勇者召喚
さて、この物語の主人公は荒木治だ。
どうして彼が異世界に転移したのか、そもそも異世界ではどうしてファンタジーな力を振るえるのか、疑問に思えるかもしれないね。
何故だかわかるかな。
そう、全て偶然だ。
そもそもこの世界は量子論的な揺らぎによってできたという学説を知っているかい。
量子には本質的に確率論が関わっていることは科学で明らかにされている。
今そこにいるあなたも、地球も、この宇宙も、全ては今この瞬間、たまたまその位置に量子、原子、分子が動いたからできたという確率の方が、ビックバン云々が起きる確率よりはるかに高いんだ。
でも、この学説は科学者たちは考えないようにしている。
だって、そんなことを認めてしまったら、今までの実験結果も泡になってしまうからね。
そうなると、当然量子論的な揺らぎがあるなんていう実験結果も証明も今この瞬間にできたことになるわけで、この学説は大きな矛盾を抱えているんだ。
難しい話をしたけど、別にこのことを完璧に理解なんてしなくてもいいんだ。
ただ、現実世界でも偶然というものがこんなに大きな話にまでなれることを知って欲しかったんだよ。
そうなると、魔法が起きたように見えたのも、身体能力が強化されるように感じられたのも、すべては偶然の積み重ねだと理解しやすくなったんじゃないかな。
それでも納得できない人もいるだろう。
当然のことだ。並み居る科学者だってこの世界は全て偶然によってできているなんて納得していない。
そこで考え出された学説を一つ紹介しよう。
それは、いわゆるパラレルワールドの考えなんだ。
どういうことかというと、今まで起こりえた可能性は全てどこかの世界で起きていて、起こりうる全ての未来がどこかの世界で作られるということだ。
なぜ君の世界に転生者やファンタジーな力がないかというと、それは君がそういう世界で生きているからで、なぜ荒木治の世界にそういう要素があるかというと、彼がそういう世界で生きているからだ。
馬鹿馬鹿しいかもしれないけれど、この学説はえらい科学者さんたちが真面目に検討しているものなんだ。
わかリにくいかな。
じゃあ今君の頭に何か一つ、世界を思い浮かべてみて。
どんな世界だっていい。とにかく一つ想像してみるんだ。できたかな。それじゃあ説明しよう。
今君が想像した世界は必ず存在する。
え、まだわからないって。まあいい。
そんなことはこの物語と何の関係もないことだからね。
おっと、話が逸れた。それじゃあ、物語の続きを始めるとしよう。
さて、状況を再確認しよう。
今日、朝起きて飯食って歯磨きして制服に着替えて、自転車に乗って最寄駅へ。その後学校の最寄駅まで電車に乗った。
よし、ここまではオッケーだ。
その後、駅まで昨日見ていた漫画の続きを考えながら歩道を歩いていたらそこにトラックが突っ込んできた。
そういえば、死にそうな時には走馬灯が見えるとか、全てがゆっくり見えるとかいうけれど、そんなことはなかった。
まあ、ぼんやりしていたら急にトラックが突っ込んできたので、あまり死を実感する暇もなかったのだから当然かもしれないけれど。
とにかくここまでもまあ良しとしよう。
で、気がついたら目の前に外国人のいかにも王様風の渋い顔したおじさんと、お姫様風の超美少女が。ちなみに周りは中世のお城風である。隣にはうろたえる日本人顔で黒髪黒眼のイケメン美少女が4人。
やはりここは異世界という認識でいいようだ。しかもご丁寧に勇者召喚されたようである。
まあいい。異世界なんて誰もが一度はあこがれた事のあるものだろう。かくいう俺は絶賛あこがれ中だったわけであるし。
むしろ興奮しすぎて一周回って冷静になっているぐらいだ。
と、こんな事を考えているうちに周囲の音も聞こえてきた。
「・・・・・たよ。どう。すごいでしょう」
「ああ、本当にすごいよセレン。勇者召喚なんてここ150年ずっと失敗していたんだ。一体どうやって・・・」
「書庫にやり方が書いてある本が置いてあったのよ。やっぱり今までと違う形の魔法陣が書いていったわ。どうも魔力の無駄が多いやり方だったから怪しかったの。」
「書庫はくまなく探したはずなんだけどなぁ。」
「お父様が節穴なのがいけないんでしょう。大体いつも人にいろいろやらせるから自分で物も探せなくなるのよ。少しはお母様を見習いなさい。」
「はいはい。わかったよセレン。話は後で聞くから、今はこの人たちに説明しなきゃ・・・」
王様風の男、もうめんどくさいから王様でいいや、はイマイチ納得できないような表情を引き締め、こちらを向いて話し始めた。
