚だぁ?一時の享楽のために人生棒に振るつもり?そんなんだからあなたたちの進路は廃線なのよ」
「なっ…」
灯子は4人を叱り飛ばす。
「ついてらっしゃい!この騒ぎに蹴りをつけに行くわ!」
「へ?どこへ?」
灯子は鉄道部の4人を引き連れて湘南新宿ラインで渋谷の国鉄金融に向かった。
大宮
15:57発
平塚行き(籠原始発)
2851Y
E233系(15両)
渋谷
16:35着
渋谷の雑居ビルの国鉄金融。
国鉄金融の事務所に突入する灯子。
「失礼するわ!」
「どちらさん?」
先日の男が応対する。
「先日こちらの紹介で婚姻させてもらった舎利弗、左衛門三郎、文珠四郎、勅使河原の担任教師だけど、4人の保護者から委任されて交渉に来たわ。単刀直入に言ってあの婚姻を取り消してもらえないかしら?」
「どちらさんか知らねェがすごい無理言うね」
「私の生徒を見下す者は神や仏といえども許さないわ!あなたたちにはきついお灸を据えてあげるわ!」
「おい!こら!オレらを誰だと思ってやがる!?」
「ウっ…」
片方の男が止めに入る。
(コイツ素人じゃねェな…)
男が灯子を見て何かを覚える。
「俺らに手ェ引けと言うのか?」
「ええ戸籍はちゃんと元通りにしてもらうけどこの子たちは引き渡さないわよ」
「お前ェ腹括って言ってんのか!?」
男がまたも片方の男を止めに入る。
「断るっつったら?」
「不本意だけど事件にしなきゃならないようね」
「なんだと?」
(先生、私たちのためにあの男と刺し違えるつもり?)
事務所の外にいる鉄道部の4人が壁越しにやり取りを耳にする。
「あなたたちも130万円位の案件で警察沙汰になってもいいのね?」
「何?」
「金券ショップなら公安委員会の監督下よ。何かあったときは動きが素早いんだから!」
国鉄金融の金融業は都道府県知事の認可だが、濃いみどりの窓口の金券ショップは古物商、公安委員会即ち警察の認可がいる。
このため他業種に比べて問題発生時の対応が素早いのだ。
(見かけによらず場慣れしてるなこの女…本当に事件になったら割に合わねェ…)
「ちょっとサシで話しようか?」
「ええ」
男は灯子を事務所のソファに通した。
「俺らも表に出したくねェんだがよ…こっちにだって回収しなきゃならねェ金ってもんがあるんだよ」
「4人はまだ高校生、未成年よ。親に成りすまして婚姻させようだなんてよく思いついもんだわね」
「ま、俺もこんなちゃちな案件であんまムキになりたくねェのが本音だ。あいつらに渡したバイト代80万そっくりそのまま返してくれや。それで折れてやる」
すると灯子は財布からおもむろに一万円札を取り出し、机に叩きつけた。
―バン
「私貧乏人だからこれで精いっぱいよ!あなたも立場あるでしょうけどこれで勘弁してくれないかしら?」
「お、お前ェどこまで調子こいてンだ?なめてンのかコラァッ!」
男は激昂して机にあった灰皿を持ち上げ、灯子めがけて振り落とそうとするも、寸でのところで灯子の眼力に圧倒されて固まってしまう。
そしてそのまま灰皿を床に投げつけ、ソファに腰を落とした。
「も、もういい!さっさと去ね!」
灯子が解放され、国鉄金融の事務所から出てきたところを鉄道部の4人は出迎える。
「先生!」
「大丈夫ですか!?」
「話はついたわ。頭カチ割られそうになったけど」
「え?」
「それよりあなたたちに話があるわ」
近くのファミレス
4人と灯子はテーブルを囲んでドリンクバーを飲んでいた。
「ところで先生、私達に話って?」
「あなた達、多分あんな奴にも聞かれたと思うけど、鉄道に乗るには何が必要だと思う?」
「そりぁ、乗車券突き詰めれば金…」
「そう、鉄道に乗るには1にも2にも金よ!」
「だったら…」
「でも、それは真っ当な手段で稼いだ場合よ。私、愚かだったわ。そんなこと知らないで道を踏み外して…」
灯子の回想。
灯子は鉄道で乗り歩くための手段として10代の頃様々な犯罪に手を染めていたと言う。
美人局、親父狩り、振り込め詐欺etc
「金に糸目はつけないわ、グランクラスでもスイートでもなんでもOKよ!」
非合法な手段で得た金はみんなの鉄道旅行と言う名の豪遊に費やされていた。
ある時、
「上野〜上野〜ご乗車ありがとうございます」
当時走行していた寝台特急カシオペアから灯子が上野駅のホームに降り立った瞬間、何者かに手を抑えられた。
「警察です。生城山灯子さんですね?あなたに逮捕状が出ています」
灯子は遂に御用となった。
この知らせは灯子の犯罪仲間にも知れ渡ったが、
「あいつは得た金を独り占めして自分の趣味にばっか使いやがる。俺らは地元の後輩に奢って還元していると言うのに。後輩に金を使わねェ女に用は無ェ!見捨ててサツのガサ入れが及ぶ前にズラかるぞ!」
「へェ」
とを切り捨ててしまった。
その後は家庭裁判所に送られ、判決を受けた。
「判決、少年刑務所送致3年!」
灯子は少年刑務所に3年間送られる事になった。
少年刑務所の中で、寝台特急北斗星のラストランのニュースを新聞で知り、ラストランに立ち会うこともできない悲しみに涙がこぼれた。
「フルートレインのラストランにも立ち会えないなんて不良少女も大変ね」
刑務官の非情な一言が飛び出る。
―3年後
出所した灯子は今は北斗星が来ない上野駅13番線ホームに19:03かつて北斗星が発車していた時間に缶紅茶を飲みながら佇んでいた。
「気が付いた時には当たり前に持っていたものをたくさん失っていたわ…」
「……」
「まぁ私の事はどうでもいいけど、真っ当なアルバイトならウチは原則許可しているわ。なんだったら私は学校に来ている案件のいくつかを紹介するから」
「は…はぁ…」
こうして一連の偽装結婚の騒動は幕を引いた。
偽装結婚で得た金130万円については鉄道部の資金の事情を汲み、黙認することとなった。
数日後―
「新装開店でーす!」
「どうぞ立ち寄ってくださーい!」
4人はビキニ姿でプラカードを持ったりチラシの入ったティッシュを配っていた。
先生から紹介されたアルバイトというのはパチンコ店のキャンペーンガールだった。
しかし、
(何が真っ当なアルバイトよ!?)
(なにコレ全然恥ずかしい!)4人からの反応は大不評だった。
大宮大成高校職員室―
「失礼します!」
「生城山、生城山灯子先生はどこだ!?どこにいる!?」
「生城山灯子先生なら初詣にサンライズ出雲に乗って島根県へ旅に出たけど?」
恥をかかされた鉄道部が乗り込んだ学校の職員室に生城山灯子の姿はすでになかった。
「鉄道と金」というテーマでしたので、「闇金ウシジマくん」「極悪がんぼ」「賭博黙示録カイジ」「ワシズ」「新ナニワ金融道」のパロディーを織り交ぜました。
尚、作中の偽装結婚につきましてはれっきとした犯罪です。決してマネしないでください。