「勇者の皆様。私はフラリス王国の国王、ナポレス=クロード=アルベラスです。。こちらは私の娘である『いいわ。自分で言うから。第2王女のナポレス=クロード=セレンよ。よろしく。』こらセレン。言葉遣いを丁寧に。というわけです。実は勇者の皆様に折り入って頼みたいことが・・・」
「ちょっと待てよ。俺たちは登校中だったはずなのに、なんでこんなところにいるんだ。それに勇者ってなんのことなんだ。」
どうやら本物の王様だったらしいアルベラスさんが何か言おうとしているところを、隣にいた熱血系イケメン男子君が遮った。
おいおい、こいつ察しが悪いなぁ。確か1年のやつだったはずだ。
面食いぞろいのグループでいつも行動していると有名だったのだ。ということは、この4人はそのグループの人たちなのだろうか。なんか話し合っているし。
待てよ、そうすると、なんで俺はこいつらと一緒に召喚されたんだ。
「すいません、勇者の皆様。説明するの忘れていました。実は私の娘が勇者召喚の儀を行ったのです。そこに出てきたのがあなたたち勇者の皆様だったのです。」
すると、今度は頭のよさげなインテリ系イケメン男子君が王様に言った。
「僕たちが勇者であるという証拠はあるんですか。できれば僕たちにもわかるようにおっしゃっていただきたいのですが。」
「重ね重ね申し訳ありません。私たちの世界ではステータスというものがあるのですが、これが不思議なことに、ステータス画面をイメージすることで出てくるのです。80年ほど前に当時の魔法研究所がこの仕組みを解明しようとしたそうなのですが、さっぱりわからなかったようです。話がずれてしまいましたが、勇者であるならそのステータス画面に『勇者』と『異世界人』という称号とスキルがあるはずです。」
そう言われたので試しに最近やっていたゲームのステータス画面を思い浮かべる。
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個体名 荒木治
種族 Homosapiens
レベル 7
HP 8/9
MP 5/5
攻撃 8
防御 7
素早さ 13
運 ±6738
魔力操作 0
魔力親和性 3
スキル
[異世界人]
すべての言語がスキル保持者の母語に翻訳される。
スキル保持者の母語が話す相手の母語に翻訳される。
ただし、同時に翻訳できるのは一言語のみ。
各言語に対してON.OFF可。
異世界での意味記憶を保存する。
スキル保持者の生活に最適な環境を、スキル保持者
のいる世界で生物が生きている平均的な環境に修正
する。ただし、スキル保持者がいる位置から一万km
以内がスキル効果の範囲とする。
[刀術]
日本刀操作の技術に応じて全ステータスup
[体術]
肉体操作の技術に応じて全ステータスup
[巻き込まれ体質]
運を2倍にする。
称号
[異世界人] [勇者召喚に巻き込まれし者]
[巻き込まれ者の先駆者] [ボッチ]
[捻くれ者] [怠け者] [主人公]
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色々言いたいことはあるが、ひとまず置いておこう。現状一番の問題は・・・
称号が [勇者召喚に巻き込まれし者] になっていることだ。
道理で仲良し四人グループが一度に召喚される中で、自分だけ浮いているわけだ。
唯一の救いなのは国王やお姫様が人の良さそうな感じであることだろう。
裏ではどう思っているのかは知らないが、とりあえずすぐに殺されたりはしないと思う。
そんなことしたら今まで散々へりくだっていた意味がないからな。
と、そこまで考えたところで隣から声が聞こえた。
「すげーよ。勇者スキルの効果見たか。ステータス成長率5倍だってよ。しかも獲得経験値も2倍だ。」
「見た見た。これっていわゆるチートってやつなのかしら。あんまり実感湧かないけれど・・・。本当にこれがあたしなんかのスキルなの。」
「それよりも異世界人スキルが地味に凄いな。一つでここまで異世界に対応できるようにしてくれるとは。」
「ステータスの基準がわからない。私のステータスは・・・」
さっきまで緊張していた女子二人まで、今は興奮しているようだ。
さっきからの会話を見るに、一人はお姉さんキャラで、もう一人は無口キャラのようだ。
こいつらも見目麗しい美少女である。
お姉さんキャラの方はいたずらが好きそうなスタイル抜群の年上っぽい見た目。
無口な方は黒髪ストレートの清楚系女子だ。
やっぱりイケメンの周りには美少女が集まるらしい。
残念ながら既に恋愛関係に関しては悟っている俺が見ても、世の中の理不尽さがひしひしと感じられる。
俺の周りには美少女どころか男連中も寄ってこないんだぜ。
でもいいんだ。俺は人生とことん楽しく生きているんだから。
と、ここらで王様が口を開いた。
「HP、MP、ステータスの数値は、一般的な成人男性が10ぐらいになっています。運のステータスは基本的に固定です。それ以外の各ステータスの平均が100を超えたら一流の戦闘家と言えます。。今までで勇者以外の人類が到達した平均が700です。とはいえ一点特化型のステータスの人なら1000を超えるステータスを叩き出す人もちらほらいますが。勇者様ならば平均は軽く1000を超えると聞いております。ちなみに魔力操作は、最初は皆0です。とは言ってもすぐに30は越えると思います。試しに体に中に流れている魔力をイメージしてください。そうしたら今度はそれを手のひらに集めるようにしてみてください。」
王様がそう言うと、お姫様は手のひらの上に薄紫の球体を作った。
魔力をイメージすると、体の中に血のようなものが流れているのを感じることができた。
今度はそれを手のひらに集めるようにしてみる。
すると、手のひらの上に薄紫の靄でできた球体が出てきた。
他の四人も皆成功している。
「今勇者の皆様が作り出したものが魔力の塊です。これをもっと凝縮すると硬くなるので戦闘に使えます。また、この魔力を火や水に変えるものが魔法です。ちなみに魔法には火、水、土、風、雷、光、闇、無属性のものがあります。日常生活に使う簡単な魔法は無属性に当てはまります。それでは、もう一度ステータス画面を開いてみてください。」
そう言われたのでステータス画面を開いてみると、こうなっていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
個体名 荒木治
種族 Homosapiens
レベル 13
HP 8/9
MP 4/5
攻撃 8
防御 7
素早さ 13
運 ±6738
魔力操作 45
魔力親和性 3
スキル
[異世界人]
すべての言語がスキル保持者の母語に翻訳される。
スキル保持者の母語が話す相手の母語に翻訳される。
ただし、同時に翻訳できるのは一言語のみ。
各言語に対してON.OFF可。
異世界での意味記憶を保存する。
スキル保持者の生活に最適な環境を、スキル保持者
のいる世界で生物が生きている平均的な環境に修正
する。ただし、スキル保持者がいる位置から一万km
以内がスキル効果の範囲とする。
[刀術]
日本刀操作の技術に応じて全ステータスup
[体術]
肉体操作の技術に応じて全ステータスup
[巻き込まれ体質]
運を2倍にする。
称号
[異世界人] [勇者召喚に巻き込まれし者]
[巻き込まれ者の先駆者] [ボッチ]
[捻くれ者] [怠け者] [主人公]
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レベルと魔力操作の数値が上がっていた。
王様は30ぐらいと言っていたが、45になったということは、俺には魔力操作の才能があるということか。
それに、よく見るとMPが1減っていた。
「どうでしょう。皆様も魔力操作の数値が30ぐらいになったでしょう。勇者様に限らず、異世界人はこの世界に来て初めて魔力を手に入れることになるので、魔力の流れが感じ取りやすいと言われています。本当は手のひらに魔力を見えるようにするまで何年もかかるのです。また、MPをみてください。魔力を使うとMPが減ります。まだ勇者の皆様は魔力をあまり使っていないのでMPは低いですが、これはMPを使い続ければ自然と上がります。一流の魔法使いの方ならば750ぐらい、魔法をつかわない方でも戦闘家であれば50程度にはなります。勇者様でしたら皆1000を超えると思いますので、MPに関しては基本心配しなくても結構です。ここら辺でとりあえずステータスの話は終えたいと思います。何か質問があればおっしゃってください。」
ここでインテリ系イケメン男子君が質問した。
「僕たちは皆、刀術や体術というスキルを持っていたのですが、これはどうしてなのですか。」
「〜術や〜道といったスキルは簡単に手に入れられるものです。少し何かの戦闘技術を習えばすぐに習得できます。効果も単純ですが、このスキルの効果は一流の戦闘家の戦闘能力の一番の支えになっています。質問に答えると、おそらく勇者の皆様が元いた世界で習ったことがあったのでしょう。」
ああ、そういえば中学の授業で剣道と柔道をやったから、それが影響したのだろう。
そんなこんなで皆王様に一通り質問を浴びせかけた後、とうとう俺は王様にあのことを伝えた。
「すいません。俺、勇者なんて称号もスキルも持ってないんですけど。」
と、とうとう5000字越え・・・
初日にしてPV50越え。どうもありがとうございます。




